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【言語化力】村上春樹作品のヒーローに学ぶ、 理性的に積みあげる日々のススメ - 『海辺のカフカ(村上春樹)』を読んで

今日紹介する本 『海辺のカフカ』 村上春樹 著

2020/01/30 作成

皆さんは充実した日々を送れていますか?
仕事に追いやられて、自分の時間がなかなか確保できなかったり、自分の時間があってもダラダラ過ごしちゃったりしていませんか?

僕もそうです。自分の時間を充実させることは、何事にも代えがたいほど素晴らしいと思うのに、疲れるとどぉ〜してもやる気が出ない。

今日は村上春樹作品の主人公に学ぶ「日々を理性的に、積みあげるように生きることの素晴らしさ」について語ります。

1.退屈な仕事の為に生きていたくはない。けれど……

(↓ここ読み飛ばしても構いません笑)

 7時前に家につく。
 世間ではワークライフ・バランスの維持が声高に叫ばれ、そのために上司は僕らを早く家に返すことに躍起になっている。もし彼らの言っているバランスが、仕事とプライヴェートの両立を指しているのなら、そんなものとっくに破綻してると思うのは僕だけだろうか? ただひとつだけ言えるのは、力強いアイラ・モルト・ウイスキーを同量の水で割るトゥワイス・アップ以上に美しいバランスなど、この世には存在しないということだ。
 やれやれ、そう心の中で呟いて、荷物を下ろす。スーツを脱いでハンガーにかける。スーツのシワを手で丁寧にのばす。そのまま全て脱ぎ捨てた僕はシャワーを浴びる——日中のあいだに僕に付着したものを、そっくり洗い流すように。
 バランスを取るには、相反する要素をぶつける必要がある。たとえば退屈な仕事には、充実した余暇をぶつけるという具合に。今ならトゥワイス・アップとはいかないまでも、ウイスキー・ソーダぐらいのバランスにはなりそうだ。今日は週に2日あるファスティング(断食)の日なので、生憎それらを楽しむ時間はないが、ベットでダラダラする時間ももちろんない。
 シャワーを浴びた僕はすかさずストレッチに取りかかる。全身の筋をゆっくりと伸ばしながら、身体のすみずみまで意識が張り巡らされていくのを感じる。ストレッチを終えた僕は、無印良品のアロマデュフューザーのスイッチを入れる。もちろんそこにブランドのロゴは無いので、それが無印良品の商品か他人の目には分からない。それでもその商品は、印を持たないことによってむしろ、そのブランド性を体現している。つまりは全てのものはメタファーなのだ、ゲーテがそう言っているように。
 部屋にオレンジやローズマリーの香りが漂いはじめるころ、僕はマッサージ機で手をほぐしながら、小説のつづきを読む。22時のアラームが鳴ったら、読む本を変える。それはときに気象にまつわる本だったり、経営にまつわる本だったり、宗教史にまつわる本だったりする。
 そして日付が変わるか変わらないかの時間に眠りにつく。本の続きに、この世界への未練を託すようにして。

『村上春樹風に語る、だいきの理想の仕事終わりの過ごし方』より

僕の理想の仕事終わりの過ごし方はこんな感じです。こんな生活を送れたら、とっても充実した気分になるし、翌日の仕事も頑張れちゃいます。
でもね、これがなかなか難しい。仕事で疲れているとやる気も湧いてきません。

特に私、新年から異動になって職場も住む場所も変わったのですが、環境が変わるだけでなかなか生活リズムを取り戻すことができません。

最近は早く帰っても、お腹いっぱいラーメン食べて、帰ったらシャワーを浴びて即ベッドにダイブ。ダラダラAmazon Primeで鬼滅の刃を観て、気づいたら寝ている始末。
夜中に明るい部屋で1度目覚めても、また夢の中へ。「いつだって、消せない夢(二度寝)も、止まらない今(つまり二度寝)も、明日のために疲れを癒せるなら」です。「何度でも床につけ」です。

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(↑みんなに勧められるので観たら、流石に面白かった)

「あれ?俺ねず子だっけ??」ってぐらい寝るのですが、鬼のようにラーメン食べているので説明がつきません。ついでに言うと、こんなに寝てるのに翌日の仕事中に眠くなります。疲れが癒えていないのです。ねず子は寝るだけで食事もいらないと言うのに、ほんとうに説明がつかない。
……いっそ2年ぐらい寝てやろうかな。

