見出し画像

【マンガ原作用シナリオ】『龍神様とお嫁さまっ!?』第2話

第二話

■場所(異世界・早朝/龍神の屋敷・塗籠ぬりごめ
 目覚めて飛び起きる響歌。白い着物姿で、美しい紋様が織り込まれた桜色の小袿が体に掛かっている。
響歌(えーっと。そうだ。異世界に来たんだっけ。……龍神が消されるってどういう意味なのかな)
 御帳台から出て、櫃をあけると白い下着と着物、昨日とは違う桜色の小袿と爽やかなグリーンのグラデーションの五つ衣。
響歌(緋袴はないのかな? 袴穿いたことないからいいか)

■場所(異世界・早朝/龍神の屋敷・部屋)
 着替えて塗籠から外に出ると、板張りの床の上で龍神とヨウゼンが狩衣を体に掛けて眠っている。白い瓶子へいしと酒杯、空の高坏が置かれている。

響歌(起きるの早すぎたかなー)
 ひさしの外側をめぐる濡れ縁を歩き、池の上へ伸びる釣殿つりどのを目指して歩く。

■場所(異世界・早朝/龍神の屋敷・釣殿)
 壁がなく柱だけの釣殿。板張りの廊下の下に広がる広い池には鯉や魚が泳ぐ。池の中央の岩では亀が日光浴。庭は、青々とした緑と白い花々。
響歌「……何だろ……何もしないことがツライっ……!」(スマホさえあればっ! 推しの顔が見たい!)
 拳を握りしめ、響歌は溜息を吐く。

 大きなナマズが水面から顔を出す。
ナマズ『おぬしが龍神の嫁か』
響歌「うわっ!」(何この威圧感。池の主とかじゃなくて、上位の神様かも)

 響歌、姿勢を正してナマズと向き合う。
響歌「失礼しました。私は嫁ではありません」
ナマズ『これは異なことを。……此度の新たな龍神は降格かのう』
響歌「降格とはどういうことなのか教えていただけないでしょうか?」 

ナマズ『ふむ。知らぬとな? よかろう教えてやろう。新たに神になる候補者は嫁を取ることで、その位を確定させる。嫁取りに失敗した者は神には成れず、消失する。それが降格じゃ。人で言えば死ぬということかの。もっとも魂が霧散するから死よりも恐ろしいことじゃが』
 響歌、血の気が引く。
響歌「こ、降格しない為にはどうしたらいいのですか?」(龍神の嫁になるのは無理でも、死なれたら困る!)
ナマズ『嫁ではないのに、龍神を降格させたくないと言うか。これは面白い女だ』

ナマズ『嫁を取った神は三夜を過ぎた朝に露顕ところあらわしの儀を行い、他の神々へと嫁を披露する。その際に正式な婚儀が行われているかどうかが判定される。その判定を攪乱する為にはおぬしが〝赫焉かくえんぎょく〟を持てばよい』
響歌「その玉は、どこで手に入りますか?」
ナマズ『ほほう。手に入れたいとな? ぎょくは白く清らかな花が抱いておるが、無数に咲く花の中から探し出す困難を乗り越えなければならぬ。嫁になった方が簡単であるぞ?』

響歌(無理。私は龍神のことを何も知らないし、この世界に留まる選択はできない。元の世界に帰って推しに会いたい)
ナマズ『まぁよい。おぬしの覚悟を見せてもらうとしよう』
 伸びあがったナマズの口から二センチ大の透明な玉が吐き出され、床に落ちる。

ナマズ『それは花咲く場所へと移動する鍵となる。日が落ちた後、その鍵に問うがいい。…………どうした? 何故拾わぬ?』
響歌「え、えーっと」(それって、今、口から出したよね?)

ナマズ『失礼な奴じゃな。ほれ〝隠しの紙〟をやるからそれに包め』
 呆れるナマズ。手元に白い懐紙が落ちてくる。紙の一枚で鍵を包む。

ナマズ『それに包んでおけば、鍵の存在を龍神に察知はされぬ。誰にも言うなよ。おぬし一人で〝赫焉かくえんぎょく〟を探し出せ』
響歌「はい。ありがとうございます」
ナマズ『此度の新たな龍神は、消すには惜しい良い男だ。龍の角を折らせるなよ。おぬしの気が変わることを祈っておるぞ』
 ナマズは池の中へと消え去る。

      ◆

■場所(異世界・昼から夕方)
龍神『響歌、この世界を案内しよう』
 龍神は響歌と馬に乗り屋敷の外へ。美しい花が咲く森。水晶の巨大な結晶が存在する岩場。曲がりくねった巨大な木など、異世界の風景。
 煌めく湖で宝石のように輝く夕日を二人並んで見る。
響歌(綺麗だけど……綺麗過ぎて怖い)

響歌「あ、あの……ヨウゼンさんって、何者なんですか?」
龍神『龍族で私の幼馴染だ。龍族でも龍神になれる者は限られている。正直に言えば、私が強力な霊力を授かったのはただの偶然でしかない』
響歌(龍神になりたくなかったのかな)
龍神『だが龍神になることで響歌に会えたことは嬉しいと思っている』
 優しい笑顔を見て、きゅっと響歌の胸が痛くなる

      ◆

■場所(異世界・夜/龍神の屋敷・塗籠ぬりごめ
響歌(ヨウゼンさんは出かけているのかな? 今日は静かだな)
 独りになった響歌、鍵(透明な玉)を取り出す。
響歌「教えて下さい。〝赫焉かくえんぎょく〟はどこにありますか?」
 金色の光があふれ周囲の景色が一変。

■場所(異世界・夜/花畑)
 暗い森に囲まれた花畑。チューリップに似た白い花が数百本。ほのかに光りながら揺れている。
響歌「うわー。何か似たような宝探しイベントあったなー。懐かしー」(白い花が玉を抱いていると言っていた……中にあるのかな?)

