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ウインドシンセ音源紹介 3 (ウィンドシンセ向きの無料音源編)

 私が実際に試した範囲のソフト音源(WinまたはMac用)で、鍵盤シンセ想定で作られたものなのでウィンドシンセ用の音色設定を自分でしなければいけないけど、設定しやすい・音色をつくりやすい・演奏しやすいと思ったものを紹介します。もちろん世の中の全ての音源を試せているわけではないのでご了承くださいませ。
前回:ウィンドシンセ向けに最初から最適化してつくられたソフト音源編


はじめに

 ウィンドシンセサイザー(EWI, Aerophone, NuRAD/NuEVI,MWiC等)用の外部音源ということでソフト音源でウィンドシンセ向けに開発されたものについて書いてみましたが、鍵盤での演奏を想定してつくられた一般的なソフトシンセでも、ブレスで音色や音量を変化させる設定をすればもちろんウィンドシンセで使えます。とはいえその設定のしやすさや、ブレスコントロールのしやすさ、音色の美しさ(ブレスコントロール時のノイズの少なさ)はソフトにより差があって、使いやすいものと使いにくいがあります。そんなわけで私が実際に試した範囲で、まずは敷居の低い「無料」で入手できるものに限定して紹介します。無料とはいえ充分に品質が高くプロの使用に堪えると思います。

「ウィンドシンセ向き」のポイントとは

音色の好みとかは置いておくとしてウィンドシンセ用シンセに必要なシンセの特徴の優先度は次の1〜5で、最低限1〜3は必須ではと思っています。2〜4はシンセの取説を読んでも判断できず実際に試してみないとわからないのでやっかいなのですよね。

  1. 息(CC2またはAftertouch)で最低限、音量と音色が同時にコントロールできる。

  2. 音の出だし・切れ目がパツパツしない設定ができる

  3. フィルター開閉に伴うブチブチデジタルノイズが少ない

  4. その他デジタルノイズ(ベンド、ビブラート、超高音域時のキュルキュルノイズ)が少ない

  5. 息のMIDI信号で様々なパラメーターをコントロールでき、コントロールの幅やカーブを変更できてその設定を音色毎に保存できる

これらポイントについての詳細は長くなるのでいずれ別記事で書こうと思います。

ベスト5紹介

それでは個人的おすすめ順にご紹介。

第1位. Cherry Audio - Synthesizer Expander Module (SEM)

Win, Mac, プラグイン&スタンドアロン
モノ発音、oberheimのSEMのエミュレートソフト。内蔵エフェクトはディレイとフェイザー。2023年12月リリース。

私の音色・演奏例
https://twitter.com/m_kirino/status/1730747691876196768/

 期間限定無料みたいに書いてありますが、おそらくずっと無料で提供されるのではないかと思います。無料で操作が簡単、にこだわるならイチオシです。正直 T(he)-SQUAREの曲を演奏したいならほぼこれで間に合うのではないでしょうか。「アナログシンセの基本操作」を知るためのシンセとしてもちょうど良いので、シンセ初心者にもおすすめです。
Oberheim SEM(またはSEM 2-voice)はリリコンドライバーの音源としてThe SQUAREの楽曲で多く使われていますしその後のEWI専用音源(EWV2000等)もSEM系の回路らしいので、70〜90年代のウィンドシンセ音色はSEM系音源ひとつ+エフェクターで大体間に合います。
 このソフト自体はDAWか外部エフェクタで最低限リバーブ、場合によりオーバードライブやディレイを少し加えると良いと思います。パツパツが簡単に消せて、フィルター開閉ノイズもかなり少なく問題無いレベルです。Cherry Audio共通ですが、「音色毎に最小値最大値とカーブを変えられるMIDI LEARN機能」というまさにウィンドシンセに最適なMIDI LEARN機能があるのも最強です。CC5で範囲設定可能なグライドも可能。これで無料なので本当にありがたいです。一通りいじって音色を作ってそれで満足なら問題なし。プロプレイヤーが継続使用できる品質だと思います。初心者〜プロまで使いやすく充分な品質でポイント1〜5の項目全て合格。おすすめベスト1です!
【パツパツ】 簡単に消せる
【フィルター開閉ノイズ・デジタルノイズ】 ゼロでは無いが目立たないので実用上問題ない
【ブレス信号】 強力なMIDI LEARN機能(音色毎に範囲・カーブ設定可能)があり最高。matrixは無い。
【音色】汎用性の高いいわゆるSEMサウンドが簡単に得られる。
【操作性全般】 シンプルで良い意味で機能が少なく操作しやすい。

