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米津玄師のスタミナ曲とゾンビ曲の底力

 ヒット曲には、瞬発的に売れる「スプリント型」と、ジワジワと売れ続ける「スタミナ型」がある。さらに、ヒットチャートから消えても何度も復活する「ゾンビ型」の曲もある。

 この型の名前は筆者が今思いついたテキトーなものだが、この記事内では堂々と使わせていただく。

アイドルに多い「スプリント型」

 「スプリント型」はアイドルの楽曲に多い。この10年間で100万枚以上売れているシングルCDは58曲しかないのだが、そのほぼ全てがアイドル勢で、中でもAKB関連は群を抜いている。

ミリオン以上認定曲の構成比
(2011年〜2020年)
 AKB48          67.2%
 乃木坂46         19.0%
 櫻坂46         5.2% 
    SMAP           1.7%
 SixTONES /Snow Man 3.4%
 嵐            1.7%
    BTS            1.7%
(一般社団法人日本レコード協会調べ)

 これは所謂「AKB商法」の為せる技で、その瞬発力は凄まじいもののCDセールス以外の指標が弱いため持久力はまるでない。

 AKB48の「サステナブル」は初登場でいきなり1位を獲得し、ダブルミリオン=200万枚を売上げ、たった2週でBIllboard Japan総合チャートから姿を消した典型的なスプリント型だ。

 Snowmanの「Kissin' my lips」も、CDでリリース直後にミリオンを達成し、わずか2ヶ月でTOP100から消えている。

 米津にはこうしたスプリント型の楽曲はないが、主要曲の中でリリース後、最も早くチャート落ちしたのは「アイネクライネ」で、リリース後わずか5週(35日)でランク外となってしまった。

 しかし、「アイネクライネ」はここで力尽きたわけではなかったのだ。

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米津玄師のロングヒット曲を集計分析してみた

 この記事ではBillboard Japanの総合チャートと日本レコード協会のデータを元に、米津玄師のヒット曲の”持久力”に焦点を当てて分析、考察してみたいと思う。

ランクイン率=リリース後から集計日(2021/9/29)までの期間中、当該曲がチャートインしていた割合。
*分析対象はBillboard Japan Chart Insightに掲載される「総合チャート20位以内にランクインしたことのある曲」のみ。

驚異的な持久力のLemonに迫るのは?

 つい先日、MVの再生回数が7億回を超えた「Lemon」は、驚異的なスタミナで今なお走り続けているロングヒット曲である。

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 Billboard Japanの総合チャートでは、リリース後1295日(約3年半)もの間、1度としてTOP100から転落したことがない。これだけ長期間、総合100位以内を守り続けた曲は、筆者が調べた限り「Lemon」しかない。

 さらに約1年4ヶ月間もTOP10圏内をキープし、最新チャート(2021/9/29付)でも64位。

 これに迫るロングヒット曲が、Lemonより5ヶ月ほど後にリリースされたあいみょんの「マリーゴールド」である。1148日間連続ランクイン中だ。

 ダウンロード数(Lemon:300万以上だがマリーゴールドは100万未満)などではLemonに遠く及ばないが、最新チャートでは「Lemon」を上回る49位に位置している。これからもジワジワと記録を伸ばしそうなスタミナ曲である。

 米津自身の曲で「Lemon」に次いで、息が長かったのが「ピースサイン 」で、700日に渡って連続してチャート内に居続けた。圏外に落ちてからも2度復活し、現時点でランクイン率は49.3%と米津の楽曲の中では3番目に持久力が高い。

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 では、2番目にスタミナが強い楽曲は何か?

