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横浜でワインを造るということ

横濱ワイナリー」をご存知ですか?

神奈川県の横浜市にあり、最近少し増えつつある都市型ワイナリー(アーバンワイナリー)という形態に分類されるワイナリーです。

2017年11月に果実酒製造免許を取得されており、原料のほとんど全てを農家さんからの買いブドウにより賄い、ワイン醸造されているようです。

現在はワイン用ブドウではなく生食用ブドウの醸造が中心であるようですが、ついに念願の畑を横浜市内に入手、2020年からワイン用ブドウ品種であるシャルドネ・ピノ・ノワールを中心に栽培を開始するのだそう。(開始したのだそう、が正しいかな。)

詳しくは公式HPをご覧あれ。↓

このニュースを目にし、ワインの勉強・研究に取り組む僕は、ここで1つの疑問が浮かびました。

横浜なんかでワイン用ブドウが栽培できるんか?

というのも、僕は出身が神奈川県の横須賀市というところで、横浜市のお隣。

市街地局番が 045 と 046 くらいお隣なわけです。

また、川崎市の高校に通っていたこともあって、横浜はかなりお世話になった地であり、大学入学を機に山梨に来るまで神奈川に住んでいたもので、その気候なんぞはよく知っているわけです。

HP上には、

横浜でもブドウが栽培できる?
横浜はもとより神奈川県内では食用ブドウの栽培が盛んに行われていることはあまり知られていません。
「県内でブドウが作れるの?」そんな質問をよく聞きます。答えは「はい」
「でもワイン用のブドウは無理だよね?」次にそんな質問を聞きます。答えは「できます」』(一部抜粋)

と記載があります。

栽培できるのかという点に関しては、HPの記載の通り「できる」でしょう。

ただし、僕の疑問は「横浜なんかで(品質の高い) ワイン用ブドウが栽培できるんか?」なんですね。

なぜこんな疑問をもったかというと、僕の答えは「できない」だからです、少なくとも現時点の考えでは。

そこで、とある検証を行ってみました。

ワインについて勉強されている方にとってはとんでもなくアホらしい検証になるかと思いますが、結構時間を割いたので、良かったら目を通して上げて下さい。笑

ワイン用ブドウに適した気候条件とは

ブドウはツル性の植物で、とにかく生命力に溢れています。

なので、少し乱暴な表現をすると、“どこでも生育する”んですね、極端なことを言えば。

一方で、ワイン用ブドウはその中でも若干繊細な側面があり、寒さに弱かったり、病気に弱い性質をもっています。

また、ワイン用ブドウの多くは生食用ブドウ等と種が異なり、ワインに向いている果実特性をもち、ワインに加工することを想定し栽培されています。
基本的には「いかに品質を上げるか、高品質なワインのために必要な要素をブドウに蓄えさせるか」が考えられるわけです。

これにはいくつかの基準・指標があるのですが、ザックリいうと、「暑過ぎず寒過ぎず、1日の中で気温差が激しく、日照量が多く、雨があまり多くは降らない」ことが必要です。

簡単に挙げておくと、「暑過ぎると酸が乏しくなる、寒過ぎると酸が過剰になる&育たない、気温差がないと果皮の成分の成熟(色素とか)が進まない、日照量が少ないと光合成・果実の成熟が不足する、雨が多いとブドウが薄くなる(水っぽい)&病気が出やすい」といったところでしょうか。

これを踏まえると、ブドウの生育期である4月-10月の間、「暖かいけど夜は気温がグッと下がり、晴れの日が多く、雨はときどき降る程度」という土地がワイン用ブドウの栽培には適しているということになります。

ちなみに、横浜、神奈川の気候はというと「暖かく、夜もそこまで冷え込まず、特に梅雨時期は雨がよく降る」という特徴があります。

海があること、高い山がないこと等は大いに影響しているでしょう。
人が住む分には気温が安定していて住み良いのですがね...

