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シーズンラストに起きたいくつかのミラクルと、最後まで笑いの絶えなかった“チーム片野坂”とのお別れ

大分トリニータが天皇杯ファイナリストになったので、今年は想定外に激動な12月になりました。おかげさまで「担当チームが新国立でタイトルを懸けて戦うのを取材する」という通常なら出来ない経験をさせてもらえて、しかもそれが来季はJ2に降格するチームで、6シーズンにわたり率いてくれた指揮官のラストゲームという展開マシマシな盛り盛り。なんかもう本当にいろいろとすごかった。そんな約2週間を振り返ります。

激闘の準決勝の裏で起きていた小さなミラクル

正直、準決勝の相手が大会連覇を狙うリーグチャンピオンの川崎フロンターレという時点で、そこを勝ち上がるのは難しいと思っていました。頑張ったチームに全力でお詫びすべきところです。まあしかし激闘だった。どういう試合だったかは、こちらを御覧いただければ。

延長からのPK戦あり一発勝負という天皇杯のレギュレーションを最大限に活用してのゲームプラン遂行。そして大車輪の“高木劇場”です。エルゴラではそれを見出しに使ってもらいました。

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そりゃもう、延長戦後半の113分に失点したときには「ここまでだったか…」と思いました。のちに片野坂監督が口にすることになる「グッドルーザー」という言葉が、実はその時点でわたしの脳内にはマッチレポートの見出しとして踊っていたのでした。

さらに、準決勝で敗退した場合にはその翌日に監督の退任会見が行われることになっていました。割と直前になってその連絡を受け、しかもそれが午前中にセッティングされていると聞かされて「えー! あたしたちみんな等々力に行ってて帰ってこれません!」状態。でも6年間取材してきたカタさんの退任会見には絶対に出たい。それで失点した瞬間に、翌朝の始発便を押さえようと航空会社のサイトにアクセスしました。なのに何故かエラーになって予約できず、ピッチを見守りながら何度か「あれ? あれ?」とやり直している間に、120+1分に同点に追いついて最後はPK戦で勝利。もうサッカーの神様が「勝つから航空券は取るな!」と言ってくれてたとしか思えません。むしろ終了後には1週間後の決勝取材のための航空券を予約することになって、そっちは順調につながるあたりも。

とにかくとんでもないハイカロリーなゲームで、速報を書き終えてからしばらくは記者席でぼんやりしてました。同じく顔面蒼白になっている大分出身ゲキサカ記者・竹内達也が「今日もうちょっと一緒にいてもらっていいですか…」と弱々しく言うので、約束していた元同業者のモッキーと落ち合って居酒屋で軽く食事しつつクールダウン。清水サポのモッキー、大分側で応援してくれてたらしい。いいヤツです(笑)。

まさに「カタノサッカー」6年間の集大成

その準決勝前にフットボリスタさんから依頼を受けて書かせていただいた記事がこちら。リーグ戦では苦戦してJ1残留を果たせなかったチームが、降格決定後の2試合で見せた「これぞ真髄!」なゲームと、そこからの天皇杯への期待を含め、片野坂監督体制6シーズンの総まとめです。わたしにとっては、カタさんの就任時からの全試合を現地で見届けた取材の集大成でもありました。

一本の記事というよりは一冊の本を書くくらいのエネルギーを消耗した記事でしたね…それくらい濃密な6年間だった。すごかったなあ。

雰囲気満点の前日練習と狂熱の前夜祭LIVE配信

試合前日には両チームのトレーニングが冒頭15分のみメディアに公開されます。ここで18名のメンバーがほぼほぼバレてしまうという仕組み。手の内隠せない容赦なさもさすが注目の頂上決戦です。

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しかし、自分が新国立競技場にこんなに早く来ることになるとは思っていなかった。観客のいない状態でも人が入っているように見えてしまうスタンドは、いま思えばまるで五輪のコロナ禍による無観客試合を想定していたかのような不思議感。静かな緊張感に包まれた美しいスタジアムで、大分の選手たちは意外にリラックスして体を動かしていました。

