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2019夏 富岡駅界隈・JR代行バス乗車記録

こんなにも人のいない町を、これまでに見たことがあっただろうか。福島県・富岡駅周辺で見た光景は、想像していた以上の静けさに包まれていました。

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2019年9月4日-6日
友人と共に東日本大震災の被災地となった東北の太平洋側を旅しました。僕にとっては、はじめての東北。これまで列車で通過したことは何度かあったけれど、東北を目的地として旅に出るのはこれがはじめてでした。一方の同行した友人は数年前から何度も東北を旅していまして、僕が友人に連れて行ってもらう形での旅行となりました。

朝、上野駅から常磐線に乗り、最初に向かったのは福島県・富岡駅。

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ご存じの通り、富岡町は2011年の東日本大震災と原発事故で大きな被害を受けた町です。富岡町は震度6強を観測、21.1メートルもの巨大津波が町を襲いました。富岡町にある福島第二原子力発電所は大きな事故を起こさずに済んだものの、北側に隣接する大熊町の福島第一原発が水素爆発を起こしたことにより放射線が放出され、現在でも同地域の放射線量は通常に比べて高くなっています。写真は富岡駅から南、竜田方面を見たもの。富岡駅に列車が来るようになったのは2017年10月21日、つい2年半ほど前のことでした。

駅から町に出て感じたのは、異様なまでに人と出会わないこと。家も疎らな田舎を歩いているのなら珍しくないことですが、住宅街の中なのに歩いている人がいない。2011年のあの日から、旅をした2019年夏までの約8年半の間に何があったのか、住民がどんな暮らしを強いられているのかはこれぽっちも知らないけれど、「普通じゃないな」ということは僕にも分かりました。

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東京電力の廃炉資料館も見学。ゆっくり見学とはいかなかったものの、あの日なにが起きていたのか、すこしだけ分かった気がします。

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旅の最初の目的地となったこの地で思ったのは、僕が見る富岡の町と同行していた友人が見ている富岡の町は、すこし違っているんだろうなということでした。それにはきっと、さまざまなことが影響していて。もちろん違う人間だから感じるものが別だというのもあるんだけれど、それぞれがこれまでにどんな旅をしてきたか?ということが、その景色を見て何を感じるかに大きく影響しているように思ったんです。それまでに何度か被災地を訪れていた彼と、はじめての僕。大学に入っていろいろな場所を旅している彼と、彼に比べればあまり旅に出られていない僕。旅の経験は、ものの見方を変えてくれるんですね。分かりやすいところでいうと、常磐線で富岡駅に着く直前、進行方向右側に福島第二原子力発電所が見えたあたり。彼が言うには、以前に来たときにあった土嚢がなくなっている、と。僕にはただ初めて目にする被災地の工事現場とその先に海が見えているだけでしたが、彼の目には「変化」がうつっていたのでした。

2人の感じるものが違うと分かった僕は、この旅を通して彼が感じている「変化している被災地」を知りたいと思うのと同時に、僕が感じる「はじめての被災地」の印象を大切にしよう、と心に決めました。

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富岡から北、浪江方面へ向かう線路は茶色く錆びています。2020年3月14日、約半年後にここを列車が再び走り始めるわけですが、先に見た人のいない住宅地のことを思うと、鉄道の復旧に町の復興が追いついていない感を抱かずにはいられませんでした。そして鉄道の復旧がひとつの契機となって、少しずつでも復興が進むといいなということをただただ願うのでした。

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富岡駅から浪江駅までの常磐線不通区間は代行バスに乗ります。予想以上に多くの人が乗られていて、僕らが乗ろうとしたときには既に満席の状態でしたが、女性の乗務員さんが荷物を置いていた席を譲ってくださいました。「今日はどちらから?」「被災地は初めてですか?」バスガイドさんとお話をしているうちに発車時刻。そしてバスは国道6号を進み、帰還困難区域に入っていきます。

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車窓を流れてゆくのは想像を絶する程に荒れ果てた町。先ほどの富岡駅周辺は人をあまり見かけなかっただけで、そこには確かに生活がにありました。しかし、ここにはその生活がありません。ただ、まっすぐな道を整然と車が走っていくだけ。放射線は目に見えないけれど、放射線によって人の暮らしの奪われた町が、はっきりと目にうつったのでした。

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乗務員さんが教えてくれて、福島第一原子力発電所を見ることができました。あの日以降、テレビで幾度となく目にした白と水色の原子炉建屋は覆われていています。虚空でもない、しかし光も見えない雲に覆われた空が、この場所の現実を示しているように思えました。

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30分ほどの乗車で浪江駅に到着。この代行バスに乗ったこと、そして車内から見た景色は、たぶんこれからずっと忘れないであろう記憶になりました。お話ししてくださった乗務員さんともここでお別れ。どうもありがとうございました。

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半年後の常磐線全通に向けて工事中の浪江駅から再び電車に乗って、仙台・盛岡を経由してこの日は岩手県の宮古まで。この先の記録は、また別の記事にて。

同行した友人も同日の旅行記をブログに載せていましたので、こちらに紹介させていただきます。

最後に初日の行程を記しておきます。

2019/9/4 
上野604→水戸800-811→[ひたち1号]→いわき918-922→富岡1000-(散策・廃炉史料館見学)-富岡1140→[JR代行バス]→浪江1210-1220→原ノ町1240-1254→仙台1418-1435→小牛田1520-1535→一関1623-1630→盛岡1804ー(盛岡冷麺を食す※重要)-盛岡1957→宮古2217

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