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2021年 好みだけで選んだ邦楽トップ10

 2021年もあとわずか。今年最後の記事は考察でも分析でも、ましてや批評でもない単なる好き嫌いだけで選んだJ-POPの鬼リピトップ10ランキング。

 いつもとは違い客観性ゼロの記事だから、もう忖度なしで好き勝手に書いていく。ファンの方には「この曲はあの曲より上位だろう!!!」とか叱られるかもしれないが、あくまでも私見なので悪しからず。

10位 「金木犀」アイナ・ジ・エンド

 解散間近のBiSHのメンバーであるアイナ・ジ・エンド。彼女の魅力はなんと言っても独特なハスキーボイスだろう。

 一口にハスキーな声と言っても様々な質感があるが、アイナ・ジ・エンドの声は喉から鼻にこもった空気が窮屈そうに押し出されてくる。さらにやや舌足らずな発音と相まって、苦しげなのに甘く、どこか暴力的な少女性を秘めている。

 そんな彼女の声を、THE FIRST TAKEでの「金木犀」では存分に味わい尽くすことができる。この曲は今年リリースされたソロアルバムに収録されているが、デモを制作したのは6年も前だと言う。「濡れ場」とか「情事」とか湿度のある言葉がしっくりくるような実に色っぽい楽曲だ。

 マイクを愛撫するような指先、細い体をよじりながら歌う姿もまた「金木犀」のせるような香りを醸し出している。特に2コーラス目の「密やかに浮かぶの、影ぇ〜えぇ〜」の部分は必聴。


9位 「Lost In Paradise」ALI

 メンバー全員がハーフというグルーブ感バリバリの多国籍バンド。不祥事で一時活動を停止していたが、今年11月に復活した。この曲自体はTVアニメ「呪術廻戦」エンディングテーマで昨年の作品だが、バンド復活後、新たにサブスクやYouTubeにアップされた。

 大谷翔平の登場曲としてもお馴染みだ。ダンサブルでノリがよく、この曲を聴くと家事でもランニングでもなんでもいいが、とにかく身体を動かしたくなる。歌詞がほぼ英語なので洋楽感覚で聴いている。「ちょいちょい日本語入れなくてもよかったんじゃない?」と思いながら。

  ALIは他にも「STAYING IN THE GROOVE」もおすすめ。いろんな作業が捗ること間違いなしw


8位 「踊り子」Vaundy

 Vaundyって脱力感とオシャレ感とエモさがいい塩梅で配合されていて、本当に”THEイマドキ”だと思う。「踊り子」はそのバランスが黄金比並みに絶妙だ。

古いUKロックと昭和歌謡がミックスされたようなサウンド。小松菜奈を起用したレトロなMV。いい感じに力の抜けた歌声。全体のテイストが昭和58年のカネボウCMソングだった「君に胸キュン」(YMO)を彷彿とさせる。

 改めて「君に胸キュン」のMVを見たが、30代のおじさん3人が魂を抜かれたような目でグダグダのダンスを踊り、時々「キュン❤️」と不気味な笑顔を見せる映像はかなりシュールである。お若い方は知らないだろうが、昭和の大ヒット曲であることを胸に刻んでいただきたい。

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 MVが小松菜奈と菅田将暉との結婚発表の2日後にアップされたことで、この曲のエモさがはち切れんばかりに膨張したことは間違いないだろう。


7位 「タナトフォビア」キタニタツヤ

「タナトフォビア」とは”死恐怖症”と言う意味で、マンガ「BLEACH」の原画展「BLEACH EX.」のイメージソングとして書き下ろされた。

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 キタニの曲には「死」にまつわる言葉が頻出している。その中でもこの曲はタイトルからして生のすぐ隣にある死にどっぷりと浸かっている。しかし、死と言うフィルターを通し、緊張感あるサウンドに乗せて歌っているのは”限りある命の価値”だ。

自らが一直線にそこ(死)へ向かう存在であること、残された時間がそう多くないこと。普段無意識に隠蔽し、考えることを拒んでいる事実だ。
しかし死を恐れ先を憂い、無為に過ごした時間の山を前に悔いる過程を経て、人はより良い今日と明日を生きるべく努めることができるのだと思う。
(キタニタツヤのコメントより抜粋)

 「今日という日の花を摘んで束ねたブーケを飾って」という歌詞は古代ローマの詩人ホラティウスの詩からの引用だと思われる。

神々がどのような死を我々にいつ与えるかは知ることは出来ず、知ろうと苦しむよりも、どのような死でも受け容れるほうがよりよいこと、短い人生の中の未来に希望を求めるよりもその日その日を有効に使い楽しむほうが賢明であることが歌われている。(Wikipediaより)

