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(連載小説)秘密の女子化社員養成所⑬ ~元カノとの恥辱の一夜・中編~

悠子や紗絵たち新人研修生は普段より早めに夕食を済ませ、それぞれ「夜間研修」の準備に取り掛かっていた。

研修所だけではなくこの島の施設全体が男子禁制の為、保養所も女性だけが訪れる事が可能なのだが、実は保養所自体がかなり秘密クラブ的な性質を持っていた。

保養所棟には宿泊用の客室だけでなく、アルコールを提供する店も含め様々な飲食店やショップが併設されているが、これらはこの島で生活するビューティービーナスの社員の為の娯楽施設も兼ねていた。

元々が離島で本土と行き来する交通手段が乏しくて出掛けにくく、それにも増して普段から多くの社員には行動制限があるこの島で生活や勤務をするのにはメンタルヘルスの観点からもストレスを発散したり気分転換を図る場所は必要だし、また保養所にやってくる宿泊客にとって夕食後も楽しめる場所が必要だろうとこのような施設を用意していた。

その中でも「バー シトラス」はカウンター席もあるがテーブル席がメインのラウンジで、まるで銀座や北新地の高級クラブのような雰囲気を醸し出していた。

そしてここはインテリアや調度品だけでなくスタッフに至るまで全てに於いて銀座や北新地の高級クラブを意識しており、和服を着たママさんやチーママはもちろんドレスで着飾った「ホステス」「キャスト」もちゃんと居て、彼女たちが呑みに来るお客のお相手をしてくれるのだった。

保養所に泊まりに来るお客は毎日いる訳でもないし、このバーラウンジは島で働く社員にとっての「娯楽・保養施設」でもあるので宿泊客の少ない日はお金の許す限り一般社員も利用できるようになっていた。

元々女性であっても「女性キャスト」にお相手してもらいながらお酒を呑むと云う事へのニーズは結構はあるのだが、ただ女性が行くとなると男性にお相手してもらうホストクラブ的なお店が一般的で、別にガールズバーとかキャバクラ、はたまた銀座や北新地の高級クラブに女性が行ってはいけないと云う事はないのだがそれを実行に移す人は皆無と云ってよい。

ただ男性に興味のないレズビアンばかりのこの島の女子社員たちにとっては会話をしながらお酒を呑むのに横に座ってもらう「キャスト」が必要とあればその相手と性別はやはり女性となるし、言葉は若干下品だが「女性をはべらせるようにしてお酒を呑む事が好きな女性」だって実際のところ居ない訳でもない。

それに元々女性は往々にして話し好きで、また自分の話を聞いてもらって共感を得る事がより「快感」であったり「満足感」を感じる事が多いので、一流クラブやキャバクラで既に聞き上手・話し上手のテクニックを身につけているホステス・キャスト役の「女子社員」にバーラウンジで会話をしながらお相手をしてもらう事は大変好評だった。

それに一流クラブならではの接客マナーや会話術は女性として過ごす上でも重要なスキルとして使えるので、ホステス役として雇用されている社員以外の他の一般社員も「研修」と称してキャストに扮し、実際にこのバーで接客をする事が義務付けられていた。

もちろん得手不得手もあるので全員が常に「キャスト」をしないといけない訳ではないが、どこの部署に居ても一度は実際に研修名目で接客体験をしてある程度問題なさそうだったらキャストに本登録され、必要に応じてローテーションでバーラウンジに出る仕組みで、それに出たら残業手当が付くのと更にお客からチップを貰ってもいい事になっていた。

これは新人研修生であっても同じで、既に先週から何回か夕食後にこのバーラウンジで悠子たちも「夜間研修」をさせられていた。

ただ先日まで男だった新人研修生がいきなり女として高級クラブのホステスやキャバクラのキャストみたいな事が問題なく務まるとも思えないので、まずは最低限の接客の仕方やマナーを教えながら後は半ば見学と云った感じで先輩たちの横でニコニコと愛想笑いをしながら何か言われるまで座っていると云うスタイルで接客研修が行われ、幸い何とか悠子を始めとした研修生全員が今のところは及第点を貰えていたのだった。

そしてこれまでは外部からの宿泊客が居なく、普段から島に居る女子社員たちのみがバーラウンジを利用する日に接客研修をさせられていたのだが、今日は平日で宿泊客も真尋たちの一組だけで人数も3~4人程度と云う事で比較的負担が少なそうな事もあり、悠子たちは今日初めて外部からのお客様相手に接客研修をするように予定されていた。