Winkler Index という考え方

Winkler さんという方が考案した分類方法で、「Winkler Index」というものがあります。

これは、ブドウ・ワイン生産地の気候を、気温の積算や生育日数に基づき5つの区分に分類し、I~V(1~5)のリージョン(地域)に当てはめるというもの。

日の平均気温が10℃を超えたとき、(平均気温-10)℃を算出、積算温度とします。

参考資料です。古いので参考程度に!)

ひとまず横浜はどこの区分に当てはまるのか検証してみました。

ブドウの生育期である4月から10月まで、2019年の気温データに基づき行いました。

以下のサイトを活用しました。↓

積算温度は“2567.8℃”。

参照元により若干の差はありますが、およそ2220℃ 以上で very warm のリージョンVに分類されるため、横浜はぶっちぎりのリージョンVです。

ちなみに、山梨の一大ワイン産地である勝沼の積算温度は“2334.9℃”(2019年)であり、同じくリージョンVではあるものの、横浜がいかに高い数値かが分かるかと思います。

(留意点として、この手法はかなりザックリとしているので、あくまでこの数値は1つの参考値に留めておく必要があります。)

リージョンVの地域では、ワイン用ブドウの大半は栽培に適していないとされ、適性品種としては、生食用ブドウかカジュアルなテーブルワイン用のブドウが挙げられています。

実際に、温暖化に伴って山梨においてもワイン用ブドウの栽培が年々難しくなってきており、主力品種である甲州、マスカット・ベーリーAは生食兼用品種であって純粋なワイン用ブドウではありません。

また、それでも品質の高いワイン用のブドウを栽培するために、気温が低い標高の高い土地に畑を求める動きが活発になってきています。

これらのことから、まず、「横浜はワイン用ブドウを栽培するには“暑過ぎる”」ということが分かってもらえるのではないでしょうか。

では、他の角度からも検証してみましょう。

BEDD という考え方

BEDD(Biologically Effective Day Degree)とは、オーストラリアの Dr. John Gladstone が提唱した積算気温の考え方で、基本的には

「日平均気温が 10℃以下の場合は 0℃、19℃以上の場合は一律 19℃として有効気温(日平均気温-10)を積算していく方法」(その他、緯度補正、日較差補正等が必要)

です。

Winkler Index と違って、一定以上の場合一律で扱うこと、補正を行うことなどが特徴と言えるでしょうか。

ブドウ品種ごとに適した BEDD があり、これが品種選択の指標になるというものです。

さて、検証してみました。

1981年~2010年の横浜の気象データを気象庁からお借りして算出しました!↓

(計算方法など参考にした資料です。)

結果がこちら。↓

BEDD が“1750℃” となりました。

参考にした上述の資料では、最も BEDD の高いグループがグループ8の1400℃。

BEDD の算出方法の詳細を詰めていくと、論文によって若干異なる、もしくは複雑で、グルーピングも上に載せた資料とは異なるものなので、この数値も参考程度に考えてもらえればと思いますが...

