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【日記】ジョージお兄さんとリサさん 死の恋人
隣に住んでいるジョージお兄さんが結婚した。
相手は学校時代からの友人の女性、リサさんだ。
リサさんとは何度か会ったことがある。
ジョージお兄さんの隣の家に住んでいる私とも、仲良くしてくれた。
優しくて可愛らしい人。
その2人の結婚式。
おめでとう、と私は2人に声を掛けた。
2人はありがとう、と微笑んでくれた。
数日後。
リサさんが眠った。
夜道で、レッサーデーモンとグレムリンの群れに襲われたらしい。
リサさんは綺麗な顔をして眠っていた。
発見した時はもっとボロボロだったけど、治癒魔法師が肉体の修復魔法で治したのだそうだ。
泣きながらお兄さんが教えてくれた。
「このままだと永遠の別れになりますよ?」
と私は伝えた。
「え?」
お兄さんは驚いたように顔を上げる。
泣きはらして、真っ赤な目。
見ているだけでも痛々しい。
「肉体を治せたのだから、あとは漂う魂を肉体に入れるだけです」
私は至極当然の意見を述べる。
「そ、それは……できない!!」
そう叫んで、眠っているリサさんに泣きすがるお兄さん。
「なぜ? ジョージお兄さんくらい優秀な魔術師なら、その方法を知っているはず」
「もう遅い……。発見から数時間経ってしまっていたし、その時点で肉体と魂は分離してしまっていたんだ。蘇生魔法は効果がない!」
お兄さんは尚も叫ぶ。
違う。そうじゃない。
「蘇生魔法は、ですよね」
その言葉に再び顔を上げるお兄さん。
顔が青ざめている。
「ア、アクアちゃん……? な、何を言っているんだ!?」
とぼけなくてもいいのに。
「蘇生魔法じゃありません。死霊術を使えばいいじゃないですか」
死霊術なら、時間が経ってしまっていても魔法によって肉体と魂を再び結びつけることができる。
完璧とはいえないかもしれない。
でも、これまで通り2人で食事をすることも、一緒に眠ることも、愛し合うことだってできる。
「君は……。本気で言っているのか!?」
もちろん本気だ。
このままだと肉体の腐敗は進んでしまうし、魂はフォーノスのシナティアメティーンに還ってしまう。
「リサさんと一緒に居たいんでしょう?」
私は問う。
「あ、当たり前だ。けど、死霊術なんて、そんなもの禁止されているじゃないか! 使ったことがバレれば、監獄行きだ!」
お兄さんは狼狽えている。
無理もないかもしれない。
死霊術への処罰は厳しいのだから。
でも……。
「リサさんへの愛はそんなもの?」
「な、なんだと!?」
「例え監獄に送られることになっても、それまでの間は愛するリサさんと過ごすことができるんですよ? それにそのことを私が誰にも言わなければ、バレません。遺体は魔族か何かに持ち去られたことにして、地下室にでも安置すればいいですし」
私は自分が思ったことを伝えただけ。
お兄さんはそんな私に怯えているようだ。
だけど、やっぱりリサさんとは一緒にいたいのだろう。
「……学校に通っていたときに、悪友から……簡単な死霊術を教わったことがある。魔法の効力は12時間。再度使用するためには12時間開ける必要があるけど、半永久的に使える魔法だって……」
お兄さんは額に汗を浮かべながら、目を泳がせてそう口にした。
「デッド・ラバーの魔法ですね。随分と強力な死霊術を知っている悪友がいたみたいですね。確かにその魔法なら、半日をリサさんと過ごすことができます」
「あ、ああ……。で、でもアクアちゃんはどうしてそんなに死霊術に詳しいんだ?」
緊張からなのか、呼吸が荒くなっているお兄さん。
私は笑顔で答えた。
「私は、今の学生の中で一番の天才魔術師ですよ。これくらい当然です」
「ほ、本当にもう一度リサと会えるのか?」
「もちろんです」
私は力強く頷いた。
「ただし、ジョージお兄さんが覚悟を決めなければなりません。リサさんを蘇らせるためには、あなた自身の強い意志と魔力、そして愛が必要です」
お兄さんはしばらく黙り込んでいた。しかし、次の瞬間、その目には決意の黒い光が宿った。
「分かった。リサを蘇らせるために、何でもする」
「では、地下室に行きましょう。そこで魔法を唱えるんです」
私たちはお兄さんの家の地下室に向かった。
リサさんの遺体を愛おしそうに撫でるお兄さん。
お兄さんは深呼吸をしてから、デッド・ラバーの詠唱を始めた。
「魂よ、肉体に戻れ。我が魔力が、君を呼び戻す」
その瞬間、地下室の空気が一変した。
冷たい風が吹き抜け、リサさんの遺体が微かに動いた。
お兄さんは驚きと歓喜の入り混じった表情でリサさんに駆け寄った。
「リサ……本当に君なのか?」
リサさんの瞳がゆっくりと開かれた。
彼女は優しく微笑み、お兄さんの手を握った。
「ジョージ……どうしたの、そんなに驚いた顔をして……」
お兄さんは涙を流しながらリサさんを抱きしめた。
「リサ、もう二度と離さない」
私はお兄さんに警告することを忘れなかった。
「リサさんが蘇ったのは一時的なものです。デッド・ラバーの魔法の効力は12時間。再び魔法をかけるためには12時間の間隔が必要です。そのことを忘れないでください」
お兄さんは深く頷いた。
「分かっている。リサと一緒にいるために、何度もこの魔法で蘇生する」
リサさんも私の方を向いて、静かに微笑んだ。
「お幸せに。リサさんとジョージお兄さんが一緒にいられることを、心から願っています」
その夜、地下室には二人の愛と魔法の光が溢れていた。
私はその光景を後にして、自分の部屋に戻った。
それから数日後。
ジョージお兄さんはリサさんと一緒に、抱き合うようにして眠っているところを近所の人に発見された。
近所の人たちは、墓地に埋まっているはずのリサさんの遺体があることに驚いていた。
だけど2人の愛ゆえに、リサさんがお墓から出て来てしまったのかもしれない、と涙する声もあった。
私とお兄さん以外は誰も知らない、リサさんを蘇らせたあの地下室に行くと、お兄さんの遺書のようなものが置いてあった。
「リサはリサであって、リサではない。生前の言動を真似るだけだ。彼女はやはり死んでいたんだ……。僕はもう耐えられない。リサ、今行くよ……」
お兄さんの遺書らしい。
「バカなジョージお兄さん。もう少し蘇生を続けていれば、その内に私が真の死霊術を完成させたのに……」
私は1人呟いた。
その夜、私はお兄さんとリサさんの遺体を地下室へと運んだ。
私は眠っている2人を見て、微笑んだ。
「大丈夫。私がまた、この世で2人を再会させてあげますからね?」
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