米津玄師の歴代アー写を一気レビュー!
アー写とは「アーティスト写真」の略で、いわゆる宣材(宣伝材料)写真の一種である。米津玄師はシングル及びアルバム発売時に新たなアー写を公開し注目を集めてきた。
この記事では、それらのアー写*を時系列で一気にレビューしてみたい。
*メイン以外のアザーカット(同時に撮影された別カット)も含む。
*アー写だけでなく、一部その曲のイメージカットも含む。
*なお、文中の毀誉褒貶はあくまでも”筆者の主観による感想に過ぎず”、各作品の解説でもなければ、客観的評価でもないことを予めお断りしておく。
1:サンタマリア
1st Single
2013 5.29 release
photo by HIROHISA NAKANO
ハチ時代のインタビューなどで既に顔出しをしていたものの、米津玄師としての全貌を初公開したのはサンタマリアのMVだった。
サンタマリアMVより↓
しかし、メジャーデビュー作にもかかわらず、アー写では顔が全くわからない。新人が顔を覚えてもらうための名詞代わりではなく、あくまでも”サンタマリア”の世界観に特化している。
グレイッシュトーンに僅かなピンクを配したソフトフォーカスの画像からは、躊躇いがちに外に踏み出した米津の不安と紅潮が柔らかく立ちのぼるようだ。更に左手前にあるガラスのエッジが、触れれば砕けそうな緊張感を演出している。
この時に米津は絵本の中のキャラクターのようであり、まだ生身の人間としての姿を晒してはいない。
2:MAD HEAD LOVE/ポッピンアパシー
2nd Single
2013.10.23 release
photo by HIROHISA NAKANO
この両A面シングルでは、”サンタマリア”で溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させたかのような、ド変態丸出しMVが話題となった。
”MAD HEAD LOVE”では、Eテレで流しても違和感がないほどキュートでポップな映像にセックスの暗喩をバラ撒き、”ポッピンアパシー”ではマッドサイエンティスト感が全開だ。また、米津玄師の美しい手を愛でるフェティッシュなMVとしても珍重されている。
あどけなさが残る表情と華奢すぎる身体に宿した蒼白い狂気。このアー写が切り取ったのは、病的に透き通った怒りにも似た衝動だ。
3:YANKEE
2nd Album
2014 4.23release
photo by HIROHISA NAKANO
「やっちまったな」としか言いようがない。初めてカメラ目線で正面を向いたが誰だかわからない。無駄にイケメンに整えられ中途半端なアイドルみたいになっている。
YANKEE=移民というアルバムタイトルに合わせたのであろうエキゾチックな衣装も、シャープなライティングとチグハグな印象だ。どこかの荒野でロケでもすればよかったのに…。
と文句を言いつつも、下の画像は構図、ポージング、表情、そしてアルバムジャケットの赤とリンクしたネイルのインパクトも含め、絶妙なバランスで米津の魅力を引き出している。
4:Flowerwall
3rd Single
2015.1.14release
photo by HIROHISA NAKANO
「目覚めたらそこに米津がいた」という妄想を喚起する、スナップ写真のようなアー写。その無防備な姿を隠し撮りしたようにピントは甘く、柔らかな陽光に溶け込んだ素顔は見えない。
この素人が咄嗟にシャッターを切ったようなラフさが、距離の近さと優しい温もりを醸し出している。カメラのCMソングでもあるスイートチューンのアー写に似つかわしい。
だが、アンダーウエアのような白Tから伸びる腕には、花のタトゥーが施されており、テーブルにさりげなく飾られた花とともに美しくも儚げな違和感を生み出している。
このタトゥーシールは同年のライブツアー「花ゆり落ちる」のグッズとして販売された。
5:アンビリーバーズ
4th Single
2015.9.2release
photo by HIROHISA NAKANO
夜のハイウェイを流れるヘッドライトのような残像と、伏し目がちの米津の表情が交錯する都会的なアプローチ。歌詞やMVと呼応する不安定な光の揺らめきが効いている。
アンビリーバーズMVより↓
定かではないが、ロケ地は隅田川に架かる勝鬨橋だと思われる。当時米津はこの橋の先にある晴海・豊洲エリアに住んでおり、深夜にジョギングをしていたのもこの橋のあたりかもしれない。
欄干、ガードレールの形状が酷似している↓
6:Bremen
3rd Album
2015.10.7release
