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大成功を収めた米国マクドナルド・アプリ戦略と顧客体験設計のキーワード

昨今私たちは、「顧客体験」というマーケティングワードを毎日のように耳にします。このコンセプトが用いられ始めたのは2000年代前半〜中盤にかけてで、当時インターネット、モバイル、ECの普及が急速に進む中、WEBサイトやモバイルサイトのユーザビリティそのものや、マスメディアとWEBのクロスメディアキャンペーン、店舗とECのマルチチャネル戦略といったマーケティング施策が注目されるようになり、「顧客体験」はそうした取り組みのコンセプトになっていました。

さらに「顧客体験」は、そのような動きと連動してCRM施策の1つとしても多く用いられるようになっていきます。社会の成熟化が進みモノが売れづらくなり、クーポンや懸賞品の提供など様々な販促策の効果が薄れていく中で、ブランドは魅力的な体験の提供という新たなインセンティブで顧客とのつながりを強めるようになっていきます。同時に、MAの自動化トレンドに対するもう一方として、ブランドファンの育成、 LTVの向上といった、中長期的な顧客戦略の中の重要な施策としても位置付けられてきています。

このように2000年代以降、様々なシーンで重視されてきた「顧客体験」に関して、本記事では特にECやCRMへの活用をテーマに、昨今のマクドナルド事例を取り上げながら、体験設計における重要な考え方についてご紹介していきたいと思います。


5,000万人以上が参加した「Camp McDonald's(キャンプ・マクドナルド)」

「Camp McDonald’s」は2022年の夏の1ヶ月間に開催された米国マクドナルド社のアプリキャンペーンです。このキャンペーンはアプリから参加し、日替わりでクーポンがもらえたり、様々な限定グッズや人気アーティストの音楽ライブも楽しむことができる仮想キャンプで、のべ5,000万人以上が参加するという大成功の成果を収めたキャンペーンになっています。


なぜ、ここまで人気になったのか?

ここからは筆者の考察になりますが、キャンペーンカレンダーを見ると、多くは日替わりクーポン配信になっていて、「えっ、よくあるクーポン配信?」という気が一瞬します。

実際、「日替わりクーポン配信」という従来型の施策設計がこのキャンペーンの骨格に存在しています。ですがキャンペーン全体の括りに「camp」という夏の楽しい思い出につながる新たなテーマを提案し、クリエイティブ(サイト、ポスター、動画など)、人気アーティストとのコラボレーション、限定グッズの提供、アーティストのライブ配信などと組み合わせることで、一気にクーポン配信を「イベント化=顧客体験の場」に変容させています。

そしてさらに、それがマクドナルドの世界観ともきちんとマッチしていて、多くの顧客の期待感や共感を得る結果につながったのだろうと思います。

さらに言えば、こうした演出があることで、日替わりクーポンにも必然的に目が止まり、売上拡大にも大きく貢献するキャンペーンになったのだと思います。

顧客体験的な施策は、ブランド価値の向上には寄与するものの、直接的な売上拡大に結びつかないケースもあるのですが、このキャンペーンはそうした課題もクリアした、とてもよくできた企画と言えると思います。



顧客体験設計 = Priceless & Rarity

「priceless & rarity」という言葉は筆者による造語ですが、CRMやプロモーションにおいて「体験的な顧客価値」づくりを企画する際に筆者がとても重視している考え方になります。

「priceless」は言葉通り「お金には変えられないもの」ということですし、「rarity」は希少性です。つまり、「お金では変えられない希少性」が体験価値の源泉であり、それをブランドとの適合性を考慮しながら具体化する、というのが企画のポイントになります。

「Camp McDonald’s」の場合、キャンプ仕立ての中でのアーティストのライブ参加や限定グッズの入手がそれにあたります。クーポン配信自体には「priceless」も「rarity」もありませんが、上述したようにこれ自体は来店刺激としての別の効果があります。

このような「priceless & reality」に通じる体験価値提供には、他に以下のようなものがあります。


●話題性の高いイベントへの参加特典の提供

adidasとサントリーはともにプロスポーツ協賛を行っていますが、例えばadidasでは「サッカー日本代表観戦ペアチケット」や「選手入場時のエスコートキッズ」などへの応募を同社のポイント交換特典として提供しています。同じくサントリーでも同社のポイント交換としてプロ野球のレジェンドプレーやーが集う「サントリードリームマッチ招待券」をプレゼントしています。

希少性の高いプロスポーツの観戦チケットなどは、協賛企業であれば最も手っ取り早い顧客体験づくりと言えます。


●ブランド非公開情報へのアクセス

例えば、普段は立ち入ることのできない工場・施設見学への招待や商品開発への参画などがそれにあたります。
これらの取り組みは比較的前から行われていますが、特に有名なのは「無印良品」です。無印良品では2000年頃からお客さま参加型の商品開発を本格化し、WEBサイト「ものづくりコミュニティ」の開設や「くらしの良品研究所」「IDE PARK」の設立など、色々と形を変えながら強化・運営を行ってきています。

顧客(ブランドファン)にとっても自分の好きなブランドの商品開発等に携われることは、やはり特別な体験と言えます。


●非日常の特別な空間の提供

よみうりランドでは、「よみランCLUB会員」になるとグループ施設のチケット購入や飲食店利用・商品購入等でポイントがたまるようになっており、50,000Pを貯めると、なんと閉園後の遊園地貸切権(2時間)を得ることができるようになっています。遊園地の貸切なんて、子供の頃に誰もが1度は夢見た世界ですね。


●他にはなく利便性の高い特別なサービスの提供

アメリカのドラッグストア「ウォールグリーン」では、自社のアプリ利用者に対し、ドラッグストアならではのサービスを提供。
「Find Care Now」では、症状のフィルタリング機能を通じて利用者近くの様々な医療サービスを提供したり、コロナになり日本でもサービスが始まりましたが、「MD LIVE Doctor Bideo Call」では、往診予約やビデオ通話を使って24時間医者に相談可能な遠隔医療サービスを提供したりなど、「薬」からつながる特別なサービスを顧客は受けることができます。


●非売品・限定品のグッズ提供(または販売)

「Camp McDonald’s」でも見られましたが、このような施策もよくある手法の1つではあります。CRMやCX事例で数名なスターバックスでもポイント還元にオリジナルグッズを提供しています。

オリジナルグッズ提供は、キャンペーン景品などでも昔からよく用いられていますが、モノあげの場合、ブランド力が強いと効果も高いですが、そうでないと単に非売品・限定品というだけでは体験的要素も希少性もなく、顧客価値として残りづらいので注意も必要です。


これらの施策はキャンペーンやCRMなどのプロモーション内に用いられていますが、プロモーション企画というよりサービス企画の領域で、提案に際しては「プロモーショナルサービス」というコンセプトで表現することが多いです。

一般的に「制作」という業務範囲を越えることも多く、広告会社やクリエイティブ会社で扱う場合、どこでお金を取っていいのかわからない側面もあるため、あまり行わない部類の提案かもしれませんが、顧客体験づくりとしてのサービス企画はとても重要な視点になりますので、機会があればぜひ企画にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?


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