見出し画像

ミレニアル/Z世代の Well-being(3)ベンチャー×大企業が引き出すサステナブルビジネス -ovgo/WellGoの事例

これまで2回にわたり、ミレニアル/Z世代の Well-being 経営戦略として、ヴィーガンクッキーをサステナブルなチケットに、大手企業とのコラボビジネスを展開する 株式会社 ovgo を取り上げてきました。

本記事は、ミレニアル/Z世代の Well-being 経営を考える最後の章として、ovgo のクッキーと不思議なご縁でつながる WellGo の話も織り交ぜながら、大手企業とベンチャーがコラボしたサステナブルな取り組みのあり方をみていきましょう。

「美味しい」「楽しい」の縁からビジネスの共感へ

ovgo と WellGo は、どちらも東京都の小伝馬町(こでんまちょう)に拠点があり、歩いて1分ほどの「ご近所さん」です。
WellGoの代表の原田が ovgo の焼き菓子をえらく気に入って、毎朝のように出勤時に立ち寄ってはクッキーやマフィンなどを買っていました。ovgo のファンで足繁く通う常連客だったわけです。そのうちすっかり顔なじみとなり、お店のスタッフから「原田さん」と名前で呼ばれるほどになっていきました。

ある日のこと、原田とオーナーの溝渕さんとの間で、何気ない世間話が交わされます。

ovgo 溝渕「原田さんって、どんなお仕事されているんですか?」

WellGo 原田「システム屋で、健康管理のアプリを作っていて……」

溝「もしかして、ウェルゴだったり?」

原「!!!」

星の数ほどある健康アプリの中でいきなりアプリ名を名指しされた原田は、その瞬間、鳥肌がたったといいます。訝しむ原田に溝渕さんが続けます。

溝「父と母がウェルゴを使ってるんですよ」

たまたま美味しくてファンになり毎日買い求めていたヴィーガンクッキーのオーナーの家族が、たまたま健康管理アプリ WellGo を導入している企業に勤めていて、たまたま楽しくアプリを使っていることを家族の中で話題にしていたというのです。
これには浅からぬ縁を感じ、そこから互いのビジネスへの思いを話すようになりました。すると、少しずつ、さらなる共通点が浮かび上がってきます。

ovgo も WellGo も、大手企業で業務の経験を積んでから独立し、ビジネスを立ち上げたミレニアル世代のベンチャーであること。

大手企業とコラボしながら事業を発展させていること。

事業の目指すビジョンを、ヴィーガンや Well-being といったサステナブルな生き方に置いていること。

株式会社 ovgo (代表 溝渕由樹)
三井物産法務部米州法務部、DEAN & DELUCA 勤務を経験後、2019年10月にovgo を創設。青山 Farmer’s Market への出店を皮切りに、BEAMS や ラフォーレなど大手とコラボしたポップアップストアを展開。ヴィーガンクッキーやマフィンなど、オリジナルの焼き菓子を制作し販売するほか、コーヒー豆やカップ、Tシャツやトートバッグなどのサステナブルな商品も取り扱う。SNS(Instagram)による発信を効果的に活用したEC販売と、大手とコラボしたポップアップストアによる展開の組み合わせにより、ミレニアル/Z世代から強い支持を集める。Non-noやMinaなどファッション誌にも取り上げられている。
株式会社WellGo(CEO 原田大資)
野村證券で約10年、機関投資家向け株式トレーディングシステムの企画・運営、アルゴリズム開発に従事。野村HDと野村総合研究所が共同で実施する社内ビジネスコンテストで入賞したのを契機に人事の健康推進チームに抜擢され、野村HD全体のコラボヘルスを推進。2019年1月に株式会社設立。健康管理アプリを通じ、健保と人事・労務データを一元管理し、コラボヘルスや自律的な健康づくり・社内コミュニケーション向上を推進する。さらには、アプリを通じ、人生100年時代に目指すべき経営のあり方として、有形資産(家、貯蓄、有価証券)と無形資産(心身および社会的健康、家族・友人、知識・技能)が調和する Well-being 経営のしくみづくりを提唱する。

