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腎・尿路系の「基礎」

「物流システムの清掃」担当、それが腎臓

さて、これまで多細胞生物であるヒトにおいて、いかにこの「細胞たちの社会」がうまく成り立っているか?を解説してきました。

そしてその要が、この物流システムにこそある、ということも何度か強調してきました。常に新鮮な食材が配達され、ゴミはいつ何をだしても回収してもらえる素晴らしいシステム。

これのおかげでからだのあちこちにいる細胞たちは快適に生活でき、「各々の果たすべき役目」を果たすことができているわけですね。ですが、さすがにこの「物流系にゴミを出し放題」の状態を放っておいては、「物流系がゴミだらけ」になってしまいます。そうなるとこの細胞たちの快適な生活は破綻してしまいます。

そう、そうならないように、ゴミはとある臓器で必死に捨てられています。それが腎臓です。

(この「ゴミ」についての詳細は、別の記事で予定しています。多くの場合はタンパク質のカスで、窒素を含む物質(尿素窒素UNもしくはBUNと呼ばれる)を捨てたりしています。尿素窒素が高いと腎機能が悪いと予想する、というのは医療系国家試験の必修知識です!)

ガス成分以外をきれいにする作業は、「吸収の消化器」と、「排泄の腎」とで役割分担している

酸素を取り込み、二酸化炭素というゴミを排泄する「呼吸器」については、すでに別記事にて説明しました(リンクは記事の一番下にあります)。呼吸器は「新鮮な食材をとりこむ」ことと、「ゴミ」を処理することとを「両方」こなしていました。ですが、これは「ガスに限る」という条件付きだったわけです。一人二役を実現できていたのも、「相手がガスだけなので単純」だったからです。ガス以外の成分について血液内をきれいに保とうと思うと、それは大変です。栄養素やゴミは種類が多すぎるし、呼吸器系の「ガス」のように、「拡散」という自然な方法に任せて「換気さえしていれば勝手にキレイになる」わけではないからです。

だから、ガス以外の栄養素・ゴミについては、消化器系と腎・尿路系が協力しています。取り込みを「消化器系」が、そして排泄を「腎・尿路系」が担います。

腎・尿路系は「こんまり流」でゴミを捨てている!

腎臓は、自分のところ(腎臓)に流れ着いた血液からゴミを「尿路」へ尿として捨てています。さて、このゴミ捨て作業について、ちょっとだけ突っ込んで説明させてください。

ここまでの説明から一般の方々が想像されるイメージとしては、「血液中にあるゴミを必死に探し出し、選び抜いて『よし、これを捨てよう。あ、あれも捨てよう』」という形で捨ててそうなイメージがありませんか?

ですが、この作業は極めて非効率的なのです。なぜかというと「ヒトの体内に取り込まれる余分な栄養や、体内で代謝されてできたゴミの種類が多すぎて、いちいち選び抜くのが大変」なのです。だから、腎臓は「こんまり流お片づけ」の方法でゴミ捨てをしています。

「こんまり流」お片づけって?

近藤麻理恵(こんまり)さんという日本の方が提唱し、著作でも紹介されている「片づけ」メソッドです。実は知らなかったのですが、今や日本を超えてアメリカなどの海外でも認知され、「こんまりメソッド」として紹介もされているんです。
わたしもこんまりさんの著書に感動して大学時代に「こんまり流」片付けに目覚め、それ以降も割と部屋をキレイに保ち続けることに成功しております。

細胞の物流系をキレイに保ち続けるのに腎臓のやっていることも、実はこの「こんまりメソッド」に極めて似ているんです。

メソッドの合言葉は「ときめくものだけを残す」です。そして「いっきに、短期に」やることが推奨されています。
具体的には、家の中の収納などに入っているものを「すべて一気に出してしまい」ます。そして、そのなかで「絶対にこれだけは残しておきたい(こころがときめく)ものだけを残し、また収納に戻すという方法です。そして、ときめかなかったものたちはそのまま、収納に戻すことなくゴミ袋へ直行です。

腎臓は、小さいものを一気に濾し出して、「ときめくもの」だけ回収する

腎臓も血液を「ざる(糸球体と呼ばれます)」にかけて、「いっきに」中身を全部外に出してしまいます(外といっても、まだ腎臓の中です)。

もちろん、この「ざる」も巧妙にできています。さすがに「普通そんなの分解せずにいきなり捨てないだろ」というような大きいサイズのもの(おうちの片付けで言えば、家具など)は濾(こ)し出せません。

そして、これを「尿」として体外に排泄するまでの「ながーーーーーい」尿細管と呼ばれる「管」のなかで「絶対大事」なもの(いわゆる三大栄養素など)を選び抜いて「再吸収」していくんです。

そう、腎臓もまるでこんまり流を知っていたかのように「一気に中身を出して、ときめくもの(栄養素)だけを選び抜いて、再度戻す。それ以外は全部捨ててしまう」という作業をやってるんです。そうやって「物流システム」をキレイに保ってくれているんですね。

腎臓が機能するには「物流システムがうまくいっていることが前提」

この、腎臓は「腎臓に流れてきた血液」を濾過しているというところも「ミソ」になります。物流システムがうまくいくには、ある程度の水分量が必要になります(血液は特にほとんどが水分)。水分不足(脱水)などでこの物流システムがうまくいかなくなってくる(ざっくりいえば血圧が下がった状態。循環器の復習です!)と、「腎臓に血液が回ってこない」状態になります。その状態では、腎臓は働こうにもはたらけません。

腎臓は「ゴミの混じった血が流れてくるからこそ、そのゴミをすてる作業ができる」。

この原則は、余裕のある方は覚えておいてください。

だからこそ、腎臓という臓器は「循環器系にもアレコレ影響を与え」ます。血圧を上げるホルモンを出したり、水分不足になればこれ以上水分不足にならないように、極限まで「尿を濃くして尿を失わないように工夫」したりします。そう、物流システムをうまく作動させるために、臓器同士が協力しあっているわけですね。

おいおい説明しますが、この「臓器同士」は、協力してうまくやっていくために「手紙のやりとり」をしています。この手紙こそが「ホルモン」と呼ばれる物質です。また内分泌系で説明するので安心してください。

試験によく出るアンジオテンシン・アルドステロン

ただ、めちゃくちゃ試験によく出るのでこれだけは知っておいてください。アンジオテンシンやアルドステロンと呼ばれるホルモンたちがいます。これらは、腎臓が「水分が足りない、血圧が足りない」ということに気づくことで物流システムを立て直すために全身に送りつけられる手紙のようなものなのです。血圧を上げたり、体に水分を蓄えるためのシステムがこれで起動するんです。

これ以上詳しく説明するのは、この連載の目的ではありませんので、また今度にしましょう。もしくは、「あれアンジオテンシンってなんだっけ?」と思った方は教科書をちらっとみて復習してみてください。この記事は「ざっくり」読んで楽しんでください。おつかれさまでした!

参考リンク


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