見出し画像

お手入れ道場:第1回「染料別 Tシャツの洗い方」

お手入れってとても面倒くさくて、巷にいうような「楽しくとか、楽に」できる人は実は少数かもしれません。だけど、それを頑張ってやってみた後の充実感や、ものを大切にしているという気持ちが、生活に張りを出してくれたり、日々の人間を作っていくものだと思います。

わざわざのお手入れ道場では、お手入れの方法はもちろん、商品の成り立ちや思いなども一緒にお伝えすることで読み物としても楽しめるようにしていきます。これからの生活に取り入れていただくことで、自分自身を向上させるきっかけになれたら嬉しいです。

第1回目となる今回は「染料別 Tシャツの洗い方」をお届けします。わざわざオリジナルで製作し販売しているTシャツ「パン屋のTシャツ」では数種類の染料を用いているため、例としてご紹介していきます。

パン屋のTシャツとは

画像23

染料別のお話をする前に、パン屋のTシャツのことを紹介させてください。パン屋のTシャツとは「パン屋が着ても大丈夫」をコンセプトに作った、わざわざオリジナルのTシャツです。

パン屋が着るということで、こだわったのが耐久性です。パン屋の作業はハードワーク。特にわざわざは薪窯で焼いているのですす汚れも付きます。そのためTシャツを頻繁に洗濯するわけですが、このような過酷な扱い方をすると普通のTシャツならすぐにボロボロになってしまうのです。でもパン屋のTシャツは違います。たくさん着て、ガンガン洗っても大丈夫なように作りました。

画像5

特徴1・洗濯しても縮まない
パン屋のTシャツでは「度詰め」という編み方の生地を使用しています。編み目の密度を詰めているため生地全体が頑丈で、洗濯しても縮みません。「縮率」という、生地を洗濯したときに生地が縮む割合は1%未満に収まっています。

画像1

型崩れせず、襟ぐりも伸びたり縮んだりしないのは、ひとえに耐久性が高い布だからこそ。どんどん洗っていただいて大丈夫です。洗うほどに布地はしなやかになり、着心地よく育っていきます。

特徴2・色の落ち方がかっこいい
パン屋のTシャツは育つにしたがって、色合いも経年変化していきます。色落ちが楽しめるのもパン屋のTシャツの醍醐味です。

画像6

いずれもよく育っています。
左上・錫色、右上・墨黒、左下・泥染め、右下・草木染め(濃藍)

ここで気になるのが「色移り」。色落ちするのなら、他のものと一緒に洗濯をすると色移りしてしまうのではないかと心配になるかもしれません。

まずパン屋のTシャツに限らず、洗濯の際は大前提として「白」と「色の濃いもの」で分けて洗ったほうがよいとされています。その上で、パン屋のTシャツは色によって使用している染料が異なりますので、染料ごとに特徴と洗い方をご紹介します。

染なしの場合

オートミールのパン屋のTシャツは染めていないので色落ちの心配はありません。ただ、色柄ものと一緒に洗うと逆に染料を吸収することがあるので、できるだけ白いもの系と合わせて洗うと安心です。

画像10

パン屋のTシャツ(オートミール)

画像4

例えばKATA Tシャツ(キナリ)にも生地の染め工程はありません。

もし白い服に色移りさせてしまったら、乾いてしまう前に手を打つのが大切です。バケツなどの容器に40℃前後のお湯を張り、衣類とねば塾の炭酸ナトリウムを入れて漬けるか、鍋に入れて煮洗いすると色味が取れてきます。お湯の色が濃く変わってきた場合は再度お湯を入れなおして漬け、その後洗濯機でもう一度洗います。これでも色味が取れなければクリーニング屋さんに持っていくこともおすすめです。

画像11

家庭用アルカリ剤の中では最も強力な炭酸ナトリウム。取り扱う際は直接触れないようご注意ください。

画像12

白い服は部分的な汚れも気になりやすいものです。油やコーヒー、ボールペンのインクなど、シミの理由が分かっている場合にはステインデビルスも心強い味方となります。同じ原因で服をよく汚してしまう方は備えておくと安心です。汚れ成分に対して反応するので、白地のお洋服のみならず、生地に色や柄がついている衣類でもお使いいただけます。

反応染料での染めの場合

パン屋のTシャツの赤は反応染料を使って仕上げています。反応染料はほとんどの色を表現でき、色落ちもしにくいことから、ごく一般的に用いられています。

画像13

パン屋のTシャツ(赤)

