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ミレニアル/Z世代の Well-being(1)ヴィーガンクッキーovgoの戦略

前回の記事で、デジタル・オンラインのネットワーク上で共感や共通体験をもち、実体を伴わずとも関わりあい、つながっているミレニアル世代/Z世代について触れました。

これからの社会の核となる彼らの世代の感覚や価値観が、次世代のWell-being のあり方の鍵を握っているといえそうです。

本記事では、ミレニアル世代が立ち上げたベンチャービジネスを事例に、ミレニアル/Z世代がどのような軸で行動しているのかを紐解いていきましょう。

デジタル・オンラインネットワークの進展がもたらした「つながり」の変化

「ミレニアル世代」は、1981~1996年生まれで、2000年以降に成人している世代です。その手前の世代はジェネレーションXと呼ばれており、ミレニアル世代は「ジェネレーションY世代」とも呼ばれています。

「ジェネレーションZ世代」はその後の1997~2012年生まれで、現在の10歳前後から20代前半の「ポストミレニアル世代」を指します。

3年前の米国のデータになりますが、JETRO(日本貿易振興機構)のニューヨークだより(2018年10月)に世代の特徴がまとめられています。

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以下簡単に、ミレニアル/Z世代がもつ特徴をみていきましょう。

デジタルネイティブ
ジェネレーションXより手前の世代との決定的な違いは、生まれたときからデジタル機器に触れ、すでにインターネットが普及していたという点です。
それまでの世代は、デジタルやインターネットを「覚えて使いこなす」必要がありました。しかし、ミレニアル/Z世代ではこのような情報網がないときを知りません。使いこなすという意識さえなく、電気や水道と同じ感覚で利用しています。

多様な価値意識
ミレニアル/Z世代は、バブル崩壊やリーマンショック、大震災など、世の中が大きく変化し、様々な社会課題が浮き彫りになったのを横目で見ながら、一方で、周囲にはモノやサービスがあふれ、スマートフォンのアプリで手軽にライフタイルを充実できる社会で育ってきました。

また、インターネットで世界とつながり、価値観も主張も異なる情報に日常的に触れていることもあり、皆が同じでなければならないという価値の押し付けを嫌います。転職や起業に抵抗がなく、結婚や子どもをもつことなどのライフコースについても、幸せと感じる基準が異なっていて当然という認識です。
価値観が多様化し、「私らしく」生きることの幅が広がっているのです。「無気力」「悟り」「気まま」「我慢がない」といわれるかと思えば、「真面目」「情報通」「積極的」といわれたりと、世代としてひとくくりにするのがためらわれるほど、バラエティに富んでいます。

「モノ」より「コト」のシンプルな暮らし
ただ、そのなかで共通している価値観が見受けられます。「モノ」を所有するより、体験を通して心の充足を図る「コト」の消費を重視する志向です。
このため、余計なものをもたないシンプルな暮らし、長く使って飽きない本質的なもの、環境にも健康にもよいものを好みます。
それまでの世代が「かわいい」「かっこいい」と評価していたものの基準が大きく変わっているのです。

流行に敏感
体験を通じた「コト」の消費は、誰かと共有することで満足へと変わります。デジタルネットワーク上での情報共有が標準となっていますから、自分の見た・聞いた・感じたことをSNSに投稿し、共感を表現しあうのが最も手軽に満足できる「コト」の共有方法です。
このため、SNS上での流行にはとても敏感です。マス・コミュニケーションであるテレビの報道がSNS上で「バズって(流行して)」いるものを追いかける現象になっていたりすることもざらにあります。(SNSの特徴については後述します)

プライバシーポリシーの重視
常にオンラインでつながっている状態の中でデータのやりとりを行うのがあたりまえとなっているため、セキュリティやプライバシー保護については関心の高い人が多くなっています。悪意のあるアクセスへの対策などセキュリティ面では知識をもつ人とそうでない人の層がわかれるようすもみられる一方、プライバシー保護については、概ね強く関心をもっています。特にネットワークに接続する際のアカウントは匿名性を重要視する傾向があります。

ミレニアル/Z世代を理解するにはSNSが必須

簡単にミレニアル/Z世代を概観してきましたが、注目したい大きな特徴は、情報のネットワーク化と、情報源としているメディア「SNS」の活用です。

それまでの世代では、SNSはあくまで新聞やテレビといったマスコミ情報の補足であり、個人的な感想を出す「暇つぶし」の感覚で使うものでした。
しかし、ミレニアル/Z世代は違います。SNSでつながった社会の中で情報交換や体験、表現を共有することに価値を置きます。マスメディアがむしろ補足情報となっているとさえいえそうです。
ミレニアル/Z世代は、人のつながりや幸せの価値をSNSでのコミュニケーションの中に見出しているのです。

