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店・粋雨 ①【1分マガジン・ショートショート500文字】

「いらっしゃい」

静かな低いトーンで迎えられた。
店は狭い。置かれているのは、透明のガラスケースに入った色とりどりの小瓶ばかり。
間が持たず、小瓶を見まわす。
「桃」「藤」。ああ、花の名前だ。
隣のケースには、鉱物の名も。
居心地は悪くない。というか、店主の存在を感じないのだ。隅にはいるのに。

「すみません」
思い切って声を出してみる。
すると、店主の視線がこちらに移り、「何?」と目が訊いてくる。

「この辺りに、白の彼岸花が咲いているところがあると聞いてきたのですが見つけられなくて。もしご存じだったら教えて頂けませんか?」

「誰に聞いたのかい?」

「はい、姉に。僕の姉に」

店主はじろりと僕の目を覗き込んだ。そして言った。

「命を落としたんだね、お姉さん。いいよ、ついておいで」

僕はちょっとだけ驚いて、でも、何故か安堵して、店主の後をついて行った。
店の奥の扉をくぐれば、ほの暗い廊下。そこを十歩ほど進み、右に折れた先、もう一枚の扉。
僕を待ってから、店主がその扉を開けた。

目の前には、白い彼岸花が群生していた。

「ああ、姉さん」
僕は声が漏れた。

「白の彼岸花の花言葉を知っているかい?
『また逢う日を楽しみに』だよ」

店主が言った。


   了

     ・・・・・

小牧さんのこちらの企画に参加させていただきます。
宜しくお願いいたします。

なお、このお話は、どーなつ。さんの「タツナミソウ」のスピンオフ作品です。
ありがとうございました!


トップ画像の、白い彼岸花(曼殊沙華)は、大塚裕人さんのTwitter投稿からお借りしました。

ありがとうございました!



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