なお有料ソフトになりますが、SEM再現度やノイズの少なさにさらにこだわるならOberheim 公認のGFrorce社のOberherim SEM、ポリ発音や2-Voiceの再現にこだわるならCherry AudioのEight-Voiceも高品質かつ操作性良好でポイント1〜5を満たすのでオススメです。

第2位 Cherry Audio - Surrealistic MG-1 Plus

Win, Mac, プラグイン&スタンドアロン
モノ発音+ポリ発音のレイヤー、moog系シンセ「Realistic Concertmage MG-1」のエミュレートソフト。内蔵エフェクトなし。

私の音色・演奏例
https://twitter.com/m_kirino/status/1690896855742427136

 リリース当初は期間限定無料でしたが2022年頃から継続無料になりました。MoogがOEM製造したMG-1をエミュレートしているのでサウンドやフィルターはMoog系であり、Cherry Audio共通のノイズの少なさと強力なMIDI LEARN機能を備えています。パラメーターの名称が独特だったり、minimoogの機能を全て再現できるわけではなかったりしますが、SAWやPULSE波を単独あるいは重ねてフィルターを通す、といったシンプルな設定の音色であればminimoogの音が出ると言っても良いでしょう。エフェクトは内蔵していないので前述SEM同様外部エフェクトは必要です。
 先に「SEMで大体間に合う」と書きましたが、そのSEMで間に合わないところ=moog系のサウンドはこのソフトでほぼ埋めることができると思います。2つのソフトで同じ設定の音色を作るとSEMフィルター(12db/oct)とmoogフィルター(24db/oct)の違いを感じられると思います。「moog系のシンプルな音色が欲しい」という要望には充分応えられプロプレイヤーが継続使用できる品質だと思います。初心者〜プロまで使いやすく充分な品質で1〜5の項目全て搭載。おすすめベスト2です。

【パツパツ】 簡単に消せる
【フィルター開閉ノイズ・デジタルノイズ】 ほぼゼロで素晴らしい
【ブレス信号】 強力なMIDI LEARN機能(音色毎に範囲・カーブ設定可能)があり最高。matrixは無い。
【音色】シンプルな音色限定だがmoogサウンドが簡単に得られる。
【操作性全般】 パラメーター名が独特なので最初は取説を読む必要があるが項目は少なく、わかってしまえばシンプルで良い意味で機能が少なく操作しやすい。

なお有料ソフトになりますが、やっぱりminimoogの本格エミュレートが欲しい!という場合の私のオススメはCherry AudioのMiniverseです。minimoogのエミュレートソフトは多くのメーカーから出ており再現度だけを見ればもっと優れたものもあるでしょうがポイント1〜5を高レベルで合格しつつ、使いやすく動作も重くなく比較的低価格となるとMiniverseと思っています。

第3位 VITAL AUDIO - VITAL

Win, Mac, プラグイン&スタンドアロン
Wabetable方式ポリ発音シンセ、matrix-modulation可能、多機能エフェクト内蔵、無料〜$80

私の音色・演奏例

https://www.youtube.com/watch?v=ZGZ9FCd0hYw

 Pro版は$80ですが波形の種類等をやや絞った無料版があり、通常のウィンドシンセ使用であれば無料版で充分だと思います。非常に多機能なのでいろいろこだわった設定や音作りができます。多機能の割にはわかりやすい操作体系でもあるので、最近の多機能シンセの入門機としても良いと思います。
詳しくは下記の過去紹介記事と、無料パッチ公開もしていますので興味を持った方は是非お試しください。

