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2023年コンシューマースタートアップはどうなる!? GCP高宮氏とW fund東がこれからを本音で語る!

「アフターコロナ」と言われ、海外と日本の行き来も本格化し明るい兆しが見えた2022年。同時に、ロシアに夜ウクライナ侵攻や円安、物価高…など日本経済、世界経済は目まぐるしく変化しています。W fund. 代表パートナー東がグロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナーである高宮慎一氏と、「2023年コンシューマースタートアップはどうなるのか?」「2023年はどんなサービス・業界への投資に明るい兆しがあるのか?」など、対談しました。

東:早速ですが、W fundは主にコンシューマー向けのビジネスを中心にベンチャー投資をしています。高宮さんには、「ずばり来年のコンシューマーはどうなるのか?」のお話を聞きたいと思っています。世の中のどの辺りのトレンドに注目していて、伸びている投資先や注目しているスタートアップなどを教えてもらいつつ、2023年、来年に向けてベンチャー界隈にアドバイスをしていただければと思います。来年も引き続き、「アフターコロナ」はあるかと思いますし、ビックトレンドとしてはコンシューマー分野では、「Web3」でしょうか。

高宮:長期的には、ブロックチェーン技術を活用したアプリケーションは大いに花開くと思っています。超短期的にみると、Web3やブロックチェーンが悪い訳ではありませんが、FTX事件(世界第2位の仮想通貨取引所だったFTXの破綻による一連の動き)をきっかけに、ネガティブなイメージがついてしまいました。ブロックチェーン技術のアプリケーション先すべてを指すニュアンスで「Web3」という言葉が作り出され広まっていたにもかかわらず、世間的には「FTX=クリプト=Web3」が一括りにされて、ダメ感が醸し出されてしまっています。僕はずっと、ブロックチェーンの技術はポテンシャルがあると思っていますし、本来技術そのものの性質としては、社会にプラスなのか、マイナスなのかは、その使い方次第というところで、ニュートラルなはずです。
例えば、「車が発明されました、移動が便利になるし、誤った使い方をすれば人を傷つけることもある」の世界ですね。社会側で、車をどのように使うかという法規制、社会的規範の醸成も伴わないと、プラスの方でフルに活用し、マイナスを最小化できないということと同じだと思っています。FTX事件は、規制が未然でルールが未整備だったから、コンプライアンス、ガバナンス的にしてはいけないことがができてしまったし、その影響範囲が膨らむ前に止めることもできませんでした。特に米国を中心とした海外では、新しいテクノロジーが出てきたときにルールが未整備でもやらせてみよう、やらせてみる中で後から規制導入しようというスタンスだったので、このようなことになってしまいました。なので、ブロックチェーンの技術そのものが問題がある技術だったというよりは、社会側として適切なルール、運用が未整備だったいう問題だと思っています。その間隙をついて、FTXの創業者のSBFがアウトなことをしてしまった。にもかかわらず空気感として「Web3 is dead」みたいなお通夜みたいなムードになってしまったので、短期的には「Web3ブーム」は一瞬停滞すると思います。
ちなみに、そんな中、日本ではあらかじめ規制がきっちり導入されていて、事業者としては、何をしていいいの、何はしてはいけないかのルールが明確で、安心して事業ができます。海外では、今回の事件が起こって、今からどんな規制を導入するのか議論されていくことになり、ルールが明確になるまでは、事業者側は動けないので、その点日本はアドバンテージがあると思っています。

