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【マンガ原作用シナリオ】『龍神様とお嫁さまっ!?』第1話

■あらすじ
 推しキャラ一筋、スマホゲームに課金する普通の会社員である大日野響歌は、ある日自分が龍神の許嫁だと祖母に知らされる。推しがいると断ると、自分で断ってこいと異世界へと飛ばされた。
 初めて会った龍神は狩衣が似合う超好みの美形の青年。五日後に人界に戻るまで龍神の屋敷で過ごしていた響歌は、自分と龍神の婚儀が神々に認められなければ龍神が消えてしまうと知り、龍神を救う為に〝赫焉の玉かくえんのぎょく〟を手に入れる。無事に偽の婚儀を終わらせた響歌は龍神と別れて元の世界へと戻る。
 ある日突然、隣の部屋に龍神が引っ越してきた。実は異世界で婚姻は成立しており、龍神は結婚情報誌と婚姻届を握りしめ、この世界でも結婚して欲しいと響歌に迫る。

第一話

■場所(現代日本・真夏/田舎の家の縁側)
響歌「龍神様の嫁? 誰が?」
 ピンクのタンクトップにデニムのショートパンツ姿の響歌、胡坐で冷えたスイカにかぶりつく。山の中にある実家の周囲は一面の田畑。父母と兄が農業を営みながら、祖父母と大きな日本家屋に住んでいる。

祖母「お前じゃ、響歌。昔からお前は龍神様の許嫁じゃと言うておっただろう?」
 祖母は着物姿で正座。熱い緑茶を飲んでいる。
響歌「無理無理。私には推しがいるから。結婚するなら推しと決めてるの。あー、二次元と結婚できる法律できないかなー」
 スマホ配信ゲームのキャラが大事な推し。学生時代からハマっている。

祖母「推しとは何じゃ? またマンガの登場人物か?」
響歌「ゲームの登場人物よ」
 響歌、スマホで推しキャラを祖母に見せる。祖母は老眼鏡を掛け、スマホを受け取る。

祖母「これはまた派手な男だのう。地味な男が好みではなかったのか?」
響歌「突然どうしたの? 今まで何も言わなかったじゃない」
 響歌が口を尖らせて抗議する。祖母は神棚から和紙の包みを取り出す。中は折り畳まれた手紙。 

祖母「手紙を頂いた。新しい龍神様が生まれたそうじゃ。嫁取りを望んでおられる」
響歌「嫌です。お断りします」
祖母「それなら、自分で直接断ってくるんじゃな」
 微笑む祖母が持つじゃばらに折られた手紙がぱらぱらと音を立てて伸び、響歌の周囲を取り囲む。

響歌「何これ?」
祖母「行っておいで」
 祖母が手を叩き、響歌は七色の光に包まれる。

      ◆

■場所(異世界(神界・夏)・木々に囲まれた白い彼岸花に似た花畑)
 食べかけのスイカを持って胡坐をかいた響歌の前に立つ龍神は白の狩衣を着た美形。長い黒髪に金色の龍の角。赤い瞳で背が高い。
龍神『君が私の嫁か』
 淡く微笑む龍神にどきりとする響歌。
響歌「違います」(カッコイイ……いやいや。浮気はダメダメ。私は推し一筋の女!)

 胡座を解き、両手でスイカを持ったまま立ち上がろうとして転びそうな響歌を龍神が支え、手から落ちかけたスイカを龍神が受け取る。龍神がぱちりと指を鳴らし真っ白な縁台が現れる。
龍神『ここに座って食べるといい』
響歌「あ、ありがとうございます……」(ううっ。食べにくいなー)
 隣で座る龍神は静かで優しい笑顔。
響歌「……た、食べ掛けですけど……食べます?」(非常識だけど一切れしかないし)
龍神『良いのか? それでは頂こう』
 龍神はとても嬉しいという顔をして、スイカを受け取って一口かじると種が消える。
響歌「も、もし、良かったら全部どうぞ」(あれ、種が消えた……)
 龍神は残っていた赤い部分を食べきり、皮は白い光に包まれて消える。

