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Ăn Đi (アンディ) ベトナム料理とワインのペアリング【ペアリング探訪】-01

外苑前のモダンベトナム料理、Ăn Đi (アンディ)さんのペアリングコースに行ってきました。Ăn Đi は、銀座レカンなど一流店のシェフ・ソムリエを努めた、オーナーソムリエの大越 基裕氏が手掛けるお店で、ペアリングコースに定評があります。

今回は、食後感を高めるペアリングが多く、特にオフドライのワインを多用していたのが非常に印象的でした。以下でペアリングコースの内容とその感想についてまとめます。

①「ティーリーフサラダ」と「農楽蔵:nora ponne blanche」

「ティーリーフサラダ」と「農楽蔵:nora ponne blanche」

料理について

こちらのティーリーフサラダは、Ăn Điさんのシグネチャーディッシュです。中央の苦味と酸味を感じる八女茶のペーストに、甘納豆、ドライココナッツ、干し桜えび、トマトなど様々な味わいと感触を持つ食材を、ごぼうのドレッシングで混ぜて食べます。見た目にも美しいです。

レストランの料理ですので、一皿一皿は単体でも五味をバランスよく散りばめられていますが、最も立った味わいはやはり苦味です。甘さを担う食材も多く含まれますが、それでも苦味が勝ります。

ワインについて

合わせて提供されたワインは、農楽蔵という生産者の「nora ponne blanche」です。北海道のワインで、品種はケルナーです。ラベルの雰囲気からも分かる通り、ナチュラル系のワインです。(HPにも「野生酵母発酵、無ろ過、低(無)亜硫酸が基本」との記載あり)

味わい的には、冷涼地ならではのピンと張り詰めたキレイな酸味があり、柑橘類や心地よい揮発酸の香りがあります。残糖(オフドライ程度)と微発泡が残っており、ゴクゴクといつまででも飲みたくなるような非常に美味しいワインでした。

ペアリングについて

苦味のある料理は、ワインの苦味や渋みを悪い意味で強調するため、苦味の少ない白ワインがセオリーです。教科書的にはNGがあるくらいで、鉄板の組み合わせはあまりないイメージです。

今回のペアリングは、オフドライのワインの甘さが非常によく働いていると感じました。甘みが苦味が残る食後にまろやかな感覚を補完し、ペアリングとして完成させていたと思います。逆に甘みがなくドライなワインでは、後味がキュッとして、硬い印象になっていたかもしれません。

②「ムール貝の揚げ春巻き」と「パパリ・ヴァレー:スリー・クヴェヴリ・テラスズ チヌリールカツィテリ」

「ムール貝の揚げ春巻き」と「パパリ・ヴァレー:スリー・クヴェヴリ・テラスズ チヌリールカツィテリ」

料理について

こちらの揚げ春巻きは、ムール貝が具材になっています。辛味ではなく、香りが主体の七味がまぶされており、ミントやディルと言ったハーブ、ヨーグルトのソースと一緒に、えごまの葉で巻いて食べます。

揚げ春巻きには意外にもカツオ出汁の香りが効いており、ソースやハーブで強くアジア料理のニュアンスを強く感じます。味覚的にはムール貝の旨味と、油でボリューム感を感じます。酸味のあるソースもあり、五味のバランスがよく、単体でも完成された料理だと感じました。

ワインについて

合わせて提供されたワインは、パパリ・ヴァレーという生産者の「3 Qvevri Terraces Chinuri-Rkatsiteli」です。ジョージアのオレンジワインで、品種は半分がルカツィテリです。クヴェヴリを使った醸造を行っています。

味わい的には、残糖がないドライなワインで、果皮由来のタンニンが結構しっかりあります。
香り的には、アロマティックではなく、酸化熟成香や、意外にも心地よい揮発酸の香りもあります。オレンジワインは苦味のバランスが悪いものが結構あると思うのですが、これはキツくなく、綺麗で飲みやすいワインだと思いました。

ペアリングについて

教科書的には、旨味の強い料理は、ワインの苦味を強調するリスクがあります。しかし、それはあくまでリスクであり、問題でない場合もあります。

①タンニンの多い、バランスの取れたワインの場合は変化は、(中略)
過度なものとは思えないかもしれない。

②タンニンの少ない赤ワインや、オークまたはブドウの果皮との接触により作られた白ワインでは、(中略)驚くほど苦くなり、バランスを欠いたものとなることがある。

WSET Level3テキスト

今回のペアリングのオレンジワインは、よく料理に馴染んでいたと思いました。オレンジワインの中でも抽出が非常に強い部類のワインは、むしろ赤ワインに近く、悪影響を免れることが出来るようです。勉強になりました。

香り的にも、カツオ出汁の香りに、クヴェヴリ熟成の酸化熟成の香りがよくマッチしていました。1品目とは対称的に、調和のペアリングと言った感じでしょうか。

③「ビーツの生春巻き」と「新政No.6 S-type」

「ビーツの生春巻き」と「新政No.6 S-type」

料理について

こちらの生春巻きは、ビーツをメインの具材になっています。中にはハーブに加え、フルーツのソース、トリュフも仕込まれ多層的な香りと味わいの料理でした。五味のバランスが良く、ビーツの甘みが特に印象的な料理です。

