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オンラインケース検討会 車椅子パパの「どうしたらいいの?!新生児育児!!」

はじめに

 私たちは現在、施設や病院を出た後の育児の相談先がなかなかなく、個人個人で試行錯誤するしかない車椅子ユーザーの育児の現状を、セラピストの方々(OT/PT)と繋がることで変えていきたいと思っています。

 この度、PT・そうちゃんにご協力いただき、脊髄損傷専門セラピストさんたちと繋がることができました。


※OT:作業療法士  PT:理学療法士


 今回は7月に赤ちゃんが生まれたばかりのご夫婦の育児の悩みに、セラピストさんたちの目線からご意見を頂きたいと思い、育児経験のある脊髄損傷専門のセラピストの方々にご協力をいただきました。


日時 2020.8.26(木) PM8:00~10:00
場所 ZOOM
参加者 OT1名 PT5名(いずれも脊髄損傷を専門とするセラピストの方々)
    タナカさん・ayaさん夫妻 ウィルチェアファミリーより2名


今回の相談者は?!(フェイスシート)

家族構成
夫(タナカ) 急性脳脊髄炎(Th6完全麻痺) フルタイム勤務 在宅サービスの利用なし
妻(aya) 育休中
BABY 7月末生まれ 
現在は夫の実家暮らしだが、現在新居を建築中。秋には新居で家族3人暮らしが始まる。


悩み
・赤ちゃんを、渡してもらわないと抱っこできない。
・抱っこのまま移動できない。
・沐浴ができない。
・おむつ交換はできるが、赤ちゃんを連れてきて目の前に寝かせるところまで妻の介助が必要

妻の想い
今のところは育休中なので、子どもとの触れ合いや夫婦の一体感を共有していければいいかなと思うが、秋から3人での生活が始まることや、今後の職場復帰も考えると夫に子どものことをお願いできるようにしたい。どこまでのことができるようになるのかの想像もつかず、不安。夫に育児に参加してほしい。


夫の想い
妻一人に負担を掛けたくないが、実際には腹筋も使えないため難しいことが多いと感じる。何か方法がないか教えて欲しい。


重要なのは基本動作の獲得


 以前訪問リハビリで床トラ(床から車椅子に座る動作)を練習したものの、うまくいかずそのまま気付くとメニューから外れており、床トラを習得していないというタナカさん。

 残存機能のレベルからすると床トラは確実に獲得可能なレベル。赤ちゃんとの生活は特に床トラができた方が便利でお得!
まずは新居完成までに床トラの習得を目指してみては?という提案がありました。

 今できる動作の中からできることをやることもひとつですが、こうしてセラピストさんに介入していただくことで諦めなくてもいい動作がある可能性もあるということがわかりました。基本動作の獲得により、育児のみならず生活の幅も広がることでしょう。


かっこ悪い?!あると便利な体幹ベルト


 腹筋が効かず、赤ちゃんを抱き寄せることが難しいというタナカさんに
セラピストさんたちが提案されたのが体幹ベルトでした。

 抱っこ紐をしても赤ちゃんの重みに体幹がもって行かれてしまうこともあるので車椅子と体を体幹ベルトで固定することで両手のリーチが広がり、生活の幅を広げることができます。


 またお座り期を過ぎれば、赤ちゃんの体ごと体幹ベルトで巻いてしまえば赤ちゃんの膝からの転落防止や、膝で寝てしまった場合の抱っこ紐のような役割も果たしてくれるのではないでしょうか?
 それと同時に完全麻痺の場合は赤ちゃんのお尻が足の間に落ちてしまうのを防ぐためにも、床トラのためにも足を固定するベルトのようなものがあると便利です。

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 胸椎以下損傷の方の中には、「重度みたい」「かっこ悪い」と拒否的な人も中にはおられるようですが、1つあるととても便利なんですね。

体幹ベルトの提案
自作(一番オススメ) 着物の伊達巻き(マジックテープ式)
キャリーバッグ用ベルトの改良
OXなどの車椅子メーカーからの既製品も出ている
 

足ベルトの提案 
革製の犬の首輪 ベルト 自作


文明の利器で負担を軽減!?音声認識デバイスが余裕を生む!?


