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生活満足度のカギは関わりの質にあり DX時代のWell-beingを考える

9月に入ってまもなく、内閣府が「満足度・生活の質に関する調査報告書」を公開しました。調査は2019年2月から毎年実施されており、今年の2月で3回めとなって、経年での変化をみることができるようになりました。

この調査は、副題を「我が国のWell-beingの動向」といいます。
主観的な Well-being を測る代表的な指標のひとつである「生活満足度(Life Satisfaction)」について、資産や社会とのつながり、健康状態など、13の分野の満足度と併せて調査し、満足度と生活の質の変化を多角的にまた体系的に捉えようというものです。
報告書の後半では、2019年7月に公表された「満足度・生活の質に関する指標群」について今回の調査結果を踏まえた考察がなされ、客観的な指標群に主観的指標を含めた改定案も示されています。

Well-being は概念的な浸透にとどまらず、明確な指標をもち、具体的な施策となって推進を図る段階にきていることがはっきりとしてきました。
2021年6月に閣議決定した骨太方針2021(経済財政運営と改革の基本方針2021)で、政府の各種基本計画などに Well-being 関連のKPI を設置することや、教育・人材育成の環境整備の中で個人と社会全体の Well-being の実現を目指すことが明示されています。
7月には Well-being に関する関係府省庁連絡会議が発足しました。

本記事では、内閣府の調査報告書の概要を速報するとともに、調査結果から読み解ける日本の Well-being の現在とこれからの姿を追っていきます。

※本記事は調査結果のグラフなども入り、長くなっています。お急ぎの方は目次の【調査結果から見えること】からお読みください。

満足度・生活の質に関する調査 結果概要

2021年度は動向の変化をみる上で特徴的な調査になりました。前回の調査は2020年2月。新型コロナウイルス感染症の影響をほとんど受けていない状況でした。
また今回は、前回の回答者 約5,000人のうち、6割近い約2,900人を継続対象とするパネル調査だったこともあり、同一回答者の変化を分析できているのも大きな特徴となっています。

本記事では、特に大きな変化を見せた結果を挙げていきましょう。

全体傾向
総合満足度はやや下がりました。
分野別満足度では、「社会とのつながり」「生活の楽しさ・面白さ」の項目が低下しています。感染症による活動の自粛の影響を受けていることが考えられます。(詳細は後述します)

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総合満足度をエリア別でみると、都市圏の低下が大きくなっています。
また年齢別では、40~64歳の中高年層で低下幅が目立ちます。

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「社会とのつながり」の満足度と生活満足度の傾向

今回の調査で低下した「社会とのつながり」の各項目について、生活満足度との関係をみていきましょう。

友人との交流の増減と生活満足度
2021年はすべての年代において、友人などと月1回以上交流する人の割合が減少しました。

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そして、交流頻度が減少した人は、社会とのつながりの満足度だけでなく生活満足度も低下しています。

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頼れる人の数の増減と生活満足度
同居する家族以外で困ったときに頼れる人の数についての調査では、頼れる人が減ったと回答した人のほうが増加したと回答した人より多く、特に15~39歳の若年層でその傾向が強くなっています。

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頼れる人の数が減った人は、社会とのつながりの満足度も、全体的な生活満足度も、下げ幅を大きくしています。

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SNSの利用頻度の増減と生活満足度
調査では、SNSの利用状況と満足度との関係も変化を追っています。
SNSの利用頻度は、高齢者ほど増加傾向にありました。そして、SNSの利用頻度と「社会とのつながり」の満足度との関係では、頻度が増加すると満足度も上昇し、利用頻度が増加しなかった場合は低下しています。

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一方で、SNSの利用頻度と「生活の満足度」との関係では、頻度の増減と満足度の上下に関係がみられたのは15~39歳の若年層のみでした。

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SNSの交流者数の増減と生活満足度
SNSで交流する人数の増減についての調査では、交流者数が増加した人が減少した人を上回っています。特に高齢者層において利用が進んでいます。
交流する人数の増減と「社会とのつながり」の満足度について、交流者数が増加した人の満足度は、高齢者が大幅に上昇し、若年層は低下しています。

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ところが「生活の満足度」をみると、この傾向が逆転します。若年層の方が生活満足度が高く高齢者はむしろ低下しました。

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友人・知人との交流の増減・友達づくりと生活満足度
この1年間の変化として「友人・知人との交流減少に困っている」「新たな友人が作りにくくなったことに困っている」とした割合は、若年層で困難を感じている傾向が強くなっています。
「非常に困っている」と回答した人は、社会とつながりの満足度も生活満足度も大きく低下しています。

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「健康」「生きがい」の満足度と生活満足度の傾向

もうひとつ、「健康」と「生きがい」の項目について、生活満足度との関係をみていきましょう。

健康状態と生活満足度
バランスのとれた食事や適度な運動などの健康づくりに関する活動については、健康活動が増加した場合に健康状態の満足度も生活満足度も上昇し、健康づくりの活動が減少すると、どちらの満足度も大きく低下しています。

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趣味・生きがい
趣味や生きがいをもっている人はもたない人に比べ、生活の楽しさ・面白さの満足度も、生活の満足度も高くなっています。
経年での状況をみると、趣味や生きがいがなくなった人の満足度は大きく低下する一方で、新たに趣味や生きがいをみつけた人の満足度は大きく上昇しています。

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【調査結果から見えること】生活満足度(Well-being)は人との関わりが不可欠

