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いかりを愛せるようになって

ブシュッ。ゴゴゴゴ。ぶつっぶつっ。
怒りという感情は、感情の爆発を、憤りを沸騰させて、ごうごうと燃やしてくれる。

怒り、怒る、ムカつく、腹が立つ


私は母親に何か口答えをするたびに、「癇癪持ち」と叱られていた。
私の吹き上がる感情は「癇癪」なので、外に出してはいけない。恥ずかしく思わなければいけない。直さないといけない。

中学以来今でも連絡を取り続けている友人は、ほとんど怒るところを見たことがない。穏やかで、なんでそんな風に振る舞えるのか不思議でたまらなかった。
当たり屋みたいに怒りの矛先にぶつかりに行かなくたって、避けようとしていても吹き出物みたいに、ひっくり返した時のパンケーキみたいにぶつぶつと吹き上がってくるのだ。気泡が沢山空いたパンケーキは気持ち悪くて、すぐに鉄製のフライ返しでひっくり返す。そうすれば穴は塞がって、綺麗なきつね色になる。




「アンガーマネジメント」という言葉があるくらいだから、アンガーは悪いことなんだ。
友人が心底羨ましかった。友人や、憤りを感じているところを見たことがないあの子は、きっとパンケーキの穴の気持ち悪さをゆっくり眺めていることができるんだろう。

大学生になっても、この癖は無くならなかった。きっと、これは自分の性格だから一生治らないだろう。図書室で読んだ「老害」という本に、歳をとってアルツハイマーや認知症になると、性格の悪い部分が吹き出して、制御が聞かなくなるんだって。わがままな人は、家族いうことを聞かないと手が出るようになって、手がつけられないらしい。

そしたら私は、おばあちゃんになったら今よりもっと怒りんぼで癇癪持ちになるんだろうか。嫌だなあ。きっとヘルパーさんにも嫌われてしまうだろうから、そうなるまでに日本でも安楽死ができるようになって、きっとさっさと終わらせてしまおう。


「あおいちゃんは、ギフテッドなんじゃないかな。」

「えっ?」

その日私は、大学の質的調査の授業課題のため、ある女性にインタビューをしていた。働く女性の地位向上のためアクションを起こしている団体に興味を持ち、コンタクトをとると二つ返事で快諾してくれた。育児中で、2人目を妊娠中にも関わらずとても穏やかで、羨ましい、と思った。

何かの拍子に自分の怒りっぽいところ、癇癪持ちが治らないところがとても嫌だ、とこぼした時に帰ってきたことば。

ギフテッド。贈り物。私の怒りっぽさが、贈り物?
家に帰ってからも、ぐるぐると受け取った言葉を反芻し続けていた。

「怒れる」のは、本当に自分の判断軸がある証拠で、ギフテッドの1つだと思っています。ギフテッド、いろいろな意味があるけど私は「その人に与えられた特別な能力」という解釈をしてます。

ゆっくりと自分の中に落ちてきて、砂の中に沈み込むような優しい言葉だった。

思い返せば、別に私は、なんでもかんでも怒っていたわけじゃない。
理不尽にバカにされたり、それは違うと思った時、どうしても我慢ができなかった。

怒らないと、違うって、だめだって言わないと奪われてしまう、そう思ったから。
だけど、母親は私の「怒り」そのものを否定して、なんで怒ってるのかのかは気にしなかった。

癇癪持ちなことを相談したときに、どうやって感情をコントロールするか、消していくかのアドバイスをもらったことはあるけれど、そんな風な言葉をもらったのは初めてだった。

「自分の感情を出せる人ばっかりじゃない」


怒りっぽい自分が大嫌いだった私を、「ギフテッド」だと言ってくれたあなたへ

私は、自分の怒りっぽい性格を、前よりも愛せるようになりました。
感情を出したくないのに溢れてくることがとても苦しかった私のように、出せないことに苦しんでいる人がいることに気がつくことができました。

政治の納得できないこと、日々投げ込まれる言葉の槍に、できない人たちの代わりに話すことができる。行動する源が私にはある。自分のためにも、他の人のためにも。そう思うことができるようになりました。
セクハラ発言をされたとき、言い返せるようになった。デモに行って、他の人と一緒に連帯できるようになった。記者会見をしてジェンダー不平等について話したり、公の場で話すことに慣れるようになった。
振り返ると、随分成長したと思います。

もちろん、理不尽に感情を撒き散らかすことはよくないけれど。自分のギフトの使い方が、前より上手くなりました。

とてもとても救われました。あなたから数年前にもらった言葉、今もとても大切にしまってあります。
あのとき抱かせてくださった赤ちゃん、元気に大きくなってますか。柔らかくて、温かくて、今にも溶け出しそうだったあの子。

私は今のところ母親にも、妻にもなりたくはないけれど。あのときのあなたみたいに、そっと痛みに寄り添える人間でありたいです。

自由が丘駅のおしゃれなカフェで


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