龍神『私からは、こちらの餅を』
 龍神の手には白い三方。和紙の上に一口大の丸い餅が三つ。
響歌「え……いえ、そんなつもりでは……」(食べ掛けのスイカを勧めただけなのに)
龍神『どうか受け取って欲しい』
 一つを食べる響歌。
響歌「とっても美味しいです」
龍神『それは良かった。どうか全て食べてもらえないだろうか』
 残り二つも食べる響歌。

龍神『私はシュゼン』
響歌「わ、私は響歌です」
 並んで座る縁台の周囲で、白い彼岸花が風もないのに揺れている光景が幻想的。

龍神『少々変則的ではあったが、これで婚姻……』
響歌「あああああああああ! スマホ返してもらってないっ!」
 祖母に渡したままと気が付いて、頭を抱えて絶叫する響歌。
龍神『すまほとは?』
響歌「えーっと……遠方の人と会話をしたり、いろんなことを調べたり、写真が撮れる便利な道具です」

響歌(そうだ。嫁入りを断りに来たんだった! 早く帰ろう)
響歌「あ、あの……実は結婚をお断りに来たのですが」
龍神『断る? …………何故?』
響歌「私には推しが……好きな人がいます。今時、他人が決めた相手といきなり結婚するのは無理があると思います」
 緊張しながら答える響歌。龍神は目を見開いて静かな驚き顔。

龍神『……そ、その……だな……。想い人とは婚姻しているのか?』
響歌「いいえ。二次元なので今は結婚できません。でも、そのうち法律が出来たら結婚できるかも。というか、今でも結婚できるなら結婚してます」
龍神『……そうか……』
響歌「わかって下さって、ありがとうございます。あの……家に戻りたいのですが、どうやって帰ればいいのでしょうか」
 しょんぼりした龍神に心が痛む響歌。
響歌(これだけの美形なら引く手あまたのはず。平凡な私が嫁にならなくても大丈夫)

龍神『元の世界に戻るには、五日後〝境界の門〟が開くまで待たなければならない。それまでは、私と共に過ごしてもらえないだろうか』
響歌「え……五日後? あ、あの……スマホだけでも取り寄せたりとかできないですか?」

龍神『すまない。今は難しい。〝境界の門〟が開けば取り寄せることも出来るが……』
響歌「あ、別にいいです。こちらこそ、無理を言ってすいません」(ゲームのイベントは一週間後だし、五日間ならスマホ無しでも何とか生きていけるはず!)

龍神『ひとまず私の屋敷へと案内しよう』
 微笑んだ龍神が、響歌を横抱きにする。ふわりと浮遊感。龍神は空を飛んでいた。
響歌「う……ぎゃああああああ!」
 龍神の狩衣を握りしめ、絶叫する響歌。

      ◆

■場所(異世界・昼/龍神の屋敷・森の中、白い土塀に囲まれた白い寝殿造・庭には広い池)
 人工物はテクスチャの貼られていない立体画像のようで、色も質感も無い。森の木や地面、池など自然物には色がある。
 龍神は屋敷の中央、庭にふわりと降り立つ。正面には主屋である寝殿に昇るきざはし。 
龍神『響歌、大丈夫か?』
響歌「な、何とか……だ、大丈夫……です」(変な叫び声上げちゃったなぁ……恥ずかしー)

龍神『ここが私の屋敷だ。響歌、もしよければ屋敷に色を付けてくれないか? 手で触れて、色や素材を思い浮かべてくれれば、色が付く』
響歌「色を付ける? 私が勝手に色を付けてもいいのですか?」
龍神『ああ。私にはできないから、お願いしたい。気に入らなければ何度でも変えられる』
響歌「それならやりますっ!」

 寝殿の中へと入ると、すべてが白い。響歌は目の前の柱に手を添える。
響歌「えーっと、柱とか天井、床も白木がいいかな。新築のヒノキの色! あ、床はもう少し濃い方がいいかな。磨いた艶が欲しい」
 柱や天井、望んだ場所がヒノキへと魔法のように変化する。

