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”細く” ”長く” 縁をつなぐ~Buddy's Voice vol.12:稲葉通全~

We are Buddies(WAB)は、子どもと大人ボランティアがバディとなり、直接会って一緒に遊んだり、話したりしながら、細く長い関係性を築いていくオランダ発祥のプログラムです。バディとなる大人ボランティアは、月に2回程度の子どもとの関わりを1年以上続けることを自らの意思で選択し、この活動に参加しています。様々なバックグラウンドを持つ大人バディたちは、なぜ We are Buddies に参加し、活動を通してどんなことを感じているのでしょうか。 この"Buddy's Voice" の連載では、様々な視点からこのプロジェクトを捉え、その意義を探求するべく、大人バディたちの生の声を届けていきます。

第12回となる今回は、大人バディの河野和也さんがインタビュアーとライティングを担当しました。インタビューを受けてくれたのは、鎌倉在住で心と身体を整えるパーソナルトレーナーとして活躍する稲葉通全(いなばみちまさ)さん。小学校5年生の男の子Yくんの大人バディとして活動中です。

事務局からたまたまWABの活動を聞く機会があり、自分の過去の経験等から活動自体に興味を持ったという通全さん。Yくんを紹介してもらい、実際に会ってみたところ、自分の気持ちを的確に捉えて表現することができ、素直に凄い子だなと思ったとのこと。また、どこか昔の自分と重なるようなシンパシーを感じ、何かのご縁だと思って始めてみたとのことです。

以下、インタビュアーの和也さんにインタビューの様子を綴っていただきました。

ホットアサイー

インタビューは2月中旬の鎌倉。曇天の寒さが残る海辺のカフェで話を聞いた。

彼とは鎌倉駅の江ノ電ホームで待ち合わせた。すらっとした男が現れる。高校時代はバスケをやっていたのだろうか、それとも棒高跳びか、モデルとかもやっていたのではないか。会った瞬間色々想像してしまうぐらい身長が高くスタイルがいい。日本人特有の初対面で気の使う肩肘張る感じの堅苦しい挨拶ややり取りなんかもない。ただ北風に乗ってさっと現れたような感じ。そんな第一印象だった。

江ノ電に乗り込んで稲村ヶ崎で下車。海岸まで歩き、インタビュー用の写真を数枚撮った。

その後はカフェに入り注文をする。アサイーが美味しいらしい。みっちーは店員さんと気さくに会話をして、ホットアサイーなるものを注文。私は保守的なので、変わり種には脇目も振らず、ホットコーヒーを注文。

届いたホットアサイーを一口、「クリスマスマーケットみたいで体も温まる~」と店員さんに笑いかける。只者ではないのを感じた。圧倒的柔軟さ。オープンマインド。20代も後半に差し掛かり、アラサーに片足を入れ込むと経路依存に陥りがちだが、そういった様子は一ミリたりとも見せない。凄い。

いざインタビューが始まる。さっきの雰囲気から一転、目を閉じて丁寧に丁寧に言葉を紡いでいく。

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 心の居場所を作る

ー 鎌倉には1年前から住み始めたらしいね。その前にしていたこととかみっちーのこれまでの人生について、まずは聞いてみたいかな。

稲葉通全(以下、みっちー):鎌倉に来る前は宮崎の日南市に住んでいた。サンゴの養殖事業を学生起業して、チーム4人で移住した感じ。小学校の廃校とプールで、サンゴの養殖場を作るというのがメインだった。困難もあったが、地域の人にも助けられ、当時の代表共に事業を進めていった。

でも、個人の探究としては、事業の周りに生まれてきたコミュニティとか居場所みたいなものに興味を持ち始めたんだよね。外側いわゆるハードの居場所って、場所がなくなっちゃうと居場所自体もなくなる。宮崎の廃校がなくなったときにすごく思った。そこで、内側の居場所、ソフトな意味での居場所っていうのが大事なのかなって思って、心理学や対話とかを探求し始めたんだよね。そこから、オンラインコーチングで出会った師匠に学ぶために鎌倉に移ってきたっていう感じ。今は、その人のシェアハウスで一緒に暮らしながら、ボディワーカー兼カウンセラーとして働いてる感じ。

ー ボディと心ってもう全てカバーしてるね。会う前は、勝手に背も高いから、フィットネストレーナーみたいな仕事をしているのかなって想像してたけど、逆に心理学とか心の居場所作りに興味があって今に至るんだね。

