2021年から映画をしっかり見始めたやつによる2022年1月映画ランキング(新旧混在)
2021年から映画をしっかり見始めたやつが、2022年1月に鑑賞した新旧混在の映画の中から5作品を選んで発表します
前回、「2021年から映画をしっかり見始めたやつによる2021年映画ランキング」を行いましたが、それの月次バージョン(ベスト5作品)です。
では、早速発表していきます。
5位 「あのこは貴族」
めちゃくちゃ新しいバランス感覚。たまげた。
本作では、富裕と貧困、都会と田舎、男性と女性、とあらゆる「格差」が描かれる。そういう映画ってこれまでも吐いて捨てるほどあったけど、従来の作品では、格差の片方を悪者にするなりして、「対立構造を強調する」ことで格差を際立たせるという手法が多くとられてきたように思う。
しかし本作の大きな特徴として、対立構造を極端に排除している。
言い換えると、映画内で「分断」を発生させないことに徹底して腐心しているのだ。
そして、その代わりに強調されるのが、「緩やかな連帯」。
決して分断されず、緩やかな連帯により、格差を乗り越える。この「乗り越える」とは、決して「打ち克つ」ことだけを意味しない。ときには格差の存在をファクトとして認めた上で、格差を超越した連帯により格差を無効化する。
格差に対するこういった強かな対峙の仕方を見せつけられたのは、非常に新鮮だった。
その前提の上で明確に描かれる、「自分の人生は自分で選び取っていくんだ」というテーマの力強さよ。素晴らしい。
言葉以外の要素、演技や演出などで非常に雄弁にあらゆる情報・メッセージを伝えてくれる監督の手腕もお見事。
振り返ってみると、主役2人の接点が意外と少ないこと、でもその接点の深さと濃さ。ここら辺のバランス感覚もセンス!!そして、こういうちょっとした接点で人生変わっちゃうことって結構あるよな、と感じた。傑作。
4位 「花束みたいな恋をした」
本来ならあまり食指が動かないタイプの映画なんだけど、多方面から高評価を聞いたため、思い切って鑑賞。なるほど。めちゃくちゃ良いです。
これ、恋愛映画っていうよりも、「恋愛について考えさせられる映画」だった。
主演二人の演技も非常に良き。もはや自然過ぎて「演技」というか「ありよう」みたいな感じかな。
台詞も、脚本の坂元裕二の色として演劇っぽいというか、独特の言い回しなんだけど、吐く言葉の内容がとにかくリアル。普通の恋愛映画ではなかなか聞かないような、でも「あぁ、あるわ。こんな会話」と思えるような、すごく現実味のある仕上がりに感嘆しました。(「またかとは思うよまたかだから!」とか…)
ってな感じで、前半〜中盤にかけては「おお、予想より良いね!」くらいのテンションだったんだけど、ラスト、ファミレスでのシーン以降がちょっとびっくりするくらい素晴らしかった。
二人の出した結論の、「理想と現実」に誠実に向き合った結果ひねり出した感じとか、その後の、哀しくも未来に向けてしっかりと開けた感じとか。
結果して、鑑賞後の余韻がめちゃくちゃ良い感じになっております。「結局はうまくいかなかったけど、二人でいた時間はかけがえのないものだったし、それで十分じゃん。ま、明日からも頑張ってこ!」という。泣ける。
あと一点、サブカル方面で趣味がガッツリ一致して付き合うもんじゃあねえな、というのはリアルな教訓として受け止めました笑。その後の恋愛が減点法になっちゃうから、そりゃそうだよな笑
3位 「ブルーバレンタイン」
倦怠期にある夫婦が転げ落ちるように破局に向かう地獄のような時間と、彼らが過去に出会ってから結婚するまでの輝かしい時間を対比構造で見せつけてくる史上最高の鬼畜映画。
そんな映画への評価として不適切かもしれないが、本作、最初から最後までずっと面白い。当然ながら、「わー!楽しーっ!」て感じのハイテンションな面白さではないが、基本的には地味な事象が続くにも関わらず、興味がずっと持続するのだ。
それはおそらく、時制を行きつ戻りつさせて上述の対比構造を否応もなく意識させられるので、ああ、昔こんな幸せだった関係が今ではこんな感じに・・・(逆もまた然り)と、常時こちらの思考がフル活性化することによるのではないかと思う。
加齢を表現するために体型を変えたミシェル・ウィリアムズ、髪を抜いたライアン・ゴズリングの役者魂は当然凄まじいし、性まわりの描写もホント体当たり。(今まで見た映画の中で最も生々しい性交渉描写を見た気がする)
そして最後、時制の切り替わりがその速度を上げ、テンションマックスの状態で愛の「結実」と「破滅」にその動きを収斂させる演出は、まじで血も涙もない鬼畜の所業だが(褒めている)、最高に感情を揺さぶられてしまった。
今の状況や置かれている環境等によって、感情移入対象が変わって来そうな作品。個人的には、「一度女性が無理と判断した際の不可逆性」がビンッビンに描かれていて、こわ!となりました。
噂には聞いていたものの、凄まじい作品。
2位 「きっと、うまくいく」
映画史上最高にエキサイティングかつハートウォーミングな伏線回収を見た。
この映画を見る前の情報は3つ。
・Filmarksの評価が激高い(2022.2時点"4.3")
・インド映画
・長い(170分)
ということで、
うわー絶対面白いけど、インド映画見たことないし、なんか途中で歌い出したり踊り出したりするみたいだし、自分に合わなかったときに3時間弱の長さはダメージでかいなー ということで、ずっと二の足を踏んでいたもの。