内閣府の調査結果からは、次のような傾向が生活満足度に関係していることが明らかとなりました。

<生活満足度を低下させる要素>
●友人と交流する頻度の減少
●友人・知人との交流の減少
●新たな友人のつくりにくさ
●頼れる人の減少

<生活満足度に一部影響を与えている要素>
●SNS利用頻度の増加(若年層のみ関係している)
●SNS交流者数の増加(若年層のみ関係している)

<生活満足度を上昇させる要素>
●健康づくりをはじめる
●趣味・生きがいを新しくみつけていく

生活満足度を高くするには、社会的な制約が強くて思うように動けないときでも--いえ、思うように動けないときだからこそ--、友人・知人、頼れる人といった顔のわかるつながりを強くし、健康づくり趣味・生きがいをみつけていくことが重要となる。この傾向が鮮明になったといえます。

これは「心」「身体」「社会的つながり」という健康の本質の実現であり、Well-being が掲げる幸せな生き方そのものです。
今回の調査結果は、感染拡大によって人との交流が制限されるという未曾有の社会状況の中、より鮮明に Well-being の重要なポイントがデータによって裏付けられたといえるのではないでしょうか。

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デジタル化・オンライン化で変わる「人の関わり」のありかた

今回の調査結果で1点、興味深い傾向がみられました。生活満足度への影響が年代によってわかれた「SNSと生活満足度」です。
SNSの利用頻度・交流者数が増加したときに生活満足度が上昇したのは若年層のみでした。中高年層、高齢者層は、SNSの利用頻度・交流者数が増加したことにより社会とのつながりは感じられても、幸せを感じる生活満足度にはつながらなかったのです。

この結果について簡単に結論づけるのは危険ですが、ひとつの仮説が見えてきます。
つまり、SNSというオンライン上の社交場が、顔を知らない人とのつながりであっても、実体を伴うリアルな交流の場と変わらないものとして捉えているかどうかが満足度に関係し、その捉え方が世代により異なっているのではないかということです。

人のつながりは、家族、友人、知人、組織内の人、外の人の順に関係性を強く感じます。実体を伴うリアルな交流では、人となりを判別できる知人までが社会的つながりを感じる範囲でしょうが、SNSはそれより広い範囲でつながっています。顔がわからなくても、つぶやいた言葉に共感すれば何らかの反応を出すことで関わりあうことができるのです。

SNSをマスコミと同じようなメディアと捉え情報源にはするものの、人との関わりは実際に会わないと実感できない人と、顔を直接あわせたことがなくてもデジタル上で発信されたコンテンツで互いの存在を認め、共感したときには積極的に関わりあう人。この違いが、SNSに対する生活満足度の差に現れたのではないでしょうか。

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デジタル・オンラインの技術的な進展は、幸せの度合いを左右する人の関わり方にも大きな変容を与えているといえそうです。実体を伴う人との接触が制限されている現在、SNSによるつながりが人として関わることの実感と結びつき、満足度を高めるという可能性をどう活用していくかはとても重要なポイントになります。

たとえば健康管理に応用すると、従業員が行う健康づくりに関連する行動を単に個人のデータとして管理するのではなく、組織内でつながるSNSの中でランキング競争してみたり、期間限定イベントやゲームなどの形にしていくことで、楽しさ・やりがいを創出しながら人とのつながりも実感し、さらなる健康づくりの行動を生む相乗効果が期待できそうです。

SNSでのつながりが苦手だとする世代の人達も、目的がわかりやすい組織内のSNSから出発すれば、顔の見える関係を少しだけ拡張した交流の場として捉えやすくなり、ポジティブな行動変容により楽しさ・やりがいを見つることにつながって満足度が向上するかもしれません。


軽やかに先を行くミレニアル/Z世代 これからのWell-being はどこに向かうのか

SNSは今や、コミュニケーションツールの基盤といえる存在になりました。これまでの社会との関わりは、デジタル・オンラインネットワークが前提となった現在、根本的なあり方から変容しているといえるでしょう。
モバイルデバイスでのコミュニケーションがあたりまえのミレニアル世代やZ世代にとっては、SNSの中だけで完結するつながりであっても身構えることなく、人としての関わりを築いています。

もちろん実体を伴う交流は貴重でリッチな体験になりますし、オンラインだけでよいというわけではありません。また、どの年齢層にも友人づくりに悩む人やSNSに積極的な関わりをもたない人は多くいます。
デジタルかアナログかという単純な問題ではありません。ただ言えるのは、これからの Well-being で重要になるのは、実体を伴うか否かにかかわらず共感や共通体験でつながる関わりあいになるのではないかということです。

その最たる例として注目したいのが、若年層のSDGs や ESG への向き合い方です。SDGsに関する取組みは、中高年以上の世代が想像する以上に教育現場に浸透しています。
Z世代やミレニアル世代に代表される若年層は、気負うことなく あたりまえの行動としてSDGs 実現に向けた選択を行い、共感する者とつながっていこうとしています。

中長期の視点にたてば、これからの経済で主軸となるミレニアル・Z世代のもつ感覚や価値観をいかに共有し、ビジネスモデルに昇華させて、満足度の向上に資する方針を打ち出すかが大きな鍵を握っているといえるでしょう。

次回はその好例となるビジネスモデルを展開する事業をご紹介します。


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内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)「満足度・生活の質に関する調査報告書2021~我が国の Well-being の動向~」令和3年9月 ⇒URL

内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2021 ⇒URL

内閣府 「統合イノベーション戦略2021」令和3年6月18日 閣議決定 ⇒URL


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