ここからは、ovgo と WellGo の取り組みから、大手企業とベンチャーとのコラボビジネスの可能性に着目してみましょう。

1枚のクッキー/1ポイントの寄付が世界と私をつなぐ

ovgo はヴィーガン、WellGo はWell-being と、次世代の共感度が高いサステナブルなテーマを打ち出しています。しかし、その表現方法は声高に謳うものではありません。
ごく自然なクッキー1枚やアプリゲームの1タップが、「美味しいから」「楽しいから」続けられており、しかも「良いこと」だから支持されているのです。

SDGs などが教育カリキュラムに組み込まれている世代にとって、サステナブルなライフスタイルはすでにリテラシーの領域。感度がすでに高められているため、正しい情報、良質な知見を提供すれば、みるみるうちに吸収し、自然な行動で応えてくれます。
さらに、SNSなどアプリネイティブの社会ネットワークは、共感で関わりを広げていきます。看板だけの取組みはすぐに見抜かれ、支持を失っていくでしょう。他方、はじめは楽しさや面白さを前面に出したカジュアルさで注目された取組みでも、真摯さを感じたなら支持は大きく広がるのです。

ovgo も WellGo も、ベンチャーという機動力のあるビジネス母体です。感度の高いユーザーや社会の動向を機敏に汲み取り、すばやく反応していくことで共感を生むビジネス展開を可能にしています。

一方で、大手企業ではこのように小さな試みを社内で大々的に事業化し展開することは難しい側面があります。サステナブルなライフスタイルは、個人の多面性を認めあい、それぞれの Well-being を尊重する多様性の許容--多文化共生につながるものです。

これからの大手企業のビジネスには、自らが大規模に一元的なマネジメントを行う形で事業展開するより、個性あるテーマで機動力あふれる事業を展開するベンチャーとのコラボにより、多面的に事業支援を行うプロデューサーの役割が求められているといえるでしょう。

大手企業とベンチャーのコラボ 成功の秘訣は
「リスペクトある目線合わせ」

では、大手企業とベンチャーのコラボ事業はどのように展開すれば成功するのでしょうか。

ovgo も WellGo も、代表者は共に大手企業出身で、いずれの立場も経験してきています。二人とも、互いをリスペクトすることが最も重要で、「相手の立場を思いやった目線合わせ」が欠かせないと言います。

ベンチャーは「待つ」ことを覚えよう
ベンチャーは、機動力にあふれ、事業の先鋭性・先見性に優れます。良いアイデアを思いつけばすぐに試すことができますし、うまくいかなくても柔軟に次の一手に切り替えることができます。
一方で、ベンチャーには事業の時間的なサイクルがとても短いという特徴もあります。「半年先のことなんてわからない」見通しもざらでしょう。このため、大手企業とコラボすると待たされる気持ちが強くなりがちです。

大手企業は意思決定に関わる機関が多く、順調だったとしても承認手続きに時間がかかります。また、コンプライアンスを含めさまざまな部門との調整にも時間を要します。ベンチャーが大手企業とコラボする場合は、こうした組織の状況を想像し、担当部門との情報共有を行う必要があるでしょう。

大手企業は「専念できる環境」を整えよう
大手企業に対しては、ちょうどベンチャーと逆の視点が重要だといえます。

大企業が力を発揮したいのは、組織規模の大きさに比例する情報力の強さと、社会へ発信する際の影響力の強さです。
大手企業には、こうした特長を活かし、ベンチャーの個性が輝くよう支援する視点が不可欠といえるでしょう。

ベンチャーの試みを洗練させる情報提供のほか、コンプライアンス問題や人事、企画、広報、組合などとの調整を行い、ベンチャーが事業に専念できるよう環境を整えていく支援が必要です。

