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「海は俺たちのもの」 漁師の本音と資源管理という難題|【特集】魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない[PART4]

四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。

漁業者が漁獲枠やルールを守らず「誤魔化し」が横行しては、資源管理は成り立たない。華やかな水産観光都市・函館の裏側には、日本の漁業が抱える〝難題〟が横たわっていた。

文・鈴木智彦(Tomohiko Suzuki)
フリーライター
1966年北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』(小学館文庫)など。

 道南地区は北海道観光でも屈指の人気エリアだ。北海道新幹線に乗れば東京から4時間弱で北の大地に降り立てる。五稜郭やレンガ倉庫、松前城などの史跡もあり、夜景や温泉も有名である。なにより近隣の漁港に揚がる海の幸は新鮮でうまい。ウニ、カニ、アワビ、ボタンエビ、ホタテ……。JR函館駅前の朝市は全国的なブランドで、海鮮料理は函館観光の目玉だ。

 だが、道南の漁業は大きく様変わりしている。かつて函館の名物はスルメイカだった。漁期になると夜の海にイカ釣り船の灯りが並んだ。だがスルメイカの水揚げはどんどん減り、この10年間で約20分の1に落ち込んだ。

かつてスルメイカの街だった北海道・函館は、漁獲減とコロナ禍で二重苦の最中にあった(筆者撮影)

 「昔、函館では朝食にイカ刺しが出た。おいしく、安価で、大量にスルメイカがあったからです。でも今はほとんど獲れない。乱獲や水温の上昇、中国や韓国の漁船による違法操業など、原因はいろいろ考えられますがハッキリしません。代わりにブリの水揚げが増えたのでブリ・バーガーなどが考案されてます。なかなかおいしいですよ」(函館新聞社・山崎大和副部長)

 だが函館を訪れた観光客は漁港の水揚げの動向など斟酌しない。誰もがイカやカニ、ウニやイクラ、サーモンやマグロを食べたがる。駅近くの繁華街に居酒屋があり、軒先にメニューが張り出されていた。真イカ(スルメイカの俗称)刺身は1990円で、もはや高級魚だ。こうして値段を明記している店は良心的である。イカは冷凍しても味の劣化が少ない。中国やロシア、米国から輸入される冷凍イカを出しても、ほとんどの客は分からない。

 誰もが函館で食べる海産物は地元で獲れた魚と思い込む。が、昨年9月下旬、北海道を襲った赤潮は大量のウニやサケを死滅させ、漁業被害は総額80億円に達した。知り合いの店に訊くとサーモンはノルウェー産、ウニはロシア産、イクラも輸入の鱒の子という。訊かれれば正直に答えるつもりらしいが、観光客は誰一人質問しないという。

 もちろん函館にも愚直に魚を仕入れ、売り続けるまっとうな鮮魚店は数多くある。地元客をメインにした生活密着型の商店街ではすべての客がリピーターだ。

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