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夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

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2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
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#超短編小説

ツケ払い、ニャー【短編創作】

「で、払ってくれる?あの女の借金1,000万円」 突然の取り立てに、父親は困惑していた。 昼過ぎの休憩時間。 さっきまで、スマホで好きなお笑いコンビのネタを観ながら笑っていたのに、今は怒りに体を震わせている。 「こんな小さな定食屋に、そんな額を払えるわけがないだろ!」 父親は抗うが、借金取りは首を横に振る。 「保証人の欄にサインと印鑑がある。これ、あなたのだよね?」 見せられた書類を奪い取った父親の顔は、みるみる青ざめていく。隣にいた母親は泣き崩れた。 「また」だ。

コピーする鏡

 その鏡が人を映すだけではなく、中の人が外に出てこられる、すなわち人をコピーできる、という事実は高校生の猪口を大いに驚かせた。  滅多に人が出入りしない美術室倉庫。その奥にホコリをかぶっていた等身大の鏡。普段そこに鏡があることすら意識してなかった。だから、いざ部屋を出ようとした時、自分そっくりのコピーが中から出てきて自分に正対した時は驚愕した。猪口はしばらくそこで茫然とし、その「彼」も自分と同じように話し、声までそっくりであることを知り、自分の代役になるお願いをした。何のこと

【短編小説】 鏡よ鏡 【夏ピリカ】

「鏡よ鏡、この世で一番可愛いのは誰?」 幼少期によく絵本で読んだグリム童話の真似をして、戯けて問うが返事は無い。おかしい。聞こえなかったのだろうか。 「ねえ、鏡よ鏡。この世で一番可愛いのは誰だと思う?」 まただ。返事が無い。 「聞こえているんでしょ。何とか言ったらどうなの」 何度問いかけても返答がないことに、だんだん声を荒げてしまう。 「どうして何も答えてくれないのよ」 鏡は沈黙を貫いたままだった。いつまで私を無視し続けるつもりなのだろう。この前まではそんな事し

【小説】鏡のない王国

どんな人間でも必ず暇つぶしになる道具がある。 何かわかる? 鏡だよ。 少し前に、常に混雑していて「待ち時間が長い!」とクレーム出まくりの女子トイレがあった。でも解決は簡単だった。通路に鏡を設置したんだ。それだけ。それだけで誰も文句を言わなくなった。待ち時間は長いままなのに。 待つ間、みんな鏡に夢中になったのさ。 女性だけじゃない、男だってそうさ。みんな鏡が大好き。いや、鏡が好きなんじゃない。みんな自分自身が大好きなんだ。大好きな自分と必ず会える鏡を、覗かずにはいられな