photo by HIROHISA NAKANO
暮れなずむブルーグレーの空を突く高層マンション群。故郷を遠く離れた大都会の屋上にスッと立ち、遠くを見つめる姿。そこにはBremen収録曲に通底する”遠くへ行く、もう戻らない”と言う決意が静かに息づいている。
難を言えば、このヘアスタイリングはなんとかならなかったのか。。。w
7:Loser/ナンバーナイン
5th Single
2016.9.28 release
photo by MONIKA MOGI
SONY移籍後の初アー写は茂木モニカが撮影。初めて女性フォトグラファーが撮った米津は、カラフルな光に浮かぶシルエットだった。
顔が写っていないのに、その指、ふっくらとした唇、シャープな顎のライン、しなやかなポージングは米津玄師以外のナニモノでもない。
スタイリングも今までと明らかに違う。ストリートモードを着こなし俄然オシャレになってる。なお、discoveredのブルゾンはお気に召したのかその後も着用していた。↓
8:Orion
6th Single
2017. 2.15 release
photo by HIROHISA NAKANO
歌詞で唯一「冬」と言う言葉を使っている”orion”。冬の歌と言うこと一点にフォーカスしたようなアー写は、ただただ「寒そうに震える米津玄師」でしかない。
ファンタジーなのかリアルなのかどっちつかずだ。雪がキラキラするライティングで夜に撮影したらロマンチックになったんじゃないかと勝手に想像してる。
”YANKEE”のアー写同様に、ステレオタイプのイケメンに寄せているが、米津の美しさはそこではない!と声を大にして言いたい。
9:ピースサイン
7th Single
2017.6.21 release
photo by JIRO KONAMI
ヒーローものアニメの主題歌”ピースサイン”。少年性を感じる写真の中の米津は、まるで童心に帰ったようにどこか楽しげだ。
このアイデアはThem Magazineからヒントを得たと自ら語っている。
NYを拠点に活躍するフォトグラファー小浪次郎の作品には、ビビッドな色彩にLo-Fiのノスタルジーが息づく、所謂「エモさ」がある。フィルムで撮っているのかもしれない。
海岸で花火と戯れる米津の無邪気な姿は「ピース」であると同時に、失われた日々への郷愁をそそる。
10:Bootleg
4th Album
2017.11.1release
photo by JIRO KONAMI
CDジャケットデザインの色合いとリンクしつつも、草原に真っ赤な布を掛けたオープンセットが開放感を醸している。鮮やかなコントラストの中でポーズをとる米津は、前作あたりから撮られることを楽しんでいるように見える。
スタイリングもこなれ感たっぷりだ。こういうダボダボのボトムスは着る人を選ぶ難しいアイテムだが完璧に着こなしている。また、この時に履いているFENDIのエスパドリーユは、同年3月のインスタや5月のTwitterにすでに投稿されていることから、お気に入りの私物なのかもしれない。
11:Lemon
8th Single
2018.3.14 release
photo by TARO MIZUTANI
曲の世界観だけでなく”米津玄師”を前面に出した、いかにもアー写らしいアー写である。第一ボタンまできっちりと留めた白シャツに反射する斜陽の黄色は、「今でもあなたは私の光」を映しているのだろうか。
そして、Lemonには小浪次郎撮影による別のアー写も存在する。この時、米津は何を見ていたのか?その答えはフォトグラファーのインスタにあった。
渋谷駅の大看板に採用されたのは、こちらのアー写だった。
この柄シャツにはレモンと牡蠣がプリントされているという少々生臭いオマケ付きw
12:Flamingo
9th Single
2018.10.31 release
photo by JIRO KONAMI
米津の妖艶さを捉えたアー写。微量の笑みを宿した虚ろな視線。半開きの紅い唇。淑やかな挑発が暗闇にぼんやりと発光している。
さらにもう一種は、アート作品と言っても過言ではないほどの完成度。マジックタイムの海辺で片足立ちするフラミンゴさながらのフォルムは、ハッと息を飲む美しさだ。
”Lemon”の狂騒から逃れ羽根を休めているようにも、さらに遠くの空を見据えて羽ばたこうとしているようにも見える。
空と海と一体化した完璧すぎるシルエット。もはや米津を知らない人が見ても文句なしに美しいアートピースと言える。
13:海の幽霊
Stream Single
2019.6.3 release
photo by TOMOKAZU YAMADA
