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幻獣戦争 2章 2-3 英雄は灰の中より立ち上がる⑤

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幻獣戦争 英雄は灰の中より立ち上がる⑤

「陸将……えっと、その、コーヒーですか?」
 戦闘糧食を片手にテントにはいってきた朱雀が、ドリッパーにポットで沸騰したお湯を注いでいる俺をみて声を掛けてきた。
「ああ、ゲン担ぎみたいなもんだよ。晩飯か?」
「はい。明日、なんですね」
 軽く答え問うと、朱雀は俺の対面席に座りテーブルに糧食をおき呟く。

「そうだな……緊張しているか?」
 俺は頷きポットを置いて自分のコップ直上においているドリッパーを外し、完成したコーヒーの香りを楽しむ……うん、いつもの香りだ。
「緊張していないとは言えないですね」
 朱雀は答えながら糧食の封を開けて食べ始める

「アドバイス、いるか?」
「えっ!? どういうアドバイスですか?」
 俺は完成したコーヒーを少し飲み問うと、朱雀は口に入っている物を飲み込み訊き返してきた。
「魔弾を打つ心構えさ」
 俺はゆっくりとコーヒーを飲み答える。

「是非、お願いします」
「――祈るのさ。念じるというべきかな」
 朱雀の問いに俺は淡々と告げる。魔弾を打つとは、言霊(ことだま)を使うと同義。つまるところ本人の祈りが事象に影響することを意味する。
「……祈る。想いを込めるということですか?」
「魔弾は言霊を込める。俺達の言霊、言霊という魔法は力ある言葉だ。力が、想いが強ければ強いほど事象に影響を与える」
「――覚えておきます」
 俺の解説に朱雀は整然と答え糧食をかきこみはじめた。

「ああ。頼むぞ英雄」
「ぶはっ」
 わざと見計らって言った俺の言葉に、朱雀は盛大に糧食を噴出する。
「陸将まで言うんですか……やめてくださいよ。今日ずっと皆に英雄って冷やかされるんですから」
 朱雀は口元を拭い困ったように笑みを浮かべ言う。
「それだけお前に期待している事さ。それじゃ、俺は機体に戻る」
 俺はコーヒーを飲み干し、持ってきたコーヒーメーカーセットを片付け立ち上がる。

「あ、了解です」
 頷き立礼しようと立ち上がろうとする朱雀を静止して、俺は自分の搭乗機体に戻った。
「英雄か……陸将もこんな気分だったんだろうか」
 一人テントに残った僕はぽつりと呟き食事を続けた。

 11月1日午前3時、少し早く目覚めた俺はコックピットの中でぐぐっと腕を伸ばし、軽く首を振りストレッチをする。あと2時間で隠岐の島攻略作戦『神来』が発動される。機体の機器チェックをしながら複座で寝息を立てる黄泉に目を向ける。

 俺の機体はいつの間にか複座型に改造され、小型が売りだった10式シリーズの枠を打ち破り、90式ノヅチよりやや大型の戦略機に変貌を遂げていた。与えられた愛称はタケミカヅチだと……何でこうなってしまったのかは、言うまでもなくタケミナカタ建造のせいだ。その余波がミカヅチの生産数に響き、結果こうなってしまったということなのだろう……たぶん。

 まあ、だからと言って複座型はないだろ。博士から微妙な悪意を感じる。あるいは、黄泉と依りを戻せというメッセージなのかもしれない。しかしだ、目の前で死んだ人間が実は生きていました。おまけにパワーアップして帰ってきましたときて、そう簡単に割り切れるわけがない。

 今でも黄泉や仲間が死んだ時の映像は刻銘に覚えている。だからこそ、何というかいまいち割り切れない自分が居るのだ……よそう、今考える事じゃないな。
 

 博士曰く、機体の方は大型化した影響で、指揮しやすいように通信回りが増設され歩く司令部と化しているらしい。
 寝ている黄泉を起こさないように俺は機器を立ち上げ、コックピットモニターに戦域図を表示。隠岐の島の観測を始める――天照との接続を確認……戦域図の観測状況が更新される。現在地は旧比奈麻治比売命神社(跡地)海岸近くの山中で、一樹達他部隊は旧比奈麻治比売命神社(跡地)の防御陣地に迎撃準備を整え待機中だ。

「……大型に動きはないか」
 俺は呟きながら観測を続け、コックピットモニターに観測地点の映像を表示する。隠岐の島中央山間部に、大型の蜘蛛型幻獣が鎮座してこちらを睨んでいる。

 こちらのタケミナカタや俺達ミカヅチに興味があるようだ。離れているとはいえ、水平線の向こうからずっと凝視されているのはあまり良い気分ではない。

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く

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