僕らはなぜオンラインサロンを始めたのか? サッカーライターがやるべき新メディアの形
2020年3月に公開されたホワイトボードスポーツは、当初の「オンライン講習会」に「オンラインサロン」を掛け合わせることで、より多くの人に最高峰の学びを提供する新サービス設計をスタートした。概要は「僕たちが『ホワイトボードスポーツ』でやりたいこと」にも記されているが、新サービスを始めた具体的な背景は明かされていない。
ホワイトボードスポーツは今、なぜオンラインサロンを始めたのか。そして、サッカー業界におけるメディアの向かう未来はどこへつながっているのか。
ホワイトボードスポーツは現在、業界を突っ走る5人の少数精鋭で運営されている。その中でも、プロジェクトの先頭で舵取りをする編集長・北健一郎氏と、現場取材で積み重ねた信頼関係を活かし、講師となる選手や指導者をマッチングするサッカーライター・西川結城氏、業界を飛び越えた幅広い知見と経験をベースに、既存の枠にとらわれないプロモーションを主導する広報PR担当・池田タツ氏が中軸となる。
では、その3人が考える新サービスの狙いとは何か。その根底にある想いとは何か。日々アップデートを繰り返すホワイトボードスポーツの真髄を伝えるために、座談会形式で語り合ってもらうことにした。
僕らがオンラインサロンに踏み出す3つの意義
タツ オンライン講習会を提供する形でスタートしたホワイトボードスポーツが、6月からオンラインサロンも始めることを打ち出しました。いきなり本題ですが、最大の理由は?
北 オンライン講習会のクオリティに自信はあったのですが、「このままでいいのかな」というモヤモヤがありました。本や動画という完成品は出した瞬間に古くなりますよね。特に、一発目の楢﨑正剛さんは指導者としてスタートしたばかりだからこそ、これから進化・変化していく。完成品としてアウトプットするのが本当に正解なのかなと思っていたんです。
タツ そこに新型コロナウイルスの影響が重なった。
北 まさに。アスリートが自分たちで発信するようになって、インスタライブなどでファンとも積極的につながりを持つようになりましたよね。この講習会は決して安いものではない分、購入してくださる方は楢﨑さんやGKに強い興味を持つ人なので、そういう人たちと双方向の交流ができたら化学反応が起きるんじゃないかなと考えたんです。講習会を見て終わりではなく、楢﨑さんというアイコンのもとに集まってきた人たちが交流できたらいいなと。講習会とオンラインサロンを融合させたサービスが今の時代に合っているんじゃないかと思ったんですよね。
タツ そういうサービス設計は、最初から考えていなかったんですか?
北 タツさんにメンバーに加わってもらった最初の打ち合わせで「サブスクリプション型にしたほうがいいんじゃないか」と言われたのは覚えてます。当時はどうかなと思っていたけど、この半年くらいで時代が一気に変わった。オンラインサロンの認知度も高まっていった。
西川 ホワイトボードスポーツの企画が動き出したのは2019年2月くらい。もともとは「メディア」を作ろうという構想だったんだよね。自分たちで取材した記事を出して、講習会も開催していくという。でも、タツさんとか、途中からジョインしてくれたメンバーとアイデアを出し合う中で、より「サービス」に近づいていったのかなと思う。
北 そうだね。
西川 僕らがオンラインサロンに踏み出す意義は3つあると思う。
タツ 3つ?
西川 うん。僕らは普段、記者として取材活動しているけど、アスリートや指導者にヒアリングしていると、意外にも、プレーや指導以外のアウトプットをしたいという意識を感じるんだよね。YouTubeを積極的に活用している戸田和幸さんや岩政大樹さんなんかは、自分を主語にしたオンラインサロンをしている。でも、多くの選手や指導者は、世間へのアウトプットに対して、そこまで器用じゃないんです。目的は明確でも、手段が分からない人がいる。楢﨑さんがまさにそうだった。だから、そういう方々と話している中で、彼らの課題解決ができるんじゃないかと感じていました。つまり、僕らの仕事の一つは、表現ですよね。
北 それは間違いないね。
西川 もう一つは、インタラクティブな時代だからこそ、みんなにメリットがあるということ。オンライン講習会はどうしても一方通行になってしまいがちだから、ユーザーのフィードバックを還元できたらいいなと。講師がユーザーにノウハウを提供して、ユーザーのリアクションが講師にも新しい気づきをもたらして、そこに関わる僕らの知見も広がっていく。選手や指導者が、そうした学びの意欲をものすごく持っているんです。
北 3つ目は?