曲のイメージ通り、神聖でスピリチュアルなムードが漂うアー写。白装束を彷彿とさせる衣装で波打ち際の椅子に腰掛ける米津は黄泉からの使者のようだ。
夜の海。目には見えなくなってしまった者たちを呼び寄せる祈りの声が聞こえてくる。この時、米津が「潮風の匂いが滲みついた椅子」に座って欲しいと天を仰いだのは、”海の幽霊”の制作中に亡くなった友だったのかもしれない。
ひとときの逢瀬。再び去りゆく魂。お盆の時期に聞きたくなる名曲の世界観を見事に表現したアー写である。
14:馬と鹿
10th Single
2019.9.11 release
photo by JIRO KONAMI
SONYグループのSMEレコーズ移籍直後のシングル”馬と鹿”は、ラグビーをテーマとしてドラマの主題歌である。
アー写はスポーツの「ス」の字も感じさせないが、2色のカラーライトを浴びてレンズを見つめるキリっと鋭い視線は、勝負に挑むアスリートにも通じる力強さがある。米津玄師の「男」をハッキリと意識させる一枚だ。
だがサブカットは、海の幽霊をそのままトレースしたような浮世離れした中性的な神秘性に包まれている。海が花に変わっただけのような印象だ。
15:STRAY SHEEP
5th Album
2020.8.5 release
photo by TARO MIZUTANI
水谷太郎によるアー写は、"Lemon"の時と同じ背景色を用いている。
5thアルバムは本来「”Lemon”から始まる3年間の歩みを辿る作品にする予定だった」と言う。しかし、パンデミックにより大幅に路線を変更した”STRAY SHEEP”。そのアー写を"Lemon"と同色の背景にしたのは決して偶然ではないだろう。
どんなに辛い世の中でも絶え間なく時は流れていく。今日を去りゆく夕陽も明日にはまた昇ってくる。少しばかりの希望を抱きしめるような米津の姿がそんな大切なことを教えてくれる。
フラゲミリオンを記録したSTRAY SHEEP。その快挙を祝う、奥山由之撮影によるもうひとつのアー写がある。
心を見透かすような三白眼、アー写には珍しく唇の傷跡も修正されずそのまま写っている。絵画のような質感なのに、内面まで炙り出したかのごとき妙なリアリティがある。
色もモチーフも違うのだが、どことなくこの表紙にアングルやトーンが似ている。「肺に睡蓮が咲く病」にかかった女性との恋愛小説だ。遠くのサイレンは聞こえたか?
16:PaleBlue
11th Single
2021.6.16 release
photo by YOSHIYUKI OKUYAMA
記憶に新しい最新作PaleBlue。ミントブルーの幻想的な世界を恋の痛みを辿るように歩く米津。気合の入ったラブソングはコミカルな恋愛ドラマ「リコカツ 」に極上の切なさをぶちまけた。
恋愛を突き詰めた挙句「ヤバ!甘々じゃん」と爆笑しながら制作したと言う渾身のラブソング、さらに”死神”を含む、シングル「PaleBlue」のアー写には「ユーモアとアイロニー」と言う新たなテーマへの布石が見え隠れしている。
その後発表されたデジタルアートのような「うにょーん」な作品は、完全にふざけてると言ってしまいたくなる遊び心満載のユニークさだ。
これなど、もはやアー写でもなんでもないしw ↓
フォトジェニックさに磨きがかかる今後はいかに?
これまで6人のフォトグラファーが米津のアー写を手がけてきた。この先、どんなクリエイターとタッグを組み、アー写もどのように変化していくのか楽しみだ。
もし叶うなら、アニー・リーボヴィッツやニック・ナイト、森山大道のような超巨匠の撮り下ろしも1度でいいから見てみたい。
あなたはどの作品が好きですか?
読んでいただきありがとうございます。
スキ&シェア&フォローしていただけると嬉しいです!
*文中敬称略
*Twitter、noteからのシェアは大歓迎ですが、記事の無断転載はご遠慮ください。
*インスタグラムアカウント @puyotabi
*Twitterアカウント @puyoko29
米津玄師を深堀りした全記事掲載の濃厚マガジンはこちらです。↓
↑photo by Annie Leibovitz for Louis Vuitton featuring Keith Richards
↑photo by Nick Knight for Dom Pérignon featuring Lady GAGA
↑photo by Daido Moriyama for Honda featuring ONE OK ROCK
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?