SNSは双方向のコミュニティをつくる
SNSはソーシャル・ネットワーキングサービスと呼ばれます。代表的なサービスに、Facebook、Twitter、Instagram、YouTube、TikTokなどがあります。いずれも様々なデジタルデバイスに実装できるアプリを展開し、ユーザーはいつでもどこでもアクセスしてコミュニケーションをとることができます。アプリは、テキストチャットのほか、絵文字・スタンプ、画像や動画などの投稿機能があるのは共通していますが、少しずつ機能や操作性が違うため、SNSの種類により、できあがるコミュニティの特性が異なります。

一方的に情報を発信するニュースサイトやオウンドメディアのコンテンツと異なり、SNSは双方向で互いに発信しあい、情報がネットワーク状につながっています。
SNSの多くはスマートフォンなどのモバイル端末に搭載したアプリで操作します。四六時中身につけて発信者とつながり、また自分自身も発信者となり得るわけです。

SNSで自分を多様に切り替える
SNSにはもうひとつ特徴があります。SNSアプリの多くは匿名で登録できます。また、1つのアプリに複数のアカウントを登録し、切り替えて利用できます。このため、自分の興味や関心事の数だけアカウントを分けて使うことにより、情報を取りに行くのも発信するのも、人とつながるのも、自分の見せる面を切り替えることができます。

以前の世代でいえばテレビのチャンネルを切り替えてザッピングするような気軽さで、アプリ内でのアカウントを切り替えることにより、多様な自分をつくりだし、多面的な情報のやりとりができるわけです。
SNSを通じ、自分が何者であるのか、何を主張するのかなど、いくつでも異なる自分をつくり、自分で魅せ方を切り替え、多様なつながりを増やしていくことができるのです。

シンプルで価値を押し付けないWell-beingな暮らしがSNSで広がる
ミレニアル/Z世代がシンプルな暮らしや「コト」消費を重視し、流行に敏感だと前述しましたが、この傾向は、SNS内のつながりの中で強化されているともいえるでしょう。

テキストや画像、動画を投稿し、共感のスタンプや投稿を共有してゆるやかなコミュニケーションをとる。自分が眺めて居心地の良いものが並ぶタイムライン(一連の投稿が流れる画面)を、趣味や関心事の数だけいろいろな種類のSNSの中につくる。アカウントの切り替えにより多面的な自分を出せるため、修行のような生活をしなくても少しずつ心地よさを味わうことができます。そして、気軽な共感の行動がフォローでつながるアカウントへと拡散され、次の人へとつながります。多様な幸せの形が、ゆるやかな共感とともに広がっていきます。

ヴィーガンクッキーがもたらすWell-being

このようなSNSでの軽やかな共感をビジネスにしたミレニアル世代のWell-beingな経営の事例をご紹介しましょう。株式会社ovgo というヴィーガンの焼菓子を提供するショップです。
ovgoは、「Organic Vegan Gluten Free as an Option(選択肢としてのオーガニック・ヴィーガン・グルテンフリー)」の略を名前にしています。2019年に創業し、10月でちょうど2年を迎えます。

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(ovgoオフィシャルInstagram *1) より)


ovgoが目指すのは、「Ticket to our better future: 環境に優しいクッキーを食べることでよりよい未来をつなぐこと」。
よりよい未来へのチケットとして、オーガニックヴィーガンのクッキーを食べよう、というわけです。

ミッション:
「食」を通じて新しいサステナブルライフスタイルを提供するグローバルブランドカンパニーを目指します
Ticket to our better future: 環境に優しいクッキーを食べることでよりよい未来をつなぐことを目指す
ビジョン:
Let’s be Friendly! – Share Full of Joy-
バリュー:
おしゃれで美味しくて安全な「食」の提供
お客様、取引先、従業員間でのフェアかつサステナブルな関係性の構築


創業のきっかけは「このワクワクした味を私もつくりたい」
ovgoを立ち上げた溝渕さんは、三井物産法務部米州法務部に所属した後、DEAN & DELUCAに勤務していました。アメリカのカフェやお菓子が大好きで、旅をしていたときに出会った1枚のヴィーガンクッキーがきっかけとなりました。
そのクッキーは、バターやたまごを使っていないのが信じられないほどの美味しさで、心がワクワクする味だったのです。

