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2023年5月の記事一覧
「因果なアイドル」第2話「因果」
第1話はこちら
マナとのつきあいは、一筋縄ではいかなかった。野良猫を手なずける方が簡単かもしれない。
霧人は放課後、午後六時から八時まで、ビル一階の喫茶店「エタニティ」で働くことになった。ここはシューティングスターが経営しており、数名のバイトでまわしている店だ。驚いたことに店長として料理を作っているのは、谷川だった。
「ピラフ、できたぞ。三番テーブルに」
「あ、はい」霧人は慎重に料理を運んだ
「因果なアイドル」第3話「誕生日」
第2話はこちら
ショッピングモールでのミニライブでは、植田が用意した数名のバイトとともに、霧人は裏方として忙しく働くこととなった。
舞台からはマナとノゾミの歌声が聴こえてくる。これは最初にヒットした曲、ある深夜アニメの主題歌だ。霧人は見たことがなかったが。
ちらりと客席をのぞくと、意外にも大人の客が大勢いた。昔はアニメを見るのは子供かオタクかと言われていたらしいが、それも昔の話だと母から聞
「因果なアイドル」第4話「名前」
第3話はこちら
翌日、霧人は授業が終わるとすぐに学校を出て、マナとノゾミが待つ事務所に向かった。今日は事実上、バイトが休みのため、勉強をする時間は確保できると踏んでいた。
「あ、来た来た」マナがビルの前で手を振っている。
「今日はよろしくお願いします」ノゾミは頭をさげた。
「役に立てるかどうかわからないけどね……で、どこで買うの?」
「近くのショッピングモール」マナは言った。「品揃えが豊富だか
「因果なアイドル」第5話「そこまで鈍感じゃない」
第4話はこちら
放課後、霧人が喫茶店「エタニティ」にやってくると、「CLOSED」の看板がかかっていた。時間は午後六時前。閉めるにはまだ早い。
事務所へ行ってみたが、鍵がかかっていた。谷川も植田も田中も、いないようだ。
二階ではマナがひとり、ダンスの練習をしていた。
「……ノゾミは?」
霧人がたずねると、「風邪だって。今朝、疲れてるって言ってたし」とマナは言った。「疲れじゃなくて、具合が
「因果なアイドル」第6話「壁ドンに……」
第5話はこちら
土曜日は社長命令で休むように言われている。休まなければ学業に支障が出るうえ、仕事の効率もさがるとのことだ。そういうわけなので、霧人は土日曜日はぐっすりと眠ることにしていた。
だが、これまでは勉強とバイトの疲れで、ベッドに入った途端眠りこんでしまったのだが、マナのことを考えてしまうと、眠れなくなってしまった。
アイドルがマネージャー補佐を「意識」するなんておかしいだろう。人気
「因果なアイドル」第7話「暴かれた秘密」
第6話はこちら
授業終了から喫茶店でのバイトの時間まで、霧人は図書室ですごした。何とか宿題はやったものの、予習までは手がまわらなかった。テーブルに突っ伏し、目を閉じた。
昨晩は本当に眠れなかった。まさかあそこまでマナのことを意識してしまうとは思わなかった。きつく目を閉じてマナの幻を追い払うと、今度は頭の中でマナの名前がこだまするのだ。こんなことははじめてだ。
喫茶店での仕事をかろうじてミス
「因果なアイドル」第8話「記者会見」
第7話はこちら
記者会見の会場は、思った以上に広かった。芸能人の謝罪会見をTVで見たことはあったが、まさかここまで広いとは思わなかった。
TVで見た芸能リポーターがいる。カメラを持った者がいる。大勢のメディア関係者が、これから谷川たちの発する言葉を待っていた。
「大丈夫?」霧人はマナとノゾミに声をかけた。
「平気よ。別に悪いことをしたわけじゃないんだし」マナはそう言ったが、身体がかすかに震え
「因果なアイドル」第9話「渡る世間には鬼も仏もいる」 (最終話)
第8話はこちら
二次方程式がわからないと知ったときの衝撃ははかりしれない。よくそんなことで高校に入学できたものだと霧人は思った。
「丸暗記したのよ、公式とか」マナは言った。「理屈なんてわからなくても、中学の数学なんてどうにでもなる」
胸を張って言うことじゃない。
「あはは、私もそのくちでした」ノゾミが引きつりぎみの笑顔で手をあげた。
冗談だろ、と霧人は暗澹たる気分になった。中学生レベルで色