そして、まさかの今年もう一度会うことになった浦和の番記者のみなさまがたとの情報交換も、なごやかにしてエキサイティング。浦和の記者さんたちにも仲良くしていただいている方々が多いので、会えてうれしかったよ。

夜は浦議さんのお招きを受けて浦議チャンネルに生出演。普段は顔出しやら人前でしゃべるやら絶対にしたくないわたしですが、日頃からお世話になっているかなめさんにお声掛けいただいたらさすがに断れず。

都内の定宿にしているビジネスホテルの一室で好き放題おしゃべりして、なんか普通にかなめさんUGさんと雑談してるみたいになってすみません。でも視聴者のみなさまにも楽しんでいただけたようでよかったです。そして4週連続関東出張のひぐらしに「クラファンしようか」などとコメントくださるあたり(笑)浦和サポのみなさんはやさしいなー。わたしの記事をよく読んでくださっている方もいらして、ありがとうございました。

誰もが立てるわけではない頂上決戦という舞台

そしていよいよ決勝戦です。開会式の雰囲気だけでもすごかった。これが以前は元日に開催されてたんだなと思うと、さらに神々しい。

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それを彩る、トリサポのみなさんによるコレオグラフィー。感動しかない。1週間前には正直、国立のスタンドの大部分をレッズサポに埋め尽くされて、赤対青が8:2くらいの比率になるんじゃないか、それならいっそトリサポも赤い服を着てどこからどこまでがレッズサポなのかわからなくする「レッズサポ無効化作戦」とかしたほうがいいんじゃないか…などと弱気になっていたのですが、申し訳ありませんでした。我が軍、素晴らしかったです。仕事終わりに昭和電工ドーム大分に集まって準備したというコレオの大迫力、そして清冽さ。目指すは二つめの星のみ!ですよ。

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そんな力強いサポートを感じながら、歴史に残る一戦がはじまります。ここに来れたことをチームだけでなく、チームを支えるクラブスタッフやサポーターやパートナーの方々も、きっと誇りに思えたはず。

最後に全部持っていく、さすがの槙野という男

試合内容については準決勝同様にこちらを御覧いただければ。

周到に準備した対浦和戦術でしたが、個々の局面で相手を上回れずに機能しなかった前半。でも準決勝とまったく同じ布陣で全然違う狙いを落とし込んだコーチ陣の手腕には鳥肌が立ちました。ハーフタイムの修正からの後半の形勢挽回も含めて、やっぱりチーム片野坂は敏腕揃い。

立ち上がりの失点を90分に取り返す劇的同点弾にも震えたし、そのわずか3分後の槙野智章の決勝弾には舌を巻くしかなかったし。やっぱり持ってるんですよねー。いろいろと裏目に出がちな部分もあるのかもだけど、彼が浦和で浦和のためJリーグのためによかれと思ってやってきたことに対する、これもサッカーの神様からの大きなギフトでもあったのかなと思う。

すべてが神懸かり的で、すべてがきれいだった。2008年ナビスコカップ決勝や2012年J1昇格プレーオフ決勝もそうだったけど、あのファイナル独特の美しさって何なんでしょうね…。

スタッフがピッチに突き刺さった事件の真相とは

エルゴラやトリテンなどルーティンのマッチレポートとともに、またフットボリスタさんからご依頼いただいて書いた記事がこちら。

準決勝を伏線にした決勝レポを中心に、カタさんの6シーズンにわたるお仕事の集大成的要素を盛り込みました。

それとともに、Jリーグファンの間で話題になっていたこちらのツイートについても、敬愛する川端暁彦師匠から「これについて書け。ガイチ(ボリスタの浅野編集長)には話をつけておく」と指令が下っており。

当該スタッフの安否確認を含め、何がどうなってこんなことになったのかをカタさんの退任会見を見に来ていた上村捷太コーチから聞き出せたのは大きな収穫でした(笑)。5シーズンお世話になった安田好隆ヘッドコーチともゆっくり話せたし。

監督退任会見で見た安田ヘッドの意外な天然ボケ

監督退任会見後に安田ヘッドコーチに決勝戦についてのお話を立ち話でうかがって、さあ帰らなきゃと会見場を出ると、安田さんがついてくる。え、わたしなんかを見送ってくれるのかなー、むしろ見送るのはこっちのほうなんだけどな…と思っていたらエレベーター前で「ねえこれどうやったら表に出れるのかな」と訊かれて思わず噴きました。

「いや、シンプルに来たとおりに戻ればいいだけですけど…」
「来るときは矢印看板があったからさ。帰りはそれがないじゃない」
「……」

カタノサッカー最高峰のブレーンが最後に見せた意外な天然っぷり。隙のない人だと思っていただけに無性に笑えて余計に泣けるでしょうが…!

