終わりなき不在/佐川恭一

Xでフォローしているある作家が新刊の感想を述べていた。

こちらの本である。
あらすじから読み取るに学歴、就職競争の話である。
昨今のXでは婚活だのタワマンだのといった話になる時に必ずセットになるのが学歴についてだ。
どれだけハイスペであるかという時に年収とともにネタにされているのを私はいつも外野から興味深く見守っている。

先の新刊は未読なのだが、この著者のデビュー作を読んでみた。

就職した銀行を一年で辞め、仕事も恋人も失った自堕落な青年は小説家を目指す。その果てに何が待っているかも知らずに……。「文章を書くためだけに脳をカスタマイズされ他の能力を全てスポイルされた俺という怪物の書く小説が、なぜ他者の作品に劣るのか?」

迷走する自意識、崩壊するモラトリアム。これは悲劇か? それとも喜劇なのか? 泣いた方がいいのか? 笑っていいのか?  渦巻くような自意識の階層構造に、やがて読者の意識も翻弄されていく……。

あらすじとしてはざっとこのようなもの。
主人公の青年は銀行に就職したくらいなので勉強はできたのだろうが、とにかくダメ人間なのだ。
彼と関わる男女はいづれもちょっとイカれてしまっているようなユニークで奇抜なキャラクターばかり。
恋人関係において相手のことをボロクソに見下したりしているあたり、西村賢太に通ずるものがあり、マジでクズ男ってどうしよもねーな!と思ってしまうのだが、きっとどの男も女も少なからずコイツのこういうところが嫌だと心の奥にしまって生きているのだから仕方がない。
そういった人間の黒い部分を覗けるのはとても面白い。

主人公が妥協の恋をして色々あったのち結局前の女が忘れられなくて、俺が有名になれば件の元カノに気付いてもらえるだろうという、ミュージシャンや芸人などによくありがちな方向に話が展開していく。

良くも悪くも、男というのはこういう原動力があるからこそ本気を出すことができるのだ。
とはいえ、大体において良い方向に行くことはほとんどない。

とにかく、みうらじゅんや大槻ケンヂを彷彿させるダメさがそこかしこに散らばっている。
こういうタイプの男は決まって陰鬱である。
作品を作っておきながら、あくまで向こうが気付いてやってくるまで自分から直接行動を起こすことはない。
女々しい野郎ばかりだ。
どうせ俺なんて、、、と行動を起こす前からうまくいかない理由を考えている。

実際ミュージシャンや作家と付き合ってきた過去があるのだが、この本のストーリーのようになんだかごちゃごちゃと訳のわからないことを綴り、好きなのか嫌いなのか、褒めて欲しいのかなんなのかという作品ばかりが仕上がってくるのである。

だから売れないんだよ!と思うこともあるのだが、実際のところわかりやすい作品なんて全く面白味がないというのが本心である。

お互い様なんだよな。

サブカル寄りの小説が好きな方にはおすすめです。
みんな病んでる。

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