 この曲とMVの完成度もさることながら、新年早々スタートするTVドラマ「ゴシップ 」に主題歌だけでなく複数曲を提供するというキタニタツヤ。曲、詞、歌唱、ビジュアル、キャラがレーダーチャートにキレイな五角形を描くキタニは、藤井風に続くかもしれない2022年の最注目アーティストである。


6位 「緑酒」東京事変

 大人の遊び心とエバーグリーンな勢いを併せ持つ実力派揃いのメンバーが、元気のない日本に「喝!」を入れてくれるような曲。旨い酒でも一気飲みしてスッと立ち上がりたくなる。

 テレ東の経済ニュース「ワールドビジネスサテライト」のエンディングテーマ曲らしく、歌詞には世相やポリティカルな要素も盛り込まれており、下手な政治家やコメンテーターの話より説得力がある。

乾杯、日本の衆
いつか本当の味を知って酔いたいから樹立しよう、
簡素な真人間に救いある新型社会
次世代へ「ただ真っ当に生きろ」と
言い放てる時、遂に祝う。
その一口ぞ、青々と自由たる香、
さぞ染み入ることだろう
伝う汗と涙が報われて欲しい皆の衆

 頑張っているのに報われない人々、若い者にバトンを渡し支援すべき人々、声を出せない人々、そんな市井の人々を奮い立たせるようなこの曲を聞くと、真っ当な世の中を心から祈願したくなる。初詣で祈ろう。

 椎名林檎のパートナーである児玉裕一監督による日本という国の美しさを極めたMVも秀逸。


5位 「泡」KingGnu

 音源よりもMV、MVよりもライブが上回る、まるで生き物のような楽曲。音源が胎児だとすると、MVで産声をあげ、ライブで育つ。そんなイメージだ。

 心臓の鼓動のようなベース音がこの曲の全身に血液を巡らせている。そして、何度聞いても歌詞が頭に入ってこない。いい意味で歌詞が音でしかない。純粋にサウンドだけで海の底に引き込まれるような感覚になれる。

 KingGnuは生歌、生演奏が音源を超える、、、いや、音源とは違う次元で”化ける”バンドだ。

 MVも暗い海底に潜む恐怖と、水面の煌めきの間を漂う森山未來のあまりにも神秘的な舞い。もしかしたらうちの風呂も異次元の海に繋がっているんじゃないかと錯覚するほどである。


4位 「きらり」藤井風

 藤井風には大いなる期待を込めて少々苦言を呈したい。今年リリースされた「旅路」「きらり」「燃えよ」は、すべていい曲である。だが、デビュー時の度肝を抜かれるようなインパクト期が過ぎ、期待度MAX状態で聴くには少々物足りなかった。

 そして突然踊り出した。そう、彼はビリー・ジョエルのようなピアノマンになりたいのではなく、マイケル・ジャクソンになりたいのだ。だが、そのダンスは米津玄師のLoser級の独自性があるわけでも、ジャニーズやBTSレベルの技術もない中途半端な出来だった言わざるを得ない。

 辛辣ついでに言わせてもらえば、MVはヴェゼルのブランドムービーを流用した方が良かった気がする。助手席に藤井風を乗せたバージョンは録ってなかったのだろうか?

 それでも、「きらり」はCMソングとしてお茶の間に大量投入され、藤井風最大のヒット曲となった。車のCMにふさわしい爽やかな疾走感とキャッチーなサビは、音楽通だけでなく、初めて藤井風を知った人をも虜にするハッピーオーラを撒き散らし、33週に渡っていまだにヒットチャートの30位近辺をキープしている。(BillboadJapan総合チャート)。

 とにかく藤井風が音楽業界を震撼させるだけの逸材であることは間違いない。セカンドアルバムを含め、来年以降どんな展開を見せるのか目が離せない。

3位 「君に夢中」宇多田ヒカル

 今年、宇多田がリリースした3曲全てが主題歌である。ネット上には「イントロが流れた瞬間、涙腺崩壊」「この曲はエヴァそのもの」「宇多田は主題歌作る天才!」などと”作品と曲の親和性”を絶賛する声で溢れている。

 残念ながら筆者はどの作品も見ていない。しかし、「One Last Kiss」「Pink Blood」そして「君に夢中」の音源だけで千鳥足になるほど酔いしれた。

 特に「君に夢中」はイントロからやられる。宇多田の絶品ボイスはもちろん、入っている音のすべてが繊細な心を持ち、それぞれの感情をそれぞれの人格で表現している。ミキシングも絶妙だ。

