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ミレニアル/Z世代の Well-being(2)続ovgoの戦略:サステナブルビジネスを加速させるには

前回の記事で、ヴィーガンクッキーがもたらすミレニアル世代の共感ビジネスの事例として株式会社ovgoを紹介しました。引き続き、ミレニアル/Z世代のビジネス展開について考えていきましょう。

ミレニアル/Z世代の「心地よさ」をビジネスとして持続させるには

ミレニアル/Z世代がもつ感覚からビジネスをみると、次のような特徴が浮かび上がってきます。
●義務感ではなく心地よさ(満足度)を基準に、体や環境にやさしい行動をとっている
●心地よくて取り組む行動と稼ぐビジネスの区別は明確でない(稼ぐだけに注目し我慢を強いるビジネスには興味がない)
●自分たちが心地よいと感じる行動に対する共感がSNSなどで拡散され多くの人に支持されることにより、結果的にビジネスとなっている

そして、上記に示す「心地よさ」は、心・体・社会とのつながりをよくしていく Well-being とつながるものであり、ミレニアル/Z世代は自然体でその価値を体現するビジネスを展開しようとしています。

ここで立ち止まって考えたいのは、現在の社会構造の中でこうしたビジネス展開が持続可能なのかというところです。
SNSでの共感の拡散力が以前と比べものにならないほど影響力をもつようになったとはいえ、現在のビジネスの大半は旧態然としたしくみの中で動いています。心地よさを大切にするミレニアル世代のWell-beingビジネスはまだ萌芽の段階です。どうすれば持続可能なビジネスになっていくでしょうか。

そのヒントとして、ベンチャー事業者と大企業とのコラボにより持続可能なエコシステム(生態系のように経済が回るしくみ)を構築するビジネス展開をみていきましょう。

共感を軸にしたアクセラレータプログラムで持続可能なエコシステムを構築する

次世代の経済をつくるエコシステムとして注目されるコンセプトのひとつにオープンイノベーション(Open innovation)の考え方があります。
オープンイノベーションは2003年に提唱されたコンセプトで、目標に向かって知識や情報を自由に流入・流出させることでイノベーションを起こし、市場を拡大させていくものです。

オープンイノベーションには次のような特徴があります。
・組織の境界を超えて知見を自由に使う
・知見の囲い込みより共有して発展させることを重視する
・ユーザーもイノベーションを生み出す協業者と考える
・従業員など関わる人の主体性・機動性が相対的に高い
・外部の資本や技術開発を有効活用する
・市場でのポジションより、ビジネスモデルの構築を重視する

(参考)オープンイノベーションとよく似た扱いをされるオープンソースの考え方については、上記のうち知見の共有や自由な流出入については共通していますが、最後に挙げた「ビジネスモデルの構築」があるか否かの違いが大きいとされています。

オープンイノベーションを実現させる手法のひとつとして注目されているのがアクセラレータプログラムです。
アクセラレータプログラムは、一般には大企業が支援側となり、自社内に足りないシーズを外部のベンチャーやスタートアップと協業することで取り込み、新たな付加価値を生み出すビジネス(ニーズ)につなげる取組みです。日本では2012年ごろから本格的に展開しています。

似た手法にインキュベーションプログラムがありますが、こちらがアイデアベースからの起業を促すプロセスを含むのに対し、アクセラレータプログラムはすでにアイデアが事業になっているベンチャー/スタートアップと協業するところからスタートします。

アクセラレータプログラムには、主に次のような特徴があります。
・大企業とベンチャー/スタートアップの関係性が対等である
・大企業とベンチャー/スタートアップの目指す目標が一致している
・大企業がベンチャー/スタートアップを支援する伴走型のしくみがある
・視点を常にアップデートし、新たなエコシステムに組み込む土壌がある
・社会の動向や業界内外の情勢に明るく、大局的な視点をもっている
・事業のステージごとに変化する課題に向けて柔軟に取組みを変える