西川 最後はプロデュースかな。登壇してもらう講師がファンを獲得することはもちろんだし、その人の価値を最大化することでブランディングにつなげられるんじゃないかと思っています。
タツ そうだよね。さっき北さんが言ってたけど、俺自身、コロナが気づかせてくれた部分が大きいんだよね。その影響がなければ、もっとオフラインのイベントとかをやってPRするイメージで動いていたから。でも、それができなくなったことでオンラインでも楢﨑さんに登場してもらえるコミュニケーションが必要だと行き着いた。現状では、そのベストな形がオンラインサロンだったというか。
西川 オンライン講習会だけじゃ表現し切れないんだよね。
タツ そうそう。ホワイトボードスポーツの売り物はまさにコア中のコア。独自性があって、楢﨑さんや次に登場する中西哲生さんが自己流で極めたものを出していくもの。それって、一方的にパッケージにしても伝え切れないし、理解を得られないと思う。レベルが高すぎるものだってことを感じた。それくらい、講師は高度なことを積み重ねている。だからオンラインサロンを開設することで、講習会をある種の“テキスト”にするのが良いと思ったんだよね。前提となるものを講習会でインプットしてもらって、その先を、みんなで勉強していこう、発見していこうというところが、オンライサロンの目的なのかなと。
サッカー界にオンラインサロンが浸透しない理由
北 オンラインサロンに対して「ファンクラブみたいなもの」という捉え方をする人も多いですよね。でも、僕らが運営するのは、専門性のあるものであって、みんなで追求していくもの。ファンと交流するというよりも、一緒につくっていく感覚が強い。もちろん、僕らもまだどんな形になるかは分からないけどね。
西川 僕らがやりたいのは、広がりよりも、深く掘り下げていく部分だからね。
北 そう。実は、サッカー界のビジネスの大先輩でもある岩本義弘さんが『蹴球ゴールデン街』というオンラインサロンを立ち上げたけど、あれは僕とタツさんで持ちかけたものだったんだよね。サッカーを中心にしながら世の中を大きく動かせると思ったし、主導する適任者は岩本さんしかいないだろうって。岩本さんは最初そこまで本気ではなかったけど、議論するうちに、やってみよう! ということになった。それで中身を話し合っていく中で、あらためて僕らも気づいたというか。「広げる」という軸じゃないってことだった。
タツ アーティストが活動休止する理由の「方向性の違い」みたいな。もちろん、岩本さんがやるべきだという形があったから別々で活動することになったけど、ケンカ別れじゃありません(笑)。
北 うん(笑)。うちらも全員『蹴球ゴールデン街』に入っているし、噛み合うところがあれば一緒に組ませてもらって、面白いことをどんどん仕掛けていきたい気持ちはありますからね。
西川 ビジネスを考えると、もしかしたら広がりの方にマネタイズポイントがあるかもしれないけど、分類すると僕らはそっちではなかった。コアなものだから、場合によってはついて来れる人が少ないかもしれないけど、レベルの高い知見の空間や学びの空間をいくつもつくりたいという想いがあるよね。
タツ みなさんいろんなオンラインサロンに入っていると思うけど、「オンラインサロンってこういうもの」ってある?
北 そういえば、サッカー選手のオンラインサロンに入ったことはないかも。
タツ たとえば浦和レッズの杉本健勇『vibes.』。あれはファンコミュニティ型だよね。
北 そうだね。僕はフットボール系では『フットボリスタ・ラボ』『蹴球ゴールデン街』『フットサル・コーチング・ラボ』に入ってるけど、それぞれ特徴がありますね。『フットボリスタ・ラボ』は、メンバーでコンテンツを一緒につくったり、雑誌の裏側を知ることができる。『蹴球ゴールデン街』は、今は、オーナーの岩本さんが毎日投稿している記事を読んで、そこから広がる形。『フットサル・コーチング・ラボ』は、フットサルのトップレベルの指導者がコアメンバーとなり、講習会や議論をしながら学びを深めていく場所。その点で、ホワイトボードスポーツのオンラインサロンは、講師のキャラクターや関わり方で分類が変わると思う。
西川 楢﨑さんは“GKファミリー”を増やしたいという出発点だしね。
北 うん。楢﨑さんは、自分が"教祖”になるのではなくて、集まってくれたいろんなカテゴリーに所属するGKや指導者の悩みを共有して、その先を導き出していくという意味で、学びを構築していくイメージ。
西川 オンラインサロンのイメージって、その始まりはビジネスシーンでしたよね。経営者や実業家が多いと思う。今は、そこから派生して、感度の高い芸能人やアーティストも活用しています。キタケンは、「ビジネスの常識は、2年遅れでサッカー界にやってくる」ってよく話しているけど、スポーツ業界がいかに閉鎖的かということだよね。本田圭佑も、「プレーだけやっていればいい」って批判され続けてきた。副業にとどめておけよって。でも、彼は全部が本業。そうやって、日本では、アスリートに対してプレー以外が理解されない土壌があるんだよ。僕らメディアだってそうだと思う。新聞社が今でも強い力を持っているからね。メディアの人からすると、オンラインサロンとか、そこで記事を出すことがアウトサイダーなイメージがあるんじゃないかな。まがい物とまでは言わないかもしれないけど、信頼度の低さがあるという具合に。
北 そういう閉鎖性が、スポーツ界にオンライサロンが浸透していなかった理由かもしれないですね。
西川 でも、時流には逆らえない。個人の表現が問われる時代になってきたからこそ、ようやく今になってスポーツ界でも盛り上がっているのかなと思います。
サッカーライターが運用するオンライサロンの強み
タツ 大別すると、ホワイトボードスポーツのオンラインサロンは『フットサル・コーチング・ラボ』に近い?
