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【特別公開】幸野健一×守山真悟/新時代サッカー育成対談「勝利は本当に大事なのか?」

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関西ではプレミアリーグU-11の独自ルールに反発があった

──ケンさん(幸野さん)、まずは守山真悟さんがどんな方か教えてもらえますか。

幸野 関西のクラブチームと言えば迷彩柄のユニフォームで特徴ある「RIP ACE SOCCER CLUB(リップエースサッカークラブ)」率いているのが守山くんです。

──今日は守山さん、どんな話をしたいと思っているか意気込みをお願いします。

守山 まずはこのような対談の機会を与えていただいて本当にありがとうございます。私たちも今の価値観とかに囚われずに、成長して、進化していきたいです。今日の話が新しい気付きや新しい繋がりになれば良いなと思って私もワクワクしています。よろしくお願いします。

──ケンさんと守山さんはプレミアリーグU-11の実行委員という立場でもありますが、改めてプレミアリーグU-11とはどういったものなんでしょうか。

幸野 これまでは日本サッカー協会が主導してリーグ戦化を図っていき、3種や2種はリーグ戦化が進んでいきましたが4種は地域が主催する大会などがたくさんあって、なかなかリーグ戦化が進まなかった。今、U-12が日本サッカー協会主導の中でリーグ戦化を進めている中でそれより下の学年のリーグ戦化が、大阪の方は進んでいますが日本全体で見たときにはなかなか進んでいない。日本サッカー協会に頼らないでリーグ戦文化を浸透させようと僕らが私設のリーグとして小学5年生年代のU-11をリーグ戦化しようと5年前からスタートしたのがプレミアリーグU-11。今年はコロナの影響で少し減っているとは思いますが、今は33の都道府県で約7000人の選手が通常だと年間3000試合を行うまでの日本最大のリーグ戦になっています。

──なるほど。その中でプレミアリーグU-11はどんな仕掛けをしてどんな特徴があるのでしょう。

幸野 これまでのようにレギュラーばかりが試合に出てサブの選手が出られない環境は、トーナメントをたくさんやることでトーナメント至上主義になって、指導者も「勝つ」ことを一番のプライオリティにしてしまうから。そういうのを改善しようと、僕らのリーグ戦では3ピリオド制にして全員が最低1ピリオドに出なければいけないという設定することで試合に出られない子どもをなくしています。

──今「勝利至上主義」という言葉が出たように、今日のメインテーマは「勝利は本当に大事なのか?」と置いています。守山さん、関西でも勝利至上主義のような風潮なんでしょうか。

守山 「勝ちたい」、「勝利を目指す」というのは日本全国、世界を見てもプレーしている以上はあると思います。ただ、大阪というくくりで言うと、私の見解は文化的に「人と違うことがやりたい」とか「目立つことが好きだ」という商売人気質なところがあるんじゃないかと勝手に思っています。

──関西独特の気質があることでプレミアリーグU-11が東京から“輸入”されたときに反発はありませんでしたか?

守山 ありましたね(笑)。

幸野 めちゃくちゃありましたね。それこそ守山くんからも相談を受けましたし、3ピリオド制で全員を出すということに反発はありましたよね。

守山 競技は同じですけど、皆さん目的や方針が違うので、そこに少し噛み違いがあって幸野さんが今回言ったように「お前誰やねん」とか「お前のこと知らんぞ」とか、単純に言ったら「挨拶ないな」とかはあるんじゃないですかね。

──その中で守山さんはどのようにしてプレミアリーグU-11のチーム数を増やしたり、ルールの理解を深めさせていったのでしょう。

守山 幸野さんから熱い想いを聞かせていただいて、リーグ戦に対する思いとかサッカーの広め方を私はすごく共感して、最初に僕が声をかけていただいたので快く受けさせてもらいました。だけども、なかなかうまくいかないこともありましたけど、話ができる指導者の方々としっかりと向き合って話をした中で、無理に拡大をせずに理解していただいている方とやっています。

──ケンさんが関西にプレミアリーグU-11を広めるために守山さんに話を持ちかけたのなぜだったのでしょうか。

幸野 元々、守山くんと面識はなかったのですが、横浜の末本(亮太)くんが「関西と言えば守山くんだ。彼に任せれば絶対に間違いない」と言うので、「じゃあ任せる」というかたちで、末本くん経由で任せました。

──「関西と言えば守山くんだ」という話がありましたがリップエースというチームはいつ立ち上げられたんですか?

守山 2002年です。ちょうど、日韓W杯の年が大学を卒業する年で、その年に同級生の今村康太と「やろうか」ということで始めました。

──リップエースの過去の記事を読んだのですが、当時は守山さんも今村さんも金髪でロン毛だったそうですがこれは本当でしょうか(笑)。

守山 はい(笑)。

──金髪にロン毛で、迷彩のユニフォームでヒョウ柄のビブス……。街で会っても声をかけづらいなと思ってしまいます。

守山 迷彩のユニフォームは3、4年目からですね。ヒョウ柄のビブスは3年前にしました。

──表面的なことですが見た目の与えるインパクトは大きいと思います。あえて目立つことをしていて、先ほど守山さんが話していた関西気質な部分が反映されているような気がします。

守山 自分たちが人と違うというよりは、みんなが画一的なんじゃないかと思っています。私たちは至って好きなことをしているだけ。自分たちが好きな仲間と好きなサッカーをとことんやっている。強い好きがいろいろな興味を生んで、子どもでいう夢中な状態のまま今、大人になっているという感じですかね。

──なるほど。では、チームを立ち上げるにあたってのコンセプトは何かありましたか?