パン屋のTシャツのオートミール以外では一番色落ちしにくいのが赤です。そのため色移りをあまり気にせずお使いいただけますが、洗濯の際は白系と一緒にせず、色が濃いものと洗うのをおすすめします。

硫化染料での染めの場合

「硫化染料」というとあまり馴染みのない言葉かと思いますが、ジーンズやデニムの染め方というとピンとくるのではないでしょうか。買ったばかりの状態は色が濃く、だんだん色落ちをしていくジーンズ。特に膝の部分や縫い目の部分などの色は白っぽくなっていき「アタリ」と呼ばれる経年変化がみられます。経年変化はひとつとして同じようにはなりません。自分だけの1本を育てる気持ちで穿きこんでいける楽しみがジーンズに、つまり硫化染料での染物にはあります。

そんな硫化染料で仕上げたパン屋のTシャツが、ネイビー・墨黒・錫・ベージュの4色です。

画像14

パン屋のTシャツ(ネイビー)

画像8

左が新品の錫色で、右が約1年ほど着用した錫色です。
液体石鹸で洗濯していました。

硫化染料で染められた衣類は色落ちするため、特に最初の数回の洗濯では色移りの原因となりえます。分けて洗濯するか、同色のものでまとめて洗濯するのをおすすめします。

反応染料ではなく、あえて硫化染料を選んだ理由

洗濯の時に色を分別する必要があるのなら、色落ちする硫化染料ではなく、反応染料にすれば手間がかからなくて便利かもしれません。反応染料でも黒やネイビー、ベージュは表現可能です。しかしあえて硫化染料を選びました。その理由は色落ちの方向性にあります。

反応染料は色落ちしにくいものの、やはり少しずつ変化していることがあります。特に黒は赤茶色っぽく変わっていく傾向にあります。その大きな理由は紫外線です。日光の当たる場所で干したり作業をしたりすると、紫外線が反応染料に含まれている青系の色素から分解していくため、赤みがかってしまいます。

赤茶けた黒はどうしても傷んだ衣類に見えてしまうため、長く着続けるには不向きです。一方で硫化染料であれば赤みがかった変色はせず、むしろ格好よく色落ちしていくため育てる楽しみにもつながります。だからこそ、長く大切に着用していきたいパン屋のTシャツでは硫化染料を選びました。

画像7

濃いほうが新品の墨黒で、手前側が約1年着用した墨黒です。肩や襟ぐりの縫い目部分には白っぽくなる経年変化「アタリ」も見られます。

ちなみに硫化染料というと、かつてはその廃水が環境を汚染することで問題になりました。近年は改良され、持ち味である「格好よく色落ちする」特性は残しつつも廃水処理できるようになっています。パン屋のTシャツで使われている硫化染料も同様のものを使用し、機械を通して廃水処理を行っています。

現代の日本においては染色工場の廃水に厳しいルールが課されています。yohakuの渡辺さんによると、廃水処理には高額な機械が必要なこともあり年々染色工場は減っているそうです。未来に向けて一緒に歩んでいける工場と、引き続きものづくりをしていきたいとお話しされていました。

画像2

規定に沿った廃水施設を作るには、多額の費用がかかります。
現在、染色工場を新設する動きが少ないのはそういった背景もあります。

1992年、愛媛県今治市でタオルを製造しているイケウチオーガニックでは、今治市のタオル関連企業7社と共同で染色工場を立ち上げ、莫大な投資をして廃水施設を整備しました。バクテリアによって長時間をかけて処理された廃水は「海の水より透き通っている」と言われるほど綺麗な状態にできることから注目を集めました。

画像3

タオルを洗浄する工程で着色した水をバクテリアが徐々に分解し、
基準に沿ったクリアな水にしてから海に流しています。

衣類やタオルといった繊維系の製品を作るうえで、染色工場はひとつのポイントとなる大きな存在です。環境に配慮しながらものづくりを持続していくことの大変さを感じます。

▼参考記事:IKEUCHI ORGANIC わたし達の作るタオルは食品である。

藍染・泥染め・草木染の場合

藍や泥、草木といった天然素材を利用して染める手法は、古来から利用されてきました。硫化染料や反応染料といった化学染料ができたのはおよそ160年前のこと。安価でしかも安定した発色で大量に染められることから、あっという間に天然染料と世代交代をした経緯があるそうです。

