ついに完結! 米津玄師2023ライブツアー「空想」横アリ6/29 感動のフィナーレ
まずはこちらの前編と中編からどうぞ!↓
熱過ぎる5曲をぶっ通しで歌い踊った米津は、興奮冷めやらぬオーディエンスに向かって、穏やかな低い声で語り始めた。
MC2(後編)
それは、自分の原点にそっと触れさせてくれるような優しい語り口だった。
「学校では居心地が悪くて、クラスメイトが何言ってんだかわからなかった」と告白したインタビューがある。「そう言う状況の中で編み出したのが、自分の頭の中の空間に住んでいる架空の人物と話すっていう…その架空のキャラは明確に自分の友達で、それが心の拠り所だった」(2015年 Rockin'on JAPANインタビューの一部要約)
他人とのディスコミュニケーションを抱えた彼にとって、空想世界とは現実よりもずっと楽しく安らげる”街”であり、天賦の才能を豊かに育む胎盤だったのかもしれない。
しみじみと言葉を噛み締め、大きな拍手を受け止めると、照れくさそうに笑った。
音楽を作る時はアニメのイメージボードのように登場人物やシチュエーションを設定すると説明。その根源が空想だと言う。空想に耽りすぎて生活がうまくいかず、苦しくなり、また空想に癒しを求めることもあったと、どこか遠くを見るような目で話す。
何回も何回も感謝の意を伝える米津に暖かな拍手が送られる。
すると、急にくだけたテンションで「なんかねぇ、音楽とかねぇ、いろいろ作り続けてきてますけれど、やっぱ30を超えるとね、すごくこう〜、、、なんで(音楽を)作り続けてるんだろうなって思う瞬間がたくさんあるんすよ」とヘラヘラ笑う。
10年以上ひたすら音楽を作り続けて来たモチベーションが何なのか?大いに興味をそそられる話題だが、それは本人にもよくわからないらしい。周りのミュージシャンにもその疑問を投げかけてみても、自分のため?人のため?どの答えも自分にはしっくりこなかったと語る。
爪が自分に向くように軽く握った左手。親指で他の指を擦りながらじーっとそれを見つめ、視線を落としたまま続ける。
これはもう”恋”ではないか?出会ってしまった。もう抗うことも逃れることもできない。嬉しいのに苦しい。呪いのような祝福。虜、呪縛、中毒・・・音楽の魔性。
音楽に愛され祝福され、追われ、囚われた米津玄師。「なんか、自分でも何言ってんのかわかんない」と笑いながら「でもまあ、そんな感じですよ、今の私は」と率直に語る。
月を見ていた
照明が落ちると世界が一変。暗い海を映したセンタースクリーンから夜風がそよいできそうだ。米津が目を閉じスッと息を吸う。低く重厚な歌声が静寂に沁み込んでいく。
巨大な満月がゆっくりと水平線に沈んでゆく背景。花道の先端は濃いスモークに覆われそこで1人のダンサーが祈るように舞う。サイドビジョンの左側にダンサー、右側に米津が映っている。
完全に水没し海中を漂っていた満月が、2コーラス目のサビ”すべてを燃やして”で発火し燃え落ちてゆく。無数の泡がホタルのように舞い上がる様の美しさは筆舌に尽くしがたい。
だが、それよりも天空を揺らすほどに壮麗な歌声に圧倒された。米津の歌唱はどれだけ情感を込めようとも、自身の歌に酔ったナルシシズムが全く感じられない。まるで物語を微細に描写した厳かな宗教画のようだった。
再び夜空を浮かんだ畏怖を覚えるほどの大きな月がスーッと消え、静かになった浜辺に虫の音が聞こえてきた。
打上花火
天井のLEDビジョンに三日月が映っている。優しくノスタルジックなイントロとともにステージ後方からほんのりとパープルの光が漏れてくる。スタンドマイクにもたれた米津のシルエットがゆらゆらと揺れる。
イラストで描かれた波がGIFアニメのように辿々しく打ち寄せてくる。須藤のベースラインがボンボンと打ち上がる花火の音のように腹に響く。
それまで淡々と歌っていたのに、Cメロ最後の”もう少しだけ”を”すがるように叫びそのまま間奏へ。
薄暗いブルーのグラデーションに沈むように、ゆらりと片手をあげその細く長い指をしならせる。波と同化し液体のように揺蕩う身体。花火を模したオレンジのライトが華やかに刹那の光を放つ。