 一輪ずつ花を開いて確認。4/5を確認した所で朝の光。
響歌「あー、時間切れ―。あともう少しだし、大丈夫っしょ。課金しないとクリアできないとかじゃないから楽勝よ」
(目印にこよりを結んでおこう)
 懐紙を裂いて作ったこよりを花に結ぶと、金色の光に包まれる。

■場所(異世界・朝)
 龍神は響歌と馬に乗り屋敷の外へ。
龍神『響歌、体調は大丈夫か?』
響歌「大丈夫です」(不思議……寝ていないのに、全然眠くない)

 美しい異世界の風景を見て回る。
響歌(何だろう。龍神の隣は居心地がいい。真面目で優しくて、私を気遣ってくれて。……でもやっぱり元の世界に帰って推しに会いたい)

      ◆

■場所(異世界・夜/花畑)
 土の上に咲く白いスイレンのような花が数千本。葉の形状は全く違う。
響歌「どうして!? ……昨日と違う場所じゃない!」(あと少しだったのに……数が多くなってる)
響歌「こんな重大イベントだったなんて聞いてないっ!」
 響歌、焦りながら一つ一つの花を覗き込む。
 暗い空が明るくなりはじめ、果てしなく広がる花畑の中、響歌は絶望で膝を着く。

響歌「……どうしよう……私のせいで神様が消えるなんて……」(神様にとっては、死ぬより怖いって言ってた……)
響歌「今からでも、お嫁さんにしてってお願いしたら、間に合うかな……? でも私には推しがいる……どうしたらいいの?」
 涙は頬を転がって、花に落ちて鈴に似た音が鳴る。花畑の中、一輪の花がピンク色に光り、響歌が確認すると中央に赤い玉。
響歌「これが〝赫焉かくえんぎょく〟?」
 玉を手にすると、響歌は金色の光に包まれる。

      ◆

■場所(異世界・早朝/龍神の屋敷・塗籠ぬりごめ
 眠っている響歌を龍神が起こす。響歌は半分寝ぼけたまま。
響歌「ん……?」
龍神『起こしてすまない。……短い間だったが私に付き合ってくれてありがとう。とても楽しい時間を過ごせた』
響歌(何? 別れの言葉みたい……)
 覚醒した響歌、自らの龍の角に手を掛けていた龍神の手首を掴む。
響歌「待って。角を折るつもり? 何をするの?」(あのナマズは角を折らせるなって言ってた。一体何を意味しているの?)

龍神『……響歌は人界に戻るだけだ。安心して欲しい』
響歌「貴方はどうなるの? 私を逃がして神の位を捨てるの? そんなのダメ! ……これで何とか出来ない?」
 懐紙に包んだ赤い玉を見せると龍神が驚く。

龍神『何故、それを?』
響歌「二晩掛けて探したの。何百どころか、何千の花から探すなんてとっても大変だったんだから!」(私に黙って消えるつもりだったの? ムカつくー。)

龍神『響歌……私の為に……ありがとう』
 顔を赤くする龍神。好意があるから頑張ってくれたのかと完全誤解。
響歌「お礼は後で。儀式を乗り切ってから」
 龍神の手の中で赤い玉に金の金具と茶色の紐が付けられる。鮮やかな十二単衣を取り出して龍神に着付けを手伝ってもらう。

 荒々しく扉が開いてヨウゼンが飛び込んできた。手には三十センチくらいの金と銀の丸い実がなる赤い珊瑚の枝が握られている。
ヨウゼン『シュゼン! 〝境界の門〟を作る許可を特別に得た。これを使って人界に逃げろ!』
龍神『ヨウゼン、ありがとう。だが、逃げる必要は無さそうだ。響歌が〝赫焉かくえんぎょく〟を見つけてくれた』
 玉を見たヨウゼンは、気が抜けたように座り込む。
ヨウゼン『そうか。それはよかった……!』

龍神『ヨウゼン、ありがとう』
ヨウゼン『礼は不要だ。儀式を乗り切ってからだ』
 響歌と同じ言葉を発したヨウゼンに驚いて、響歌と龍神は顔を見合わせて笑う。

      ◆

■場所(異世界・昼/龍神の屋敷・部屋)
 寝殿で露顕ところあらわしの儀。板張りの床に分厚い畳。黒の束帯姿の龍神、紅色系十二単の響歌。お雛様風。
 響歌、龍神に小声で尋ねる。
響歌「……これ、儀式なの? 宴会にしか見えないんだけど」

 立派な黒い束帯を着た数十柱の神様たちが、御膳を前に飲み食いして笑っている。お酒を注ぎに来て祝いの言葉を告げる以外は完全に宴会。直衣姿のヨウゼンと数名の男性たちが料理や酒を手配している。

龍神『皆で笑うことで闇を払い、光を招く。門出を祝う儀式だ』
 束帯姿の龍神の凛々しさに響歌の顔が赤くなる。
響歌(カッコイイ……はっ、ダメダメ。私は推し一筋の女なんだから! この儀式を乗り切って元の世界に帰るだけ)

 酔った一柱の神様がふらりと二人の前に立つ。
神「……おや? 龍神、嫁御は何か隠しておらぬか?」
響歌(まさか……バレた!?)

第三話へ続く

第一話はこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?