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米津玄師 ゆらぎの快感に身をまかせ

「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第8章>

*プロローグと第1章〜7章は下記マガジンでご覧ください。

燦々とした太陽も出ない1日、ぐしゃぐしゃの考えをまとめようと、じっと画面を眺めていたが、パッと閃くこともなく、カラカラの頭をバンバン叩いてもどうにもならない。もうフラフラだ。何もしていないのに。

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 勘のいい米津玄師ファンはもうお気づきかもしれないが、上記の太字部分は米津の歌詞に複数回出てきたオノマトペである。

 この文章は昨日の私の1日そのものであったことも告白しておこう。

 日本語にはオノマトペ(擬声語、擬音語、擬態語)が4500語ほどあるそうだ。

 米津は32曲(全体の36.4%)でなんらかのオノマトペを使用している。そのバリエーションは54種に及び述べ回数は65回だった。

YANKEEはオノマトペ祭り

 「カラカラ」「しゃあしゃあ」「ドキドキ」「バンバン」「ワクワク」と1曲で5種類も登場している「TOXIC BOY」を始め、セカンドアルバム「YANKEE」には、述べ25個ものオノマトペを使用。
 実に全体の約4割をこのアルバム1枚で占めている。

 同アルバム収録の「しとど晴天大迷惑」「ホラ吹き猫野郎」にもそれぞれ4つずつ使用され、テンポのいい畳語が、BPM177〜230のアッパーなノリを加速させている。

 全体におけるオノマトペ出現率の平均は1曲あたり約0.7回であるが、YANKEEの約1.7回は、その2.5倍とずば抜けて多い。最も少ないdioramaと比すると6倍にものぼる。

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 YANKEEは、インディーズだったdioramaと一線を画すメジャーデビューアルバムだ。
 
 ”dioramaを作り終わった時に、いろんなモチベーションがドン底まで落ちて、このままだと大変な事になる”(本人談)とYANKEEに向き合った米津は、当時のインタビューでこう語っている。

「音とか言葉とかリズムとか、ひとつひとつわかりやすいものを作ろうと思うようになったんですね。ただそういうわかりやすいものって、単純ゆえにものすごいエネルギーがある。」

 その制作中に歌詞も二転三転したそうだ。その結果として、誰にでも感覚的に理解しやすいオノマトペの多用となったのかもしれない。

J-POP頻出トップ3のオノマトペは?

 歌謡曲やJ-POPの人気曲多いオノマトペは「そっと」「ドキドキ」「キラキラ」との統計文献がある。

 しかし、米津の曲では「そっと(優しい人)」「ドキドキ(TOXIC BOY)」「キラキラ(アンビリーバーズ)」と各1回ずつしか使用されていない。

 では、米津の歌詞でよく使われてるオノマトペはなんなのか?

最も多かったのは「ふらふら」だった。

 「ふらふら」は4曲、類語の「ふらり」も加え出現度1位(5曲)となる。

 広辞苑によると「ふらふら」は以下のように定義されている。

1:方向を定めず不安定・不規則に揺れながら移動するさま
2:疲れや薬物作用で身体や精神がまともな状態にないさま
3:気持ちが不安定なさま。意志や判断力に欠け目的もなく行動するさま

 オノマトペではないが、「フラついて(アリス)」という動詞、及び意味合いが近い「くらくら」「ゆらゆら」という言葉も使っている。さらに「彷徨う、流離う」は10曲に、「揺れる(活用形含む)」は15曲で19回も登場していた。

 また、その状態を引き起こす「眩暈(3曲)」「眩しい、目が眩む(4曲)」「酔いどれ、酩酊」など酒がらみが5曲、「微熱」など熱関連が3曲、「あてどなく」などのノープラン系が3曲と、広義の「ふらふら」に繋がる歌詞も多く見受けられる。

米津玄師そのものを表すオノマトペは何?

 まさに「ふらふら」「ゆらゆら」は、米津玄師という人そのものを表現した言葉だと思う。

 時代の波や、世間の風にその大きな身体をふらふらゆらゆらと漂わせ、今そこにある不安や悲しみや寂寥を絡め取ってゆく。その枝葉は大きく揺らいでも、決してブレない根から蒸散した音楽が、耳元から心底までをふらふらゆらゆらと揺蕩う心地よさ。

 自然の1部として人の心も絶えずふらふらゆらゆらしているものだ。不朽不変のモノなど存在しない。

 真っ直ぐでなく、明解でなく、固定されていない、儚げで掴みどころのない「ゆらぎ」。科学的根拠を持つ「1/fゆらぎ」のように生理的に抗い難い快感が彼の音楽や声や身体の動きにあるのかもしれない。

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↑フォトグラファー:hyghlyインスタグラムより 

  LoserやフラミンゴのMVで見せた米津のダンスは、振り付けに則った踊りではなく、かといって舞踏のような極限の肉体芸術でもない、まるで蝋燭の炎のように予測不能な「ゆらぎのダンス」だったと思う。

 ちなみに、頻出オノマトペの2位は同率で「カラカラ」「ぐしゃぐしゃ」である。「キラキラ」や「ドキドキ」とは程遠いようだ。

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*オノマトペは副詞と判別が難しいものもあり、分類法には諸説あります。
*この連載は不定期です。他カテゴリーの記事を合間にアップすることもあります。
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