東:確かに、「Web3」に追い風は吹いているとは言えない状況になってきましたね。

高宮:一方で、中長期的にみるとハイプカーブでいうところの幻滅期にこそ、本質的なユーザー課題、社会課題を解決しマスアドプションするようなWeb3サービスが出てくると思っています。クリプト、暗号通貨はブロックチェーンという技術のアプリケーション先のひとつにすぎません。ユーザーの課題や社会の課題を解決するためにブロックチェーンを活用するアプリケーション先、お小遣い稼ぎや投機以外のバリュープロポジションが出てくるでしょう。
例えば、昔からよく言われる課題として、漫画の二次流通の問題があります。中古の漫画を販売する際に、作家や出版社などの権利者に収益が還元されないという課題がリアルでもありました。なので、権利者が電子書籍化の権利を許諾する時に、電子書籍の二次流通を許可していませんでした。ブロックチェーンを使えば、電子書籍で二次流通がされると権利者に一定の比率で収益が自動的に還元される仕組みが簡単にできます。スポティファイやアップルのように、権利者を説得すれば、購入した電子書籍を売却できるという新しいビジネスモデルができます。
また、DX、すなわち既存の業界や業務の効率化という文脈でもブロックチェーンは活用できると思います。例えば、信託銀行の株主名簿の管理も、ブロックチェーンで管理すれば、正真性は担保できるし、効率化できます。レアなワインは、アートのようにコレクション要素があり、高値で取引されています。しかし、ワインは、保存の温度や湿度が大事で輸送コストが高く、輸送するときにダメになってしまうリスクもありました。そこで、保管場所はそのままに、所有権を定義して、所有権だけ移転させる、所有権を管理するのにブロックチェーン技術を使えば効率的にできます。
僕がパッと思いつくだけでもこれくらいでてくるので、世の中の人はもっともっと多くの有望なアプリケーション先のアイディアをもっているでしょう。人を助ける、世の中を良くするために、ブロックチェーンが活用されている良い事例が出てくるといいな、そして絶対に出てくると思っています。それが出てきた瞬間、ブロックチェーンはマスアドプションに向けて、大きく動きだすでしょう。中でも、常にいろんな技術でそうなのですが、「ゲーム」の足は速く、すでに顕在化しています。「Play to Earn」(稼ぐためにプレイする)ではなくて、本来のゲームのバリュープロポジションたる「Play for Fun」(楽しむために遊び、遊びながらおまけ的にお小遣いも少し入る)くらいのバランスのBCG(ブロックチェーンゲーム)がくるのではないかと思います。

東:私の投資先である、Kreation 小川さん(元アカツキ CFO)が 格闘ゲームのNFTコレクションのサービスをローンチしました。ゲームそのもの、というわけではないですが、結構な盛り上がりを見せています。単純にNFTを売る、買うで終わりではなく、「NFTを購入した人がコミュニティを作り楽しんでもらう」その結果、さらに価値が出て・・・みたいなエコシステムは、傍で見ていて面白いなと思っています。これからの事業ですがコミュニティとしてサービスを育てていくことが、本質的なのかなと思っています。

東:高宮さんがおっしゃる通り、「最初にゲームが来る」というご意見は、私も同感です! これまでもずっとそうでしたしね。国内や海外におけるゲーム業界で注目している企業はありますか。

高宮:お小遣い稼ぎの部分ではブロックチェーンの必然性があるのは明確なのですが、Funの部分でブロックチェーンを使わないと面白さが演出できないとか、面白さのコアにブロックチェーンがあるみたいな、必然性があるゲームデザインができるかがカギだと思っています。そしてそのようなゲームが出てくるのも時間の問題だと思っています。

東:国光さんがうまく作ってくださるのではないかと期待しています!

高宮:そうですね、国光さんの動きには期待ですね!

東:やはり最初はゲームからイノベーションが生まれますよね。

高宮:「楽しい!」というユーザーベネフィットが分かりやすいですし、誰にでも受け入れられやすいので、マスアドプションしやすいのだと思います。そして、グローバルへのチャレンジというのも、大きなテーマとなると思います。メルカリが上場してから4年弱。それから1000億円で上場する企業が11社出て、上場した後に1000億円タッチダウンした会社が20社くらい、まだ上場していないユニコーンが10社くらい。4年間でユニコーンが30、40社くらい出てきています。日本のエコシステムの実力値としては、年間10社ぐらいは出せるところまできています。とすると、もはや次なるチャレンジ、次はデカコーン(時価総額で1兆円)に挑むタイミングだと思っています。数十兆円規模の国内マーケットの寡占化するアンドパッドみたいなストーリーか、もしくは世界に進出して勝つスマートニュースのようなストーリーのどちらかしかない。未上場のうちからグローバルに踏み出した初めてのスタートアップがメルカリで、後進が続き本気でグローバルで戦っている人たちが増えてきたのは本当に素晴らしいことだと思います。メルカリが上場した日に日本人プロ野球選手として初めて大リーグにチャレンジした野茂選手を使った一面広告を出しました。野茂選手が切り開いた道で、ダルビッシュ選手が出てきて、大谷選手は何年もMVP争いをするような活躍をしています。まさに日本のスタートアップも同じ状況だと思っています。
その中で、越境ECも再び見直されているタイミングだと思います。一昔前は、楽天なども参戦してうまくいかなかったので、テーマとしては一度下火になっていたのですが、実際に実績を上げはじめているスタートアップも出てきていて、成功するモデルも見えてきています。さらに、アニメや漫画、それらのIPを活用したコンテンツや製品は、世界中に普及してきていて、日本の強みを活かして海外で展開させるには、今がまさにチャンスのタイミングのような気がします。話はちょっと戻ってしまいますが、マンガやアニメが、海外で配信する際に、国ごと作品ごとなどで細かく権利を設定し、管理するためにプロックチェーン技術が使えます。権利関係を管理、収益を分配するモデルはブロックチェーンと相性が良いと思います。

