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「私」を作り上げるのは周囲の他者たちが繰り出す言葉 ーユヴァル・ノア・ハラリの「意味のWeb」

ホモ・サピエンスが、他の動物や他の人類との競争に勝ち、地表のほぼ全体をその生息領域にするまでに至ったおよそ7万年くらいの歴史。

ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』はその歴史を一挙に捉えようとした試みである。

ではなぜ人類は、他の猿たちの一種に留まること無く、特別な動物になったのか?

その勝因としてハラリ氏が上げるのは人類に特有の「協力」する力である。

サピエンスは初対面の相手と協力できる

協力」ということについては、ハラリ氏は『ホモ・デウス』の第三章でさらに踏み込んで議論を展開している。

まずハラリ氏は、人間と他の猿たちとの協力関係の築き方のちがいを論じる。

例えば遺伝的にも人間に非常に近いチンパンジーでも、初対面のチンパンジー同士が出会った当初から協力することは難しい

「知らないチンパンジーどうしが出会うと、たいてい協力できず金切り声を浴びせ合ったり、戦ったり、さっと逃げたりする」(『ホモ・デウス』上p.173)

接触を繰り返し喧嘩を繰り返すうちに、次第に互いを「個」として識別できるようになり、親密な関係が生まれることもある。

ただし初対面の対決から親密な関係にいたるまで、緊張感に満ちたかなりの時間とやり取りが必要になる。猿同士が協力関係を築きあげるには相当な「コスト」がかかる。

これに対してホモ・サピエンスは、初対面の人間同士がいきなり握手をして、笑顔で挨拶を交わし合い、世間話をはじめたり、ビジネスの交渉を初めたり、契約をまとめたり、講演を拝聴したり、遊んだり、あらゆる共同作業をすることができる(もちろん、できない場合もあるが、できる可能性が高いと予測されることが重要なのである。)

なぜホモ・サピエンスは、そんな芸当ができるのか?

その理由をハラリ氏は次のように書く。

「大規模な人間の協力はすべて、究極的には想像上の秩序を信じる気持ちに基づいている。」(『ホモ・デウス』上p.178)

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