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「便潜血検査」を知らないとやばい

今回は大腸癌を早期に見つけて治療する上で非常に重要な検査、「便潜血検査」についてのお話。まず、一人の患者さんのお話からスタートします。

先日、キャリアウーマンである一人の40代女性が救急搬送されました。仕事中、午後から突然の強い腹痛が出現。様子をみてもひどくなる一方であり夕方17時頃に救急車で搬送されました。

来院時は血圧低下、体温上昇を認め強い腹痛で意識も少し遠のいたような状態でした。腹部CT検査を施行したところ腸管穿孔(食べ物の通り道である大腸に穴が空き、内容物がお腹の中に漏れてしまった状態)と診断され、夜からの緊急手術となりました。

お腹を開けると大量の濁った腹水を認め、腹膜炎(ウンチがお腹の中に漏れてしまい広い範囲で炎症を起こした状態)を起こしていると判断されました。腹水を吸引した後、まずは穴が開いた部位を探します。すると驚愕の事実が発覚しました。

なんと穴が開いた部位に大腸癌が見つかったのです。大腸癌が進行して、遂に腸の壁に穴を開け、穿孔に至ったのでした。緊急で大腸癌に準じた手術に切り替え、一命をとりとめました。

しかし、腸管穿孔によりがん細胞がお腹の中に撒き散らされた状態であり、病理検査の結果、腹膜播種(腸の中だけでなく、お腹の中にがんが飛び散った状態)と診断され、StageⅣ(最も癌が進行した状態)と判断されました。

勿論手術後に化学療法も行い治療を続けていますが、StageⅣまで進行してしまった場合、5年生きられる確率は20%未満となります。早い段階であれば90%以上の人が助かる病気にも関わらずです。

さて、術後患者さんとお話する中で、残念な事実が発覚しました。

よくお話を聞いてみると、「数ヶ月前から便が細いような感じで、トイレにいる時間も長くなっていた(排便に時間がかかっていた)。変だとは思っていたけど痛くはないし、仕事も忙しかったから病院には行けなかった。」とのことでした。つまり、自覚症状があったにも関わらず放置してしまったという経緯があったのです。

このような患者さんは、病院にいると沢山見ます。「めちゃくちゃ痛い」とか「めちゃくちゃ苦しい」という病気であれば皆さん割と病院に来てくれます。しかし、「ちょっとした異変」では病院に来てくれません。お仕事も忙しい中で、苦痛がなければ優先度が低くなってしまうという現実があるのだと思います。けど、その中に本当に重大な病気が隠されている可能性があるということを忘れてはいけません。

今回の女性の方は大腸癌検診(便潜血検査)も受けたことがありませんでした。さらに異変に気づいていたにも関わらず、取り返しのつかない状態になるまで一人で抱え込んでしまっていたのです。結果、5年以上生きられる確率が著しく低下してしまうことになりました。これは本人は勿論、ご主人やまだ小さいお子さん、同僚の方にも多大なショックです。

大腸癌は腫瘍がよほど進行するまで、「痛み」の症状は基本的に出ません。癌が徐々に大きくなって通り道が狭くなってくると、「便通の変化(便がちょっと出にくい)」や「下痢(Paradoxical diarrhea; 通り道が狭いために液体だけが通りやすくなって下痢になる)」、「下血(便に血が混じる)」といった症状が出て来ますが、あまり気にされない(まさか大腸癌だとは思わない)ことの方が多いと思います。

大腸癌は早期で見つかれば非常に高い確率で治療できる病気です。症状が出てからでは遅い以上、[1, ならないように気をつける努力]、そして、[2, 早く見つける努力]が必要になります。

1, ならないように気をつける努力

大腸癌のリスクとしては様々な要因が提唱されていますが、特に関連が強いのは「脂肪分・赤身肉の摂取」「運動不足」です。喫煙や飲酒もリスクとなる可能性が示唆されています。

一方、「野菜・果物類、高食物繊維食の摂取」や「コーヒーの摂取」は大腸癌予防に効果的ということが示されています。

これらの事実を知り、日頃から意識して生活習慣を改善することによってリスクを下げられる可能性があります。勿論絶対食べるなという意味ではなく、リスクを理解して食べ過ぎや飲み過ぎを防ぐという考え方が重要です。「病気にならないために生きているわけではない」ですからね。

2, 早く見つける努力

肉は美味しいしお酒も美味しい。気をつけるとはいえ、完全にやめるというのは非現実的です(そもそも完全にやめたとしても発症する可能性は十分あります)。また食生活の欧米化等を背景に、大腸癌の罹患率は急激に増えて来ています。2018年の癌罹患数予測では、男女合わせると大腸癌が最も多い癌となっています。

そのため大腸癌については特に、検診を受けて早期発見に努める意義が高い。しかもとてもいい検査があります。それが、「便潜血検査」です。
便潜血検査は、便を採取して血が混じっていないかをみるというシンプルな検査です。便を一部とるだけなので、検査に伴う苦痛は一切ありません。それでいて効果は絶大です。

欧米で広く使われている便潜血検査(化学法)では毎年受診した場合には33%, 2年おきに受診した場合でも13–21%大腸癌死亡率を低下させることが示されていますし、日本で広く用いられている便潜血検査(免疫法)でも1日法(1日だけ便を採取)による検診を毎年受診することで大腸癌死亡率を60%も減少させることが示されています。

痛くない検査でこれだけの効果を発揮するのであれば、受けない理由がないと思いませんか?

勿論便潜血検査が必ずしも完璧なわけではありません(陽性の人が全員大腸癌なわけではないし、陰性の人の中に大腸癌の人が混ざっている可能性も0ではない)が、効果があると確実に分かっている以上全ての人に受けていただきたい検査です。特に家族が大腸癌を発症している方や、潰瘍性大腸炎・クローン病といった基礎疾患をお持ちの方は特に推奨します。

また大腸内視鏡を推奨するクリニックなどもありますが、出血や穿孔などリスクがない検査ではないですし、全員に実施するというのも無理があります。現時点で予防的に行う検査としてはやはり「便潜血検査」が推奨されています。エビデンスが確実にあるのも「便潜血検査」のみとなります。そこで問題がある人や、50歳を過ぎた方は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を検討することになります。

何はともあれ、まずは「便潜血検査」を是非受けましょう!

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防げたはずの死を目の前にすると、とても悔しい気持ちでいっぱいになります。病気にならないように、また早く見つけられるように、できることはできる限り取り組んで頂けたら嬉しいです。

自分の状態をよく理解し、自分に必要な検査を受け、何か異変があったらすぐに医者に相談することが大切です。僕たちのサービス「CHO」も、全ての人が病気になる前から自分の状態を適切に理解し、いつでも気軽に相談できるかかりつけ医を持てる社会を実現するために生まれました。

予防は「大切だと分かっていてもなかなかできないこと」の代表格だとは思いますが、まずは負担がなく効果が高いことから、意識を向けて頂きたいです。

では、今日のまとめ。

・「便潜血検査」はめちゃくちゃ有益なので全員受けるべし
・何か異変に気づいたらすぐに医者に相談すべし

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