北 そうかもしれない。“GKファミリー”という言葉からはコミュニティを連想するけど、単なるコミュニティにしてはもったいない。講習会は3回セットで3万円と高額だからこそ、学びたいという気持ちが強い人しか基本的には買わないと思うんです。指導者だけではなく選手もそう。実は、名前はまだ明かせないけど、日本のトップレベルにいる複数人の選手が購入してくれているんです。もし、彼らがオンラインサロンに入ってくれたら、さらに広がるはず。GKの新しい発見や学びがあると思うし、それをメディアでアウトプットしたりもできるから、よりプロジェクト型に近づいていくのではないかな。
西川 講習会の購入者、オンラインサロンの参加者にはレベルの高い人が集まると思う。もちろん、それをハードルというか、敷居の高さにしたくないけどね。でも、そういう軸となる人たちが大上段から物事を語って、周囲がその言葉を浴びるように受けるだけじゃないよね。もちろん、浴びてもいいけど、一方では、講師やトップレベルの指導者や選手と目線をそろえて話すことができる。何よりも、アスリート自身がそれを求めているからね。自分たちもその場で学びたいって。そこを掛け算して、参加者一人ひとりの意見が吸収されたら、参加者にとってもすごい成功体験になると思う。普段の活動にも間違いなくフィードバックできるものだよね。そういうコミュニティにしたいかな。
タツ 「僕らにしかできない」という意味で、どこが魅力ですかね?
北 まだスタートしていないから、正直どう変化するかは分からないよね。ただ、普段はなかなか接点を持てないトップ選手や指導者と議論できるわけだから、発信を受け取るだけではなく、どんどん質問してほしいし、そういう場所にできるように、運営側もアクティブにしていかないとね。
西川 オンラインサロンの形態は、さっきも言ったように登壇者によって変わってくる。でもそもそも集まる人の共通言語が普通より一段レベルが高い。オンラインサロンは通常、課金して、リターンバックの項目があるけど、実際にそれらが受けられるかは未知数でもある。ただ、うちらは最初に講習会動画を提供することによって共通言語をつくっている状態。理解を深めてからスタートできるよね。
北 タツさんが言っていた“テキスト”を見た上で入ってもらえるのはメリットですね。
タツ それと、「サッカーライターが運営側にいるオンラインサロン」が新しさであり、魅力だと思う。ライターって、自分が思っていることより、人が思っていることを書く場合の方が多いよね。対象者を深掘りできるコミュニケーション能力がある。このメンバーは特にそうだと思う。今までは書きっぱなしだったけど、俺らが潤滑油となって、読み手やオンラインサロンの参加者からフィードバックを楢﨑さんに伝えたり、もしくは議論の場をセッティングしたり。コミュニケーションのプロが運用する、ライターが運用するということが強みになると思う。
北 オンラインサロンは普通、オーナーに依存しますよね。アクティブに発信しているものとそうではないものがあって、アスリートは常に発信しているタイプではないから、実際にサロンを立ち上げても、どれくらいアクティブになるかは未知数。でも僕らがいることでコミュニティを活性化できる。それが新しいかどうかは分からないけど、入ってくれた方の満足度が高いものにしていけるはずだよね。
西川 ライターは、時代の流れの中で、これまでの紙やWEB、書籍で原稿を書いてアウトプットするところから、それだけではないところを求められているよね。でも、やっていることは、タツさんが言うように深掘りとコミュニケーション。それは間違いなくオンライサロンにも生かされる。参加者同士や、外部の人も含めた横展開、斜め上展開をつくれる。実際に、楢﨑さんの講習会は僕が、中西さんは飯尾篤史さんが構成者。信頼してきた同業の仲間を盛り上げるためにも、どんどん巻き込めるのは今後の楽しみなところかな。
有料コミュニティでしか味わえないハイクラスな共通言語
タツ 楢﨑さんにオンラインサロンの話をした時はどんな反応でした?
