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「シン・ウルトラマン」主題歌、米津玄師の「M八七」を聴く前に

初の実写映画主題歌「M八七」

 昨年、シン・エヴァンゲリヲン劇場版のメガヒット(興行収入102.2億円)で四半世紀の歴史に有終の美を飾った庵野秀明チームは、シリーズ全4作でタッグを組んだ宇多田ヒカルの次に、米津玄師に白羽の矢を当てた。

主題歌「M八七」のアーティスト写真

 米津が庵野秀明総監督の新作「シン・ウルトラマン」のために書き下ろした「M八七」は、彼にとって初の実写映画の主題歌となる。

 庵野秀明は言わずと知れた日本を代表する巨匠。エヴァンゲリオンシリーズだけでなく、2016年に総監督を務めた「シン・ゴジラ」は82.5億もの興行収入を記録した。

アニメが席巻する日本映画市場

 実写映画が82.5億を売り上げることが、日本映画市場においていかに突出した成果であるか?

 2000年以降、100億超えのメガヒットを記録した邦画は、2003年の「踊る大捜査線」以外、全てアニメ作品である。(黄セル=アニメ作品)

出典:一般社団法人 日本映画製作者連盟

 さらに、2000年代から昨年までに公開された日本映画は10,191本。その平均興行収入は2.3億円にも満たない。

 明確な基準はないが、10億円超えがとりあえずの合格ラインとなっているようだ。映画メディア等では30億くらいをヒット作、50億で大ヒット、100億超えでメガヒットと称しているように思う。もちろん、スクリーン数や制作・宣伝費等を考慮する必要があるので一応の目安でしかないが。

大ヒット映画と主題歌の関係

 映画主題歌の国民的大ヒット曲として記憶に新しいのは、なんと言っても
LiSAの「炎」だろう。フィジカル25万枚、DL100万、ストリーミング1億を突破し、リリースから79週に渡ってずっとトップ100圏内をキープしている。(すべて日本レコード協会認定/BIllBoardJapanより 2022/4現在)

 オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキング連続1位記録では、2020年12月時点で、あの「Lemon(米津玄師)」の大記録と並んでいる。

 LiSAはテレビシリーズも含め、その確かな歌唱力に加え、鬼滅バブルと言ってもいいほどの勢いに乗り一気にトップスターに昇りつめた。

「炎」のチャートランキング
BillboardJapan 総合トップ100チャートより


米津玄師が主題歌を書いた映画「海獣の子供」は?

 さて、米津玄師が2019年にアニメ映画「海獣の子供」の主題歌として書き下ろした「海の幽霊」はどうだったのか振り返ってみたい。

この曲にはちょっとした個人的エピソードがある。

 当時、私は某ブランドの夏期ボーナス商戦用プロモーションを最終調整しており、映画館CM(シネアド)も追加しようとしていた。

 様々なプランの中から、この時は”映画館”ではなく、”作品”でCM投入先を選ぶことにした。

「これ、米津玄師が主題歌をやるので話題性が高いと思います。」

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 そう言って提案されたのが6月7日公開の「海獣の子供」だった。公開日のタイミングは最高だし、漫画が原作で、主題歌がLemon、Flamingoの連続ヒットでノリに乗ってる米津玄師とくれば、若年層をターゲットとしたCMを上映するのにピッタリではないか。

 資料に目を通し、映画の予告編や公開されたばかりの”海の幽霊のMV”を見た。「これは・・・・」と息を飲んだのを覚えている。そして、他の作品ともじっくり比較検討した結果...


実写版「アラジン」を選んだ。

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 無難に置きにいったとしか言いようがないが、蓋を開けてみれば「海獣の子供」は案の定お世辞にもヒット作とは言えない数字が残った。

<日本における興業成績>
アラジン 121.6億円
海獣の子供  4.5億円

一般社団法人 日本映画製作者連盟/キネマ旬報より

 シビアだがビジネス的には正しい判断だったのだ。

「海の幽霊」は数字的には物足りない結果に

 「海獣の子供」」の興行収入は残念な結果であったが、主題歌「海の幽霊」も数字的には少々物足りない結果となった。

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「海の幽霊」のチャートランキング
BillboardJapan 総合トップ100チャートより

 「海の幽霊」は直前に菅田将暉に提供した「まちがいさがし」、そして同年9月にリリースされた「馬と鹿」の特大ヒットの間に挟まれ、DL数、総合チャートともにイマイチだったと言わざるを得ない。もちろん、”ヒットメーカー米津玄師にしては”という注釈付きではあるが。

 幻想的な映像が美しい「海獣の子供」だが、その形而上的なテーマはやはり難解だったかもしれない。

風はあらゆる海の記憶を孕んでいる
私たちはそれを言葉に置き換え
詩や歌にして伝えてきた

だが限りある言葉では
風のほんの一部しか捉えられない
この帆のようにね

映画 海獣の子供より

 だが、この台詞を「大切なことは言葉にならない」と歌った「海の幽霊」は、名曲揃いの米津作品の中でも異彩を放つ最高傑作だと個人的には思っている。

 クオリティとセールスが必ずしも比例しないことを改めて痛感した。

映画を超えるヒットとなった「打上花火」

 米津が2017年に主題歌を書いた「打ち上げ花火 下から見るか横から見るか」は興行収入15.9億円。大ヒットではないが、とりあえず合格点の10億円を突破している。

 主題歌の「打上花火」は、米津本人が「当てにいった」と言うほど、日本人の琴線に触れるエモさが溢れんばかりに詰まったポップソングだ。名義は「DAOKO」だが、米津作品ではLemonに次ぐチャートイン回数*を記録し、映画を置き去りにするほどの大ヒット曲となった。

*BillboardJapan総合チャート
 TOP10入り:26回・TOP100入り:156回(2022/4月現在)
*MV再生回数 4.8億回

↓リリースから150週分の総合チャート推移

「打上花火」のチャートランキング
BillboardJapan 総合トップ100チャートより

大ヒットが約束された最新作への期待

 ウルトラマン・庵野秀明・米津玄師という、誰もが知る無敵のヒットメーカーが集結した「シン・ウルトラマン」は公開前からヒットが約束されているようなものだ。

 つまりハードルは上がりきっている。この作品の成果が2023年公開予定の「シン・仮面ライダー」の命運をも左右するかもしれない。”クオリティは素晴らしかったんだけどね”じゃ済まされない張りつめた空気が漂っているが、観客側としてはもう楽しみでしかない。

 「シン・ゴジラ」の82.5億を超え約20年ぶりに100億円超えの実写映画になるかもしれない「シン・ウルトラマン」と「M八七」に大いに期待したい。

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