みっちー:自分の原体験から心の居場所作りには興味を持ち始めたし、そこが We are Buddies にも共感した点かな。自分にとっては全てがつながっている感じ。

ー 原体験について差し支えなければ教えてもらえますか。

みっちー:昔所属する全ての居場所から否定された経験があった。 所属していた団体は年間360日練習がある、大阪府でもそれなりに強いチームだったのだけど、その時に他の子供の父兄からいじめにあった。 幼少期は学校でもいじめにあって、家族も荒れてうまくいかなくかった。

そういった時間を経て、自分を殺して周りに適用しないといけない、と思うようになって、とにかく学生時代の10年ちょっとは,、自分を殺して環境に適用することばかりを考えていた。大学に入っても、自分の居場所は見つからなかった。国内も海外も、色々旅に出たし、海外で働いたこともあった。瞬間瞬間で居場所はあったけど、本当に安心できる心の居場所は結局見当たらなくて、鬱にもなった。

辛い時期だった。だけど、それをきっかけに自分と深く対話し、つながり直す時間をとって行く中で、自分を愛することができた瞬間があった。

そうすると、自分以外の誰かを心から愛することができた。 自分の内側に育んだものが、外側にも広がっていくんだなと実感したよ。 これが内なる居場所作りの原点だなと。 これでも、そう思えるようになるまでの経緯は、キュって1%ぐらいに凝縮して話しているけど。笑

対等な関係。ほんと、マジですごい子。

ー そうなんだね。先程、自分の人生とWABでの活動は、全てがつながっているって言っていたけど、子どもバディYくんとの出会いについても教えてほしいです。小学4年生のYくんはどんな子なの?

みっちー:Yくんのことは、出会う前から事前にいろいろ話を聞いていて、どんな子なんだろうと想像していた。初めて会ったときに、すごく心を開いてくれたのが嬉しかった。「僕はこれが好き、あれが好き」など、自分というものをすごく持っていて、言語化力や伝える力、考える力を持っていて、すげえなと尊敬した。

僕にはできなかった生き方。僕は自分を殺して周りに合わせるということをやってきたけど、彼はすごく自分のことを大事にしていた。その決断や選択は素晴らしいし、ご両親も素晴らしいなと思った。Yと会うまでは、ちょっとどこかで自分のなかにYのケアみたいなことが頭にあったけど、Yと会った瞬間にそれが消えて、ただすげえなと、シンプルに彼を尊敬した。対等になった感じがあった。Yは周りのこともよく見ていて、妹のMちゃんという子の気持ちも考えている。よく出来た子なんですよ、ほんと。マジですごい。

ただ遊ぶ。自然体でアクティブに。

ー 具体的にどういう遊び方をするの?

みっちー:最初はYがゲームが大好きと言っていたから、家に行ってゲームをして遊んでいた。ただ、話を聞くと、Yは身体を動かすことが好きで、腕立て100回とか、走ったりしているみたい。僕はヨガのインストラクターをやっていたから、Yが「みっちー、外で一緒に外で遊ぼう」と言ってくれて、最近は外で遊んでる。夏の湘南ビーチをひたすら本気で走ったりして、遊ぶ時間は凄く楽しい。めっちゃアクティブ。一緒にいる時間は、ただその時間を楽しんでる。僕も無理はしないし、自然体。毎回パワーをもらう。

ー 自分の経験や考えがあって始めたWABの活動だけど、実際にやってみたことでの新しい気付きとかがあったら教えてほしい。

みっちー:そうですね。子どもと遊ぶって分かんないじゃないですか。何して遊ぶとか。いろんな子がいるなかで、これが正解とかはないけど、大人子どもではなく、ただ気楽にかかわる。お互いのやりたいことをやる。ただ自分としてかかわるし、向こうも自分としてかかわってくれるということで、多面的というかそのときの在りたい自分で在れるなあと。

ー なるほど。違う存在と対話することで、逆に自分を映す鏡になってる感じ?映る鏡と映らない鏡があるかもしれんけど。

みっちー:うんうん。”学び学ばされ、遊び遊ばされ”と、お互いにGIVEしあってる感じ。Yのすごいところは、ほんまに、「ありがとう」ってすごく言ってくれて。「みっちー今日も来てくれてありがとう」と、帰るときも「大好きだよ。ありがとう。」って言ってくれて、かわいい!!!ほんとに可愛いし、ありがとうって言えるのすごいなって。ほんとに良く出来た人だなあと。過去に大変なこととかあったと思うけど、それを自分なりに受け入れて、気付き、今のYがあるんやなって。すごい人だなと。

目的を考えないことを意識する。

ー みっちー的に、自然体で子どもでもなく、兄貴でもないという関係だって言ってたけど、会うときに意識してることとかある?