守山 立ち上げ時は好きの延長で、私たちはどちらかというと“サッカーコンプレックス”からのマイナスのパワーでのスタートでした。マイナスの「プロになれなかった」とか「サッカーで大成できなかった」とか、認めてもらえなかったというパワーが瞬発力に代わって、強いエネルギーになりました。だけどそれだけのパワーでは持続力が少なく、しばらくしたときに「うまくいかない。なんでやろ」となったときに自分たちがどうしたらいいかということでコンセプトを作ろうと工夫していきました。

──ケンさんの育成方針のルーツはヨーロッパ留学をしていた際に培われたものが大きいですか?

幸野 そうですね。

一つの要素を取り出したトレーニングは動きが画一的になる

──「サッカーはサッカーでしかうまくならない」とよく話していますがこれはどこでそういった考えに至ったのでしょう。

幸野 ヨーロッパでサッカーに触れていればそれが当たり前です。でも日本に帰ってくると例えばリフティングをするだとか、ドリブル専門のスクールがあったりとか、サッカーの要素を一つ取り出してそれに特化してやるものはヨーロッパや南米にはありません。サッカーはサッカーでしかうまくならないし、それを一つだけ抜き出してやっても意味がない。サッカーの「認知・判断・実行」の「実行」の部分だけをやっても仕方ないわけで、そこに「認知」と「判断」が伴わないといけない。むしろ「認知」と「判断」のほうが先にあるので「実行」よりも大事とも言えるので「実行」だけを練習する意味がないとずっと思っています。

──この考え方に対して、守山さんはどう思われますか?

守山 仰るとおりだと思います。

幸野 借りてきた猫のように大人しい(笑)。

守山 サッカーはサッカーをすることでうまくなるというのは私たちもまさしくコンセプトにそこを挙げています。ただ幸野さんは若い頃から日本が見本にしている現場を肌で感じているから理解が早かったと思いますけど、私たちのような日本から出たことがないサッカー人というのは、ここで教えてもらってきたサッカーがルーツで、それ以外を知らないまま育ち、そのまま指導者になり、その知識で子どもたちに指導している。なので今幸野さんが仰った逆の現象が起き続けていると思います。その中でようやく、インターネットや「スカパー!」さんや「DAZN」さんで身近に世界のサッカーをリアルタイムで観られる環境が整ってきています。そこで指導者の中でもアンテナの高い人たちは「あ、違うな」とか「なんでこうなるんだろう」と強い興味を抱いた人たちがそこのゾーンに来ている。まさしくそんな感じで進化していると思います。

──15年ほど前の守山さんのインタビューにもありましたが、戦術的ピリオダイゼーションという言葉は当時からありましたか?

守山 ありませんでした。というか、あったかもしれないけれど知らなかったというのが正しいですね。15年くらい前からピリオダイゼーションの原型のようなものを普通にやっていたんです。私たちも自分で言った通り、技術を一つ取り出して、体力だったら走りの素走りとか、体力という要素だけを取り出してトレーニングしていたんですね。それでも日本国内での試合なので鍛えたもの勝ちみたいになるのである程度は勝てる。でも勝っていって上の方へ登ると今度はまた勝てなくなってしまい、勝っているようで実は負けているという現象が起きていました。その中で親しい指導者、先輩たちが「サッカーってそうじゃないんだよ」と本気で伝えてくれました。私たちの一番の強みはそもそもそういう環境が自分たちにあったことです。

──そういう環境とは?

守山 僕で言うと、スタッフと本音でぶつけ合える環境ですね。“自分たちPDCAサイクル”が毎日回っている感じです。毎日PDCAによる改善がずっと行われていて、その中で「これは教わってきたことだけど、違和感があるよね」とか「やられるシーンは毎回同じだよね」とか「伸びないって悩んでいるときの現象って一緒だよね」とか、こうやって改善してみたらどうだろうかといろいろな気づきを自分たちで持っていた。今思えば私たちの教わってきた監督や指導者はすごく遠いイメージで、質問もできないし、言ってるものは正しいものだと信じ込んでいたので、疑問も持たない。話をしてもうまいこと話さないと向き合ってくれなかった。

私は大学でそれがコンプレックスになって「サッカーって苦しいものだ」とか「日本式で鍛えたらその先にうまさがある」と信じ切っていました。でも自分がいざ指導者になってみると最初は正しいと思っていたものも「そうじゃないな」と思って改善を繰り返していくと、サッカーがうまくなって、チームがうまくなっていく。その中でポジションごとに配置されている子どもたちがキチンと特性が出てうまくなっていってチームが勝てるようになっていったというところです。