それにしても明らかに高いです。

引用資料中の適性品種には当てはまらないため、少なくとも多くのワイン用ブドウ品種の栽培には適していないことが想像されます。

平均気温・日照時間・降水量

他に、Excel ファイルの中から、生育期の平均気温(℃)、日照時間(時間)、降水量(mm)について取り上げたいと思います。

平均気温が“21℃”、日照時間が“1125時間”、降水量が“923 mm”。

こちらの資料を参考にしたのですが、↓

「楠わいなりー」の楠さんが示しているデータを見てみると、世界のワイン産地と比べ、横浜は日照時間がかなり少なく、降水量が圧倒的に多いです。

そもそも日本自体、梅雨の影響はもちろんあって降水量が多く、雨が降っている間は太陽が隠れているので日照時間も減ります。

その中で、楠さんが示している現在の日本の代表的なワイン産地のデータと比べると、横浜は最もワイン用ブドウ栽培に適していない地域ということになります。

もしかすると、現在ワイン用ブドウの栽培が行われている日本の地域全てで比べてみたら、最も適していないわけではないかもしれません。

ただ、「横浜はトップクラスに適していない」ことは明らかでしょう。

横浜でワイン用ブドウを栽培する意味

さて、ここまで横浜がいかにワイン用ブドウの栽培に適していない地域なのかを示してきました。

ここで明らかにしておきたいのが、僕は「決して横濱ワイナリーさんの取り組みを否定・非難する意図はない」ということです。

ここまで示してきたように、「ワイン用ブドウの栽培が非常に困難である横浜で、あえて取り組むことにどのような意味があるのか」を考えたいのです。

栽培技術や品種選択によって、ある程度の品質向上を今後見込める可能性はあるかと思います。

しかし、僕の意見では、「世界の有名ワイン産地、もしくは日本のワイン産地と肩を並べることは相当難しい」と思います。

つまり、横浜でワイン用ブドウの栽培に取り組む意味は、品質の追求ということにはなり得ないわけです。

なまじワインの勉強・研究をしている僕は、こういう取り組みを見ると、「品質の追求に限界があるのになんでこんなことをするのだろう」とか思ってしまいがち。

なので、この意味についてはちゃんと向かい合いたいと考えました。

1.「横浜ワイン」を名乗れるようになる

細かいことは酒税法を実際にご覧になって頂きたいのですが、現行の酒税法では、商品名に地域名を入れる場合の制約があって、仮に“横浜ワイン”を名乗ろうと思えば、原料ブドウの産地が横浜である上で、醸造も横浜で行われていることが求められます。

もしこれを満たしていれば上記のように商品名を設定でき、ブランドとして確立することができます。

横浜の地名がついたワインは多くの人の興味を引き得るでしょう。

2,3.耕作放棄地の活用、人々の交流拠点化

横濱ワイナリーさんのHPにも書かれているこの2点。

このうち前者については、個人的には異なる考えを持っており、端的にいうと「他の果物か生食用ブドウの方が良いのでは?」と思っていますが、詳しいことが分からないため今回はスルーします。

他方、後者については僕としても、生食用ではなくワイン用ブドウという付加価値が少しでも多くの人の目に留まるきっかけとなって、1人でも多くの人々に農業、引いては1次産業に対する興味・関心を持ってもらうことに繋がれば素晴らしいと思います。

加えて、畑での作業や横濱ワイナリーさんの拠点化を通して生まれる人の繋がりは、人生に豊かさをもたらしてくれると本気で思います。

ワイン、ワイナリーの価値を見つめ直す

「世界の有名ワイン産地、もしくは日本のワイン産地と肩を並べることは相当難しい」かもしれない。

でも、品質の追求以外にもワイン、ワイナリーのもつ意味がある。

横濱ワイナリーさんの事例を受けて、そういった視点を改めてもつことができました。

しばしば言われることが、「ワインの特徴はその多様性にある」ということ。

都市型ワイナリーのコンセプトも、「ワインをより身近に感じてもらうこと」「ワイン、ワイナリーを通して人と人の繋がりを形成すること」といった側面が大きいかと思います。

それらの側面を追求する上で、極上の品質のワインを追い求めることは必ずしも重要ではない。

横濱ワイナリーのような存在が、日本のワイン文化を成長・成熟させる1手になればいいなと!

もっと大きな視点でワインと関わっていこうと思いました。

最後に

都市型ワイナリーという括りで見れば、横濱ワイナリーさん以外にも「東京ワイナリー」「深川ワイナリー東京」「 清澄白河フジマル醸造所」「BookRoad」「島之内フジマル醸造所」「大阪エアポートワイナリー」(空港型ワイナリー?笑)といったワイナリーさんらが存在します。(他にもあったらごめんなさい!)

やはり特徴はアクセスのしやすさワインへの敷居の低さ

1度訪問してみてはいかがでしょうか。

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