ハジマリハ深い谷底から③
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序章 生かされた理由――③
「要件はわかっている……どうする?」
「倒すしかないね。私の方から司令部に連絡する。君達は火線を張って突撃準備に移ってくれ」
秘匿回線が開かれ、コックピットモニターの一部にナスターシャが映し出されると、開口一番にそう訊いてきた。私の即答にナスターシャは頷き秘匿回線を切る。私はそのまま連隊本部連隊長にコンタクトを送る。
「各隊命令を変更する。前方11時の方向に火力を集中第1第4中隊は突撃準備に移れ。奴を狩るぞ!」
無線上でナスターシャの声が響く中、私のコックピットモニターの一部に司令部連隊長が映し出される。
「時間がありません。こちらを見てください」
「何が……これは!」
私は開口一番に連隊長に述べ映像を送ると、連隊長は驚愕に顔を引きつらせる。
「これよりエインヘリヤル大隊と共に、あれを討ち取ります。よろしいですね?」
「わかった――2分待て」
私の問いに連隊長は顔を強張らせ、それだけ伝えると一方的に通信を切った。私は無線でこう告げ戦闘に参加する。
「各隊。これより2分後に塹壕を出て敵本体らしき幻獣に突撃。これを撃破する……皆、生き残れよ」
「エインマスターより各機、バディを崩すな。オーガ型はタウロス型よりも機動力がある。今更言うまでもないが、接近される前に撃破しろ。本体は私か立花二尉が撃破する。貴様らは生き残る事だけを考えろ! 良いな!」
ナスターシャの声に各員は『了解』と応じる。私はいつもながらの姉御肌っぷりに妙な親近感を覚え、笑みが零れる。目の前にはオーガ型とその本体以外にもタウロス型や蜘蛛型がひしめき、こちらの攻撃をもろ共せず砲火を交えている。
我々が一勢力に火力を集中したところで大した影響はないが、それでも他の幻獣の進軍速度が幾らか早まってしまう。私は機体の装備を切り替え、携帯している26ミリチェーンガンで前方から迫る蜘蛛型に射撃しつつ、ショルダーキャノンで、紺色の特徴的なオーガ型を囲う幻獣集団に攻撃を加える。
しかし、紺色の特徴的なオーガ型は届かず、守るように密集しているオーガ型の数が減るのみ。やはり、接近戦でなければ倒せないか。
「第3近接航空支援中隊。第4戦略機中隊立花二尉、送れ」
「了解。立花、敵近接航空支援座標を送る。送れ」
音声のみの通信が届き、私は通信回線を開き応答する。気づかないうちに2分経過していたか……出番か。
「了解。これより近接航空支援を実施する。第7特科大隊、同座標に火力支援を要請する。送れ」
「了解。第7特科大隊、これより火力支援を開始する」
開かれた音声のみの通信回線上で、司令部直掩の第3近接航空支援中隊と第7特科大隊のやりとりが終わる。同時に、コックピットモニター正面右に映るオーガ型幻獣群の頭上が炸裂。爆発が巻き起こる。
衝撃波が塹壕線上を抜け、オーガ型幻獣群の傍に展開する蜘蛛型幻獣と、タウロス型幻獣が呼応するように反撃を開始する。コックピットモニターに表示している戦域図を確認すると、私達の後方に新たな戦闘集団、第3近接航空支援中隊が出現していた。
僅かな可能性に賭けて、特攻紛いの近接航空支援をしてくれているのだ。そう思うと、自然とスロットルレバーを握る手に力がこもる。
「了解。目標への突撃を開始する。各隊私に続け!」
交信を終え、私はオープン回線の無線上でそう号令をかけ、ペダルを踏みスロットルレバーを押し込む。ミサイルと砲弾の応酬の最中、私の機体は塹壕線から真っ先に飛び出し、スラスター全開で紺色の特徴的なオーガ型に向け突撃する。
「エインマスターより各機。立花に送れるな! 続けぇ!」
僅かに遅れ、オープン回線上にナスターシャの怒号が響く。コックピットモニターに小さく表示している戦域図を確認すると、自機の後ろに僚機が続き、鋒矢状に陣形が組まれる。
私は左翼敵陣方面に展開する蜘蛛型とタウロス型の幻獣群に構わず、砲火の中で左手に楯を、右手に26ミリチェーンガンを構え、正面射程に入るタウロス型幻獣を蹴散らし、地面すれすれの低空を移動。紺色の特徴的なオーガ型を擁するオーガ型幻獣群に迫る。
私達の突撃に呼応して、付近一帯に味方の火力支援による弾幕が張られ、煙幕の中を突き抜け、オーガ型幻獣群に肉薄した――直後、警告音(アラート)がコックピット内支配する。
次回に続く
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