西川 最初に「オンラインサロン」というワードを聞いた時は、ピンときていなかったと思います。でも、僕らの理念や考えを伝えると、ストンと附に落ちてくれたようでしたね。楢﨑さんは今後、指導者を極めていくか、それ以外の立場になるかは分からないけど、これまでの経験を言語化、体系化できていないという問題意識があって、それを形にする方法論の難しさを感じていた。だから、僕らが関わることで課題解決になればいいなという想いと、楢﨑さん自身のセカンドキャリアの構築と、“GKファミリー”を広めていきたいという想いがかみ合ったのかなと。
タツ では、オンラインサロンで実現したいことは何かありますか?
西川 スポーツ界のオンラインサロンは、まだ新しいものですよね。僕は、登壇者のブランディングやプロデュースという観点で、違う業界にも展開できるような広がりのあるものをつくりたいなと。ホワイトボードスポーツに登壇してもらう講師の方は、サッカー界では第一線級の人だし、ネームバリューもあります。名前だけで言えば、サッカーに興味がない人でも知っている。でも、彼らの人間性や物事の思考法、技術論はすごく価値のあるものなのに、知られていなかったりします。コアなものをつくることに相反するかもしれないけど、登壇者がサッカーの垣根を越えていろんな人を巻き込んでいけるオンラインサロンにしたいですね。どんどんチャレンジして、夢を見ていきたいことの一つです。
北 僕は、仲間になれることにすごく価値があると思っていて。これまで、別の場所でもオンライン講習会をしてきたけど、あくまで主催者と参加者の関係だけだった。でもオンライサロンでは、参加者の顔が見えるようになる。どこにいる人だとか、選手だとか、いろんな属性が見えるので、そこで新しい形をつくっていきたい。これは夢ではなく、現実的なものとして。たとえば、GKの新しいセオリーをみんなで発見して、アウトプットしていきたい。できるだけ長く続いていくものにしたいし、ここからGKカンファレンスを開催したり、あらゆるカテゴリーで活動している人が関われる母体にしたい。その仲間が一緒にできたらいいな。
タツ 俺はやっぱり、すげーヤツがくるんじゃないかっていう期待値がある。発見できた! つながりができた! そういう人をプロデュースできたら楽しいよね。高額なものだからこそすごい人も来るから、出会えたらワクワクするだろうな。それはネームバリューとかじゃなくて。本当はすごいんだけど、楢﨑さんといきなり接点を持つことはできなかった人とかね。でも、講習会動画を見て、その理解があればコミュニケーションが取れる。これはチャンスというか、新しい道が開く感覚。有料だからこその価値だよね。
北 それはいいね! オンライン講習会だけだと高額かもしれないけど、オンラインサロンで毎月いろんなものが得られると考えると、決して高いものではないと思う。僕らが関わることで、そういうものにしていきたい。
西川 すごい人が来て、一般の人はうれしさや、構えるところもあるかもしれない。でも、そういう感覚も先鋭的かもしれないよね。僕らとしても、期待値が大きなものだし、テキストの購入は参加のハードルでもあるから、誤解を恐れずに言えば、邪魔が入らない。志と共通言語があるところから始められる。ハードルを超えてきてくれたら、きっとすごいものが待っている。そういう設計ですよ。
タツ そのハードルは、ある意味で正しいと思う。プロアスリートやトップ指導者とコミュニケーションをするための礼儀というか。一般の人を排除するわけじゃなくて、同じ土俵に立つためには安価だとカオスになっちゃうから。もちろん金額の多寡ではないけど。真剣にGKのことを考えている人に来てもらいたい。これもレベルの高低ではなくて、マストな条件としては真剣さだね。
北 それは間違いないね。
メディア人の未来は、プロデュース力にある?
