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ファッションローへの入り口(基礎編)

こんにちは、弁護士の橋爪航です。
以前の更新からかなり時間が空いてしまったのですが、本職の方でファッションの専門学生向けの資料を作成したので、可能な範囲でこちらでも共有させていただこうかなと思います。
『ファッション・ロー入門 ―ファッションデザインの模倣対策について―』という記事は、ファッションに関わるお仕事をされている方から、法律家まで幅広い読者の方を想定して作成したこともあり、内容が少し難解になっているところもありました。いまだに私自身でも読み直して気づきを得られる内容にもなっておりますが、今回は少し簡易版のご紹介です。
2回に分けますが、第1回は、最近のファッション X 法律の問題で、私が気になったものを非常に簡単にまとめました。


©Wataru Hashizume

ファッションビジネスを考えるうえで、法律に対する一定の配慮は不可欠であり、そのことを考えるうえで重要と考える事例を簡単に紹介します。

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ファストファッション大手のZARA(インデックス社)が販売したコートが日本のファッションブランドであるTHE RERACSのコートに似ているとされた事例で、裁判所はZARA側に対して1000万円を超える賠償金の支払いを命じました。
インデックス社は企業体の大きい会社ではありますが、いわゆるデザイナーズブランドのように、昨シーズンの売り上げを次のシーズンの資金へと回していく運用をしている会社にとっては、賠償金や、それが公表されることによる信用棄損(レピュテーションリスクといいます)は非常に大きいものになるかと考えられます。

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こちらは昨年末話題になったチュチュアンナの事件です。社外のイラストレーターのイラストデザインをチュチュアンナのルームウェア等に無断で使用したのではないかとされたものです。
結果として訴訟には至りませんでしたが、謝罪と販売停止、その公表に追い込まれました。販売停止で済んだのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、販売に至るまでの、工場での生産やマーケティング、広告、流通、ECサイト運営等、そのすべての過程が影響を受け、それぞれを規律する契約の内容にもよりますが、被害は決して小さいものとは言えないと推察されます。
デザイナーやパタンナーが、何をみて何を思ってプロダクトを制作しているのか、その過程をしっかり記録しておき、検証できるようにしておくことが大切であることがわかります。

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次は、今までの議論と少し視点・規模が異なる問題です。
最近耳にする機会も増えているかと思いますが、いわゆる「文化の盗用」(Cultural Appropriarion)の問題です。
特定の商品のデザインの模倣というよりは、その背後にある文化への配慮の欠如から、「盗用」と形容されているものと考えられます。
スライドにもありますが、文化の盗用とは、マジョリティがマイノリティの文化を商業目的で、表面的な理解のみで使用して、これに対して反発等が生じる問題というと考えられております。
キムカーダシアンが自らの補正下着ブランドの名前に「KIMONO」という名称を使用して商標を取ろうとして炎上した事例があります。着物を一度でも見たことのある方であれば、これのどこが着物-KIMONO-なのかと思うかもしれません。結局ブランド名を変えることを余儀なくされました。
文化の盗用は繊細で難しい問題であると私は考えており、何をすればよいのかという点が明確にはされておりません。一般的には、当該文化への理解・リスペクトを示す、なぜその文化から着想を得たのかを説明する、当該文化への経済的な還元もする等があるかと理解しておりますが、一方で、誰の同意を取ればいいのか(文化は個人の同意を取ればよいものではない)等越えなければならないハードルはいくつもあります。また、ファッションサイクルのスピードによって、ファッションデザイナーが適切な調査を通じて相手の文化を理解する十分な時間を持てないことが、文化の盗用の原因のひとつという指摘もある。
マルジェラのTabiブーツは有名ですが、これは許されてなぜ他は炎上するのか、興味深い問題であると理解しています。
直近だと、JUNYA WATANABE MANの22AWコレクションが、メキシコ文化庁から非倫理的で不十分な対応と非難を受けたこともありました。早急に議論を深めていく必要があると考えられます。

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メタバースやNFTのファッションの法的整理については別途noteを上げようと考えているため、詳細は省略しますが、メタバーキンの事例です。
知らない人はいないのではないかくらいに有名なHERMESのバーキンを、デジタル上で再現して販売したことが問題となりました。
現在訴訟は係属中ですが、現実とは異なる、仮想現実(または拡張現実)内でのファッションデザインの模倣について、現行法でどこまで対応できるかが注目されています。
NIKEとSTOCKXとの訴訟も係属中です。

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次は、ブランドの名前にデザイナー等の個人名を使って、商標登録ができるかという問題です。デザイナーズブランドでは、デザイナーご本人の名前をブランド名することも多いかと思われます(YOHJIYAMAMOTO, ISSEYMIYAKE, MAISON MIHARAYASUHIRO等)。そのブランド名が第三者に勝手に使われないように商標を取っておこうと考えることはごく自然のこと考えますが、私も好きなブランドである宮下貴裕さんの「TAKAHIROMIYASHITATheSoioist.」というブランドが、同名称の商標登録を受けようとしたところ特許庁に拒絶された事例です。
商標法では、他人の氏名を含む商標については本人の承諾を得た場合を除いて登録できないとする規定があります。
つまり、同姓同名のすべての「みやしたたかひろ」氏の同意を得なければならないということになり、実態に即していないのではないかと考えざるを得ません。
もっとも、2021年には知的財産高等裁判所において「マツモトキヨシ」の音商標(よく店内で流れているあの音楽です)について、取引の実情を考慮して、他人の氏名にあたり登録を拒絶した特許庁の判断を取り消しました。
音の商標に関する判断ではありますが、マツモトキヨシという人の名前が用いられた商標についての判断が柔軟になされており、他の事例での今後の判断が注目されます。

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赤い靴底といえばルブタンを思い浮かべる方も多いと思いますが、赤い靴底のパンプスを販売していた会社に対して、ルブタンが訴えた事例です。
レッドソールといえばルブタン、という周知性(不正競争防止法)が認められるかどうかが争点となりましたが、裁判所はこれを認めず、棄却しました。
日本において、ルブタンはレッドソールの商標登録を現在受けられておりませんが、どのようにして広告・販売等をすれば、保護をはかれるのか、法律家も含めた戦略の策定が重要であることがわかります。

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ファッション業界においては、労働面の問題も深刻であると考えられます。
これはウイグル自治区での強制労働があったのではないかと問題になった事例ですが、最近では数百円でTシャツを買えるSHEIN(シーイン)という中国のブランドでの労働環境が問題視されているという研究結果も目にしているところで、ファッション業界とはなかなか切り離せない根深い問題であると考えます。

以上、簡単に近年の事例をご紹介いたしましたが、これら以外にもサステナビリティ・トレーサビリティの問題や広告規制、モデルの権利やヘアメイクの権利等、考えなければならない問題はたくさんあります。

これらの問題の解決のための一助となれるよう、そして、健全な業界の発展に寄与できるよう、法的側面からサポートすることができましたら非常に幸いです。
ご質問等は下記の連絡先までお願いいたします。


橋爪 航
Wataru Hashizume

国内外のコーポレートアライアンス(M&A、JV等)、一般企業法務、株主総会運営、ファッションロー、ヘルスケア法務、知的財産法務、スタートアップ支援、訴訟・紛争解決等を専門としている。
ファッション業界においては教育分野やブランドの立ち上げから知的財産権等の保護まで幅広く対応している。


所属

第一東京弁護士会
東京大学著作権法等研究会
ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会
第一東京弁護士会知的所有権法部会
東京弁護士会知的財産権法部
弁護士知財ネット 等




弁護士 橋爪 航
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