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遠くへ行きたい米津玄師の乗り物は?

「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第28章>

*プロローグと第1章〜27章は下記マガジンでご覧ください。↓

 物理的に「どこにも行けない」このご時世、「どこでもいいから遠くへ行きたいんだ それだけなんだ(loser)」という気持ちは募る一方だ。

 「遠くへ行け」は米津玄師のフィロソフィーであり指針であるが、その移動手段は何だろうか?歌詞の中では歩いたり走ったり飛んで、彼の地を目指すことも多い米津だが、今回は「乗り物」にフォーカスして分析してみた。

船が多いのは港町育ちだから?

 米津が生まれ育った徳島市には5つの港があり、幼少の頃から船をよく見ていたのではないだろうか?「船」という言葉が5曲で使用されており、「航海」「舵取れ」「座礁」「セントエルモ」「ようそろ」など船舶関連の言葉も散見される。

 2曲で使用している「ようそろ(ようそろう・よーそろ)」とは、船を直進させる、または”現状の方向でよし”とする際に発する号令のことだ。自動車や電車で言う「オーライ」に近いものだと思う。

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 2019年のライブMCでは「自分のことを海を渡る大きな船だとするならば、その船から誰も落としたくない」と語っている。

 さらに同年のインタビューで「自分は船頭ではなく祀られている(略)ただの御神体でしかない(略)身の周りにいろんな人がいて、彼らが一生懸命船を漕いでくれないと話が進まない。」(ナタリーより)と謙遜する。他者との共同作業に踏み出したばかりの2013年初頭「呉越同舟、よーそろー」とツイートしていた頃からの大きな心情変化が窺える。

 いずれにせよ自身の活動を船に喩えており、「船」が米津にとって重要なモチーフであることは間違いないだろう。ちなみに「米」の「津」とは「港」と言う意味である。

 しかし、彼の歌詞に「港」と言う言葉は1回も使用されていない。

自動車は無免許ゆえの危険運転w

 米津玄師は2017年に「車運転したいよね〜」とツイートしているが、公式ブログによると2019年4月時点で運転免許を持っていない。そのせいか車を運転している描写はわずか2つしかなく、比喩とは言えどちらもなかなかの危険運転だw

獣道 ボロ車でゴーゴーゴー ねえどうしよ? ここどこでしょ?
ハンドルを手放してもういっちょ アクセルを踏み込もう
(でしょましょ )
ちょっと変にハイになって 吹かし込んだ四輪車
(感電)

 米津が昨年9月のインスタライブで「かっこいい」と言っていたデロリアンとは映画Back to the futureに登場するガルウィングの車種名である。晴れて免許証取得の際には安全運転をお願いしたい。

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 自動車は他にバスとトラックが2回ずつ、タクシーが1回登場している。

複数の乗り物に乗る「灰色と青」と「fogbound」

 「灰色と青」では、1人は”明け方の電車”に乗り、もう1人は”タクシーにぼんやりと背負われ”ながら、”ひしゃげて曲がったあの自転車で走り回った”あの頃を思い出している。この3種の乗り物に長閑な青春の郷愁と都会暮らしの寂寥が交錯する見事な歌詞だ。

「fogbound」とは”濃霧で立ち往生した”と言う意味である。これがツアータイトルでもあったことはいかにも意味深だが、本人曰く、たまたまタイトルを決めるタイミングで「fogbound」を制作中だっただけと答えている。

 この曲には7種の船舶関連語の他に、「サンデードライバー・パンク・タイヤ」と車関連の言葉も使用されている。

見失ったポラリス 航海の途中/
ようそろう 向かうのはホロウ/
お守り賜う セントエルモ/
悲しみで漕ぐ救えないビリーバー/
パンクして呆然 割れたタイヤが笑える/
トレモロの響き 座礁の途中/
ナイトクルージングなんていいもんじゃない/
痣だらけ頼りないサンデードライバー

 「ナイトクルージング」は船でも車でも使える言葉ではあるが、そもそもこの曲に登場する乗り物は全て”立ち行かなくなったこと”の比喩であり、立ち往生するのは船だろうと車だろうと何でもよかったのかもしれない。

鉄道は「列車」「電車」「地下鉄」

 鉄道関連は列車が2回、電車と地下鉄が各1回ずつ使用されている。列車と電車の違いは、大きなくくりとして”列車”があり、その中で電気を動力とするものを”電車”と呼ぶそうだ。ただ、単純に大都市圏では”電車”、地方では”列車”と言うこともあるらしい。

 以前、米津がラジオか何かで、地元の鉄道はボタンでドアを開け閉めする”列車”なのだと言っていた。

 そのせいか「打ち上げ花火」の”最終列車の音”と言う歌詞だけで、東京や大阪ではない、どこか田舎の静かな海辺が思い浮かぶ。また、”夜の底へ行く列車に乗りましょう”と歌う「あめふり婦人」も、dioramaの中を走る列車の仄暗いライトが見えるようだ。

 一方で、都会の喧騒と酔狂を歌った「アリス」で、”計画もなく息巻いて飛び込んだ”のはメトロである。同じ鉄道でも列車とメトロでは全く情景が異なる、精緻な言葉選びが為せる技だ。

空飛ぶ乗り物のいろいろ

 空を飛ぶ乗り物は多々あれど、米津が使用しているのは「飛行機・気球・ハングライダー・エンデバー」の4種。新曲「ゆめうつつ」では「宇宙船」も登場(今回はデータ外)する。

 しかし、そのどれにも人が乗っていると言う描写はなく、飛んでいくのを見ているだけだ。

 米津はツアーなどで飛行機に乗る機会は多そうだが、海外渡航の情報は少ない。

「MIKUNOPOLIS in LOS ANGELES」のためにLAに行ったのが2011年。

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あとは、2019年に「脊椎がオパールになる頃」のツアーで上海と台湾に行ったくらいしか確認できていない。もちろん、お忍びであちこちに渡航しているのかもしれないが。

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 できることなら彼には世界を旅して、人生観がひっくり返るような絶景や、胸が掻き毟られるような歴史の瘢痕や、日本にいたら絶対遭遇しないであろう人々の営みを、その豊かな五感に吸収し音楽に還元してもらいたい。

 精神だけでなく、肉体ごと”遠くへ行く”ことによってしか得られないものが旅にはあるのだから。

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<Appendix>

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