目的でつながり、対等な関係で互いの得意を活かし、柔軟にしくみをつくっていくアクセラレータプログラム。このベクトルを「共感」というワードにしてみると、ミレニアル/Z世代が心地よいとする Well-being 社会を体現するビジネスとの親和性の高さに気づきます。

ここで重要なのは、目指すビジネスが市場寡占を目指す従来の視点ではなく、あくまでも「心・体・社会とのつながり」のよさ、心身にも環境にも心地よい行動への共感であるという点です。

ヴィーガンベイク ovgo を例にサステナブルビジネスを予測する

前回の記事でご紹介した、ヴィーガンクッキーを提供する ovgo を例に、これからのミレニアル/Z世代とのコラボを探っていきましょう。

ovgoは、2019年10月に創業、半年後の2020年5月に法人化しました。創業から2年のあいだに資本金2,400万円、従業員数約35名を数えるまでに成長しています。
主要取引先には、 BEAMS、DEAN & DELUCA、GLITCH COFFEE、青山ファーマーズマーケット、ラフォーレ原宿、LOFT銀座、LUSH新宿、LUMINE EST、阪急阪神百貨店、RAYARD MIYASHITA PARK とファッショナブルな小売店舗が並び、MinaやNon-no、GQといったトレンド雑誌でも紹介されています。

ovgoが提供するのはヴィーガンクッキー、食品です。当然ながら、美味しさや食べごたえ、健康への配慮といった品質の高さで支持されています。それに加えて、ovgoの掲げるヴィーガンというビジョンが、従来の厳しいイメージを覆す満足度の高いものであることを自然体で示しているところが、広い共感を呼んでいるといえるでしょう。

実際のところ、ヴィーガンに対する世界のトレンドは、かなり前向きに増加しています。2018年までのヴィーガン市場規模は142億ドルでしたが、今後年10.5%の成長率が見込まれており、5年後の2026年には314億ドルと倍増するといわれています。
これには、健康志向の消費者の増加もありますが、畜産業による環境破壊(温室効果ガスの排出、水資源の消費、森林・熱帯雨林の破壊)という社会課題の解決からの食志向の変化も影響しています。

日本で定着したヴィーガンのイメージは、動物愛護や思想家の主張が強いものでしたが、世界のヴィーガンのトレンドは、健康と環境保全、社会課題解決の側面で成長が見込まれる市場として認識されており、食の分野に限らず服飾品や化粧品など、身の回りのさまざまな商品に取り入れられています。ヴィーガンは、脱プラスチックと同様に、サステナブルなライフスタイルとして定着しつつあるのです。

Well-being を志向した協業でビジネスを加速する

ovgoは、世界のトレンドをおしゃれな焼き菓子を創りだす中でわかりやすくストーリーを示し、共感を広げています。また、お菓子だけでなく、統一されたコンセプトの中でエコバッグやカップなどを提供し、事業者自身も率先してサステナブルな運営を実践しています。
このように、提供する食品としての機能価値に加え、事業者としてのコンセプトへの共感を生み、さらにはヴィーガンに対する価値をポジティブに変容させて市場規模を拡大する、Well-being ビジネスモデルといえるでしょう。

1枚のクッキーからスタートアップしたovgo。
これからのovgoは、さらなるステージとして、ヴィーガンベイクブランドを拡張するだけでなく、ヴィーガンライフスタイルの拡大を牽引する存在価値の向上を目指しています。

ovgoのように、世界のトレンドであるサステナブルなビジネスを、一見すると仲間どうしの遊びのように軽やかに体現しているのがミレニアル/Z世代のベンチャーです。
彼らと協業するアクセラレータプログラムは、サポートする大企業側も明確なコンセプトを示して共鳴し、対等な関係でコンセプトのさらなる展開を目指すことが、新たな価値を生み出すビジネスポイントとなるでしょう。

ovgoがこれからどんなサステナブル・チケットを繰り出してくるか、彼らの行動から目が離せません。


次回は、ovgoと不思議な縁でつながったWellGoの事例も加えながら、ミレニアル世代のベンチャーと大企業との関係について考察していきます。


(関連記事)
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