故郷の恋人と過ごす短い夏休みみたいな初々しい印象だった「打上花火」が、今の米津の声だと不倫旅行の最終日みたいな背徳感が漂う。
最後の”パッと花火が夜に咲いた/夜に咲いて静かに消えた〜”は、コーラスの高音部のようにアレンジしたメロディを、儚げで女性的なファルセットで歌っていた。
灰色と青
ギターを持ち、灰色と青へ。エモい流れだ。薄いスモークがグリーンから青のライトがふんわりと照らされている。
サビからギターを弾きながら歌う。そして、2コーラス目の菅田将暉パート。歌い方も声も1コーラス目と全く違う。モノマネしてるのか??と思うほど菅田の少年性の残る真っ直ぐな歌い方になっている。
音源には無いはずのピアノの音色が煌めいてライブならではの一期一会を醸し、旧友への想いを歌うこの曲にそっと寄り添っている。
2番Aメロの途中”もう一度出会えたらいいと強く思う”はメロディがアレンジされ、よりドラマチックに。Cメロ”胸が痛くて”に出てくるこの曲の最高音hiAも掠れることなくしっかりと地声が出ていた。
”すれ違うように君に会いたい”から10秒近いブレイク。客席も静まり返る。完全なる静寂。ブレス音、そして、伸びやかにサビを歌い上げる。”君もどこかで見ているかな”は鮮やかに上昇していくフェイクが加えられ、1人で歌ってるのに菅田が近くにいるような気配を感じた。
かいじゅうのマーチ
”少しでもあなたに伝えたくて言葉を覚えたんだ/喜んでくれるのかな?そうだと嬉しいな”で始まる「かいじゅうのマーチ」。他人とコミュニケーションを取れず自分だけの空想世界に閉じこもっていた米津が、その空想から生まれた音楽で”あなたと出会えて本当によかったな”と歌う。
温かみのあるライティング。プリミティブな象形文字の壁画を背景に、”泥だらけのありのままじゃ生きられないと知っていた”米津が、イヤモニを外し、目を閉じ、今こうして”あなたと同じ夢を見てますように”と願いを込める。
ここでグッとこなかったら、いつグッとくればいいんだ。空想が自分をここまで運んできたというMCが蘇る。自らを”かいじゅう”だと思っていた少年が”言葉を覚え”こんなに大勢の人々を喜ばせる大きな存在となったのだ。
やわらかな寂しさと切ない希望が入り混じった歌声は、この曲順も含め、個人的にこの日1番感動した場面となった。
馬と鹿
米津がギターを置きハンドマイクを握る。その背後にスタンバイするダンサー。真っ正面を向き仁王立ちでゆっくりと視線を上げながら歌いだすと、12人のダンサーが腕を複雑に絡め合いライン状にウェーブを描く。
2コーラス目のBメロから花道に向かう米津。ラストソングにして初めて花道に降りてきた。先頭を歩く米津を追うようにダンサーたちが後に続く。我先に進もうとする者、立ち止まる者、それぞれの苦悩や葛藤が表現されている。
先端に着くと背中合わせに輪になり米津を囲む。センターで歌う声に力が漲る。ラスサビ前の短いブレイクで、低い姿勢から渾身の力を込めて拳を大きく振り下ろす。
そこからは、ありったけのエネルギーを爆発させ、ダンサーとともにパワフルなパフォーマンスを見せる。パンチングするようなシャープで迫力あるダンスがブルーのライトを浴びて炸裂。
高みへ高みへと上りつめて行くアウトロを全身に受け止め、迸る情熱を何度もステージに叩きつける米津。緊張感のあるストリングスサウンドが最高潮に達した瞬間、ブツっと暗転しすべてが消えた。
盛大な拍手に負けない大きな声で「どうも米津玄師でした!ありがとうございました!!」と晴れやかにステージを後にした。壮観だった。
新曲
最初バラバラだったアンコールを求める拍手が、いつの間にか一定のテンポに集約された手拍子に変わる。HYPEのグッズだった蛍光オレンジのタオルがあちこちで発光している。
約7分後、サポートメンバが再びステージに現れ、都会的な気怠さを帯びたギターリフのイントロが鳴った。
2台のトラスの間に米津がいる。かったるそうにフラつきながら”ありのままじゃ生きられなくってさ”と歌い出す。
思い出せる範囲での曲調や歌詞はこちらの記事で↓