 イントロの煌めくようなピアノ、歌始まりでの深みのあるアルペジオ、2コーラス目始まりのドラムの鼓動、2'16"からのサイレンのような音、サビに重なるコーラスがラストでオンリーになるアウトロのなカタルシス。書き出したら際限なく、語彙力も保たない。

 レコーディングシーンをモノクロで見せていくMVもトッププロの現場を覗き見れるようで興味深い。24年ものキャリアを経てなお、これだけの鮮度のある最上級の曲を生み続ける宇多田ヒカルの才能は恐ろしいほどだ。

2位 「不思議」星野源

 これもドラマ主題歌である。当該ドラマそのものは、神山羊の劇伴と星野源の主題歌に助けられていたものの凡庸な作品だった。横浜流星のご尊顔を拝むために観ていたようなものである。映像とのマッチングで言えば、星野本人が出演しているMVの方が遥かに素晴らしい。

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 冒頭からそのままグラフィック作品としても成立しそうな”デザインされた”カットが随所に出現する。色合いから構図、カット割までもが都会的な洗練の極めているのに、星野と犬の体温がそこにあることで、この曲に与えられた使命である”キュン”が浮かび上がる。

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 特に、パーキングからスーパーマーケットへのこの繋ぎのオシャレさにはハッと息を飲んだ。

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 ちなみにこのMVの監督は前述のヴェゼルブランドムービーやアイナ・ジ・エンドの金木犀MVも手掛けている林響太朗である。彼はドラマ「おかえりモネ」のタイトルバックや主題歌の「なないろ」(BUMP OF CHICKEN)のMVの監督でもある。米津玄師の「TEENAGE RIOT」も彼の作品だ。

 「不思議」を聴くと暖かいのに悪寒がするような、まさに”不思議”な感覚に包まれる。内包する不安や背中合わせの地獄を、柔らかく明るいメロディーと穏やかな星野源の声で中和させている感じだ。

まだ やだ
遠く脆い愛に似た強い
君を想った日々をすべて
乗せて届くように詰め込んだ歌
孤独の側にいる愛に足る想い
2人を今歩き出す

 前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからない不思議な歌詞もまた、愛や幸せの脆弱性を孕んでいる。その儚い美しさに触れたくて何度も聴き、そして観たのが「不思議」という作品である。

1位 「ゆめうつつ」米津玄師

 米津玄師もまた、ドラマ主題歌「PaleBlue」をシングルとして発売している。最後なので思い切って言わせていただくが、このドラマが本当にアレだった。個人的には観てられないレベルだった。

 「Lemon」は言わずもがな、「馬と鹿」「感電」が共に約1年半もの間ヒットチャートに留まっていたのに対し「PaleBlue」はわずか19週で圏外に落ちている。過去3曲が主題歌だったドラマの出来と「リコカツ」を比べてみればそれも納得できる。

 敗因(”稀代のヒットメーカー米津玄師にしては”という注釈付きだが)は、楽曲がドラマに寄り過ぎたことではないかと思う。劇中では毎回鳥肌が立つほどに機能していた「PaleBlue」だが、その後音源だけを繰り返し聴く回数はあまり多くなかった。

 ドラマを補完しなければならない過剰なまでのロマンチックさが、普段聴くには少々甘過ぎたのかもしれない。

 それよりも鬼リピしたのはカップリングの死神だ。聴いても聴いても耳が”アジャラカモクレンテケレッツノパー”を欲する。まさに死神ジャンキー状態。米津玄師「シングル3曲目激アツ現象」は今回も健在だった。

 そして、「ゆめうつつ」だが、私はこの曲が不憫でならない。当然、両A面だろうと思ったらまさかのカップリング扱い。さらにMVもなく、メディアにもほとんど取り上げられない。NewsZeroではエンディングテーマなのに毎回ぶつ切りで20秒流れれば御の字という始末。

 「ゆめうつつ」は米津が初めて「オシャレ」に足を踏み入れた曲だと思う。石若駿のトリッキーなドラムと坂東祐大の上質でシネマティックなアレンジにより、イケオジというにはまだ早いが大人の男のエレガンスが漂っている。この曲で米津はまたしても鮮やかな変貌を遂げた。

 「死神」と散々迷ったが、話題性の少なかった「ゆめうつつ」を1位とした。埋れさせるにはあまりにも惜しい名曲だからだ。

今年も1年間読んでいただき本当にありがとうございました。
来年もコツコツと書き続けていこうと思っておりますので、引き続きお付き合いくださいね。最後によろしかったらスキ&フォロー&シェアをしていただけると嬉しいです。

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