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【マンガ原作用シナリオ】『龍神様とお嫁さまっ!?』第3話

第三話

■場所(異世界・夕方/龍神の屋敷・部屋)
龍神「何も隠しておりません」
神「そうは思えぬ。我らを謀るつもりか?」
 龍神は響歌の肩を抱き、神は目を細め首を傾げ緊張感が増す。現れた銀髪の美形の神が、疑う神の肩を抱いて酒を勧める。

神「貴方様は……な、何を……お、おまちくだされ」
銀髪の神「おぬし、飲み足りないのではないか? ほら飲め。はよ飲め」
響歌(あれ? この声……ナマズの神様?)
 連れ去られた神、酔いつぶされる。
 他の神が楽器を取り出し合奏を始め、庭の中央に舞台を出現。流れる雅楽に合わせて踊り出す。にぎやかに笑う神々。
響歌(全然わからないけど、楽しい!) 

■場所(異世界・夕方/龍神の屋敷・部屋)
 神様たちが帰っていくのを見送ると深夜。
響歌「バレたんじゃないかって焦ったー」(あの神様に感謝しなきゃ)
龍神『その玉が無かったら……今、私はここに存在していない。本当にありがとう』
 そっと手を握られて、響歌の顔が赤くなっていく。

龍神『響歌……』
 龍神が言葉を続けようとしたとき、どかどかと走ってくる足音。二人同時に手を離して距離を取る。
ヨウゼン『シュゼン! 片付けもすべて完了したぞ…………どうした?』
響歌「な、何でもない、何でもない! あ、あの、お疲れさまでしたっ!」

      ◆

■場所(異世界・昼/木々に囲まれた白い彼岸花に似た花畑)
 最初に出会った花畑の中で向かい合う二人。
響歌「……シュゼン……」
龍神『初めて名を呼んでくれたな』
 龍神、寂しそうに笑う。
響歌「……これを受け取って欲しいの」
 〝赫焉かくえんぎょく〟を差し出す。

響歌「ごめんなさい。私、やっぱりシュゼンの嫁にはなれないの。料理とか洗濯とか、自分のことを何もしなくていい生活って向いてないってわかった。ネットも繋がらないし。……やっぱり私は推しを忘れることなんてできない。私は元の世界に戻るから、新しいお嫁さんを探して」
龍神『……そうか。……だが私は、響歌を忘れることはできない。響歌がただ一人の嫁だ』
響歌「ありがとう。さようなら」(やっと! 推しに会える!)
 微笑む響歌、ほっとして涙が零れる。驚く龍神。白い光に包まれて消える。

      ◆ 

■場所(現代日本/響歌の部屋・ワンルームマンション)
 不思議な五日間から一週間後。可愛らしい部屋着でベッドに転がる響歌。
響歌「さーって、今日も推しに課金よ、課金」(ボーナスも入ったしー)
 スマホには、着物系新衣装が出るという予告画面。

響歌「浴衣かな? それとも普通に着物かなー。どっちでもカッコイイよねー」
 響歌、狩衣姿の龍神を思い出す。
響歌(……神様と結婚するなんて無理だし、便利なこの世界から不便な神界に移住するのもねー)

 アプリを起動させるとゲームのタイトル読み込み状態で表示が停止。
響歌「え? 繋がらない? イベント前なのにサバ落ち? どんだけ人気なのよ……」(こういう時は検索検索ー)
 ベッドの上で飛び起きる響歌。
響歌「ゲーム会社の社長が失踪っ? 借金の差し押さえでサービス終了!?」
響歌「う、嘘でしょ……私の画像庫ライブラリは……? 千枚以上あったのにっ!」
 響歌、呆然とスマホを見つめる。

      ◆

■場所(現代日本/響歌が住むマンション)
 通勤着でふらふらと力なく歩きつつ、溜息を吐く響歌。
響歌(ゲームがサービス終了して一カ月。ゲーム仲間の多くは、別のゲームへ移っていた。手元に残ったのは待ち受け画面と数十枚のスクショ、アクスタとアクキーだけ)

 マンション前に引越屋の車。畳んだ段ボール箱を抱えた作業員二人が隣の部屋へ頭を下げている。
引越屋「ありがとうございましたー!」
隣人「ありがとう」
響歌(シュゼンの声? 推しがいない寂しさで耳もおかしくなってるのかな)
 部屋の鍵を取り出した時に隣の扉が再び開く。出てきたのは龍神。
響歌「……シュゼン?」
龍神「ああ。覚えていてくれたか」
 龍神の黒髪は短く角は無し。白いサマーニットに黒のジーンズ。黒い革のスニーカー。瞳は黒。手にはコンビニ袋。

響歌「ど、どうして?」
龍神「響歌がこちらに来れないのなら、私がこの世界に住めばいい。これを」
 龍神から響歌に手渡されたコンビニ袋には、即席のカップそばが二つ。

龍神「両隣には、引っ越しそばを配るのが常識だと書いてあった」
 最新機種のスマホを見せながら、きらきらと輝くような瞳の龍神に困惑する響歌。
響歌「引っ越し? ……龍神様って、何か大事なお仕事があったりするんでしょ?」

龍神「大丈夫だ。この部屋に〝境界の門〟を作った」
響歌「は?」

■場所(現代日本/シュゼンの部屋)
 龍神の部屋には真新しい家具が並んでいて最新機種のパソコンが置かれ、巨大モニタが壁一面に取り付けられている。
響歌「門って、どこ?」
龍神「このモニタだ。パソコンを起動すると繋がる仕組みだ。これで行き来するから、休息の時間はこの部屋で響歌と過ごせる」
 龍神が指さす百インチのモニタ。縦は一メートル、横は二メートル以上。

