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商品は芝居の着物 呉服屋の窮地を救ったお客からの注文|【さらばリーマン】逆境を乗り越える編

☆逆境を乗り越える画像(1280×500)背景黄色 (1)

イラストレーション
木原未沙紀(Misaki Kihara)

東海道・山陽新幹線のグリーン車に搭載されている月刊誌『Wedge』の人気連載「溝口敦のさらばリーマン」。勤め人を辞めて、裸一貫で事業を始めた人、人生の窮地を起業で乗り越えようとした人、趣味を仕事にしてしまった人、自らの事業で社会課題を解決しようとした人など、起業家たちの人生や日々奔走する姿をノンフィクション作家の溝口敦氏が描きます(肩書や年齢は掲載当時のもの)。

文・溝口 敦(Atsushi Mizoguchi)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1942年東京都生まれ。暴力団や新宗教に焦点をあてて執筆活動を続け、『食肉の帝王』(講談社)で第25回講談社ノンフィクション賞などを受賞。

原彰希夫さん(600×400)

原彰希夫さん(Akio Hara)
かんさい呉服代表取締役(34歳)

      (※肩書や年齢は掲載当時のもの)

 女性はともかく男性で着物を着る人はきわめて少ない。女性であっても特別な式事や行事で袖に手を通すぐらいだろう。しかも自分で買わずに貸衣装で済ます場合が多い。だから呉服屋は年々扱い高が減って悩むことになる。

 こういう呉服業界に小売りとして新規参入するのはほとんど自殺行為に等しい。既存の業者が数多くいるのに、新参者が顧客を獲得するのは難しい。

 だが、これをやった人がいる。大阪で起業して2店舗に拡大、勢いを駆って東京・浅草に出店、今では全国の大衆演劇好きに広く知られるようになった。扱い商品を芝居に絞り込んだ成果である。

 大衆演劇のスターといえば梅沢富美男さんだろうが、全国に大衆演劇の一座は200劇団以上、各座にスター的な座長がほぼ同数いる。芝居小屋の数は減ったが、健康ランドや市民ホールなどでも公演し、『瞼の母』や『婦系図』など名作といわれる演目も演じられる。熱狂的なファンは年配の女性に多いが、彼女たちはひいき役者に芝居で使う着物などを贈りたがる。

 原彰希夫さん(34歳)の呉服店はここに着目、風神雷神図など派手な図柄を多色で手描きした舞台衣装などを割安で提供している。全国に5店とない専門店である。

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