この度、年1回の会社の長期休暇のタイミングで、満を持して鑑賞。
結論から言おう。前評判通り最高だった。
まず、歌と踊りのパートはそこまで多くないので、インド映画に慣れていなくても全く問題ない。むしろ、作劇上効果的なところに絞り込んで歌と踊りが配置されていると言える。
あと、長さ。これもこの映画に敬意を表するところで、テンポが良いのと登場人物の魅力、サスペンス要素による物語上の興味の持続により、真っ向から面白いので、全然長く感じない・・・って上のそれぞれの要素って「映画において大切なこと」そのものじゃんか。
ってな感じで、いやー面白いなーって観てたんだけど、終盤の伏線回収(ピアの姉の危機のくだり)とラストの大オチ(ランチョーの現在)が、ちょっと映画史上最高レベルのパンチ力で、呆然。しかも、愛と希望の塊でぶん殴って来るようなパンチなんだよな。ちょっとしばらく鳥肌が止まらなかったです。。。
ということでFilmarks高評価にも大納得。。
あとなんというか、勉強になった点として。本作、映画としての「粗」みたいなところは全然ある。例えば、学長の善悪の位置づけが本作の時系列の見せ方と馴染ませるように整理出来てない(過去パートのラストで改心してるのに、現代パートで追加で罰を与えちゃってる)とか。
でも、ここまで愛に満ちたパワーのある作品の前では、そんな粗なんかもはやどうでも良いというね。ってかむしろ、その粗も含めて可愛いのよ。愛らしいのよ。えくぼもあばた状態。
すごくベタで恥ずかしい気持ちになる締めをしますが、温かい気持ちになる映画です。私のように二の足を踏んでいる方がいれば、ぜひ。
1位 「空白」
凄まじいものを観た・・・。
本作から受け取ったテーマは大きく2つ。
「人間は本来的に「ディスコミュニケ—ト」なものだという峻厳たる事実」と「折り合いをつけるとはどういうことか」。
前者については、この映画を通してイヤというほどに語られていく。
このディスコミュニケートが生まれる要因についても多様だ。
自分の人間的な弱さ故に、人の話を聴くマインドを持ち得て来なかったことによるディスコミュニケート。自身の中に「絶対的な正義」が確立していることによるディスコミュニケ—ト。心身が摩耗し、コミュニケーションをとる気力すら持てないことによるディスコミュニケート。コミュニケーションを暴力的に拒否されることによるディスコミュニケート。
これらのディスコミュニケートが1ミリも融和することがなく、ぶつかり合い、他者を傷つけ、それが更なるディスコミュニケートを生む。
この映画が持つ重たい雰囲気は、そのような様を映画のほぼ全編を通じてひたすらに見せつけられていくことによると思う。
しかしこの映画の憎いところは、ただただその悲惨な様を見せつけるだけでは終わらないということ。
例えディスコミュニケーションであっても、何度も何度も繰り返すことにより、または、人の善意が介入することにより、火花のように、本当のコミュニケーション、いうなれば「なんとなくだが分かり合えたような気がする」という感覚が立ち現れる瞬間についても、ちゃんと描き出してくれる。
そしてその瞬間が持つ、希望に向けた一縷の光の如き尊さよ。(例えそれが幻想であったとしても)
また、後者の「折り合い」についても卓越した解(らしきもの)が示される。
「愛する人の死」のような昇華しようがないものに対して、人はどう折り合いをつけていくのか。
そう。「折り合いをつけない」のである。「折り合いをつけない」という折り合いのつけ方があるのだ。
無理に昇華しなくても良い。悲しみに目をつぶらなくても良い。ひたすらに苦しんで良い。折り合いなんかつける必要はない。そういった喪失との付き合い方もあるのだ。この映画はそれを教えてくれる。
このテーマに関して、テイラー・シェリダン監督の「ウインド・リバー」を思い出した。主人公が、娘を殺害された父親に吐いた台詞が忘れられない。
「苦しめ。苦しみ抜け。それしかない。ただし、苦しみ抜いたその先では、死んだ娘の思い出と一緒に生きていくことが出来る」
これらのテーマについて、素晴らしい役者と演技、演出により、つまり「純粋に映画的に」しっかりと腹落ちさせてくれる。
だからこそこの映画は、「悲惨な事故と、それによりかき乱される人間模様」という「具体」の話に留まることなく、「社会と人間」という普遍性の高いテーマについて描き出すことに成功しているのだ。
大枠の感想は以上。以下、各論。
吉田監督、映画的な「見せ方」が本当に巧み。
その中でも、物語の発端となる冒頭の事故のシーンよ・・・。その「温度感ゼロ」の演出により、今まで見た映画のどの事故より、圧倒的な怖さを感じた。観ていて無意識に声が漏れてしまった。
また、本作、要所要所の決めの台詞のパンチ力というか、「えぐってくる強度」が半端じゃない。「今は全てが苦しいんです。」「みんなどうやって折り合い付けてんだろうな。」最小限のワードで最大の効果。
言葉のナイフを突き立てられるだけならまだしも、その後でナイフをぐいいいいっと捻じ込まれるような切迫感がある。
凄いものを観てしまった。
なかなか引き摺りそうだ。が、これは皆が観るべき作品だ。
【おまけ:次点(6~10位)】
・プロミシング・ヤング・ウーマン
・ブックスマート
・殺人の追憶
・パーフェクトワールド
・宮本から君へ
以上です。
2月もお楽しみに。
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