龍神「私がこの世界で暮らすのは問題ない。響歌の言っていた問題はこれで片付いた」
 響歌の血の気が引く。
響歌「……待ってシュゼン。まさか私の推しのゲームがサービス終了したのって……何か操作したの?」(……私の推しを消し去ったのなら絶対に許せない)

龍神「私は響歌の推しに何もしていない。この世界へ引っ越す準備で手一杯だった」
響歌「……信じたいけど、正直に言うと信じられない」 
龍神「信じてはもらえないのか?」
響歌(シュゼンに再会できて嬉しいとは思っていても、たった五日間一緒に過ごしただけ。学生時代から六年間毎日一緒だった推しとは比較にならない。例え二次元の画像と音声のデータだけの存在でも、推しは私の人生の一部)

龍神「どうすれば証明できるのか………」
 眉をひそめて哀しそうな表情の龍神。扉が勢いよく開く。

ヨウゼン「メシ買ってきたぞー」
 大きなピザの箱六つとビニール袋を提げて入って来たのはヨウゼン。白のTシャツにモスグリーンのシャツを羽織り、迷彩柄のカーゴパンツにブーツという出で立ち。短い髪はオレンジ色、角は無し。目は黒。

ヨウゼン「……お? シュゼン、もう嫁を招いたのか。……どうした。二人で深刻な顔をして」
龍神「……それが……」
響歌「私の推しのゲームが突然終了したの」

ヨウゼン「あー、それでシュゼンを疑ってるってことか。何か手を回すような暇はなかったぞ。そもそも、俺はその推しとやらの名前も姿も知らないんだが、シュゼンには言ってたのか?」
響歌(そう言われればそうだった。私は推しがいるとは言っただけ)

響歌「疑ってごめんなさい……あまりにもショックだったから……」
龍神「推しの替わりにはなれないが、これからは私がそばにいる」
 罪悪感で項垂れる響歌の手を龍神が握りしめる。顔が赤くなる響歌。

ヨウゼン「おーい。ピザが冷めるぞー。感動の再会は食ってからにしてくれ」
 ヨウゼンのからかうような声で我に返る二人。慌てて距離を取る。
ヨウゼン「お前も一緒に食うか? 四枚買ったら二枚タダで付いてきた」
 テーブルの上には、三十センチのピザが六枚、箱に入ったフライドポテトにコールスロー。大量の缶ビール。

響歌「いただきまーす」
 フライドポテトを摘まんで口にする響歌。ヨウゼンがまだ開けていないポテトの箱に手を伸ばそうとして、響歌が食べていた箱のポテトを勧める。
響歌「あ、これどうぞー」
ヨウゼン「ば、馬鹿っ、お前……」
 ヨウゼンの顔が真っ赤に染まり、シュゼンの顔が青ざめる。

響歌「どうしたの? 私、何か変なことした?」
ヨウゼン「……女が食べている物を男に分け与えるのは求婚の意味がある。相手の男が食い、男が持っている食べ物を女が食べれば、それで婚姻成立だ。お前、重婚するつもりか?」

 出会いの場面(スイカと餅交換)を思い出した響歌、ざーっと血の気が引いていく。
響歌「えええええええ! ちょ、ちょっと待って! それって……私、本当にシュゼンと結婚しちゃってるってこと? む、無効に出来ないのっ?」
ヨウゼン「知らなかったのか? ……無理だな」
 ヨウゼンがからかうような笑顔。

 青ざめたままのシュゼンが混乱する響歌を抱き寄せる。
龍神「響歌の推しの存在は認めるが、私以外に夫は持たないでくれ!」
響歌(ちょっと待って欲しい。求婚のつもりは一切なかった)

響歌「えいっ!」
 あご下を狙って、思いっきり頭を上げる響歌。
龍神「……っ!」
 クリティカルヒットで悶絶する龍神、響歌は腕の中から抜け出て距離を取る。

響歌「神界ではそうかもしれないけど、こっちの世界では違うから! 常識が違うのよ!」
龍神「それでは、私にこちらの常識を教えて欲しい。私も勉強する」
 期待に満ちた眼差しの龍神が握りしめている分厚い雑誌。表紙はウェディングドレス姿の女性。

響歌「な、何で結婚情報誌なんて持ってるのよっ!?」
龍神「コンビニで購入した。婚姻届が付録とは便利な本だ」
 きらきらとした婚姻届を持って龍神が笑う。

響歌「この世界に戸籍はないでしょ? どうやって届を出すのよ」
龍神「戸籍は作った。運転免許も取得した。私の誕生日は響歌と初めて会った日と決めた。……こちら風で言うなら、結婚記念日だな」
 微かに頬を赤らめてはにかむ龍神の表情を見て、響歌も顔を赤くする。
響歌(わ、私より乙女っぽいっ?)

響歌「私は結婚を承諾した訳じゃないから! 私には推しがいるの!」
龍神「響歌が推しを想っていても構わない。だからこの世界でも結婚して欲しい」
 龍神の手に先程とは違う婚姻届。

響歌「無理無理無理ー! とりあえず、今はピザ!」
 ピザにかじりつく響歌。
響歌(龍神様がお隣さんなんて、これからどうなるのー!?)


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