ワインについて

合わせて提供されたのは、ワインではなく、日本酒の「新政No.6 S-type」です。日本酒は疎いのですが、生酛造りによる酸味が印象的な日本酒でした。のっぺりした日本酒が苦手な私でも抵抗がなく、バランスに優れたお酒だと思いました。

ペアリングについて

甘みのあるビーツの料理に、新政No.6はよく合いました。新政No.6は酸味が綺麗な酒でしたが、やはり日本酒なので甘みのニュアンスがあります。似たもの同士、双方を高め合っていたと思います。

日本酒のペアリングですが、ワインのペアリングの原則とそう違わないと感じました。

④「白子のムニエルと洋梨のソース」と「エリック・ニコラ:ジャニエール ロジエール」

「白子のムニエルと洋梨のソース」と「エリック・ニコラ:ジャニエール ロジエール」

料理について

魚料理は、白子のムニエルに甘みが印象的な洋梨のソースを添えたものです。上のフェンネルも洋梨でマリネされており、シャクシャクの食感があり、食べ飽きない一皿でした。

ワインについて

合わせて提供されたのは、ロワール地方の生産者エリック・ニコラのシュナン・ブランです。ジャニエールというのが地方名のようです。良質なシュナン・ブランらしい、熟したリンゴや洋梨、アプリコットのような香りで、こちらもまたオフドライの糖度でした。

ペアリングについて

しっかり甘みのある洋梨のソースの後味に、共通の香りと甘さを持つシュナン・ブランは最高の組み合わせでした。
さらに、感触的にも濃厚なテクスチャーの白子に、濃度のあるオフドライのシュナン・ブランはハマっていると感じました。

味わい、香り、感触すべてが揃っていると本当にスッと入ってきます。とことん合わせるというのは王道ですが、王道ゆえにキマったらやはり強いと感じます。

⑤「鹿肉のローストとキウイのソース」と「レ・ドゥエ・テッレ・メルロー」

「鹿肉のローストとキウイのソース」と「レ・ドゥエ・テッレ・メルロー」

料理について

ここ最近、鹿肉を食べる機会が結構あったのですが、こちらはかなり美味しい鹿肉でした。臭みが少ないことは当然として、旨味が強く、それでいてしっとりと柔らかい触感でした。
キウイのソースが下に忍んでいるのですが、これもまた甘みと酸味のバランスが良いです。
シンプルに焼き上げた旨味の塊である鹿肉に、甘みと酸味がプラスされ、五味が整っていました。

添えられた胡椒はベトナムのものらしく、レモングラスのような香りがします。ソースやアクセントでアジアを感じます。

ワインについて

合わせて提供されたのは、イタリア・フリウリの生産者、フラヴィオ・バジリカータのメルローです。ラシーヌのワインですが、あまり自然派っぽくないニュアンスです。基本的には北イタリアのメルローなので、黒系果実の香りが主体ですが、全房発酵(比率不明)を行っているとのことで、赤系果実のニュアンスもかなり混じっていました。

ペアリングについて

ある種、ベーシックな組み合わせだったと思います。鹿肉はソースにもよりますが、基本的には滴るような肉汁が美味しい肉だと思います。キウイのソースも甘酸っぱいものなので、どちらかと言うと赤系果実のニュアンスのあるワインが合いますので、今回のワインもマッチしていたと思います。美味しかったです。

⑥「牡蠣のフォー」と「仙禽:雪だるま しぼりたて活性にごり酒」

「牡蠣のフォー」と「仙禽:雪だるま しぼりたて活性にごり酒」

料理について

こちらのフォーは、濃いめの鶏だしのスープに軽めの米粉の麺で、創作系のラーメンに近い印象を受けました。薬味にはミントやパクチーが入っていて、これをスープに入れて食べます。加えると一気にアジア料理っぽさが出てくるようになっています。

ワインについて

合わせて提供されたのは、にごり酒でした。誤解を恐れずに言うとドライめなマッコリのようです。微発泡と酸味が心地よく、マッコリほどは残糖感や乳酸菌感はなく、日本酒といえば日本酒という印象のお酒でした。

ペアリングについて

西洋料理と発展したオーソドックスなペアリングの考え方には、アジア特有のヌードル料理へのヒントが少ないように思います。

そんな中、Ăn Điさんの提案はにごり酒でした。塩味、旨味が強いスープの後に柔らかで少し甘いにごり酒が入ってくると、バランスが補完されました。

麺料理は食事として一品で食べることも多く、これまで気づかなかったのですが、基本的にはやや甘さに欠ける料理だということに気づきました。
(ラーメンや鍋料理も注意深く食べれば、新しい気づきがあるのかもしれません。)

特にライトな米粉の麺ではちょうどいいバランスに感じられました。(中華麺だと小麦の香りと甘みで話は変わってくるのかもしれませんが)
いずれにせよ、ヌードルや汁物には甘みがあり、優しい酒質の酒は使えそうです。勉強になりました。

以上、Ăn Điさんでのペアリングでした。
(この他にも、アミューズとデザートがありましたが、ペアリングはなかったのでこの記事からは外しています。)

今回触れたペアリングに関する原則に関する記事や、ナチュラルワインに特徴的な香りについても書いていますので、よかったら読んでみてください。


なぜ、コック・オー・ヴァンにはジュヴレイ・シャンベルタンを合わせるのか?#1

ナチュラルワインの香りと、それを生む醸造工程 #4



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