みっちー:そうだなあ。それこそ最初のうちは、目的持たず遊ぶことを目的にするという感じがあった。ありのままでいようと、マインドセットをいれてる感じ。でも、今はほんとになんの気もなく会えるし、スケジュールもカレンダーに他の同年代の友人と遊ぶような感じで、Yの名前だけを入れている。会いたいと思ったときに会うっていう感じで、ただ肩の力を抜いて遊んでる。

”細く” ”長く” 縁をつなぐ。

ー なるほど。大事、大事。それはある種、関係性が上がった感じだね。今後、活動を通して目標とかこういうのやりたいとかはある?

みっちー:ただ、Y君と関わっていきたいという思いだけかな。細く長く縁をつなげていきたい。僕は数年で生活する環境を変えてみたりしているので、いろんな縁も細くなるタイミングはある。でも、何かあったときに、数年後に会って話すことができれば、それが本当の縁だと思う。飲める年になれば、一緒に飲みに行って語りたいし、とにかく僕は長期で関係性を捉えているかな。この活動に限らず、人生を通じて縁をつなげるのを大事にしていきたい。将来的なY君との関係がとにかく楽しみ!縁をつなぐ、それだけが僕の願いかな。

ー 縁をつなぐっていい言葉だね。現代資本主義社会は目的志向で、常にアウトプット最大化が目的になるけど、そんなもの関係無しで、ただ関係性を紡ぐっていうのは本当に素晴らしいことだね。最後にこの活動をやってみたいと思う人に向けて、一言お願いします!

みっちー:純粋にバディの活動を楽しそうだなと思う人がやってみたらいいんじゃないかなと思う。ゆるい感じで、ただ子どもと遊ぶの楽しそうだなと思う人にやってみてほしいかな。なんとなくだけど、人生のテーマに”子ども”、”関係性”、”家族”とかがある人がいいのかな。ゆるやかな空気感を持った人にぜひ入って欲しいですね。

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インタビューをした場所は、黄色を基調としたかなりポップなカフェだったが、我ながら異様な雰囲気を醸し出す2人だったかもしれない。爆音で流れていたはずの洋楽も全く気にならないほど、研ぎ澄まされた時間だった。

みっちーは過去をできる限り正確に、まるでタイムスリップしているかのように、そのときの感情までも絞り出し、私に伝えてくれた。ああ、この人は本気だ。本気で語る人を前に一言も漏らさまい。私も真剣に耳を傾けた。

半生を深ぼっていくうちに、彼から感じる圧倒的な感じは徐々に確信に変わっていった。

ドイツの医者マックス・ピカートは「正しい言葉とは沈黙の反響に他ならない」と述べた。これは言葉が持つ本質を捉えている。長い沈黙だけが真の力を生むのだ。沈黙のない人で偉大なひとはいない。彼からははっきりと、真の力を感じた。

彼は、自らの立てた決意に向かって日々を過ごしているのだろう。毎日、朝から晩までそれだけを考えて生きている。志が高いので、決して楽な人生ではなく、むしろ困難ばかりの日々だろう。ただ、決して諦めない覚悟と強さがあるので、むしろ楽々悠々としているように思う。崇高な志を持つ者は、ちょっとしたことではそう怯まないのだ。近道はなく、ただ遠くの灯火に向かって歩くことだけが達成への道だと知っているからだ。鎌倉の風に乗って颯爽と現れたあの空気感と、背後に佇む並々ならぬ強靭さに合点がいった。

存在の最上段が決まっている人間にとっては、それ以外は臨機応変、柔軟に対応していけばいいのだ。

彼にとっては、アサイーがホットかコールドかはどちらでもいいのだ。

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We are Buddies は、みなさまからの寄付で成り立っている活動です。ウェブサイトより、定額の場合は1,000円/月から、一度きりの場合は1,000円/回から応援いただけますので、ぜひご協力お願いします!

INTERVIEW & TEXT :河野和也
PHOTOGRAPH:清水陽子
EDITING:西角綾夏


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