SEMやMoogより現代っぽい派手な音色、複雑な音色を出したいときにVitalを使えば良いと思います。多機能でwavetableの選択と色々な変調ができるのでFM音源っぽい音も可能ですし何ならVitalでSEMやmoog系サウンドに調整することも可能ですので使いこなすと色々できます。

【パツパツ】 少し工夫すれば消せる
【フィルター開閉ノイズ・デジタルノイズ】 ゼロでは無いが全く目立たないので実用上問題ない
【ブレス信号】 一般的なMIDI LEARN機能に加え強力なmatrix-modulation装備でいろいろなことができる
【音色】wavetableなので様々な音が出せる。工夫すればFM音源っぽい音も可
【操作性全般】 やや複雑だが多機能シンセの中ではかなりわかりやすいほう。

生楽器系などもっといろいろな波形が欲しい!と思ったらVitalの有料版を購入しても良いですし、他の多機能シンセを購入しても良いと思います。SERUMとかMASSIVEとかSPIREとかSYNTHMASTERとかZEBRAとかいろいろありますが私が持っているのはSYNTHMASTER ONE, Arturia Pigments5, VPS Avenger2の3つでその中で個人的最もおすすめはVPS Avenger2です。一番多機能で一番操作がわかりやすいと思います。

さて、正直このベスト3までで充分で、これで物足りない場合は文中に記載した有料ソフトを導入すれば良いと思うのですが、いや、もう少し無料でいろいろ試してみたい・経験してみたい、という場合は4位以下がおすすめできます。

第4位 u-he TYREL N6

Win, Mac, プラグインのみ
アナログ方式ポリ発音シンセ、matrix-modulation可能、エフェクトはコーラスのみ内蔵

私の音色・演奏例

https://twitter.com/m_kirino/status/1608299226613809154

 "音が良い"と定評のあるu-he製のアナログシンセ系ソフトシンセ。ちょっと操作系にクセはありますが、慣れれば普通のアナログシンセの感覚で操作できます。CC2またはAftertouchで主要パラメータをmatrix的にコントロール可能。グライドはCC5でコントローラー側で最大値を決めて送信する必要あり。フィルターが12, 24, 36db/octの三種あり。ハードシンクやPWの変調が簡単にかけられる点も良。比較的制限された機能の中で様々なことができます。ひと味違うアナログ音が欲しい場合に試す価値はあるソフトだと思います。

【パツパツ】 少し工夫すれば消せる
【フィルター開閉ノイズ・デジタルノイズ】 ゼロでは無いが全く目立たないので実用上問題ない
【ブレス信号】 一般的なMIDI LEARN機能と、一定のmatrix-modulation装備で必要充分なことはできる
【音色】太くて良いアナログシンセ音と思います。
【操作性全般】 初見では判りにくいが、慣れれば操作は簡単。

参考:各種パラメーターはこちらのblogが詳しい(感謝)
https://achapi2718.blogspot.com/2020/10/vsti-u-he-tyrell-nexus-6-v3.html

第5位 SURGE XT

Win, Mac, プラグイン&スタンドアロン
オープンソースの多機能ポリ発音ハイブリッドシンセ、matrix-modulation可能、多機能エフェクト内蔵

私の音色・演奏例

https://twitter.com/m_kirino/status/1518147173950627842

 アナログ、FM、Wavetable他種々方式のハイブリッドシンセ。極めて多機能で、無料にもかかわらず本気で取り組めば何でもできるといっても良いかもしれません。ポイント1〜5も問題ないです。プリセットが膨大にあるので気に入ったものをブレスコントロール用に修正するという使い方も良いかと思います。操作性があまり良くないのが残念ではあります。なおSurgeをインストールするとSurgeのエフェクト部分が独立したプラグインおよびスタンドアロンとしてもインストールできるので無料エフェクトとしての活用もできます(私はSurgeのロングディレイ(最大32秒)を時々使っています)