ただもちろん女としてもまたホステス役にもまだ慣れていない新人研修生にはとても緊張する研修内容でもあるし、特に紗絵にとっては相手をさせられるのがまさか元カノで自分にひどいパワハラばかりしていた真尋と云う事もあって余計に気が重かった。

そうかと云って研修が免除になる訳でもなく「夜の蝶」を意識した普段より濃い目のメークをし、制服からいわゆる「お水スーツ」に着替えて準備を済ませ、指導役の女子社員と一緒に渋々バーラウンジに出向いた。

「今日の夜間研修ですが会社としても大切なお客様がお見えですから失礼のないようにお願いしますね。」
「はい、かしこまりました。こちらこそ宜しくお願いします。」

そう和服姿の店長兼ママさんの橘高 和香子(きったか わかこ)と副店長兼チーママの富永美里に言われながら今日の研修のミーティングが行われると一旦奥の控室で新人研修生は待機する事となった。

そしてしばらく控室のモニターを横目で見ながら化粧直しをしたり、接客マナーやお客相手のトークについて教わった事をそれぞれが思い出すように反復練習をしていると夕食を終えた真尋たちがバーラウンジにやってきた。

「いらっしゃいませ、桑木様。お待ちしておりました。ささ、どうぞこちらへ。」

そう和香子ママと美里チーママからにこやかな笑顔で出迎えられた真尋たちはおもむろに店内のボックス席のソファに腰掛けた。

既に夕食の際にいくらかアルコールを呑んでいるのかほろ酔い加減でご機嫌な真尋たちを各テーブル毎にそれぞれ何人かずつ今宵の「キャスト」達が囲み、バーシトラスでの二次会はスタートした。

リーダー格の真尋のテーブルには和服姿の和香子ママとイブニングドレスを着たホステス役の社員が座り、更に周りをキャバ嬢が着るようなミニのドレスを着たヘルプのホステス役で入っている一般社員で固めた。

また真尋と連れの女性たちも夕食の際に館内のレンタルブティックで調達して着替えたドレッシーな服装のままバーに来ている事もあり、ボックス席はまるで着飾った女性だらけの「女の園」的な様相を見せていた。

和香子ママに勧められたこの島で採れた果物を使ったと云う柑橘系のカクテルで乾杯していると真尋が結構なVIPと云う事もあってか和服姿の三浦所長が挨拶の為に現れた。

「桑木様、所長の三浦でございます。本日は遠いところわざわざ当館までお越しいただきましてさぞかしお疲れになられたでしょう。」

「いえいえ、とんでもございません。逆に今日はこんなに素敵な施設にお招きいただきましてこちらこそお礼申し上げなくてはいけませんね。」

会社としても真尋は東海地区での戦略的に重要なキーパーソンだがやっと機嫌を直してくれ、その機嫌を維持する必要もあるためこの保養所に優待と云う形で招いていたので三浦所長がご挨拶に出向き、真尋も三浦所長を相手に仕事に関してあれこれと話し込んでいた。

真尋自身も現在は本社でのバイヤー業務を離れ、創業者一族の一人として今後の会社運営に役立てるべく旗艦店での副店長と云う立場で実際に現場を経験しているところで、昼間は施設内のハーブ園や実験農園を視察して色々と質問をしていたし、結構仕事熱心な一面もあるようだった。

三浦所長とひと通り仕事の事で話し込んだ後は周りの取り巻きたちのテーブルと同様に真尋は出されたカクテルが飲みやすくて美味しかった事に加え、アルコールだけでなく洗練されたキャスト達の話術と接客にも徐々に酔い、上機嫌でグラスを重ねていた。

そしてこのいい感じで盛り上がりを見せていたタイミングでいよいよ控室でスタンバイしていた新人研修生たちが真尋たちの居るボックス席で接客をする事となった。

「お楽しみのところ失礼いたします、今日は皆様方に当館のニューフェイスたちを連れて参りました。まだ先月この島に来たばかりの新人ですが、ご迷惑にならないようお相手させて頂きますのでご同席よろしいでしょうか。」