新国立からレンタカーと飛行機と愛車をすっ飛ばして帰って出席して本当によかったと思えた、そんなカタさんの退任会見のレポはこちらです。

新監督シモさんへとつなぐ、カタさんの置き土産

12月23日、片野坂監督のガンバ大阪監督就任と、大分トリニータの下平隆宏新監督就任が公式に発表になりました。カタさんとシモさんは同級生で、高校選手権全国大会でキャプテン同士として対戦して以来の盟友。プロになってからは5年半、柏レイソルでチームメイトだった時期もありました。どちらもロジカルなサッカーを展開する指揮官で、今季第2節の対戦も面白かったし、カタさんも後任がシモさんに決まって「ああ、よかった」と思ったと話してくださいました。

そんな新体制へとつなぐ、カタさんの置き土産はとても大きい。6年間の取材の中で記事にしきれていなかったものや、最後の取材で明かされたことなどを、4回の連載にまとめました。これは大分トリニータだけでなく、日本サッカー界全体への提言にもなるはず。

そしてまさかの電動ママチャリ案件発覚

「シモのことを本当によろしくお願いします」
そう言って頭を下げたカタさんとお別れしてまだ日も浅いある日。やっぱりさみしいなーと思いながら年の瀬のバタバタに追われていたところ、まさかのプチ事件が起きました。

以前からカタさんがわたしの構える事務所の割と近くに住んでいたことはなんとなく知っていたのですが、つい先日その話をして、ふたりとも近くの神社にしばしば参拝していたことが発覚。

「僕、週に2回くらいお参りに行ってるよ。自転車飛ばして」
「えー!? あたしもですよ。会わないもんですね!」

そうやって笑ってから数日経つか経たないかくらい。わたしがいつものように神社の本殿前に立つと、前で長々と祈っていた人が祈り終えて振り返ったとき「あ」って言うんです。そりゃもう驚きますよね、それがカタさんだったんだから。「えええ! こんなことってある!?」と笑いあいながら、それが最後の参拝だというカタさんと、思いがけずもう一度別れを惜しめたのでした。

神社には夕飯の買物ついでに自転車で来ると聞いていたので、勝手にロードバイクをイメージしていたのですが、なんとカタさんの愛車は大分に来る前の大阪時代から乗っていた電動ママチャリ!「ここに夕食のおかずが入るんだよ」と自慢気にカゴを指差されて、またもツボる楽しいお別れに。

前代未聞の不思議なストーブリーグ、そして来季へ

そしてクラブはいま来季の新体制に向けて絶賛チーム編成中です。J2降格したことで戦力の流出はかなり覚悟していたのですが、意外にも多くの主力が順に契約更新中で、本当にJ2降格したのかな…と不思議な感覚。

通常ならば出入りにまつわる記事作成に追われている時期ですが、今年はそういうこともなく、早々に契約更新を発表した高木駿キャプテン一家に突如呼び出されて、スポンサーさま訪問ロケに出かけたりしています。その模様は大晦日にトリテンTVで公開予定。

それから私事ですが、このシーズンオフには4年間使っていた事務所を移転することにしていて、いまはその引っ越し作業中です。来季の準備にもぼちぼちと着手しながら、指揮官が替わるタイミングで心機一転するにもよかったのかなと思ってみたり。

これまで過ごしたことのないようなストーブリーグを見守りながらの年越しは穏やかで、しんどかったシーズンの疲れが徐々にほどけていくのを感じているところ。

みなさまもリラックスして、佳いお年をお迎えください。来季もきっとタフなシーズンになりますよー!

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