そのクッキーがヴィーガンかどうかではなく、美味しくて楽しいから食べる。この素敵な時間をみんなと分かちあいたいと、溝渕さんはアメリカンヴィーガンクッキーの提供に向けて動き出します。その心に共鳴した人たちがつぎつぎに集いました。

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溝渕さんたちは、青山ファーマーズマーケットに出店を開始し、ECサイトを開設します。出店は、LOFTやDEAN & DELUCA、ラフォーレ原宿や阪急うめだ本店、MIYASHITA PARKへのポップアップストアなど全国に広がりました。

また、SNSアプリInstagramで自分たちのワクワクを伝えながら、定番のクッキーや期間限定のフレーバーなどを提供していきます。Instagramでは、新しいクッキーを考えたり、出店時の様子を伝えたりするだけでなく、カップやエコバッグの考案など、ライフスタイルにヴィーガンな心を取り入れたサステナブルな暮らしを、自分たちも楽しみながら実現するようすを投稿しています。

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ヴィーガンへの「誤解」をとって軽やかなサステナブルライフを
ovgoのEC販売は、過去14カ月の平均リピート率が33%と、3人に1人が「また食べたい」と感じ、クッキーを支持しています。ユーザーの声からは、ヴィーガンやグルテンフリーだからというだけでなく、美味しいから、食べごたえがあったからと、純粋にクッキーを楽しんでいるようすがうかがえます。

こんなアメリカンでChewyなクッキー(カントリーマアム風)が他ではないのでうれしい!ずっと探してました(20代女性)
中毒性があって我慢できなくてつい買ってしまいます。。。!(20代女性)
普段グルテンフリーなので、甘いものを食べる機会がなかったですが、今回出会えて美味しく食べれました!(20代女性)
美味しいので全部のフレーバーを制覇していて、季節限定のフレーバーが出る度に買いに来てしまいます(20代女性)
とても美味しかった、卵やバターを使用していないとは思えなくて、あっという間に食べてしまいました(30代男性)
普段はシナモンをあまり好んで食べないが、すごく美味しくてあっという間に食べてしまいました(30代男性)
1枚が大きく食べ応えがありとても美味しかった。コーヒー等と一緒だと尚美味しいと感じる(30代男性)

溝渕さんは、「ヴィーガンのもつネガティブなイメージをなんとかしたい」と言います。
ヴィーガンというと、動物愛護や宗教的な思想が強く近寄りがたい、野菜だけだからおいしくない、健康のためや美容・ダイエットのために我慢するものだといった誤解があります。

しかし、実際にはヴィーガンを取り入れた暮らしは、畜産業による環境負荷(家畜による各種ガスの排出や飼料の生産による土地開発、糞尿処理や加工・輸出による環境破壊など)を減らし、温暖化対策の行動につながっています。

美味しく、おしゃれで健康なお菓子を気軽に食べて、環境へもやさしい一歩にできる。
ヴィーガンクッキーは、サステナブルなライフスタイルへのチケットです。

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ovgoのInstagramは現在1.3万人を超えるフォロワーがいます。ovgoは美味しくてワクワクすることに重点を置いてクッキーをつくり、サステナブルな暮らしを考え、楽しみながら実践し、Instagramで発信します。フォロワーはそのワクワクをシェアし、クッキーを食べて美味しさを共感します。それだけでほんの少し「地球によいこと」につながっていけます。ことさらにSDGsを強調するでもなく、軽やかにサステナブルなライフスタイルにつながっているのです。

ミレニアル/Z世代がミレニアル/Z世代に向けて発信

この事業の事例で注目したいのは、事業を立ち上げ提供しようとする側も、発信を受けとめ共感している側も、共にミレニアル/Z世代であるという点です。

これまでの世代がヴィーガンを扱おうとする場合、おそらくヴィーガンの意義や環境保全の大切さなどを社会課題の解決だと大上段に構えて広めようとするでしょう。
しかし、ミレニアル/Z世代にはそのような「わざわざ取り入れて」ビジネスにする必要を感じていません。地球に優しい行動はあたりまえだから、ヴィーガンもオーガニックもグルテンフリーも、極端にいえば、あったら良いに決まっている「あたりまえの世界」です。

楽しくてワクワクする美味しさで、続けていきたいと思えるから良いことが続くのだというのが、サステナブルなライフスタイル――Well-beingな暮らし――の基本形だといえるでしょう。


次回は、こうしたミレニアル/Z世代のWell-beingなビジネス展開を支えている取り組みなどを深堀りしていきます。

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1) ovgo Instagramオフィシャル


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