そう和香子ママに紹介方々言われたお水スーツに身を包んだ新人研修生たちは緊張しながらボックス席の端の方に遠慮がちに座った。

「ゆ、悠子と申します。は、はじめまして・・・・・。ようこそ小瀬戸島にお越しくださいました・・・・・。」

と言いながらバーラウンジでの接客用の「パーティーコンパニオン 悠子」と書かれた名刺を差し出し、緊張の面持ちで悠子は真尋に挨拶をした。

「へー、あなた新人なのね。かわいいじゃない、うふふ。」
「あ、ありがとうございます・・・・・。」
「でもねー、あたし的にはどうせ同じ新人さんなら隣のテーブルのあの子がここに付いてほしいんだけどダメ?。」

そう言われて真尋の視線の先を見ると隣のテーブルには紗絵が座っていて、それを見た和香子ママが隣のテーブルに居た美里チーママに指示して紗絵に悠子と席を変わるように促した。

テーブルを変わった事で明らかに困惑した表情をしている紗絵とそれを横目で不安そうに見守る悠子や同期の研修生たちを尻目に真尋は何やら言いたげな表情をし、そしておもむろに口を開いた。

「あらー、紗絵って昼間の制服姿もよく似合ってたけどこのレディーススーツもよくお似合いねー。やっぱり紗絵は女の子の恰好の方が全然似合ってるわよー。うふふふ。」

「そ、そうですか。あ、ありがとうございます・・・・・。」

「でも今日ここに着いて紗絵が居るのを見てあたしほんとにびっくりしちゃった。しかも女の恰好しててそれが結構板についてるし。」

そう言われた紗絵は困惑した表情のままうつむいてしまい、若干沈黙した空気が流れ始めたので同じテーブルに座っていたホステスの阿部 沙彩(あべ さあや)が「あら、桑木様とうちの紗絵はお知り合いだったんですか?。」と場を繋いでくれた。

「ええ、そうなの。紗絵はおたくの名古屋支店に居た時にはうちのドラッグストアの担当でね、その時からあたしこの子は女になるべきと見込んでせっかく色々としてあげたのに当の本人はなんやかんやと理由をつけては女になるのを嫌がったの。ねっ、そうよね?紗絵。」

悠子たち同期の研修生たちは先程その事を聞かされていたが、他のママやチーママ、それにホステスたちは全く初耳だった事もあり驚いて紗絵の方を見ると恥ずかしい過去をいきなり暴露されたせいで更にうつむいて黙ってしまっていた。

「だけどあんなに女になるのを嫌がって嘘ついてまで最後の方はあたしと距離を置いてた紗絵がなんでまた女の恰好してるの?。」

「そ、それは・・・・・わ、私が真尋さんにご迷惑を掛けたのとそれが元で業績に悪影響を与えたので、会社から気分一新して女子社員になってもう一度やり直すようにと言われた事もあり、私はこうして女になるべく研修を受けております・・・・・。」

「あはは!、あらーそうだったのー。あたしから逃れても結局は女の恰好させられて女扱いさせられてるだなんでウケるしそれにいい気味だわー。でもそれって紗絵にとっても会社にとってもすごくいい事だとあたしは思うなー。やっぱり紗絵は女になるべきなのよ。自分でもそう思うでしょ?。ねえねえ、紗絵は男?それともお・ん・な?。どっち?・」

「は、はい・・・・・わ、私はお、女です・・・・・。」

「そうでしょー、紗絵はやっぱり男じゃなくて女よね。それにやっと自分の事を女だって認めたみたいだし女子化研修も頑張ってるようだからあたし嬉しいー。じゃあ今日はジャンジャン吞みましょうね。あはははっ!。」

そう言うと真尋は柑橘系カクテルをお代わりし、そして紗絵を自分のすぐ横に座らせると脇目も振らずに後はずっとご機嫌のまま杯を重ねつつ、紗絵を相手に喋り続けた。

そのまま2時間程経った頃、和香子ママがこっそり真尋に耳打ちに来た。

「ところで桑木様、このあとお部屋に”お持ち帰り”はなさいますか?。」

「お持ち帰り」とは実はバーシトラスはラウンジとしてだけでなく「デートクラブ」としての隠れた一面を持っていた。

東南アジアに行くと女性と一対一で呑んだあとにそのままお金を払って女性を店外に連れ出し、「自由恋愛」を朝まで楽しむと云うお店があるがバーシトラスはまさにその類のお店でもあった。

ママはさすがに無理だが、それ以外のチーママはじめホステスやヘルプで入っている一般社員であればお店へ「デート料」を払い、連れ出した女性には一定額以上のチップを渡す事で「持ち出し可能」となっている。