東:弊社の投資先indent社は、ウェブトゥーンのスタジオをやっています。もともと作家向けのエディターツールをローンチしていて、作家向けツールとしては一定の規模を持っています。作った人に還元、広めてくれた人に還元など、ブロックチェーン技術で、面白い展開ができるのではないかと思っています。

高宮:IPビジネスにビジネスモデルのイノベーションをもたらしたとして、韓国のBTSを手掛ける「HYBE」は面白いと思っています。BTSというアーティストをIPとして捉えて、楽曲で収益を上げるという既成概念から脱却し、楽曲の使用は無料化し、IPビジネス全体で複数のマネタイズポイントを設けて収益の最大化を図るというモデルを構築しました。楽曲を二次利用も含めて無料で利用できるようにして、ARMYと呼ばれるファンにソーシャルメディアで拡散してもらう、そしてリアルおよびオンラインのイベント、グッズ、出演料などで複合的に収益をあげるとモデルです。そのモデルを実行する上で、HYBEでは、ストリーミング会社を買収するなど、垂直統合して必要な機能を全て内製化しました。日本の制作委員会方式のように、楽曲の権利はこの会社、映画化の権利はこの会社、ゲーム化の権利はこの会社、グッズ化の権利はこの会社みたいな感じで、マネタイズポイントを個別に分割してしまうと、それぞれが部分最適化をしてしまうのに対して、HYBEではIP全体としての収益の最大化すればよいので、楽曲の利用を無料化できたのです。BTSに続くアーティストが出てきていないので、上場時は一時1兆円を超えた時価総額は低迷してしまっているのですが、ファーストパーティのBTSだけでなくサードパーティのアーティストも乗っけていけば、HYBEがプラットホーム化するという新しいモデルも見えてくると思っています。

東:今の話を聞いて、少し危機感を覚えました。日本でプラットフォームビジネスはなかなか成功できていないですよね。このままいくと、起こり得るシナリオは、海外勢力に苦手科目のプラットフォームを取られて、日本勢にはアプリケーションだけをやり、小作人になってしまうみたいな予想をしてしまいます。

高宮:今までの流れで言うと、まさにそうなんですよね。

東:強力なインフラというか、プラットフォームなどのビジネスの武器がないとやはり難しいですよね。もちろん、資金も含めてですけれど。

高宮:プラットフォーム化するための戦い方は見えてきたと思います。「IPが強力な武器になる!」ということ。BTS然り。日本の漫画の「ドラゴンボール」や「ワンピース」にしてもIPとしては、グローバルで成功しています。そして、まずはファーストパーティが引っ張ってユーザ獲得やグローバル展開を押し進めることで、サードパーティにとっても魅力的なプラットフォームになりえます。そして、サードパーティのコンテンツが充実することで、ユーザにとってもプラットフォームの価値が増すというネットワーク効果が働くようになります。

東:そうするとファーストパーティは我々ありますよね。「強力な武器は持っています」という状態で日本のベンチャーには、何が足りないんでしょうか?

高宮:はい、そうですね。あとは、プラットフォームとして、重要な存在価値は、ユーザーを持っていること。単純化してしまうとサードパーティにとって、プラットフォームに乗らずにコンテンツを単独で展開するよりも、ユーザ獲得のマーケティングコストが低くなることです。すると、ファーストパーティコンテンツが得たユーザーを、きちんとプラットホームに溜め込む仕組みが大事だと思います。
危機感といえば、あとは、グローバル化にはもっともっと挑むべきかもしれません。韓国や北欧の国々は国内が市場小さいため、スケールしようとするDay1からグローバル化が不可避です。その結果、多くのグローバルスタートアップやユニコーンが生まれてきています。僕ら投資家側も、グローバルスタートアップや1兆円スタートアップを生み出すんだ、意思をもって切り拓くんだという気概が必要だと思います。

東:心強いですね。私たちは特にコンシューマー向けサービスに特化しているので、すごい危機感を覚えています。国内のマクロだけを見ると、経済規模は基本的に下がっていく予想です。コンシューマーを見ているVCとしては、世界戦不可避、グローバルに進出する企業を応援して作り出さねばなりませんね。

高宮:グローバル化を考えるにあたり一つ悩ましいのが、「強みを生かす」という発想をどこまで前提とするかというのはあると思っています。日本はIPが強い、製造業が強いといった優位性を活用しようっていうのは、“勝算”という意味では大事です。一方、強みがあろうがなかろうが、とにかく市場が大きいテーマに挑むという骨太の話もあると思います。
例えば、日本からグローバルをワンプロダクトで獲れるフェイスブックみたいなサービスを作ります!みたいなチャレンジを勝算ないから無理でしょうと一蹴するのではなく、どうしたらワンプロダクトでグローバルを獲れるのか?という前向きな未来実現思考があってもいいのでは、と個人的には思っています。

東:何か具体的な事例を思いつきますか?