サステナブルな取組みは社会へ発信、浸透させてから社内へ逆輸入

大手企業の取組みは大上段に構えたものになりがちです。きれいな言葉を並べ立てたようなスローガンに終始すれば、企業の取組みとして実体が伴わないものだと見抜かれてしまいます。SNSなどのネットワークを駆使するミレニアル/Z世代には「手触り感」の感じられない行動は通じないのです。

ESG投資などサステナブルな企業のビジョンや行動方針に注目が集まる一方で、SDGsウォッシュやESGウォッシュと呼ばれるような看板だけをかけ替えた企業の行動も目立ち、投資家も消費者も敏感になっています。

大きな組織がビジネス展開する場合、ごまかしているつもりがなくても部分的な取組みが先行する形となってしまい、全体としてはどこかしらの矛盾を抱えることになりがちです。特に社員など組織内部にいる者には、いわゆる「内輪の事情」がわかっているだけに、ネガティブな受取りが広がっていく可能性もあります。

ベンチャーとのコラボは、こうした中で前向きな取組みの一面として活用できるかもしれません。機動力や柔軟性、なにより楽しく面白く進めているその取組みをプロデュースし、社会へ発信した結果が社会の側から社員に届くことにより、社内にも浸透させていくことにつながるはずです。

たとえば、WellGoの健康管理アプリでは、健康につながる行動をゲーム感覚で積み上げることができるのですが、その行動にはポイントがつき、商品券などに交換できるしくみになっています。このポイント還元の対象に、社会課題に取り組む団体や基金への寄付があり、ボタンひとつで社会貢献ができるのです。

楽しく自分の心身に良いことをし、気軽に社会ともつながることができる。自分でボタンを押して寄付した人は、その団体の活動に関心ができ、感度が高まります。次のアクションへのハードルが下がります。長く続けていく中で、社員自らが発信する土壌が育っていきます。

今後の展開に必要なのは可視化された水準の明示

もうひとつ、大手企業とベンチャーとコラボしたサステナブルなビジネスにとって重要なことがあります。取組みを可視化できる基準の取り入れです。どんなに良い行動をしているつもりでも、客観的に評価される取組みでなければ支持は広がりません。

世界の潮流は、実績としくみの標準化を求める方向です。たとえば、ovgoではいち早く世界が水準としている1% for Planet への登録を済ませ、現在は B Corporation の認証を受けるための申請を行っています。

1% for Planet
自然環境保護の必要性を理解する企業の同盟で、現在91か国5,800あまりの企業が登録しています。登録したメンバー企業は、年間売上の少なくとも1%を提供し、承認された環境関連のNPO/NGO団体に直接寄付し、活動を支援することが求められています。

B Corporation
サステナブルな「良い会社」に与えられる認証制度で、透明性、説明責任、持続可能性、社会と環境へのパフォーマンスの各分野において厳しい評価基準が設定されており、認定されるといずれの基準も満たしている企業であるとの証明となります。

現在、サステナブルビジネスの世界では、上記のどちらか、もしくは両方のマークをもっていることが必須とされるほどになっています。システムが大きくなりすぎないうちに登録もしくは認証を行い、取組みを確実に進めるためのぶれない基盤をつくりたいところです。

大手企業とベンチャーのコラボビジネスにおいても、同じ目標やビジョン・テーマに向かって事業を進めていく上で、これらの基準がもたらす行動指針は大きな意味をもつはずです。

互いをリスペクトし、目線を合わせ、しくみや基準を明確にして、それぞれの特長を生かしたサステナブル・ビジネスを広げていきましょう。


(関連記事)
ミレニアル/Z世代の Well-being(1)ヴィーガンクッキーovgoの戦略

ミレニアル/Z世代の Well-being(2)続ovgoの戦略:サステナブルビジネスを加速させるには


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?