──最初はテクニックを磨くことを頑張っていたけれども、強豪クラブと戦って勝てなくて、次に何が必要かというところで「少し戦術的な要素を取り入れよう」とか、だんだんブラッシュアップしていったような形だったのでしょうか。

守山 その通りですね。一つの要素を取り出してトレーニングをすると、その動きそのものはうまくなるので、ゲームでそのシーンだけは勝てるようになる。わかりやすく言うと「ドリブルのテクニックがあるよね」と言ってるけど、そのテクニックがゴールに結びついていなかったりとか。同じことを叩き込むので動きが画一的になってしまう。いわゆる集団でボールを奪い合うときに同じルートになったり、同じ戦い方になるのでうまいチームに負けてしまう。

──このリップエースの指導方針が正しいとか正しくないは置いておいて、来年度のJリーグ内定者にリップエースの出身者が高卒3人、大卒1人で合わせて4人いるそうですね。

幸野 これはすごいことですよね。ジュニアユース年代まで持っているクラブから同じ時期に4人がプロになるというのはとてつもない話。そんな町クラブは普通あるわけないですし、それについては大会の成績はどうでもよく、それがクラブとしての結果ですし本当の意味での勝利。全てのクラブがそこを目指すべきだと思いますし、選手を育成することの方が大会に勝つことよりずっと大事だということ。その価値観の方が魅力あるとなってくれれば「勝利は本当に大事なのか?」というテーマにあるように変わってくるきっかけになると思います。

──ゴールをどこに設定するかという問題ですよね。

幸野 そう。結局、多くのクラブは勝利をすることによって次の年からそのクラブに入りたいと思う子どもたちが多くなって経営が成り立つという循環から逃れられないんですよ。それがあるからどうしても勝利を必要として、子どもたちに来てもらいたいとなってしまう。これを見ている親御さんの中にも「勝ちたい」と思う方はたくさんいると思いますけど、チームが強いということよりも中身をちゃんと見て、しっかりとした育成で選手が伸びているところを選ばれた方が僕はいいと思っていますし、願いでもあります。

──ちなみに高卒3人がJリーグに内定したときの代は強かったのでしょうか。

守山 そのときの代は高円宮杯の全国大会に出場しています。

──いつもの学年と何か違うなというのはありましたか?

守山 意思が強かったです。性格がいいというか、真っ直ぐというか、そういう選手の人数が多かったです。

──チームを他に経由しているとはいえ、先ほどケンさんが話していたようにその学年で一番すごい選手たちがいっぱい集まっているというクラブじゃないところから輩出していてとてつもないことだなと思うのですがこうなった要因はどこにあると思いますか?

守山 決して私たちが育てたというような感覚はありません。それよりもその子のポテンシャルがそのまま生きた感覚です。先ほども言ったように僕らはどちらかというとサッカーは苦しいもので、そうしないと試合に出られないとか、そうしないと負けてしまうとか、どちらかというと脅迫概念でした。もちろんスポーツなのでプロという道に関してはそうだと思いますけど、基本、私たちを選んでいただいている選手たちがジュニアのときにJクラブさんのセレクションを受けてダメだったからと門を叩いてくれる選手が最近は多いです。でもその子たちには「全然ダメじゃないんだよ」というところからスタートしているので、「あなたはあなたらしくすればいいんだよ」というのを意識させています。

● 幸野健一(こうの・けんいち)
プレミアリーグU-11実行委員長/
FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント
1961年9月25日、東京都生まれ。

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中央大学卒。サッカー・コンサルタント。7歳よりサッカーを始め、17歳のときに単身イングランドへ渡りプレミアリーグのチームの下部組織等でプレー。 以後、指導者として日本のサッカーが世界に追いつくために、世界43カ国の育成機関やスタジアムを回り、世界中に多くのサッカー関係者の人脈をもつ。現役プレーヤーとしても、50年にわたり年間50試合、通算2500試合以上プレーし続けている。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとしても活動し、2015年に日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」を創設。現在は33都道府県で開催し、400チーム、7000人の小学校5年生選手が年間を通し てプレー。自身は実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根付く活動をライフワークとしている。また、2013年に自前の人工芝フルピッチのサッカー場を持つFC市川GUNNERSを設立し、代表を務めている。

● 守山真悟(もりやま・しんご)
プレミアリーグU-11関西地域委員兼大阪府実行委員長/
RIP ACE SOCCER CLUB代表
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1979年、滋賀県生まれ。草津東高校、桃山学院大学でサッカーを続け、大学4年時の2002年に、同期の今村康太と一緒に大阪府堺市でRIP ACE SOCCER CLUB(リップエースサッカークラブ)を創設。「サッカーがうまくなるとは、サッカーをすることである」という考えに基づく「戦術的ピリオダイゼーション」をいち早く実践し、オリジナルの動作理論と組み合わせた指導を続けている。迷彩柄ユニフォーム・豹柄ビブスを着用する見た目のインパクトを放ちながら、社会で通用する選手を育てるという自立型人間の育成を教育指針に掲げ、子どもたちの心を鍛えることを重視して活動している。

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