今や天然染料での染物は珍しくなりましたが、その独特の風合いや経年変化には根強い人気があります。だんだんと色のえぐみが抜け、クリアで鮮やかな色合いへと変わっていく楽しみがあるのは天然染料ならではの経年変化です。

画像15

パン屋のTシャツ(草木染め)

画像16

いずれもパン屋のTシャツ(草木染め) の濃藍で、左は3年ほど着用したものを、右は新品を着て撮影しました。色味もさることながら生地のしなやかさにも変化がみられ、左の方がより柔らかに育っています。

画像17

わざわざでは他にも草木染めの衣類を扱っています。
こちらは宝島染工・草木染めのボックススカート

天然染料で染められた衣類はずっと色落ちしていきます。特に最初の5回くらいは急激に色落ちしますので、別で洗うのがおすすめです。段々と落ちにくくなってきたなと思ったら、同色のものと洗っても大丈夫です。

画像18

パン屋のTシャツ(泥染め) 新品の頃は深いこげ茶色でした。

画像9

およそ3年間着用したパン屋のTシャツ(泥染め)です。
色味が淡く、明るく変化しています。

色移りを防ぎたいときは

画像19

色落ちするものと色移りしたくないものをどうしても一緒に洗いたいときはダートコレクターが便利です。このシートは洗濯物と一緒に入れておくと、洗濯水の色を吸い取ってくれるというすぐれものです。色落ちが心配なときにぜひお試しください。

色移りを逆に利用する

硫化染料や天然染料で染められた衣服をお持ちでしたら、色落ちし続ける特性を逆手にとって利用してしまうのもひとつの手です。

例えば、お気に入りのジーンズの色味が少し淡くなってしまったと感じたら、ネイビーや黒系の衣服と一緒に洗濯します。すると、色移りによってお互いの色味が少し濃くなる場合があります。服の組み合わせで色合いは違ってきますので、ここにもまた「服を育てる楽しみ」がありそうです。

色移りを迷惑なものと捉えるのではなく、あえて楽しむ方向で考えてみても面白いかもしれません。パン屋のTシャツはちょうどいい入口となりそうです。挑戦してみていただけたら嬉しいです。

パン屋のTシャツを洗うときに使いたい洗剤

パン屋のTシャツは綿100%の生地で作られているため、基本的にはどの洗濯洗剤で洗っていただいても問題はありません。生地への負荷が一番少なくてやさしい、という意味でおすすめしたい洗剤は「石鹸の洗濯洗剤」です。

画像20

わざわざではねば塾の液体石鹸の洗剤や、

画像22

アカツキローブの洗濯用粉石けんなどを扱っています。

一般的に販売されている洗濯洗剤は「合成洗剤」と呼ばれるものが多く、数多の企業は研究を重ね、ユーザーが手軽に汚れを落とせるようにとの配慮からさまざまな汚れを大体に落とせるような仕様で作られています。手軽で安価で便利ではありますが、洗浄成分が強く生地に負担をかけてしまう場合もあります。

石鹸の洗濯洗剤であれば、配合されている成分がすべて天然由来なので生地を傷めにくいという特性があります。ただ、1回あたりの使用量が多いためコストがかかりますし、合成洗剤よりは汚れの落ち方が弱いという印象を受ける方もいるかもしれません。

画像22

合成洗剤と石鹸の洗濯洗剤にはそれぞれに長所と短所があります。だからこそ、時と場合に合わせて上手に使い分けていただきたいと考えています。長く大切に着たい衣類が、パン屋のTシャツのように天然繊維のものであれば、時には石鹸の洗濯洗剤でやさしく洗ってあげるとお洋服思いです。

パン屋のTシャツはとにかく頑丈に作られていますので、洗剤の種類にあまりとらわれることなく、扱いやすいように洗濯してください。ぜひたくさん着て、たくさん洗って、自分だけのパン屋のTシャツに育て上げていただけたら何よりです。

画像24

今回はパン屋のTシャツを例に、染料別でのTシャツの洗い方をご紹介しました。現代では多くの衣類が反応染料で染められていますが、時には草木染めや硫化染料で染められた服に出会うことがあると思います。その時にはぜひ、今回の洗い方を実践してみてください。

最終更新日>2021/06/25
監修>平田はる香 文責>いしはら 写真>ワカナン

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?