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【北健一郎×金子達仁が語るスポーツメディアの未来】第1回「スポーツライターはオワコンか?」

スポーツメディアを取り巻く環境はここ数年で激変している。雑誌は次々に廃刊に追い込まれ、スポーツ関連書籍も元気がない。一方で、アスリートがYouTubeやTwitterなど個人で発信する流れも生まれている。これから先、スポーツメディアはどうなっていくのか、何をすべきなのか--。「28年目のハーフタイム」や「決戦前夜」などでスポーツライターの新たな道を切り開いた金子達仁氏と、ホワイトボードスポーツ編集長の北健一郎が語り合った。

本が売れない。どうする?

金子 北さんは新しいメディアを立ち上げられたそうですが。

 そうなんです。『ホワイトボードスポーツ』というメディアなのですが、簡潔に説明すると、アスリートや指導者のオンライン講習会を配信する「学びのプラットフォーム」になります。

金子 狙いは?

 僕自身、スポーツライターとして選手や指導者に取材して記事にするということを仕事としてやってきました。でも、ここ数年記事に対するリアクションが弱まってきました。本にしても、金子さんの時代と言ったらおかしいかもしれないですけど、本が元気だった時代に比べて発行部数も……。

金子 はい、僕の本もまったく売れてません(笑)。

 いやいや(笑)。でも、それは個人に限った話ではなくて業界全体の話です。じゃあ何か解決策がないか。僕はサッカーだけでなくフットサルというジャンルも取材しているのですが、フットサルのトップ指導者と組んで講習会をやっていたんです。でも東京で開催すると地方の人は来れない。それでオンライン配信をやろうと。しっかりした内容だったので金額は6回セットで5万円に設定しました。

金子 本に比べるとだいぶお高いですね。

 そうなんですよ。僕もオンラインで講習会を見ることにどれくらいの価値があるのか、まったく読めませんでした。正直「10人もいればいいかな」というくらいのイメージでした。でも、フタを開ければ驚くほど多くの申し込みがあった。しかも広島に住んでいる方から「東京の講習会は受けたくても受けられない。仮に受けたとしても交通費だけで何万円もかかってしまう。だから5万円は決して高いとは思わないです」というメッセージをもらって。

金子 確かに、新幹線の往復で4万円かかってしまいますからね。

 高いかなと思っていたのに、むしろ感謝されたんですよ。当然、講習会をする指導者の方にとっても10人に話すより100人に話す方が得られるお金も大きくなる。オンラインで配信することによって全国各地どこにいる人でも受けられる。僕らのようにそこに関わるメディアの人間としても新たな発信の形になる。「Win-Win-Win」じゃないかと。「これはフットサルの世界に留めるのではなくて、スポーツ全体にもしかしたら応用できるんじゃないか」というので立ち上げたのがこの『ホワイトボードスポーツ』です。

金子 編集長以下、何人ほどでやっているんですか?

 少数精鋭と言ったら聞こえはいいですけど、3〜4人ですごく小さいチームを作ってやっています。トップバッターとして出てくださるのが元名古屋グランパスで元日本代表の楢﨑正剛さん。彼は2018年末で引退したのですが、将来的には指導者になりたいと。楢﨑さんは誰もが認める素晴らしいGKですが、現役時代はご自身の技術だったり経験を言語化、体系化というのをされてこなかったそうなんです。

金子 なるほど。

 楢﨑さんの持っている技術、経験は世の中に伝えていくべきものだと思います。引退後、1年間かけて何度も打ち合わせを重ねてきました。

金子 講習会は全部撮ってから配信する形なんですか?

 はい。カメラの前で「このプレーはどういう狙いがあるんですか?」とか「どういうところが止められたポイントなんですか?」というのを一つひとつ解きほぐしていく。で、これって本を作ることと同じなんです。金子さんもそうだと思いますけど、アスリートの想いだったり技術だったりを引き出していくのが僕らの仕事です。それを映像という別の形でやっている感覚ですね。

100万人じゃなく100人に刺さればいい

金子 『ホワイトボード』という名前にした意図は?