 それは「馬と鹿」である。まず、この曲はフィジカルで初週で412,359枚(オリコン調べ)を売上げただけでなく、ダウンロードでもリリース直後にプラチナ(25万)、3ヶ月でトリプルプラチナ(75万)、そして8ヶ月でミリオン(100万)を達成してる。

 ちなみに、米津の単曲でDLのミリオン以上の認定を受けてるのはLemon(3ミリオン=300万)と「馬と鹿」だけだ。

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 「馬と鹿」はリリース後518日間連続してチャートインしており、そのランクイン率は72%。「Lemon」「感電」「PaleBlue」の100%に次いで2位である。

 100%と言っても「感電」は450日、「PaleBlue」は105日とリリースからあまり日数が経っていないため、今のところは2年以上経過している「馬と鹿」の方が持久力が高い「スタミナ曲」と言える。

 特に「PaleBlue」はわずか3ヶ月あまりで70位まで落ちてきており、「Lemon」「感電」「馬と鹿」のように1年以上TOP100をキープできるか微妙な状態だ。

 「馬と鹿」は主題歌だったTVドラマ「ノーサイドゲーム 」が想定より高視聴率だったこと、その直後のラグビーW杯が大いに盛り上がったことがヒットに拍車をかけたと推察する。

 また、米津プロデュース曲はどれも、ランクイン率が高いスタミナ曲である。自身だけでなく他アーティストの能力や魅力を引き出すプロデュース力にも恐ろしいほどの才能を発揮している。

「打上花火(DAOKO)」     72.6%
「まちがいさがし(菅田将暉)」84.6%
「パプリカ(foorin)」                45.9%
「カイト(嵐)」                          54.1%

何度も蘇るゾンビ曲

 例えば、5年前にリリースされた星野源の「恋」1位を11回も獲得しているが(Lemonは7回)、リリース後630日(約1年9ヶ月)でチャート圏外となっている。つまり、連続ランクインの記録では「Lemon」の半分以下ということだ。

 但し、「恋」はその後12回もTOP100圏内に返り咲いている「ゾンビ曲」なのだ。なんと5年のうち半分以上53.1%の期間チャート内に存在していたことになる。

 米津玄師にもゾンビ曲がある。「Loser」だ。

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 この曲はリリース後、わずか84日で1度チャートから姿を消す。だが、その後7回も息を吹き返している。特に、Lemonのヒットに引っ張られるように復活した2018年には、なんと500日以上もチャートインし続けた。

 そして、5年前のリリースから現在まで(1827日間)の48.7%の期間、チャート内に存在した。「恋」に匹敵するゾンビ曲だ。

最強ゾンビ曲「アイネクライネ」

 さて、米津の主要曲の中で最も短命だった「アイネクライネ」に話を戻そう。

 最初にチャートインしたのはこの曲が収録されたアルバム「YANKEE」発売日の2014年4月23日だった。

 62位をピークにわずか5週でランク外となり、その後2年4ヶ月間なりを潜めていたが、2016年に「Loser」で米津の知名度が上がると同時にチラっと浮上し、またすぐに消えてしまう。

 しかし、2017年に「ピースサイン 」がリリースされた頃から突如として再チャートインを果たし、そのまま2年以上Top100以内をキープした。

 比較的初期の曲である「アイネクライネ」は、新たなヒット曲で米津を知った新規ファンが増えるたびに発掘され、注目され、愛され続けてきた”最強のゾンビ曲”と言っていいのではないか?

 トップ10はおろか、最高でも19位と決して大ヒット曲とは言えないが、7年半もの長きに渡って少しずつ少しずつ積み上げてきた実績は力強い。

 ランクイン率は34.5%。DL認定はダブルプラチナ(50万)。そして、もうすぐ再生回数3億回を迎えるMVは、米津の名だたるヒット曲を抑えてLemonに次ぐ堂々の第2位である。

 米津玄師の曲は、チャート内に長く留まれるスタミナ曲もあるが、1度消えても何かのきっかけで蘇るゾンビ力を秘めたものも多いと思う。この先、どの曲が無敵のゾンビとして蘇るのか?あるいはLemonを凌ぐスタミナ曲が生まれるのか楽しみだ。

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<Appendix>

BillboardJapan 2013年以降のHOT100チャートより抽出
(フィジカル売上、配信データのみならず、カラオケ、YouTube、ツィッターなども含む総合チャート)
DL認定は日本レコード協会データ

上段は米津玄師名義のシングルを中心とした主要単曲
下段は米津玄師プロデュース曲

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*比較・参照楽曲

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