”私を見て見て見て”のビートが耳に残る。宮川の弾くNordの音色がオシャレだ。”あなたは誰、誰、誰”…左右のビジョンに映る倦怠の表情が妙に色っぽい。
途中からゴロリと仰向けに寝そべる。LADYのMVのように片膝を立てるのではなく、曲げた膝をダラッと横に開いて伸ばした右足に添えている。その姿を真上からのカメラがとらえる。こんな感じ↓
そこから突然ガバっと起き上がりあぐらをかいて、頭を降り髪をクシャクシャっとさせ、しばし歌う。キーボードの短いグリッサンドで曲が終わる。
音源リリースを切に願う。
MC3
「今やった曲はライブのために作った新曲です。いつか音源にするかもしれないけど、ま、いつかわかんないですけどね。」と思わせぶりな発言に期待を込めた拍手が送られる。
そこからサポートメンバーを1人ずつ丁寧にフルネームで紹介。そしてギターの中島に「じゃ中ちゃん、ちょっと喋ってもらっていいですか?」とMCを引き継ぐ。
「喋っちゃていいですかぁ?」と元気よく中島が出てくると、米津は後ろに下がって座り込んだ。
「今日はえらく元気だよー!!」と声を張り上げる中島を、待ってましたとばかりに笑いと拍手で出迎える観客。いつものように「堀くんのドラム、どうだった?サイコーだったよなぁ〜?」と米津を含むメンバー全員の演奏を観客と共に称え、最後に「でも一番だったのは僕だよねー!」と叫び、うっすらとスベる 。
再び米津が前に出てきて漫才コンビのような並びになる。
そう言って、見るからに怪しい手書きで「攻略本」と書かれた本を取り出し、「うんうん、なるほど」と読むふりをする。「なんでも書いてあるわ、これ」「横浜はね、スペシャルデーですよ」とか、相変わらず要領を得ないグダグダっぷりに場内爆笑。
呆れ顔の米津に「スペシャルデーって、ねぇ、なのにコードがついてんだよね」と自分のマイクを見せる。「ふーんそう」と塩対応の米津に「やっぱさ、今回のツアーでこのコードがあるってことでまだ見れてない景色があってさ」とおねだりの視線を送る。
笑いを堪えながら黙って自分のワイヤレスマイクを差し出す米津。満面の笑みでそれを受け取ると「ありがと〜」と叫び、急にオラついて客を煽り、ドラムビートと手拍子に乗ってジャンプし、踊りながら花道に飛び出す中島。そこにベース、キーボードが加わりめちゃめちゃ盛り上がる。
最初こそ爆笑していた米津だが途中で飽きたのか、そっぽを向いて例の「攻略本」をパラパラとめくっている。そして、中島が戻ってくると、ちょっと悪い顔でニヤつくとブックカバーを外し「”よつばと”の5巻でしたわ」と攻略本の中身をバラす。
最後まで収拾のつかないテキトーさで終わった中島コーナー。腹を抱えてヒーヒー言っている米津の屈託のない笑顔。「中ちゃん、サイコー」と応援する歓声。バッキバキに完成度の高いライブにぽっかりと空いた癒しの穴。
米津が、チーム辻本のダンサーと横浜公演限定のゲストMELRAW HORNSをきっちりと紹介する。
「アンコール、あと少なくなったけれど、この2組と一緒に最後までやっていきたいんだけどもー、みんなッ!最後までちゃんとついてきてくれるかなぁー?!」と叫ぶ。
大きな拍手に向かって、さらに声のボリュームを上げ「ありがと〜本当に!最後までよろしくぅ!!」と怒鳴るように気合を入れると同時に、POP SONGのイントロが華やかに鳴った。。
POP SONG
MELRAW HORNS、ダンサーも総出でお祭りのような賑やかさ。センタースクリーンには砂漠に廃墟のような映像が写っていて、天井LEDにはMVに出てきた兵士の人形がいる。サイドモニターには猫足のバスタブ。
米津は花道に降りてくると、MVのキャラそのままのコミカルな動きで客を指差し、突然身を乗り出して視線を送り、手を振って翻弄する。ファンサ、ファンサと喜ぶ声がSNSに溢れた場面だが、私にはトリックスター が憑依した演技のように見えた。
間奏でノリノリで演奏するMELRAW HORNS、グッズの大きな猫のぬいぐるみを抱えたり、ヘルメットを被ったダンサーなどが入り乱れ、玩具箱をひっくり返したような楽しさ!