響歌「寝殿造だったら、屋根はやっぱ檜皮葺ひわだぶき! 土壁は白の漆喰。しとみは格子が黒で板は白。御簾は竹で……こちらの今の季節は何でしょうか?」
 屋敷の外に見える空は、夏の青とは違う水色。ぎらぎらと眩しかったはずの太陽も、落ち着いた優しい光で空気を温めている。
龍神『人界と同じで、今は夏だ』
響歌「わかりました。じゃあ、清涼感重視で!」

 屋敷の中を龍神と話しつつ、色付けていく。
響歌「出来た!」
 真新しい寝殿造りの屋敷は、落ち着いた色でありながらも爽やかな雰囲気に包まれた。庭園の緑は鮮やかになり、池の上に伸びた釣殿の姿が水面に映っている。
 まさしく色鮮やかな絵巻物の世界。

龍神『ありがとう、響歌。とても素晴らしい景色になった』
響歌「どういたしまして。とーっても楽しかったです」

龍神『私が着ている装束の色も付けてもらえないか?』
 向き合って見つめあう二人。
響歌「……薄雲をまとった春の空の色。淡い淡い青緑。青白磁色」
 狩衣が淡く色付いていく。龍神の印象がさらに優しい雰囲気に変化。
響歌「単は緑青。……紅梅とか赤系も綺麗かも。でもやっぱり緑青。……袴は杜若かきつばたかなって思いますが、初夏の花なんですよね。桔梗は秋だし、藤は薄すぎ……シンプルに紫色っ」
 全体的にぼんやりとしていた輪郭が引き締まる。龍神の涼やかな凛々しさが際立つ。

響歌(……超カッコいい……)
 二人で見つめ合い、無言で流れる微妙な空気の中で大声が響き渡る。
ヨウゼン『シュゼン! 何故、屋敷に色が付いたっ? まさか降格かっ?』
 渡殿わたどのを走ってくる男。深緑色の狩衣姿でオレンジ色の短髪に茶色で短い龍の角・日に焼けた肌の色に緑の瞳。龍神と背丈は変わらないが筋肉質で牙のような八重歯が見える。
 龍神の姿を見てヨウゼンが驚く。
ヨウゼン『……お前……その色は……まさか〝誓色せいしき〟を終えたのか?』
龍神『ああ。今、終えた所だ』
  
ヨウゼン『……それが許嫁候補か?』
龍神『紹介しよう、妻の響歌だ』
響歌「違います! 妻じゃありません! あの、せいしきって何ですか?」(彩色さいしきの聞き間違い?)

ヨウゼン『シュゼン、まさかお前、説明もせずに〝誓色〟をさせたのか? ……説明なしで出来るものなのか?』
 ヨウゼンが響歌を睨み、龍神が響歌を背に隠す。

ヨウゼン『……〝誓色〟とは〝誓約の彩色〟のことだ。新たに神の資格を得た者は、自分の体以外の所持品すべての色を失う。嫁を娶り、その嫁が色を与えることで神の位が確定する。……嫁取りに失敗した場合は降格になって、神ではなくなる』
響歌『ヨウゼン、響歌が怯えるから感情を抑えてくれ』
 龍神が振り返り、響歌の肩を袖で優しく包む。

ヨウゼン『まぁいい。それにしても、その装束は何とかならんか? 客人に見せられんぞ』
龍神『可愛らしいと思うが』
響歌(やっぱりこの服は場違いかな?)
ヨウゼン『肌を見せすぎだ。うちきくらい羽織らせろ。その女はわかってるようだからひつから取り出させればいい』

■場所(異世界・午後/龍神の屋敷・塗籠ぬりごめ
 周囲は白い壁で灯りはないのに明るくて、天蓋が付いた御帳台が中央に設置されている寝室。置かれた黒い漆塗りの櫃をヨウゼンが指さす。
ヨウゼン『女、自分の袿を取り出せ。想像すれば、櫃の中に現れる』
響歌「……はい」
 ぼんやりとイメージしてから響歌がフタを開ける。中には、紋様が織り込まれた桜色の小袿と、桜色から赤のグラデーションになった五つ衣。袿五枚がすでに重ねられた状態で畳まれていた。