 どこのスタジアムでもロッカールームに戦術ボードがあるじゃないですか。まずはあのイメージ。楢崎さんもホワイトボードに「こういうことがポイントなんです」と書き込んでくれています。講習会の一つのアイコンとしての『ホワイトボード』というのと、真っ白なものにいろいろな経験だったりを書き込んでいこうという2つの狙いを持って『ホワイトボード』という名前にしました。ですが、どうやら覚えづらいのか、一緒に関わっているメンバーも「ホワイトバランス」と言ったりとか「ホワイトベース」と言ったりとかなので、ちょっと頑張ってこの『ホワイトボード』という名前を覚えてもらえるようにしていきたいなと思っています(笑)。

金子 第一弾が楢﨑さん。第二弾、第三弾をもちろん用意なさっていると思いますが。

 第二弾は金子さんもよくご存知の中西哲生さんに登場していただく予定です。中西さんはテレビのコメンテーターとしての顔も強いですけども、久保建英選手とかそういうトップ選手たちの個人指導もされているじゃないですか。この個人指導というのを、久保選手のようにマンツーマンでやれる選手以外にはなかなか教えられないですよね。それをこのオンライン講習会というプラットフォームを使うことで中西さんに教えてもらいたいけど、教えてもらうことが難しい全国各地にいる選手とか、技術を伸ばしてあげたいと思っている親とか指導者に向けてやってもらいたいということで今、何回も打ち合わせを重ねて中西メソッドを広めようとしています。

金子 お父さんが大学教授だからアイツはきっと教えるのが好きだよね。

 しかもうまいです。特に中西さんの場合は言語化、体系化がパーフェクトにできている。

金子 これは出ていただいた方にはどれだけの方が見てくださったかでペイがされる訳ですか?

 基本的にはいわゆるレべニューシェアという形でやらせていただいています。単価設定が高いので、何百人とかが来てくだされば売り上げ自体もかなり大きくなります。「高い値段じゃ売れないんじゃないか」というツッコミもあると思います。今はYouTubeとかでたくさん無料の動画があるじゃないですか。「無料で見れる時代に高額な講習会を誰が見るんだ」という声はあるかもしれない。でも、YouTubeとかは見られれば見られるだけ再生回数が多くなるというものなので、どうしてもキャッチーにしなければいけないとか、いろいろな人に見てもらえるように発信の仕方を変えなければいけません。正直これは100万人に見てもらいたいわけでありません。100人に見てもらって、その人たちが変わってくれれば僕らとしては大成功というモデルになります。

金子 うまく回っていきそうですか?

 前例がないモデルなので、正直まだ分からないです。ただ、僕は可能性は間違いなくあると思っています。

金子 あるでしょうね。「どうやって俺も絡ませてもらおうかな」と頭がいっぱいです(笑)。

 ぜひ(笑)。僕らスポーツジャーナリストが生きている世界も今はすごく激変しているじゃないですか?僕も金子さんに憧れて「『Number』の巻頭で記事を書けるようになりたい」、「たくさん本を書いて売れるようになりたい」とやってきたけれども、そのモデルが変わってきている。

金子 完全に変わっちゃいましたよね。

 金子さんがスポーツライターという職業が認知されていなかった時代に、新しい道を切り拓いて一つのモデルを作ったように、僕としてはこの『ホワイトボードスポーツ』でスポーツライターの新しいモデルを作りたいなというふうに思っています。自分自身の野望もありますけど、スポーツ界全体、スポーツメディア全体が潤うようになってほしいです。金子さんがああやって成功されたことで、僕を含めて若者がいっぱい入ってきて活性化されたと思うんです。そういう状況を作りたいですね。今、夢がないんですよ。

金子 なくなってしまったみたいですね、どうも(笑)。

 そうです(笑)。広い話になってしまいますけど、夢のある業界にしたいなというのが一つの目標です。

金子 間違いなく言えるのが、国がとにかくスポーツを日本の成長コンテンツの一つとして取り上げている訳ですし、とりあえずこの国におけるスポーツというのはら今年より来年の方が裾野は広くなっているし、それは僕がフリーになった1995年とは比較にならないくらい。ただ、それを僕らがつかめていない。スポーツにチャンスがないのではなくて、僕らのやり方を間違っているんだろうなというのがあるので。これはちょっと、大いに暴れていただかないと。

 はい!

※JFN系ラジオ番組「FUTURES金子達仁スポーツプラネット」で3月7日に放送された内容を再構成したものです。

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