米津玄師を表す漢字一文字
今年の世相や気分を表す漢字一文字は「金」だった。オリンピックの金メダルラッシュに加え大谷翔平、藤井聡太が打ち立てた金字塔、さらには給付金や新硬貨の発行などのお金がその選定理由らしい。
こうして1年を振り返ってみると、漢字というのはたった一文字でも多くの情報を含み、実に雄弁であるとしみじみ思う。
米津玄師と言う人物を漢字一文字で表すとしたら?
人それぞれに米津に対する想いやイメージがあるだろうが、予想するに「米」「美」「歌」「才」「愛」「謎」などが多いのではないだろうか?
極めて個人的な印象だが、筆者の目から見た米津玄師を表す漢字はこれしかない。
この漢字もまた様々な意味を持ち、多くの言葉を方向付けている。いくつかの側面から”米津玄師”の「変」を紐解いてみよう。
変革の「変」
まず、音楽家としての米津玄師はJ-POP界に大きな変革を齎した。
それ以前にボカロ界隈においても米津玄師=ハチは、楽曲と自身のイラストによるMVのクオリティで既に革新的な存在だったことは有名な話である。
しかし、ボーカロイドは一部では熱狂的なムーブメントがあったもののサブカルの域を出なかった。
「初音ミクを隠れ蓑にしたくない」って気持ちがあるんですよ。(略)裸の王様かもしれないって不安から抜け出したかったんです。(2012年タワレコインタビューより)
こう思った米津はトップボカロPの座に安住することなく、J-POP界のメインストリームを目指しデビューアルバム”diorama”をリリースする。2012年のことだ。
セールスはオリコン6位。新人としては上出来だが米津は納得できなかったと言う。それほどまでの自信作は決して自惚れではなく、百戦錬磨の音楽ジャーナリストに「なんじゃこれは!!!音だけで完全にノックアウトされた」(Podcast"JapanRadio"より山崎洋一郎 談)と言わしめるほどの出来だった。
革命的新人、現る
(略)
モンスター級の才能の持ち主であるのは間違いない。
そして、その才能によって日本の音楽シーンを大きく揺さぶるであろうことも間違いない。(2012年 Rockin'onJapan6月号より)
ここ数年、ボカロ系アーティストやYouTuber、TikTok勢が、ヒットチャートを席巻しているのは時代の成り行きというものだろう。アイドルジャンルでさえ、今後メタバースが急速に進めば、VTuberの進化系に置き換わるのは時間の問題かもしれない。
しかし、こうしたネット発アーティストの中で最も成功したのが米津玄師であり、ネットを飛び出した彼の勇気ある第一歩が、J-POPにおけるひとつのパラダイムシフトであったことは疑いようがないだろう。
「変化」の変
ハチ時代から最新曲”PaleBlue”までの変遷を辿った時、これがたった1人の人間が生み出した曲なのかと愕然としてしまう。米津は常に変わっていくことを信条としているが、いくら意識が変化しようともクリエイティビティがついてこなければ似たような曲しか書けないだろう。
それを”個性”とか”らしさ”と呼ぶのは容易いが、それを断固拒否し変化し得るだけの才能と、身を削る努力を怠らない米津は、天賦の才能に甘えない真のプロフェッショナルだと思う。
プレッシャーよりも、自分に飽きたくないという気持ちが強いです。(略)人間は変わっていくもので、もう一度「Lemon」をつくれと言われても無理だし、それはボーカロイド時代の音楽も同じことで。自分の表現をひとつひとつ、その時代と一緒に置いておきながら、いまできることをやるしかない。
(2020年 Yahooインタビューより)
音楽家としてだけでなく、時代の波が変わる前の微風さえ感じ取れるマーケッター的な察知力、冷静な分析力もまた、変化していく米津の土台をしっかりと支えている。
「変貌」の変
ビジュアル面での変貌ぶりも姿を現すたびに見る者を驚かせる。それは加齢や歯列矯正などによる中長期的な変化ではなく、短期間でのドラスッティックな変わりようである。
特にヘアスタイルやカラーは、前髪で右目を覆うことだけは頑なに守りながらも、見るたび違うと言っていいほどしょっちゅう変えている。以前アー写を一気レビューした記事の画像以外でも、ライブやインタビュー時などの画像を適当に並べただけでまるでヘアカタログのようだ。
インスタライブで「ヘアカラーの色は誰が決めるんですか?」と問われ、ピリ気味に「他に誰が決めるんだよ」と切り捨てたことがある。おそらくこれらの髪型も本人の意思によるものなのだろう。
そして、上の写真を見ただけでもわかるように顔そのものも別人のように変貌する。そもそもメイクやライティング、体調などでも顔は変わるものだが、是枝監督との対談では特にそれが顕著で、最初誰だかわからなかったほどだ。
おそらくインラインを引いた目元、そして強いキャッチライトのせいだとは思うが、この時の米津はとても優しく儚げで女性的にさえ見える。
時にシャープに、時に柔らかくその表情は実に多様だ。こうしたビジュアル面での変化も、米津の鮮度をキープし、ファンを飽きさせない要素であり、本人も積極的に楽しんでいることなのかもしれない。
「変人」の変
2018年スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーのラジオ番組に出演した際、米津は憧れの宮崎駿を称してこう言った。
宮崎駿さんってスゴい変な人じゃないですか?
番組内で鈴木が明かしたエピソードによると、宮崎駿は”風の谷のナウシカ”の打ち上げ時に「人間なんて滅びたっていいんだよッ!」と怒鳴ったと言う。米津は「いやホントにね、俺はその言葉にグッときたんですよ」と楽しそうに笑っていた。
米津は、冒頭の「スゴい変な人」の後にこう続けている。
めちゃくちゃ変な人なのに、なんでこう気持ちのいい老若男女に受け入れられるような普遍的なものが生まれてくるんだろうか?っていう。。
それを作れるっていうのは、いったいどういう、、その頭の中で何が巻き起こっていて、どういうことを考えながら作ってるんだろうって興味が尽きなくて。
(2018年ジブリ汗まみれより2つの発言を抜粋要約)
この発言に対し「お前もなっ!」とツッコミたくなったのは私だけだろうか?つまり米津自身も十分”変な人”ではないか。
そもそも”変な人、変わっている人”ということがネガティブに捉えられること自体が変なのだ。同調圧力に弱く、出る杭を打ち、”和をもって尊しと為す”を履き違え、多様性に二の足を踏む風潮が”変な人”を隅に追いやっている。
米津玄師が宮崎駿に抱いた疑問をそっくりそのまま米津に贈りたい。
”あなたの頭の中で何が巻き起こっていて、どういうことを考えながら作ってるんだろうって興味が尽きなくて”と。
これこらも米津玄師は変わり続け、そして何かを変え続けていくのだろう。やはり米津玄師を現す漢字は「変」でいいような気がする。
最後に。。。
「自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから」と言うAppleの名CMを。
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