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無駄にする時間はない 日米は同盟強化へ手を尽くせ|【WEDGE SPECIAL OPINION】台湾統一を目論む中国 「有事」の日に日本は備えよ[PART1]

今年8月のペロシ米下院議長の訪台に、中国は大規模な軍事演習で応えた。「台湾有事」が現実味を増す中で、日本のとるべき道とは何なのか。中国の内情とはいかなるものか。日本の防衛体制は盤石なのか。トランプ政権下で米国防副次官補を務めたエルブリッジ・コルビー氏をはじめ、気鋭の専門家たちが、「火薬庫」たる東アジアの今を読み解いた。

国際秩序が揺らぐ今、日米同盟はかつてないほど重要な意義を持つ。元米国防副次官補が語った日本のとるべき道とは。

文・エルブリッジ・コルビー (Elbridge Colby)
元米国防副次官補
1979年生まれ。米ハーバード大学卒業、エール大法科大学院修了。新アメリカ安全保障センター(CNAS)上席研究員などを経て、戦略・戦力開発担当の米国防副次官補を務め、2018年の「国家防衛戦略」の策定を主導した。現在は、大国間競争を主要テーマとする政策研究機関「マラソン・イニシアチブ」共同代表。


 日本は目を覚ます必要がある。目をこすりながら徐々にではなく、即座にベッドから飛び起きなければならない。日本の防衛は今の時代にとって、嘆かわしく危険なほど不十分だというのが紛れもない事実だ。この状況を変える必要がある。しかも直ちに、だ。

 「吉田ドクトリン」(吉田茂元首相が打ち出した経済重視・軽武装の考え方)の世界、日本が事実上、自国の防衛を米国にアウトソーシングしていた世界は、今や遠い過去の話だ。あの世界は、中国が近隣の台湾のみならず、日本自体にとっても恐ろしい脅威を突き付ける世界になっているのだ。

中国は6月、2隻目の国産空母「福建」を進水させた (XINHUA NEWS AGENCY/AFLO)

 中国人民解放軍はもはや、ただ台湾問題を解決するためだけの軍隊ではない。明らかに戦力投射型の軍隊になりつつあり、空母や宇宙衛星、航続距離の長い潜水艦、爆撃機をふんだんに備えている。これは効果的な反撃能力で応じない限り、西太平洋全体、さらにはもっと遠い先まで圧倒的な戦力を投射できるようになる軍隊だ。

 間違ってはならない。日本はほぼ確実に北京の視野に入っている。たとえ中国政府が台湾を制圧したいだけだったとしても、地域内で日米の部隊を攻撃することは十分考えられる。一つには、中国が恐らく、米国と日本が台湾の援護に駆けつけると想定するためだ。日米両政府の声明は実際、そのような見方を裏付ける。さらに、中国の射撃訓練を撮影したオープンソースの衛星写真には、在日米軍だけでなく、日本の自衛隊だけが運用している航空機のレプリカも写っている。日本は中国の軍隊に関心がないかもしれないが、中国軍の方は日本に関心があるのだ。

 もちろん、中国は日本を併合したいとは考えていないだろう。だが、中国政府が日本を自国のアジア覇権の下に置きたいと考えていることは妥当な想定だ。この構想では、日本は中国の支配の歯車の一つ、中国の太陽に対する経済的、地政学的な月になる。これは間違いなく、今ほど自由ではなく、繁栄が後退し、危機的状況の日本を意味する。

 さらに、歴史と中国の国民心理を考えると、中国政府が日本のために特別な屈辱を用意している可能性が高い。筆者は日本人を代弁するつもりはない。だが、もし自分が日本人だったら、こうした事態は何としてでも避けたいところだ。

「単独」での対峙は困難
再認識すべき日米同盟の重要性

 その意味で、日米同盟がかつてないほど重要になる。

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