高宮:先日開催されたG1経営者会議で「世界No.1を目指す米国戦略」というセッションのモデレーターを務めさせていただき、アシックスの海外担当の常務の小玉さんに登壇いただきました。実は、アシックスは売上4000億円のうち、8割が海外、米国だけでも800億円のスーパーグローバルカンパニーです。なぜ日本を寡占化する前に海外展開したのか?日本の強みをどう生かしているか?と伺うと、海外に出ていった、USに注力しているのは単純にマーケットが大きいから。アシックスの靴はファッション性を売りにしているのではなく、プロスポーツ選手やプロランナーにも使われる機能性や技術を売りにしている。だから、ローカル性の影響を受けず、同じプロダクトで世界で戦えるとのことでした。

東:ユニクロとかに近いんですかね。

高宮:そうそう。だから、日本の必然性が薄くても、グローバルで通用するスーパーユニバーサルなプロダクトで、世界と勝負して戦ってもよいのではないかという話ですね。

東:そういう大きなことを構想することは、経営者にとって大事ですよね。最近、私もさまざまな経営者と会う中で、若い世代が割とグローバル化を意識せずに、自然とグローバル思考になっている感覚があります。一方で、実際にグローバル化を進めようという人材がたくさんいるかというと、そういうわけでもなさそうです。

高宮:最近、Web3がテーマとして勃興してきたことで、「シンガポールで起業しました」「ドバイに移住しました」みたいな起業家が増えて、すごくいいことだと思っています。Web3の特性上、海外で事業をしたり、移住したりする心理的ハードルが下がっています。その中から、成功したり、シリアル化する起業家も多く出てくるでしょう。サッカー日本代表のように、殆どのメンバーは海外クラブで世界を舞台に闘っていますみたいな感じになっていくのではないかと期待しています。

東:なるほど。すごくポジティブに感じていますね。グローバル世界を前提に、企業のレベルが上がっているなという印象があります。その中で、日本勢として、どう戦うべきか?みたいな。なんだかんだでメルカリの山田進太郎さんも何回目かの挑戦ですよね。グローバルで戦うことの難易度もそれなりに年々上がっているような気もしています。

高宮:はい、そうですね。今の日本は、「いい起業家がいるからお金が集まる。お金があるからいい起業家が育つ」みたいなサイクルが好循環していますよね。グローバルというスケール感になったとしてもそこは変わらないと思います。起業家が何周もする中で、ナレッジは個人にも蓄積するし、エコシステムにも蓄積します。僕らVCとしては、その好循環とナレッジの蓄積を加速するために、受け身でトレンドに乗っかるというスタンスではなく、やはり意思をもって特定のテーマを立ち上げるために資金を投資していくというのも、資金の担い手としての使命のような気がしています。

東:なるほど。ありがとうございます。Web3以外の話で、高宮さんは、コミュニケーションサービス、新しいSNSについてどう思われていますか? 最近、いくつか伸長しているサービスがあると思うのですが。日本からベンチャーが出てくるのかという話も含めて、何か見解ありますか。

高宮:やはりどの時代でも、コミュニケーショーサービス、コミュニティサービスはC向けサービスの一丁目一番地だと思っています。そして、何かしらのマクロ・社会の変化がある時に、ガラガラポンが起こり、新しいサービスが台頭してくると思います。例えば、リアルの社会の在り方の変化として、コロナ下で会社や学校でのリアルの接点が減った、飲み会も減った、その中で若い世代の出会いはマッチングサービスがメジャーになってきたとか、モバイルインターネットという新しい技術が普及したからこそSNSが流行ったとか。アフターコロナの「人と人との繋がり方の変化」みたいな切り口で、何かが出てきそうな匂いはしています。アフターコロナで、今一度リアルでの人と人とのつながりが見直されています。また、テクノロジー起点で、VRデバイスがきちんと普及したら、スマホシフトの時におこったような、コミュニケーションサービスの姿がガラッと変わり凄いサービスが出てきそうなど、断片的な変化の兆しみたいなのは見えてきたと思っています。