でもこんな生活、本当は嫌なのです。生産的なことは仕事だけなんて、まるで仕事の為に生きているようじゃありませんか。
自分の人生を生きたいじゃありませんか。

そんな僕は最近、とある15歳の少年を思い浮かべます。彼は僕の指針です。
15歳だと侮るなかれ。なにせ彼は、世界でいちばんタフな15歳なのですから。

2.僕の指針は、世界でいちばんタフな15歳

今日紹介する本はコチラ。

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「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」——15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真……。

上巻 裏表紙より

村上春樹の『海辺のカフカ』です。
彼の作品の主人公って、“努めてクールで理性的”……ってイメージなのですが、今作のヒーローであるカフカ君はその傾向が特に強いと思います。彼は強くあろうと、自分を磨き続けていました。

そんな彼の日々を覗いてみましょう。

(↓流し読みで良いよ笑)

 こまかい部分をべつにすればほとんど変化のない生活が、それから7日のあいだつづけられる。6時半にラジオ・クロックで目覚め、ホテルの食堂でなにかのしるしみたいな朝食をとる。フロントに栗色の髪をした早番の女性がいれば、手をあげてあいさつをする。彼女も少し首を傾げて微笑み、あいさつを返してくれる。彼女は僕に親しみをもつようになっているみたいだ。僕も彼女に親しみをもつようになっている。彼女はひょっとしたら僕のお姉さんなのかもしれないと思う。
 部屋で簡単なストレッチをし、時間がくると体育館に行ってサーキット・トレーニングをこなす。同じ負荷を、同じ回数こなす。それ以上少なくもないし、多くもしない。シャワーを浴び、身体をこまかいところまで清潔にするようにこころがける。体重をはかり、変化のないことをたしかめる。昼前に電車で甲村図書館に行く。リュックをあずけるときと受けとるときに、大島さんと短く話をする。縁側で昼食を食べ、本を読み(バートン版『千夜一夜物語』を読み終え、夏目漱石の全集にとりかかる。読み残していた作品がいつくかあったからだ)、5時図書館を出る。昼間のほとんどの時間を体育館と図書館で過ごしているわけだが、そこにいるかぎり、誰も僕のことを気にかけたりはしない。学校をさぼる子どもはまずそんなところにはいかないからだ。駅前の食堂で夕食をとる。できるだけ野菜をたくさん食べるようにする。ときどき八百屋で果物を買い、父親の書斎からもってきたナイフで皮をむいて食べる。キュウリやセロリを買ってホテルの洗面所で洗い、マヨネーズをつけてそのままかじる。近所のコンビニエンス・ストアで牛乳のパックを買い、シリアルと一緒に食べる。
 ホテルに戻ると、机にむかって日誌をつけ、ウォークマンでレイディオヘッドを聴き本をまた少し読み11時前眠る。寝る前にときどきマスターベーションをする。僕はフロントの女性のことを想像し、そのときには彼女が本当に僕の姉かもしれないという可能性をとりあえずどこかに追いやる。ほとんどテレビも見ないし新聞も読まない。

ね? めちゃくちゃ規則正しい生活をしています。

それどころか彼は作中で何度も住処が変わり、その度に生活も様変わりしていきますが、そのどこでもすぐ順応して生活サイクルを確立します。

あっぱれです。こうありたい。
でも、こんな風に細かいところまで規則正しく生活するのって本当に難しいんですよ。気がつけばだらだらしちゃう。

そんな僕は毎日いろんな工夫で自分を鼓舞し続けています。

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毎日のお掃除はリマインドするし……

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1日の時間を有効活用できるよう、アラームで区切るようにしています。

でもこれだけやっても無視して鬼滅の刃観ちゃう。

流石にいけない!と思って、昨日の定時退社日をきっかけに理想の業務後の過ごし方を実践してみました。実践しながら冒頭に書いたように、村上春樹風に実況して。

そうしたら予期せず、村上春樹のとんでもない能力に気づいてしまったのです。

3.心の中のリトル春樹が、僕たちの日々に輪郭を与えてくれる

「感じた事を言葉にするのはすごく難しいんだよ。みんないろんな事を感じるけれど、それを正確に言葉にできる人はあまりいない」

『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)』より

言語化力の重要性が盛んに取り上げられるようになった昨今ですが、その言語化力において村上春樹はズバ抜けていると思うのです

少し前に「もしも村上春樹が〇〇したら」と言う企画が流行りました。
きっかけは菊池良の『もしも村上春樹がカップ焼きそばの作り方を書いたら』。

現在は書籍化されているので、本の紹介に留めますが、「完璧な湯切りは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」で終わるこの企画は当時SNSでめちゃくちゃバズっていました(調べると色々出てくるよ)。