タツ 最後にメディアの未来という話題にも触れたいのですが、無料メディアはそろそろ限界なんじゃないかと思っています。今はサブスクを使った有料メディアが主流になってきていますよね。でも、それさえも運用をきちんと設計できなければ早くも頭打ちになってしまう印象もある。そういう中で、オンラインサロンも一つのメディアとして捉えることもできるのかなと。どうでしょう?
西川 アウトプットされたものに触れるという意味で、ユーザー体験は同じものですからね。今後は、オンラインサロンで発信されたものにユーザーが集まってくるかもしれないよね。
タツ 俺は、有料・無料メディアの両方があって、本来は別軸のものを組み合わせて、表は無料で、バックヤードは有料というすみ分けもありかなと。それをより密な形でやるのがオンラインサロン。
北 絶対的にクローズドなものだからね。
タツ そう。でも、クローズドな中でもっとオープンにしてもいいと思う。閉じた空間だからこそ、もっとエグい話に踏み込んでもいい。たとえば紙媒体があるなら、コンテンツを決めるだけじゃなくて、ライターの選定もそこでやってしまうとかね。原稿の見出しをつけるとかまで一緒にやっちゃう。メディアが運用するオンラインサロンであれば、そこまでやっていいと思っているかな。
西川 ビジネスサイドのオンラインサロンと、メディアのオンラインサロンは違うからね。結局、これだけWEBが広がっている中でも、日本人はWEBよりも紙の記事に対して信憑性が高いと思っている。
タツ それって、まだあるかな?
西川 新聞社とかはそうだと思う。新聞もようやくWEBがそろってきたけど、これまで購読してもらっていたものを無料で読ませることへの葛藤がにじみ出ている。パイを取るならWEBだけど、マネタイズの主軸はまだ紙にしているし。ホワイトボードスポーツのオンラインサロンがメディアになるかは分からないけど、質の高いものが有料でしか読めないとなってきた時に、僕らのような活動に対して、ユーザーが「メディア」を求めてやってくる時代がすぐそこにきているかもね。
タツ 無料は一般的なもの、有料はちょっとコアな話、オンラインサロンは全体の裏側という構図。
西川 これまでは、情報はお金を払わないと得られないものだった。でも今は、無料で得られる。そして、その先がある。つまり、お金を払って本質的な情報を得るというフェーズ。その本質的な情報がオンラインサロンで展開されていれば、その場所がメディアの顔になっていく可能性はあるよね。僕らメディア人としては、次のフェーズにもっていかないと、自分たちが死に体になる。
タツ “一億総メディア時代”だからね。そもそもメディアはいらないじゃんという。クラブが発信すればいいし、実際にヨーロッパはそうしている。それで、既存メディアは批評性に特化したよね。日本には批評文化がないから、その形で有料化する苦しさはともなうし、批評できない人は淘汰されると思う。もちろん、インタビューは残ると思う。選手の声なき声を、一人称で文字にしてあげる記事とかね。一度人に話して、その人のフィルターを通して書いてもらうことが、結果的に、本当に自分が言いたい言葉になるということはあるから。言葉のプロが書く価値だよね。どこまでいっても、それ自体は俺らライターがやらなきゃいけないプロの仕事だという想いもある。だから、メディアは二極化か、三極化に集約するかも。批評、インタビュー、オンラインサロンのようなコミュニケーションスキルの具現化。
北 要は、自分のもっているスキルを何に変換するかだよね。取材で得た知識やコメントを文章に変換することで、僕らは対価を得てきた。それが今は、映像にも変換できるし、コミュニティという新しい形もある。個人的にはオンラインサロンにずっとこだわる必要はないと思っていて。アスリートや指導者がもっているものを最大化することが目的だから、その人に合っているものであればいい。メルマガかもしれないし、無料動画かもしれない。今はオンラインサロンがベストだと思ってるけど、そこはどんどんアップデートしていかないといけないよね。
西川 人に合わせたオーダーメイドだよね。いろんな引き出しが必要だと思う。
北 今までは、選手や指導者から相談を受けても、記事にしましょうだけだった。でも、講習会やオンラインサロン、キャンプとか、あらゆる形にできるし、いろんな引き出しを増やしていくことで、総合型プロデュースができるかもね。
西川 そうそう。でもそれは、一人では限界がある。あらゆる知見や技術のある人が組んでいるから、誰かをプロデュースしようという時に、オーダーメイドの対応ができる。一人ひとりが引き出しを広げることで、組織の引き出しを広げる。今、僕らがホワイトボードスポーツをチームでやれている意味がまさにそこにあるし、今後もっと楽しみが増えていくだろうなと感じながらやっていますね。
(文:本田好伸)
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