東:全員が同じものを使うという「マスサービス」が作りづらくなってきているのではないかと思っています。世界が分断しているみたいな話と同じ話ですが、、、

高宮:僕もここ数年ずっと思っているのですが、分散化した小コミュニティのプラットフォームはくると思っています。今のタイミングに合った「mixiコミュニティ」アゲインはあると思っています

東:全盛期のmixiコミュニティが散らばっている感じがしますよね。でも、インフラとしてのベースがない状況ですよね。

高宮:だから今、一度mixiがくると思っています!(笑)。ツイッターで、イーロン・マスクがツイッターをダメにしたら、mixiがもう一回流行るみたいなネタが話題になりましたよね。

東:私も個人的にはプラットフォームmixiの復活、というのはあるのかなと思っています。最後に、市況も含めて、ご意見をいただいてもよろしいでしょうか?

高宮:そうですね。現在、米国を中心とした海外では、僕らが日本で感じている以上に、株式市場、スタートアップの調達環境は冷え込んでいます。海外の大手VCが、数兆円規模の10 Billion Dollerファンド化して、レイトステージへの投資が多くなったので、株式市場の好不調の影響をより直接的に受けるようになっていました。日本も含めた株式市場では世界的に、テック株のマルチプルが三分の一、四分の一に切り下がっています。日本でも株式市場の影響からは無縁ではいられないので、調達環境は冷え込みはじめています。来年はもう一段、冷え込むと思っています。米国の “Flat round is the new up-round(フラットラウンドが新時代のアップラウンド)”という世界観が日本にも波及し、ダウンラウンドも増え、ダウンラウンドでも調達できれば御の字という感じになるでしょう。そして、スタートアップの経営としては、去年や一昨年のように、金余りなのでトップライン(売上)さえ伸ばせば、調達できるから、調達したお金を燃やしてとにかくトップラインを伸ばそうというノリは通用しなくなっています。きちんとエコノミクスを合わせ、グロースと収益性のバランスをとった成長が重要となります。一方で、冷え込んだ環境だからこそ、良いスタートアップに資金が集中するという側面もあります。みんなが守りの局面になっている時に、頭一つ抜け出し、一社だけ調達でき、一社だけ攻めの体勢が取れると、さらに差を広げる大チャンスにもなります。景気のサイクルを見ると、次のネクストビッグシングスは下降局面で生まれます。来年はチャンスなので、しっかりとバランスを取りながら、経営の舵取りをすることが重要となると思います。

東:メリハリが大事ってことですね。

高宮:そうですね、成長も、収益性改善も両方、頑張れみたいな感じに聞こえてしまいますが、ここ数年金余りの環境下で成長一辺倒だったので、ちゃんとビジネスモデルが成り立つように収益性も追求しましょうという、今一度基本に立ち返るという話だと思っています。一方で、守りに入りすぎて黒字化するために、国内だけで受託で頑張りますというのもスタートアップの本分ではないので、ぜひ起業家の皆さんには、ポテンシャルが大きなテーマに取り組んで、Day1からグローバルを目指して、大振りしていただきたいと思います! 僕ら投資家側もそのような起業家には、冷え込んだ環境下でも気概をもって大型の資金を投資して、しっかりと支援していきたいと思います。

東:お忙しい中、ありがとうございました。

高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導した後、2008年9月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。2012年7月同社パートナー就任。2013年1月同社パートナーおよび最高戦略責任者(CSO)就任。2019年1月代表パートナー就任、現在に至る。東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学経営大学院MBA修了(二年次優秀賞)。

東 明宏
W fund. 代表パートナー
2012年よりグロービス・キャピタル・パートナーズにてベンチャー投資に従事。6社で社外取締役を務めた。主な投資実績としてはクリーマ(2020年IPO)、ランサーズ(2019年IPO)、 ホープ(2016年IPO)、エブリー、リノべる、アソビュー等がある。2017年Forbesが発表した「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家BEST10」で7位にランキングされる。 日本ベンチャーキャピタル協会「Most Valuable Young VC賞」、 Japan VentureAward2017「ベンチャーキャピタリスト奨励賞」等受賞。 それ以前は、グリー株式会社にてプラットフォーム事業の立ち上げ/ゲーム会社への投資、セプテーニ・ホールディングスにて子会社役員を務めた。 早稲田大学第一文学部卒/多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム修了。 旅行とスイーツが好き。少し太ってしまったので、しっかり運動もしたい。

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