_ポルトガル篇_

第四回:新たなる貿易ルート「マデイラ諸島」[大望の航路・ポルトガル篇]

地球は丸いどころか、アフリカが大陸であることすら知られておらず、西サハラが世界の最南端だと思われていた15世紀初頭のヨーロッパ。

しかし、最西の小国ポルトガルの王子エンリケは、その「世界の果て」という一般常識を疑って、その限界を超える海域へとチャレンジしていきます。ヨーロッパに領土を展開できないポルトガルが唯一生き残る道は、まだヨーロッパ諸国も見たことがない広大な新規マーケットにあると確信していたからです。

そしてこの王子エンリケのチャレンジが、ヨーロッパの歴史と文化に大きな風穴を開けることになるのです……!

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ポルトガルを世界帝国へと押し上げ大航海時代を切り開いたきっかけを作ったエンリケ航海王子の生き様を描く「大望の航路・ポルトガル篇」(全8回)、第4回をどうぞ!


▼歴史発想源「大望の航路・ポルトガル篇」〜エンリケ航海王子の章〜

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【第四回】新たなる貿易ルート「マデイラ諸島」

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■この世界の果て、ボジャドール岬

北アフリカのセウタ攻略に大きく貢献したことで、父であるポルトガル国王ジョアン1世からセウタの総責任者に任命されたエンリケ王子。

彼は自前の船団と、事業投資によって得た財貨で、あることに力を注いでいきます。

それは、大西洋沖への探検です。


セウタの先に広がる広大なアフリカ大陸の大地は、イスラム勢力のムーア人が広く支配しており、これからムーア人と真っ向勝負をしてアフリカ全土を制圧しようとすると、その征服には膨大な時間とコストが必要になります。

それならば、まだムーア人たちも進出していない西アフリカ沖を開拓していこう、とエンリケ王子は考えていました。

ムーア人たちは確かに強大な戦力を持っていますが、ポルトガルなどヨーロッパ諸国のように、近代的な航海術を持っていなかったので、海のほうまでは支配の手が及んでいなかったからです。

敵はみんな陸を押さえているのだから、こちらはその手の及んでいない海を押さえていく。

文字通り、そこはブルーオーシャンだったのです。


エンリケが目をつけていたのは、カナリア諸島です。

カナリア諸島はアフリカ大陸から約100km沖に浮かぶ、7つの島から構成される群島です。

この島々は、未発見の地というわけではなく、かなり古くから航海者や貿易事業者の間ではすでに知られた存在でした。

しかし、ヨーロッパからはかなり遠い場所にあるために、船が寄れる範囲の区域だけは知られているけれども、島の奥地には何があるのか、また島は全部でいくつあるのかといった詳しい部分はまだまだ未解明でした。

エンリケ王子はそんなカナリア諸島の調査を、船団を使って積極的に進めます。


それには、理由がありました。

当時、ヨーロッパ諸国の国民たちには、カナリア諸島こそが南の果てだと思われていました。

大航海時代以前というのは、地球は丸いことどころか、アフリカ大陸の大きさすら分かっていない時代です。

科学者など一部の学者や知識人の間では「地球は丸いのではないか」という学説はあったものの、ほとんどの一般人はこの地の果てを信じていたのです。

カナリア諸島から少し南に下ったアフリカ大陸、現在の西サハラに、ボジャドール岬という岬があります。

このボジャドール岬こそが、世界の最南端と言われていました。

というのも、このボジャドール岬の先は潮流が複雑に入り組み、ここから南へ超えた航海士の中で、これまで無事に帰ってきた者は一人として記録されていなかったのです。

そのため、当時のヨーロッパ人の間では、南に行けば行くほど暑くなるのはこのボジャドール岬の南の海が熱く煮えたぎっているからで、岬を超えた船はその灼熱の海に燃え尽くされてしまう、と一般的に考えられていたのでした。

しかし、エンリケ王子は、この当時の一般常識である「世界の果て」を疑っており、ボジャドール岬よりも南にはまだまだ広大な世界が広がっているのではないか、と信じていたのです。

岬周辺の潮流が難しいだけであって、その先を越えればさらに穏やかな海も広大な大陸も続き、無限のマーケットが見つかるものだと考えていました。

エンリケ王子の投資センスから来る嗅覚と、キリスト騎士団長の布教活動の責務から来る遠望で、そのような直感が常に頭の中にあったのです。

そのボジャドール岬以南を探検していくためには、カナリア諸島をその探検に向かうための拠点としてしっかり押さえておく必要があったということです。


そして、エンリケ王子がボジャドール岬以南の世界を強く信じることには、もう一つの根拠がありました。

それは、…

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