【パツパツ】 少し工夫すれば消せる
【フィルター開閉ノイズ・デジタルノイズ】 ゼロでは無いが全く目立たないので実用上問題ない
【ブレス信号】 一般的なMIDI LEARN機能と、matrix-modulation装備で必要充分なことはできる
【音色】FM音源系も含め多様な音が出せる。
【操作性全般】 初見では判りにくく、慣れても操作しにくい点があり操作性は良くない。

番外

その1 DAW付属のシンセを使ってみる(=実質無料)

厳密には無料ソフトでは無いですがパソコンでソフトシンセを鳴らそうとしていれば何らかのDAWソフトを入れている方は多いと思います。有料のDAWにはたいていシンセソフトが付属しており、ポイント1〜5を満たすものも多いです。ですのでそれを利用するのもアリだと思います。私が確認した範囲ですと
・Logic/Mainstage (Macのみ)
  Archemy, ES2, Retro Synth, Sampler, Sclupture
・Studio One
  Presence (PCM音源)、Mai Tai (アナログ音源)。
はポイント1〜5を満たします。私自身は未確認ですがAbelton Live、Cubase等にも同様のソフトシンセが付属しているかと思いまので、これだDAWソフトを導入済みであれば実質無料で高機能のウィンドシンセに使えるシンセを既に入手済みということになります。

Mainstage用のテンプレートファイルを別記事で公開しています。ウィンドシンセを繋げば演奏できるようになっているのでよろしければお使いください。


その2 その他無料シンセ

以下有名な無料ソフトですが、個人的にはベスト5に入らないものです。概要だけ書きます。

1. discoDSP OB-Xd  https://www.discodsp.com/obxd/

アナログ音源Oberheim OB-Xエミュレータです。バージョン2までは無料利用可能でしたが、最新バージョン3からは有料になりました。バージョン2も上記リンクからダウンロード・無料利用は可能で、加えてよしめめ氏が使い方解説とウィンドシンセ用パッチを無料公開してくださっているので https://ameblo.jp/yoshmeme/entry-12784331691.html 
これを利用するとすぐにウィンドシンセで吹けるのは利点です。ポイント1〜4は満たしているので充分使えるものですが、MIDI LEARNの自由度が低くMIDI MAPもわかりにくのが残念な点で、Cherry AudioのSEMが出た現在ではそちらを推したいと思っています。
私の演奏例:https://twitter.com/m_kirino/status/1614456538751721472

2. dexed  https://asb2m10.github.io/dexed/

ヤマハのFM音源(DX7)の無料のエミュレータとして有名なソフトです。ウィンドシンセ的にはブレスコントロールのMIDIアサインやコントロールがしにくく、インタフェースも非常に無骨でとっつきにくいためあまりおすすめしません。個人的には「いわゆるYAMAHAの往年のFM音源的音色のウィンドシンセ音色」が欲しいなら、FM音源エミュレータよりは、多機能シンセのFM波形をちょっと変調たりFM機能を使用して音作りしたほうがてっとり速いのではないかと思っています。

3. Synth1   https://daichilab.sakura.ne.jp/softsynth/

アナログシンセエミュレータ無料音源としてソフトシンセ黎明期からある非常に有名かつ優れたソフトシンセですが、ウィンドシンセ用としては使いずらくまた2024年最新シンセの比較してしまうとさすがに仕様が旧く、できないことも多いので個人的にはベスト3のほうをおすすめしたいと思います。

最後に

"無料"しばりで紹介しました。ベスト5をDAWのエフェクターとともに使いこなせば充分なんでもできるのではと思いますが、有料のソフトはさすがに使いやすく工夫がされているので、やりたいことを無料ソフトより簡単な手間で実現できる、場合が多くそのその利点も大きいです。ベスト1、2(SEM、MG-1)についてはいずれ個別に解説記事を書こうと思います(3位のVITALは記事公開済)。おすすめの有料ソフトは既にベスト3のなかで記述したソフトとなりますがこれもいずれまた別記事を書きたいと思っております。

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