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歴史的円安を日本の好機とし「真のグローバル化」を果たせ|【WEDGE OPINION】

円相場の下落が止まらない。だが、〝嵐が過ぎ去るのを待つ〟だけでは状況は好転しない。厳しい現実を直視し、ピンチをチャンスへと変える経済戦略の大転換に向け舵を切るべきだ。

文・中島厚志(Atsushi Nakajima)
新潟県立大学国際経済学部 教授
東京大学法学部卒。日本興業銀行入行。パリ興銀社長、みずほ総合研究所調査本部長、経済産業研究所理事長などを経て2020年4月から現職。主な著書に『大過剰 ヒト・モノ・カネ・エネルギーが世界を飲み込む』(日本経済新聞出版社)。


 円相場の下落が止まらず、9月1日にはついに24年ぶりの円安となる1㌦140円台となってしまった。しかも、この円安は、主要通貨全体に対する円の実質的な価値を示す実質実効為替レートでは1972年以来50年ぶりの歴史的な水準となっている(国際決済銀行〈BIS〉)。

9月1日、円相場は1㌦140円台にまで下落した (JIJI)

 円安の背景には、ドル金利上昇で円に対するドルの魅力が増していることなどがある。しかし、足元の歴史的な円安を、コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争などによるインフレがもたらした一時的なものと認識していては本質を見誤る。

 実際、世界の中での日本の経済力は40~50年前の水準に下落し、50年ぶりの円安もこの状況と呼応しているように見える。例えば、世界の国内総生産(GDP)に占める日本の割合は、95年の17.9%から2021年には5.1%に縮小するが、この割合は50年以上前の1967年(5.4%)を下回る。また、1人当たりGDPは世界25位(2021年)だが、この順位は40年以上前の1980年(28位)、81年(24位)辺りの数字と類似する(世界銀行)。

 このようになってしまった主因は、もちろん日本経済の成長力のなさにある。そして、その背景には主要他国に見られない極端な空洞化の問題がある。この20年余り、日本企業は安い生産コストや市場を求めて海外生産比率を高めたが、一方で市場が飽和している国内での設備投資を抑制してきた。そこに、対GDP比で世界最低水準しかない対内直接投資(201カ国・地域中198位。20年、国連貿易開発会議)が加わり、投資が海外流出するばかりの「偏ったグローバル化」になっている。このような状況を何十年も続けては、良好な成長は維持できない。

 国内投資の長期間にわたる抑制は、経済力を停滞させただけではない。今回のコロナ禍で明らかになったように、……

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