 上肢に障害がなくてもベッドにトランスした後などに「ああリモコンが手元になかった」という時や、帰宅前に家の中を冷やしておこうという時など音声認識デバイス(Googleホームやアレクサ等)によって時間短縮を測ることができ、家事育児時間や余裕を作るという方法もあります。

 育児そのものではなく生活の他の部分で負担を軽減し、トータル的に生活負担を軽減するのも手なんですね。
 電気スイッチ、エアコン予約、リモコン、玄関の開け閉めにリマインダー、子どもの好きな音楽でご機嫌を取るなどなど、音声入力装置を使ってみてこうだったよ!という情報もお待ちしております。

住宅環境・道具の使いやすさ・子どもの成長で大きく異なる車椅子育児!!

 車椅子の育児では、ベビーベッドに足が入るように高さを工夫しリフォームや自作することで、体に無理なく育児の幅を広げることが可能です。残念ながら今現在既製品がなく、個人個人の体に合わせ自分たちでリフォームすることになりますが、あるととても便利です。

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 片手で赤ちゃんをホールドすると車椅子を漕げない!と思うかもしれませんが、片手で交互に漕いだり、室内であれば家具や壁を掴んで腕を引き寄せれば少しの移動なら可能なこともあります。移動しなければならない状況を減らす工夫をしたり、障害状態や様々な状況を鑑みた上で新生児期の移動は割り切ってしまうというのも選択の1つかもしれません。

 育児経験のある脊髄損傷者の多くは、沐浴は難しいという人が多いですが(自分の体幹と赤ちゃんを同時に支えることが難しいため)、住宅環境によっても大きく変わります。洗体台の上で空気を入れるタイプのベビーバスを長座の膝の上に置いて使ったというケースや、長座で座ったの足の間にベビーバスを置いて前傾で洗ったというケースもありますが、身体状況や住宅の状況に合った安全な方法を選ぶと良いでしょう。浴室にこだわらなくても洗面台やキッチンで行う方法もありますが、いずれも住宅環境によって大きく異なります。家族やサポートしてくれる人が赤ちゃんを洗ってくれた後に、膝にバスタオルを敷いて拭いてケアする係になるのも沐浴に参加するひとつの手ですね。

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 物理的に不可能なことは割り切って、でも赤ちゃんとの触れ合いを大切にし、できるお世話はできる方法でしっかり行っている車椅子パパ・ママもたくさんいます。

 車椅子ユーザーが育児をする上で大変なのは、使い良い道具を探すことです。色々な道具を駆使し試行錯誤して、やっとできる道具とできる方法をやっと獲得できたと思っても子どもは成長していきます。子どもの成長でできることは増え、できた方法が通用しなくなり、また一から「どうしよう!!」と試行錯誤の日々が始まるのが車椅子育児の難しさかもしれません。
 自分と似た障害状態の人が、どんな道具でどんな方法で育児していたのかという情報を得ておくことが大切です。そのためにウィルチェアファミリーでは皆さんの育児の体験談を募集しています。


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NPO法人日本せきずい基金発刊の『私もママになる!』は、多くの車椅子ママたちに読まれている一冊です。



お仕事パパ・ママ、保育園への送迎は?


 タナカ家の妻 ayaさんは変則勤務のお仕事をされています。現在は育休中ですが、期間は来年の4月まで。延長すれば1歳半まで取得できますがお子さんが1歳を迎えるまでには保育園に預けて復職の予定です。


 「夫が保育園の送り迎えや朝の支度をできるのかもわからない。最悪、勤務形態を変えるしかないかも。」と語る妻ayaさん。変則勤務のayaさんが復職すれば、朝から夕方までという勤務形態のタナカさんに保育園の送迎をお願いしたいところです。

 夫が送迎や朝の支度ができないから、妻の働き方を変えなければならないというのもお互いに辛いところ。タナカさんのお義母さんに頼むこともでききるそうですが、娘さんが保育園に通う頃には別居になります。毎日となると負担が大きく、お義母さんも仕事をされているため朝の支度や送迎は現実的ではありません。

