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フランツ・カフカ短編小説感想集

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記事一覧

フランツ・カフカ「流刑地にて」

 何度も書き直してみたが、どうもこのお話に対する読書感想文を書ける自信がない。ややこしくて、複雑でありながら、思い返すと簡単なお話なんだけど、伝えるにはやっぱり複雑だ。それでもこのお話に無理やりテーマをつけるとするなら、古い正義の暴走といったところだろうか。物語は、罪人の送られる流刑地を舞台に始まる。辺境の地で将校と呼ばれる男の権力が暴走する様は、滑稽でありながら、どこか恐ろしい。しかし、その暴走

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カフカ「雑種」ー猫羊は僕たちの認識に従わない

カフカ「雑種」ー猫羊は僕たちの認識に従わない

あらすじ 物語というよりはある動物についての観察記と呼べるかもしれない。主人公が父から譲り受けたのは、頭と爪が猫で、胴体と大きさは羊という、猫とも羊とも区別のつかない一匹の動物だった。
 この動物はまた猫とも羊とも、仲良くしない。そして猫の頭をしているくせに、ネズミには尻込みする。なぜか子羊には襲い掛かる。鋭い爪を持っているのに、鶏をつかまえるのが苦手だ。
 ところで主人公と心を通わせる節があるの

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フランツ・カフカ「田舎医者」

 この世は理不尽だらけだ。会社で上司にいわれのないことで怒られたり、客先で無理難題な要求を迫られることもある。ようやく帰路に着こうとしたところで、赤ら顔の酔っ払いに突き飛ばされる。家に帰ったところで、外で食べてくればいいのに、とあしらわれる。
 もうこんな世の中たくさんだ!と頭をよぎることもあるだろう。
 そんな思いを抱えたのはどうも現代のサラリーマンに限らないらしい。カフカの生きた時代、20世紀

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フランツ・カフカ「判決」

 物語は異国で商売をしている友人に向けて、主人公が手紙を書くところから始まる。友人の商売はうまくいっていない。それどころか、病に侵されている様子。そんな友人に対して、自分には婚約者が出来た。そのことを報告するために、主人公は思い悩みながら手紙を書いていく。
 ようやくできた手紙の内容を父の部屋に報告しにいく主人公。そこには母を亡くし、職場でも居場所を失った老いた父が暗い部屋でうつむいている。

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フランツ・カフカ「掟の門」

 書き方は至って平易だ。門番が門の前で、門を通ろうとする旅人を拒絶する。旅人は何十年も、死ぬまでその門の前で許可されるまで待ち続ける。その間、旅人は懇願してみたり、次々に贈り物にしたりした。旅人が死ぬ間際、旅人は最期に門番に問いかける。
「誰もが掟を求めているのにどうして私以外の人はこの門に入ろうとしないのか」
 門番は答える。
「そもそも、この門はお前ひとりのための門だった。さぁおれはいく。門を

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