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ハジマリハ深い谷底から④

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序章 生かされた理由――④

「――っ!?」
 状況を確認する間もなくコックピット内に衝撃が伝わり、左手に構えていたシールドの上部が吹き飛ぶ。敵の砲火が着弾したのだ。

 バランスを崩し機体の姿勢制御が自動で実行され、敵陣の眼前で機体の挙動がほんの僅かに制止する。その僅かな刻(とき)を、迫るオーガ型幻獣は見逃さなかった。

「――っ!?」
 尋常じゃない衝撃でコックピット内が揺れ、モニターの正面が砕け散り、飛散した部品の塊がヘルメットを直撃。衝撃で頭がのけ反り、右頭部からドロリと赤い液体が零れ落ち、砕けたヘルメット越しに、ぼんやりと攻撃を受けた事を理解する。

「……クソっ!」
 怪我の痛みで思考が急速にクリアとなり、私は悪態を吐きながら機体の被害状況を確認する。生きているモニター上に機体ステータスを表示。サブカメラに切り替え砕けたコックピットモニターを再起動する。

 機体は頭部が丸ごと消滅。シールドを持っていた左手はアクチュエータに異常が出ている。他は下半身と右腕部は幸いな事に正常のようだ。
「――隊長ぉ! 中隊全機前へ! 立花さんを護るのよ!」

『――了解!』

 壊れかけの無線上から副隊長の凛とした声と、隊員達の応答に状況が切迫している事を思い出す。そうだ、目の前にはオーガ型幻獣群が居たはずだ。私はスロットルレバーを引き倒れていた機体を起こす。

「――今日の英雄(ヒーロー)は私が貰おう! 立花、貴様はそこでゆっくりしていろ! エインマスターより各機、自衛軍の支援に回れ。02、03小隊は私に続け。奴を狩るぞ!」

『――了解』

「エイン02より各中隊。1小隊は立花機の直掩を。残りの各中隊は展開中の第4中隊の支援に回りなさい」
 状況を把握する間もなく壊れかけの無線上から、ナスターシャの自信に満ちた声とエインヘリヤル大隊隊員達の音声が砂交じりに伝搬する。

 私はときより霞む視界を不快に感じながらも、コックピットモニターに表示している戦域図と、目の前に広がる映像を確認する。戦域図では、私を半円形状に中隊各機が幻獣と対峙している。

 その後方にエインヘリヤル大隊各中隊が支えるように割り込み、機体の生きているモニターにエインヘリヤル大隊のT―90型戦略機が映り込む。
「……このまま……だと、まず……い」

 私はまだ残っているショルダーキャノンと26ミリチェーンガンで、援護しようとスロットルレバーを押し込もうとするが、思うように腕に力が入らない。こちらの足が止まってしまったら、自動的に敵の火力が私達に集中する。私が動かなければ、皆がやられてしまう……

「07下がれ! 無茶をするな!」
「了か――04! チクショオオオおぉ!」
 砂嵐と共に聞こえてくる仲間の断末魔が無線上で木霊する。その声を裏付けるように戦域図から友軍機のマーカーが消失する。

「……くそう……くっそおお」
 幻獣への憎しみが、自分の不甲斐なさが胸に張り裂けそうな痛みを与える。しかし、体は思うように動かず、徐々に力が抜け意識が遠のいていく。

ここまでなのだろうか?

 私は仲間を、部下も守れずに死んでいくのか―― 

――どうせ死ぬなら……どうせ死ぬなら……部下を――仲間を護らせろぉ!
 
《――君の願いは確かに届いた……共に戦おう。同胞ヨ》

 脳裏に響いた女性にも似た美声を最後に私の意識は深い闇に飲まれていった。
 

次回に続く


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