お客がその持ち出した女性に対してする行為はそのまま自分の部屋で3次会やあれこれ朝まで話し込んだりする事はもちろんあるが、大半はベッドインして「事に及ぶ」目的で連れ出すのだった。

デート料だけでなくチップまで含めると結構な金額になるのだが、実はこの連れ出して女どうして事に及ぶのが主目的でこの保養所に泊まりに来る客も結構いるようでその為ここはレズビアンの間では知る人ぞ知る存在だった。

「今日はチーママの美里をはじめ、当館のナンバーワンホステスの沙彩はもちろんそれ以外にもここにいる容姿端麗でテクニックも上々の女の子たちが今日はよりどりみどりで選び放題でございますし、折角ですので楽しんでみられませんか。」

そう「お持ち帰り」「店外デート」を勧めてくる和香子ママに真尋はまんざらでもない表情で「そうねえ、ママさんのおっしゃるとおり折角だからお持ち帰りしてみようかしら、うふふ。」と笑みを浮かべながら言う。

「左様でございますか。ではさっそくではございますがどの子になさいますか?。美里でしょうか?、それとも沙彩をご用意いたしましょうか?。」

「そうねえ・・・・。じゃあ決めた!。あたし紗絵がいいわ。今日は紗絵をお持ち帰りするからよろしくね。」

と真尋がいきなり紗絵をお持ち帰りしたいと言い出し、和香子ママはじめその場にいたバーのスタッフとキャスト全員が大変驚いた。

「えっ?・・・・・さ、紗絵でございますか?・・・・・。紗絵はまだ研修生、それも先月ここに来たばかりでまだ”お持ち帰り”のお客様のご対応が充分ではないかと存じますので、ここはとてもお客様の評判のよい美里か沙彩をお勧めいたしますが・・・・・。」

和香子ママとしては真尋は会社として大切なお客様だし、レズビアンと云う性的な嗜好もあってこの保養所に招いたと云う事を知っていたので粗相があってもいけないから美里や沙彩をお持ち帰りするように勧めたのだがそれは店のママとしてはごく当たり前の事だった。

ただ当の真尋はそれが気にいらないみたいであからさまに不機嫌な顔をして「えーなんでー。研修生だからお持ち帰りできないってなにー?。だったら最初からお店に出さなきゃいいじゃないー。」と言う。

「ママさんさあ、せっかくあたしが紗絵と久しぶりに会って楽しく呑んでて、なんならもう少し一緒に楽しみたいって思ってお持ち帰りしたいって言ってるんだけどそれってダメなの?。」

「は、はい・・・・・では上の者と相談して参りますので少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか・・・・・。」

そう言うと和香子ママは内線電話で三浦所長に真尋はたっての願いでまだ研修生の紗絵のお持ち帰りを強く望んでいるとお伺いを立てた。

和香子ママも三浦所長もまだ研修生の紗絵が真尋のお相手をしても満足いくサービスができないとかえって機嫌を損ねるのではないかとか今回は重要顧客の真尋との関係修復を願ってここまで接待を重ねてきたのにここで失敗すると何のためにこの島に招いたのか分からなくなるとの思いがあった。

ただ真尋のたっての願いであればここはもう紗絵になんとか頑張ってもらうしかないし、もしサービスに不満があればすぐ他の子にチェンジできるようスタンバイしてもらうようする事で何とか許可された。

「お待たせしました、桑木様。上の者から許可が出ましたので紗絵をお持ち帰りいただいてよろしい事になりました。未熟で不束者でございますが何卒よろしくお願い致します。」

「あらそう?、よかったー。ではここはそう言う事でおひらきね。それじゃあみんなもそれぞれお持ち帰りの相手とお部屋に帰りましょうか。ささ、紗絵もあたしと一緒に部屋に戻りましょうね、あー楽しくなりそうー。ふふふ。」

和香子ママにうやうやしく紗絵の持ち帰りがOKになったと言われた真尋は途端に機嫌が良くなり、取り巻きたちと一緒にそれぞれが部屋に持ち帰るキャストと一緒に席を立った。

お持ち帰りされなかったキャストと悠子たち研修生がバーラウンジの出口で整列してお見送りをする横を紗絵が困惑した表情のまま真尋に連れられて出ていく。

そして仲のいいカップルがするようにしっかりと腕を組んで歩く真尋と紗絵を見ながらなんとかつつがなく事が済んで欲しいと悠子は願わずにはいられなかった。

(つづく)





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