今日は例として、「もしも村上春樹が辞書で“歩く”について説明したら」に挑戦してみました。

ちなみに辞書にはこう書いてありました。

ある・く【歩く】
・・・
 足を動かして前に進む。歩行する。あゆむ。
 「―・いて帰る」「野山を―・く」
・・・
goo国語辞書より

それが、僕の中のリトル春樹に聞いたらこう返ってきました。

ある・く【歩く】 
・・・
 歩くという行為はほとんどの無意識にこなせるものであり、その説明をすることは難題で、そしていささか無粋でもある。
 たった今君が辞書を手にして、この項目を読んでいるということは、君はかつて僕が経験したものと同じ壁に直面しているんじゃないかな?
 もしこの予想が当たっていたら、今度君はアイリッシュ・パブで僕にカティーサークのロックを頼まなければならない。
・・・
 さて、歩くことについて僕が説明するとき——そこにはいくつかのアプローチがあるが——まずは脳の信号から語るのが良いだろう。
 君が歩きたいと願うと、その意思に忠実な脳は信号を発する。信号は神経を通じて君の脚に伝わる。すると君の脚は地面を優しく蹴り上げ、1歩を踏み出す——たいていの場合踏み出した脚と反対側の手が前に振り出される。そして、先ほどとは逆の手脚で、同じ動作をする。この一連の動作を、まるで川の流れのように、途切れることなく繰り返すことを、僕らは歩くと呼ぶ。
・・・
 そしてそのとき、君がまるでニューイングランドの初夏のように穏やかな風景の中にいて、それを楽む余裕があるなら、その行為は散歩と呼ばれる。あるいは音楽を聴きながら歩けば、それはダンスの原形となるかも知れない。もし君がこれから先もこの辞書を使うようなら、覚えておいて損はないだろう。

いや、どんだけ喋んだよ。

いちいちこんなに喋られたら、馬締さんだって舟を編めません。編んでも沈没します。

でも、この言語化力が村上春樹の魅力なのです。
歩くことを説明するだけなのに「そう言えば歩くことについて考えたことないな」からはじまり、「運動だから、理論的に説明するために脳の働きから言及しよう」へと続き、そして「歩くことの楽しさを、散歩やダンスにまで波及させる」ところまで思考が変遷していきました。

そして、その類稀な言語化力によって、カフカ君の日々は明確な輪郭をあらわすのです。

 しばらく進んだところに、丸いかたちにひらけた場所がある。背の高い樹木にかこまれて、それはまるで大きな井戸の底のようだ。開かれた枝のあいだから太陽の光がまっすぐ降って、スポットライトとなって足もとを明るく照らしだしている。それは僕には何かとくべつな場所のように感じられる。僕はその光の中に腰をおろし、太陽のささやかな温かみを受けとる。ポケットからチョコバーを出してかじり、口の中にひろがる甘みを楽しむ。太陽の光が人間にとってどれくらい大切なものなのかをあらためて僕は知る。その貴重な1秒1秒を全身で味わう

作中より

感じたことを言語化するだけで、僕たちの日々はあっという間に輪郭をあらわし、そして豊かになります。

いや、ほんとに。
冬は寒いけど、外に出て「太陽のささやかな温かみを受けとる」って心の中で言ってみて? 何か食べて「口の中に広がる甘みを楽しむ」って心の中で言ってみて?
本当にあったかくなるから!いつもより甘くなるから!

僕も理想の業務後をリトル春樹に実況させたら、シャワーでいつもよりスッキリしました。ストレッチで全身に力が漲るのを感じました。

そうやって日々を積み重ねるように、丁寧に生きることって、実はめちゃくちゃ素晴らしいことなのです。

4.村上春樹 Like な生活のススメ

『海辺のカフカ』を書いた村上春樹自身、カフカ君と同じように各地を転々とすることもあります。時には世界中を転々としながら、小説を書いたりしています。
生活をコロコロ変えても安定して創作できるのって、すごいことですよね。

そんな彼は「1日は23時間しかない。1時間はランニングに費やす」と語るほど、生活サイクルに運動を取り入れています。
忙しい毎日でも、ランニングの様に「これだけは毎日同じ時間にやる」ってものを決めると、生活も安定しやすいのかもしれません。

そんな理性的に過ごす毎日の充足感を、彼は優れた言語化力で、常に心に留めているのかもしれません。

僕たちが彼の域に達するためには、それこそ「全集中!水の呼吸!」が必要かもしれません。

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それでも今日を機に、もっともっと丁寧に生きていこうと思いました。

新年も、もう1ヶ月が経過しそうです。
皆さんも是非。一緒に頑張りましょう。

次回!『鬼速PDCAで回す!今年の抱負!』
これから考るけど。。。

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今日紹介した本

海辺のカフカ(上・下)
村上春樹 著
2005年 新潮文庫より

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