 ヨウゼンと龍神が驚く。
ヨウゼン『……お前……! 初めて櫃を使ったよな?』
響歌「初めてです」(うわー。シルクかな? 柔らかいし軽い)
 龍神に手渡すと、微笑みながら響歌に着せかける。
響歌「あ、ありがとうございます」
 タンクトップとデニムのショートパンツの上に五つ衣と小袿を重ねた格好。

■場所(異世界・夕方/龍神の屋敷)
 塗籠から出ると、空は夕焼け色。誰もいないのに、ぱたぱたと軽やかな音を立てながら蔀戸しとみどが降ろされていく。
 しゅるりと音が響いて巻き上げられていた御簾が下がる、寝殿正面の場所だけは庭の池が見えるようにと開かれている。庭には黒い鉄製のカゴに炎が激しく燃え盛る。

 板張りの床に円座が現れ、龍神と響歌が並んで座り、龍神と対する場所にヨウゼンが座る。ヨウゼンが手を叩くと、目の前に料理の皿が載せられた脚付きの御膳や果物満載の高坏たかつき、白い瓶子へいしが現れた。

 ヨウゼンが酒杯を龍神と響歌に手渡し、瓶子からお酒を注ぐ。ヨウゼンは自分でお酒を注ぐ。
ヨウゼン『何にせよ、シュゼンが龍神になったのはめでたい話だ。従者の俺も鼻が高い』
響歌(従者? ヨウゼンは神様ではないのかな)

 お酒はすっきりとした味わい。山盛りの白ご飯に、塩の皿、大きな焼き鯛や蒸しアワビ、山菜の煮物等々。赤いイチゴがたっぷり使われたショートケーキが白いお皿に乗っている。教科書で見た平安時代の食事より、随分現代的な雰囲気。

龍神『この料理は人々が供えてくれる物だ』
響歌「お供え物がこの世界に届くんですか?」
龍神『この世界に届くのは、料理や材料の〝気〟だけだ。だから元の世界に形は残っている』

響歌「いただきます」
 長い箸を使って山菜を口にする。
響歌(え、とっても美味しい!)
龍神『供え物と同時に伝わる人々の感謝の祈りが、食物の気を味わい深く美味しくしてくれる』
響歌(もしも感謝がなければ不味い物になってしまうのかな?)

 優しい龍神と響歌とうちとけたヨウゼンで食事とお酒を楽しみ、白い月が輝く夜が更けていく。

      ◆

■場所(異世界・夜/龍神の屋敷・塗籠ぬりごめ
 白い着物を着た響歌、龍神に塗籠の御帳台へと導かれる。緊張する響歌に龍神は微笑む。
龍神『私は外で眠るから安心していい。おやすみ』
響歌「おやすみなさい」(紳士的でカッコいいー。元の世界に戻るまであと四日。安心して過ごせそう)
 龍神は塗籠から出て行く。響歌は置き畳の上に敷かれた布の上に寝ころび、着ていた小袿が掛布団替わり。

ヨウゼン『シュゼン? どうした? 何故寝所に入らない?』
 響歌が目を閉じると、塗籠の外からヨウゼンの声が微かに聞こえてくる。
龍神『響歌には想い人がいるそうだ』
ヨウゼン『あ? お前、何でそんな女と婚姻したんだ? 断って新しい女を待てばよかっただろう?』
龍神『……一目で響歌の魂の輝きに心を奪われた。推しが好きだと語る瞳の美しさに惚れてしまった。あの輝きは、推しを想う心が磨き上げたものだろう』
 龍神の寂しそうな声と言葉に響歌の胸が高鳴る。

龍神『……私は響歌から色彩を受け取り、神になって多次元を行き来する存在にはなれたが、響歌の推しにはなれない。無力さが口惜しいな……推しに替わることはできないと覚悟はしたが、どうすれば多少なりとも好意を持ってもらえるのか考え続けている』
ヨウゼン『だから共寝をしないということか。露顕ところあらわしの儀はどう切り抜ける? 神々には正式な嫁取りでないことがバレるぞ』
龍神『そうだな。……万が一の時には、響歌だけでも人界へ返す』
ヨウゼン『お前っ! ……神の位を捨てるつもりか? 消されてしまうぞ!』
響歌(消される? それは一体、どういうこと?)
 声を聞きながら、響歌は眠りへと落ちる。

第二話に続く


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