パラパラッパラッパパ〜の巻き舌フェイクが軽妙でイケ散らかしてる。全体にノリが良いせいか音源よりテンポが速いように感じた。そして、最後の”全部くだらねぇ!”は、客席にマイクを向け会場全体で歌う。アウトロのピアノも最高だ。
ラストは、ビジョンにライブ「変身」のキャラクターだったNIGIちゃんがたくさん現れ、不気味にかわいく笑っていた。
アイネクライネ
ワンマンでは100%歌っているライブの定番曲「アイネクライネ」。フェス等を入れても最多披露曲である。
淡いブルーとピンクの照明の中、ギターを弾きながら安定感のある歌声を聴かせる。MVと同じトランプ柄のモチーフがバックスクリーンに可愛らしく現れては消える。
ラスサビ前、身体を折り曲げてガンガンにギターを掻き鳴らす。”あたしの名前を呼んでくれた”は”名前を”のみ「変身」の時と同じアレンジが加えられていた。
今回のツアーでは各会場とも初日のアンコール3曲目はアイネクライネ ではなくFlamingoだった。次のツアーでついにこの曲がセトリから消えるのか否か?要注目だ。
PLACEBO
80年代風の曲調に合わせてか、原色系の派手な背景、ピンクのバックライトがバブリーな雰囲気を醸し出す。イントロで両手を広げピョンピョンと跳ねながら回転すると髪もフワフワと跳ねる。
落ちてきた前髪を乱暴にかきあげ悩ましげな目で歌いだす。いわゆる流し目というやつだ。サビからはツーステップっぽい横ノリでクネクネと踊る。
”落ちてく〜”は脚を開き片膝を曲げそこに手をついて揺れながら歌う。
上手側に向かって歌い、下手側にも向きを変えて視線を送る。観客は手拍子をしながら一緒に踊りまくっている。最後の”落ちてく〜”の後に高い声で”フオッ!”と息を吹きビシっとキメ込んだ。
こういうパリピ風のチャラいノリで、野田洋次郎とのリアルデュエットをいつか見てみたい。
LADY
やや長い間があって始まったキーボードのリフに手拍子が重なる。センタースクリーンに白いラインが走る。グラフィカルなイラストで青空や白いビルが描かれている。
ダンサーを従え軽快に歌う声が爽やかだ。”そのすべて愛おしかった”で遠くを見つめて小さく2回うなづく。2コーラス目の歌詞”ひどい不幸が襲い”を飛ばし、ゴニョゴニョとごまかし、やっちまったとばかりに自分の頭をコンコンと叩く。
Cメロ以降、後半はさすがに高音がキツそうだったが、心地いい倦怠感と清々しい印象を残し全23曲を歌い切ると「どうも米津玄師でした、ありがとうございました」と両手を広げ、深々と頭を下げた。その間、約15秒、じっと動かない米津に惜しみない拍手が送られた。
エンディング
ステージが暗くなるとオープニングと同じ銀河鉄道が待っていた。それに乗り込むようにセンタースクリーンに向かって歩いていく米津。彼の姿が見えなくなると汽車は再び銀河へと帰っていった
暗転したスクリーンに長い長いエンドロールが流れる。最後に「General Director(総監督)米津玄師」の文字がアップされると拍手が一際大きくなった。
所感
米津はかねてからライブを「ファン感謝祭」だと言っていた。この日も彼は何度も何度も”自分の音楽を好きでいてくれる人たち”に「ありがとう」と御礼を述べ、素晴らしい空想の旅へと招待した。
だが、それだけではないと思う。
何から何まで熱い想いときめ細かな愛が息づいていたライブ。それは自分をここまで導いてくれた「空想」と、それによって生まれた「音楽」への最大の感謝祭だったのではないか?
主役の音楽たちが最も魅力的に見えるよう趣向を凝らし今持てる力のすべてを出し切って舞台を構成し、演出を考え、歌い躍ったのだと思う。
これからも米津と音楽の蜜月をずっと見ていたいと心から思った。
こんなアホほど長いレポを読んでいただきありがとうございました。
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