 実はチャイルドシートに赤ちゃんをのせるは体幹のない車椅子ユーザーには至難の業!!赤ちゃんを掲げると自分の体を支えることが難しく、かつ足が邪魔してチャイルドシートとの距離感が生まれてしまいます。車種にも寄りますが車椅子ユーザーの位置から車のシート上にあるチャイルドシートはかなり高く遠い位置に感じます。回転式を使う手もありますが、仮に赤ちゃんをチャイルドシートに乗せることができたとしても両サイドから持ってきてはめるタイプのシートベルトは、手に麻痺がなかったとしてもなかなか大変なのです。

 抱っこ紐で赤ちゃんを抱っこしたまま車に移乗し、助手席のチャイルドシートに赤ちゃんを乗せるというママや、育児のために車をお迎えシート付のものに買い替え、お迎えシートにチャイルドシートを付けたママ、色んな工夫をしながら育てていた車椅子ママたちの事例はありますが、どれも安全を第一に考えた時に難しい印象を受けます。
 1歳からのジュニアシートへの早めの移行という手もありますが、お互いの安全を第一に考えるなら、人の手に頼るのが良いのかもしれません。


 使えるサポートの手としては、家族・友人・ファミリーサポートセンターなどがありますが、毎日のこととなるとハードルを感じるかもしれません。

 セラピストさんたちからも、チャイルドシートに子どもを乗せるのは厳しいかもしれないとの意見をいただきました。そこで出たのが、保育園にできないことを伝えて一緒に考えてもらうという案です。そして、理解のある園を選ぶこと。手厚い共助の手がある地域であれば同じ時間帯に送迎している保護者の方や先生に載せ下ろしだけお願いすることもできるかもしれません。
 職場に事情相談し、理解を得ることも大切です。「自分も保育園の送迎をしなきゃいけない期間があって上司に相談して勤務時間の調整をしてもらった!」という意見や、「子どもが熱出して休むことも多かったけれどみんな育児中はお互い様という雰囲気だった」という意見などセラピストの皆さんからは働く人としての意見も聞くことができました。職場の雰囲気や上司の理解にもよりますが、育児中はお互い様!という風潮の職場もあるようです。
 
 また居宅介護事業の家事援助の中の育児支援(2009.07.10 厚生労働省より各都道府県宛に通知された【「障害者自立支援法上の居宅介護(家事援助)等の業務に含まれる「育児支援」について」の事務連絡】)について行政に確認してみる方法もあります。
 
 自分たちだけでどうにもできない時はサポートの手を求めても良いんです。今は必要なかったとしても、いざとなった時に使えるように。使わなくても事前に確保しておくと、困った時にすぐ頼ることができます
 育児に手が必要なのは障害のある親たちだけではありません。どんな家庭でも、育児をする上では手は多いほうがいいのですから。様々な助けを駆使しながら、理想と現実の落としどころがうまく見つかるといいですね。

タナカ家の今後の課題
・床トラの獲得
・体幹ベルト・足ベルトの確保


まとめ


 障害のある本人がどこまでどういう育児ができるのかという問題はもちろんありますが、育児を担う上では本人がどうかだけではなく家族として全体でどうかという視点もとても大切だと感じます。子どもは日々成長していきます。その都度状況は変わり、できること・できないことの落としどころを見つけていく作業の繰り返しです。
 物理的にできない部分をどう解決していくか探ると同時に、父親役割・母親役割に囚われず、できることをできる方がやっていくという役割の変容とともに、1つ相手にしてもらったら1つ役割を肩代わりしていくというような思いやりの作業も大切なのではないでしょうか。

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 その中で安全を第一に考え、健常者のような育児のやり方や家族の在り方に囚われず、柔軟に対応していく勇気が今、私たちには求められているのかもしれません。


 今回ご協力いただいたタナカさん・aya一家ですが秋には新居での家族3人の生活も始まり、環境も大きく変わっていくことが予想されます。引っ越し後の生活の課題も、またセラピストさんたちと検討していきたいと思います!!乞うご期待!!


そうちゃんさんはじめセラピストの皆さん、タナカさんご一家のみなさん、ありがとうございました。



ウィルチェアファミリーは車椅子ユーザーが臆せずパパやママになれる社会を目指し、有志で活動しています。今後のより良い活動のため、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

(写真協力/愛さん のりちゃん)


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